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トピックス -ビッグベンチャー

2014年08月29日

がん治療に生涯を賭ける/テラ社長 矢﨑雄一郎

企業家倶楽部2014年8月号 次世代の企業家




第4のがん治療

   日本は超高齢化社会を迎え、2人に1人はがんにかかり、3人に1人はがんで死亡すると言われている。がんは国民病といっても過言ではない時代だ。

 現在のがん治療は外科治療、放射線治療、抗がん剤治療の3つが含まれる「標準医療」が主流だ。そんな中、テラは新しい形のがん治療を提供している。第4の治療法である樹状細胞を利用した免疫療法だ。

 樹状細胞とはその名の通り、中央から木の枝のような突起が伸びている細胞で、体内に侵入してきた異物を攻撃するリンパ球に対して、攻撃指令を与える司令塔のような役割を担う。この役割はカナダの免疫学者で、2011年にノーベル医学・生理学賞を受賞したラルフ・スタインマン博士によって発見され、世界で様々な研究が行われている。「樹状細胞は皮膚にある細胞で、培養するには高度な技術を要します。しかし、テラは血中から樹状細胞の元となる細胞を取り出し、人工的に培養する技術の特許とノウハウを持っており、これが大きな強みとなっています」と矢﨑は説明する。



外科医から企業家へ

 もともと矢﨑は外科医として働いていた。医者の家系に生まれたため、自然とこの道を選んだという。医師として働く日々の中、脳裏に焼き付いている出来事があった。まだ学生時代だった頃、叔父と叔母をがんで亡くしたのだ。2人とも50代という若さだった。

 標準医療に限界を感じていたことと、アメリカでバイオベンチャーが盛んに勃興し、民間が医療を引っ張っている現状に驚きを感じたことから起業を志すようになった。

 その後、1年間ヨーロッパへ放浪の旅に出た矢﨑は、帰国して日本のバイオベンチャーや東京医科学研究所での研究で経験を積み、2004年ついに起業。

「事業化が難しい技術だと言われましたが、社会に貢献したいという一心でした」と矢﨑は当時を振り返る。



テラビトとともに革新的な医療を提供

 テラの理念は「原点は患者さん」である。矢﨑自身ががんで親戚を亡くしていることから、がん患者の家族という視点を意識しているのだ。そして、テラには「テラビト」がいる。チャレンジ精神を持つ医療人のことで、テラの社員を指す。トップの矢﨑がチャレンジ精神に溢れているためか、自然と社員たちもそうなるのだろう。「失敗してもいいから挑戦を怠るな」と矢﨑はテラビトたちを鼓舞している。

 そんなテラビトたちと共に矢﨑は「新しい医療・新しいサービス」の提供を心がけている。「バイオベンチャーだからと言って技術だけを売りにはしません。常に患者さんに革新的なサービスを提供し、どうしたら社会に貢献できるのかを考えています」と矢﨑は力強く語る。



オーダーメイドの医療

 従来の医療はマニュアル医療と呼ばれ、全国どこでも同じ医療を受けられるのが特徴だった。がんの治療に置き換えると、前述の標準医療ということになる。しかし、人間の体はみな同じではない。抗がん剤を投与すると言っても、副作用が強く出てしまう人と全く出ない人がいる。

 矢﨑が目指すのは一人ひとりに合った治療をする「個別化医療」だ。標準医療を併用しつつ、患者の遺伝子を分析し、どのような治療がその人に合うのか見極めた上で本人の細胞を活用して治療する。その人にしか適用できない、言わばオーダーメイドの医療だ。

 この方法には本人の細胞を使用することで副作用が抑えられるというメリットがある。矢﨑も「これからの医療はがんに限らず、個別化が求められていくでしょう」と分析している。



日本の最先端医療を全ての人へ

 テラは2004年の創業から2009年の上場を経て、今までに約8000症例を診てきており、世界で最も樹状細胞による治療を手掛けている企業となっている。そんなテラにはこれから目指す場所がまだまだある。

 まずは樹状細胞ワクチンの保険適用だ。セコム損保など、一部民間企業では保険適用されているが、通常、樹状細胞ワクチンで治療しようとすると自由診療か先進医療という扱いを受けるため、保険適用がされず治療費は200万円ほどかかっていた。しかし、2013年4月、再生医療を推し進めるための法律である「再生医療推進法」や安全に提供するための「薬事法等の一部を改正する法律」「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」ができた。

 これらは2014年11月ごろ施行予定で、テラは「バクセル」という独自の樹状細胞ワクチンを国に申請して薬事承認を受けることを目指している。これが実現すれば、樹状細胞ワクチンによるがん治療に保険が適用されることになり、患者の負担が大きく軽減する。「薬事承認を受けられれば、樹状細胞ワクチンによる治療の認知度が飛躍的に高くなることが期待でき、多くのがん患者を救うことができるでしょう」と矢﨑は目を輝かせる。

 その他、海外への展開も視野に入れている。現在、海外からの患者が増加傾向にあり、テラの治療法が世界から注目を集めているのだ。主に東南アジア及び中国における事業提携を目指し、海外患者の受け入れ拡大及び現地でのバクセルの実施を目指す。

 また、既存事業の拡大、培養液などの周辺事業への展開により新しいビジネスモデルを創造する。これらを経て、2020年までに売上高150億円を目標に掲げる。「進歩を絶やさず、患者の方々に常に新しいサービスを提供する」という矢﨑の尽きることのないチャレンジ精神が事業に反映されている。



病のない未来を目指して

 体内に入り込んだ異物を攻撃するように指令を出す樹状細胞を作るかたわら、将来はその指令を受けて攻撃する免疫細胞を自在に作りだそうと考えている。そして最終的には臓器の再生といった場面で質の高い細胞を提供するつもりだ。そのために、網膜や軟骨の再生にも投資をしており、人間の様々な部位の細胞を作りだす準備を着々と進めている。

 がんの撲滅をライフワークとして日々奮闘する矢﨑。「自分のようにがんで家族を失う人を増やしたくない」。そんな気持ちが根底にあるのだろう。「最終的な目標はがんを予防するワクチンの開発です。これから20年以内には実現する。また、病気になっていない人にも、その人に合った方法で医療を施して病気にさせない、個別化医療ならぬ個別化予防も成し遂げたい。私の人生を懸けて取り組みます」

 矢﨑は人々が病気にならない、そんな未来を思い描いて挑戦し続ける。





矢﨑 雄一郎(やざき・ゆういちろう)

1972年1月27日生まれ。96年東海大学附属病院勤務。00年11月ヒュービットジェノミクス(株)入社。03年4月東京大学医科学研究所 細胞プロセッシング寄付研究部門研究員。04年6月テラを設立し代表取締役社長に就任13年「第15回企業家賞チャレンジャー賞」受賞。



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