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トピックス -ビッグベンチャー

2014年06月27日

【竹中平蔵の骨太対談】vol.33 リーダーの一瞬の判断は普段の稽古から/vs アイスタイル代表取締役社長 吉松徹郎

企業家倶楽部2014年8月号 骨太対談




自らの展望を説得する力

竹中 現在では東証一部に上場し、事業は順調そうですが、ベンチャー企業を創業し、苦労はありませんでしたか。

吉松 会社を立ち上げて3年で黒字になるまでは必死の思いでしたが、そこから100人規模になるたった2年、3年の間に会社が赤字だった時代を知らない社員が増えました。赤字の場合は全社を挙げて黒字にしようと努力するのですが、黒字の状態で売上げをどの程度上げるかは人によってモチベーションの差があり、以前のようにはいかないという苦労がありました。

竹中 そこが経営者の腕の見せどころですね。ある本で読んだことに、「自分の頭の中で将来を見通せなければならないが、同時にそれを説得できる能力がなくてはならない」という言葉があります。

 今でいう説明責任と同じで、構成員や利害関係者に自らの展望を説得する力がないといけない。そういった点ではソフトバンクの孫正義社長など、リーダーと呼ばれる人々は説得力がありますね。

吉松 私は理系出身で、問題があるとそれを分解して、どのように解決するかの仮説を立てて実証していくという思考様式です。そのため、展望について語るということは苦手だと感じています。その一方で政治家のように大局で物事を考える方もいますね。そういった見方はどのように身につけるのでしょうか。

竹中 小泉純一郎元総理は全体の流れを見事に読んでいましたが、よく見るとその中にも分析があるのです。そしてその分析を積み上げるのと同時に歴史観も参考にして全体の流れを読んでいます。

 かつて小泉氏に「そういった発想はどこから得ているのですか」と尋ねたときに、「相撲の立合いと一緒だ」と仰っていました。相撲での勝負で行われるような取り組みの流れの中での一瞬の判断と同じだということです。それを養うために厳しい稽古をしているといっていました。

 彼は歴史小説やオペラ、歌舞伎が好きで、稽古というのはそれを見て自分ならどうするか、それに対して状況はどのように変化していくかをシュミレーションするということでしょう。そうした考え方や習慣から流れを読む力を身につけているのだと思います。



化粧品で勝負する

竹中 アイスタイルが創業された1990年台後半は、バブル崩壊後で日本経済が停滞している時代でしたね。そのような中で、化粧品分野に目を付け起業したきっかけは何ですか。

吉松 私が当時、注目したのは米国のITベンチャー、アマゾンドットコムでした。アマゾンは当初「本当に黒字化するのか」とメディアでは否定的な見方をされながらも、結果としてイーコマースで成功を収めました。そうした背景から、まだアクセンチュアに在籍していたときに、「イーコマースの分野で成功するビジネスモデルは何だろうか」と考えていました。

 イーコマースといっても単なる小売販売店をネットに移すだけであれば、いずれは価格競争での勝負になり、生き残りが厳しくなることが予想できました。それならば、価格競争にならない商品を扱おうと決めたのです。

 価格競争にならない商材は、再販売価格維持制度がある、つまり定価で販売される本と化粧品で、そのどちらも多品種小ロットという同じ業界構造を持っていました。さらに、実現できれば市場そのものの価値だけではなく、広告宣伝の市場の可能性もあり、それならば化粧品でも勝負できると感じました。

 さらに、ビジネスを実現させる上では、まずアマゾンドットコムの日本版を立ち上げた方を訪ね、「その仕組みを化粧品にも使わせてください」とお願いしました。それを受けて、善意で寄せられた化粧品に関する口コミを掲載し、化粧品販売と広告で収益を得るというビジネスを確立しました。

 あとは若さも大きな原動力だったと思います。周囲からも「なぜ男性なのに化粧品なのか」と聞かれ、会社立ち上げの際に両親から「化粧品を使ったことがあるのか」などと心配されたこともあったものですが、どう小さく収益を見積もってみても収益が上がり、逆に参入しない理由がないというシンプルな気持ちで始めました。

竹中 今後、健康寿命が伸びて健康に活動できる時間が長くなるというデータがあり、その中では仕事や食事以外の余分な時間である可処分時間も1割程増えるといわれています。

 この可処分時間を何に使うかというと、人は美しくありたいと考えると私は思います。そしてそれに対して新しいライフスタイルを提案するビジネスが増えていくことが予想されます。

吉松 私もそうなると予測しています。化粧する女性の上限年齢も高くなりつつあり、化粧品や美容にかけるお金も非常に高くなってきています。面白いことに日本のマーケットの規模は食品が7兆円、飲料が4兆円で化粧品は2兆円ですが、女性という観点でみると、水やお茶と同じように消費しているのが化粧品ということは、これも完全な生活必需品なのだということを意味しています。

竹中 あとは経済でいう価格弾力性が化粧品は極端に低いのも特徴です。つまり価格が1%高くなっても需要は1%減らない。むしろ高いから買うという人もいる。それがこの業界の面白さで強みですね。ある一定年齢以上ならば可処分所得はありますし、その人にとっては何10万円の高額美容サービスでも高いとは感じられないでしょう。



戦略は細部に宿る

竹中 アットコスメの「クチコミ」やランキングを参考にしている店舗も多くあるそうですね。経済学的に言えば、自由な競争市場というのは同一商品、同一情報、参入撤退自由という特徴があります。そしてそれに対する業界が再販制度を持つ業界だと思います。同一商品ではなく中身に差異があるため、「クチコミ」や評判は消費者にとって大事な情報です。「クチコミ」を今のようなビジネスにつなげることができたのはなぜでしょうか。

吉松 自分の中に「これは新しいプラットフォームになる」という確信があり、その発想をシンプルに実現したいという気持ちがあったからこそ、苦労を乗り越えてここまで成長することができたのだと思います。

 創業当時はまだ女性のインターネット利用率は1.2パーセントで、本当に将来普及するかどうかという心配がありました。さらに、立ち上げ時アットコスメのようなクチコミのビジネスモデルは世の中になかったため、それを理解してもらうのにも苦労しました。クチコミを募るためには商品データがなければならず、それをメーカー各社に提供して欲しいと申し出ても「クチコミとはなんだ」と理解してもらえなかったのです。さらに、各小売店の物流担当者も当時、ネットの情報を参考にして仕入れを行うことがなかったので、その状況を変えようと積極的に営業を行いました。

竹中 私も吉松さんと同じで、政治の世界で正しいことが理解されない経験がありました。それを突破するためには、何が事実かということよりもどう思われているかが重要だと考えるようにして、あるときは真摯に、あるときは巧みに相手を説き伏せていくということが大事だと考えています。

 必要なのは「正しいことを理解してもらおう」という情熱と、「戦略は細部に宿る」ということです。逃してはならないキーポイントが小さな問題の中に眠っていることがあるため、そうした細部から万全にしていく気持ちが重要ですね。小さな問題でも、解決することで組織は大きく前進することがよくあります。



文化の面での支援

竹中 人間は衣食住以外に楽しく美しく生きたい願い、そこには大きな価値があると思います。

  3・11の震災当時、あるジャーナリストが現地に入った際に、「今、何が必要ですか」と聞いたところ、一番目の人は「水が欲しい」、二番目の人は「食糧が欲しい」、そして三番目の人は「歌が欲しい。人間らしく生きたい」と語ったそうです。

 私は今後、その中に化粧品が欲しいという人が現れても不思議ではないと思います。人間らしく生きたいというところに、芸術などの美しいものを大切にするという思いがあるのであれば、十分可能性はあります。

吉松 まさにそういったことがありました。3・11のときも「化粧品が欲しい」という声が真っ先に届きました。つまり、化粧品が買えない状況だったわけです。食料品などの必需品が一番欲しいものですが、本当は化粧品も欲しいのです。そのため、こちらから届けに行きました。

 私も今後NPO活動を支援するような団体を作りたいと考えています。今あるNPOは課題解決型で、貧困や女性の地位といった問題が先にあり、それを改善することがほとんどです。

 しかし、実際にはそうした問題だけではなく、文化の面での支援も必要です。どの国でも今では15歳以下の子供たちでも「ファッションならH&M」といった、先進国の文化もよく知られています。それならば、課題解決型だけでなく、0を1にするような新しい文化や仕組みを提案する支援が必要でしょう。化粧という観点での支援はまだ構想段階ですが、今後取り組みたいと考えています。

竹中 問題が起こってから解決するのはリアクティブで問題が起きる前にするのはプロアクティブといいますが、今NPOが行っている支援は前者ですね。「現状をもっとよくしよう」といった動きは少ないように感じます。

吉松 近年ではソーシャルファンディングやクラウドファンディングなど、自分から行動を起こす人を支援するような流れが生まれてきたように思います。しかし、まだ行動を起こす人が自分から寄付を求めなければいけない状態です。そうした能動的な人や会社を見つけ出して支援する仕組みづくりが必要ですね。



日本の国際競争力


竹中 アジアの中間所得層が現在の5億人から2020年には17・5億人になると見込まれています。そうした層向けには所得が上がると購入されやすく、価格が変動しても需要が変わらない商品が売れるので、化粧品業界も注目されるでしょう。

吉松 例えば化粧品のマーケットは世界で北米、ヨーロッパ、アジアの3ヶ所しかありません。その中でホワイトニング化粧品の市場は今後拡大していく上、中でも日本に圧倒的優位性があります。もちろん私たちは化粧品メーカーではありませんが、自分たちが作り上げた新しい仕組みや実績を世界に広げていく役割があると考えています。

 それに加えて、化粧品が面白いのは、世界共通の商品ということです。例えば中国出身の方が誰かに「これを買ってきて」と中国語でメモを書いても、日本の店頭の人は読めない。しかしアットコスメを利用していれば、中国版アットコスメで目をつけた商品のページを日本の店員に見せればその商品を購入できるようになるのです。化粧品の商品写真は世界共通なので、私たちの持っている商品データベースは世界に通用する可能性がありますし、展開の仕方は多様だと思います。

竹中 商品データベースの活用は新しい可能性があり、面白いですね。現在は海外のどの国に進出しているのですか。

吉松 シンガポール、インドネシア、上海に進出していますが、今課題としてあるのは物流における関税です。また、インドネシアではハラル、中国では独自の薬事法に対応しなければなりません。

 そもそも、日本は「郷に入っては郷に従え」と、他国の法律に合わせるのに苦労するのですが、欧米の企業はロビー活動をして自国での基準と同じにしようとしています。こうした事情から日本企業の海外での競争力が削がれてしまっているのです。

 「成長可能性のあるマーケットなのに、日本企業が進出するための支援は誰がするのだろう」と気を揉んでいます。

竹中 安倍政権が成長戦略で海外の活力を成長に取り込むというのがメインテーマですから、安全基準などの問題もありますが今後に期待できますね。

 私は逆説的な表現ですが、今までそのような働き掛けがなかったにも関わらず、多くの日本企業が海外で競争力を持って生き残ってきたのですから、日本は力強い国だと思います。

 海外で「日本はよくそんな制度でやっていられるな」と批判されるときは、悔しいので「それでもこれだけの成果をあげられるのだからたいした国だ」と言い返すのです。

 しかし、それにしてもまだ一票の格差と官僚がさまざまな制度改革に乗り気でないのは問題で、その官僚の人事に介入する内閣人事局が可決されましたが、結局骨抜きにされてしまいました。

 2020年の東京オリンピック開催を控え、政治・経済のあらゆるチャンスが巡ってくると予想されますが、その前にこうした日本の体質そのものを変えていく必要があるでしょう。



吉松徹郎 (よしまつ・てつろう)

1972 年、茨城県生まれ。東京理科大学基礎工学部卒業。1996年アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア株式会社)入社。1999 年7月アイスタイル設立。 第6回ニュービジネスプランコンテスト優秀賞受賞、1999年12月アットコスメオープン。2012年3月東証マザーズ上場、同11月東証一部へ市場変更。2013 年7月企業家ネットワーク主催 第15 回企業家賞「ベンチャー賞」受賞。
吉松徹郎 (よしまつ・てつろう)

竹中平蔵 (たけなか・へいぞう)

1951年和歌山県生まれ。73 年に一橋大学卒業後、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)に入行。ハーバード大学客員准教授などを経て、2001年、小泉内閣に民間人として初入閣。04年には参議院議員に初当選。郵政民営化を本丸に掲げる小泉政権の実質的ブレーンとして活躍する。06年に参議院議員を引退後、慶應義塾大学教授・グローバルセキュリティ研究所所長に就任。


竹中平蔵 (たけなか・へいぞう)

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