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トピックス -ビッグベンチャー

2014年08月27日

【ベンチャー三国志】vol.27 孫正義、寸前で危機回避/ソフトバンク社長 孫正義

企業家倶楽部2014年10月号 ベンチャー三国志


2014年8月、ソフトバンクは米第4位の携帯会社、TモバイルUSの買収を一旦、諦めた。米連邦通信委員会が米3位のスプリントと第4位のTモバイルUSとの経営統合を認めないと判断したからだ。当面、スプリントCEOを交代させるなど、同社の黒字化・再建に全力を尽くす。孫正義の基本構想は転換を余儀なくされたが、“ 怪我の功名”となろう。

米第4位の携帯会社買収で合意

今号から孫正義を離れて、1990年代に創業したIT企業家を描こうと思ったら、孫正義がまたまたアメリカで携帯電話会社のM&A(企業の合併・買収)に乗り出した。孫正義から目が離せない。そこで今号も孫正義の動きを追うことにした。

 2014年7月12日の日本経済新聞1面トップにソフトバンクとTモバイルUSの買収合意のニュースが掲載された。これは日経の特ダネというより数日前に米紙に報道されたTモバイルUS買収の後追い記事と言ったほうが正確だ。それでは1面トップに持って行きにくいので、ソフトバンクより情報提供し、色をつけたのであろう。

 記事の内容はざっと以下の通りである。

 
 11日までにTモバイルの親会社であるドイツテレコムからTモバイルUSを買収することで大筋合意した。そのため、国内外の8金融機関から買収資金として総額4兆円の融資枠を設けてもらった。米携帯3位のスプリントと経営統合させれば、契約数は1億となり、米2強と互角に戦える―というもの。

 記事は更に、ドイツテレコムはTモバイルUSの株式67%を保有しており50%超をソフトバンクに売るという。金融機関はみずほフィナンシャルグループなど国内3メガバンクとJ Pモルガン・チェース、ドイツ銀行など5金融機関。ソフトバンクの連結有利子負債は3月末で9兆円に達しているが、返済能力には問題ないとして、4兆円の融資枠を設けることになった。

 3位と4位連合で1位と2位を追う態勢が出来たと思うのは、やや早計過ぎる。3位と4位の経営統合を米当局(米連邦通信委員会=FCC)が認めるかどうかの難関がある。今のところ、米当局は「3位と4位が経営統合すれば、全米に展開している大手の携帯会社は4社から3社となり、消費者は不利益を被る」と合併には難色を示しているといわれている。



ライバル現われる

 そこへ、また、ソフトバンクとしてはライバルが現れた。フランス通信大手のイリアッドが2014年7月31日、TモバイルUSを150億ドル(約1兆5400億円)で買収すると発表した。

 イリアッドはフランス第4位の携帯会社で、2012年に携帯電話事業に乗り出し3月末時点で863万件の契約数を有し、13年は37億ユーロ、純利益2億6500万ユーロを計上している。創業者で最高戦略責任者のグザビエ・ニール(46)は孫正義に劣らない企業家精神の持ち主といわれる。

 イリアッドは米国で事業を展開しておらず、反トラスト法(独占禁止法)の観点ではソフトバンクより有利と見られる。しかし、買収額1兆5400億円で、4兆円を用意したソフトバンクより大分見劣りする。ドイツテレコムがイリアッドに売るとは思えない。

 ただ、孫正義としては、これから米当局と本格的な交渉をしようという矢先に、厄介な邪魔者が飛び込んできたという思いはあろう。まさかドイツテレコムがイリアッドに鞍替えするとは思えないが、イリアッドが買収金額を2兆円、3兆円と上げてきた場合、米当局が難色を示しているソフトバンクよりイリアッドの方が手っ取り早いと思うかもしれない。孫正義にはイリアッドは目障りな存在ではある。



米国進出のための3つの布石

 孫正義の構想ではアリババ集団の資金力をバックに、ドイツテレコムとTモバイルUS買収の契約を結び、米当局にスプリントとTモバイルUSの経営統合を迫る考えだった。

 このため、孫正義は3つの布石を打った。1つは消費者対策。第1の布石については、前々号で書いたが、2014年3月にワシントンDCで政府関係者、ジャーナリストら300名を前に、「第3位のスプリントと第4位のTモバイルUSが経営統合した方が、消費者は安くて、速い回線を享受できる」と主張、政府当局の「スプリントとTモバイルUSとの合併を許せば、4社から3社になり競争が衰える」という考えを牽制した。

 第2の布石は元国務長官のコリン・パウエルへの接近である。パウエルは統合参謀本部議長を務めた後、共和党の国務長官となって米国の外交を取り仕切った。見事な国務長官の指揮ぶりから共和党の大統領候補に擬せられたこともある大物政治家。6月18日にパウエルを日本に招請、ソフトバンクアカデミアのオープン講義として、東京国際フォーラムで「リーダーシップ論」を語ってもらった。

 講演の後、孫正義とパウエルは対談(もちろん英語)、2人の親密さをアピールした。共和党ではあるが、大物政治家。政府への影響力は相当あると言える。それ以上にパウエルが影響力を発揮すると見られるのは、パウエルの息子、マイケル・パウエルが米連邦通信委員会(FCC)の委員長を務めたことである。

 たとえ親子であっても、国の政策に影響を与えるものではないが、孫正義が父親のパウエルと親交があれば、孫正義の面会要求を断ることは出来ないし、インターネットのネットワークについての主張を一応聞くことになろう。「将を射んと欲すれば、その馬を射よ」という諺がある。孫正義はなかなかの“策士”である。

 恐らくコリン・パウエルの滞在中に、米政府へのロビー活動の方法、どの政治家に頼めば、1番効果的かなどをパウエルから教わったと思われる。

 第3の布石は米グーグル上級副社長兼最高事業責任者のニケシュ・アローラを10月にソフトバンク本体の取締役に迎え入れ、米国に新設する子会社、ソフトバンク・インターネット・アンド・メディアの最高経営責任者(CEO)に据えることを発表したことである。

 アローラはグーグルに入社する(2004年)前はTモバイルの欧州部門幹部を務めていた人物で、TモバイルUS買収後は同社の主要なポストに就くものとみられる。孫正義は「最も急成長したグーグルで10年にわたり経営陣として参画した経験をソフトバンクの更なる成長に生かして頂きたい」とエールを送った。

 アメリカに16歳の時から留学、アメリカで企業家への道を決心し、1994年7月に株式を上場後は市場から集めた約5000億円を活用.してコムデックス(コンピューター見本市)やジフ・デイビス(コンピューターの雑誌出版)などの米企業を次々と買収、アメリカに人的ネットワークを作ってきた。孫正義にとっては第2の故郷と言える。

 孫正義のアメリカ進出は敵地に進攻していくというより、かつて知ったる故郷に錦を飾るという方が当たっているかも知れない。



最も難しい米国進出 

ただ、今回の米国進出はこれまでの挑戦の中で最も難しい挑戦ではないだろうか。

 アメリカは“第2の故郷”とはいうものの、敵地であることには間違いない。どこに落とし穴が有り、消費者の動向がどの辺にあるかは孫正義と言えどもわからない。

 しかも、豊臣秀吉のように圧倒的な戦力で敵に挑むわけでもない。むしろ、第3位として、第1位、第2位企業と戦わなければならない。

 現在のスプリントの契約数は6000万弱で、1、2位企業の半分の契約しかない。

 そこで兵力差をなくすために、第4位のTモバイルUSを買収、スプリントと合併させて、1、2位企業と対等の兵力にすることを孫正義は考えている。それには米当局の許可が必要だが、今のところ、当局は合併に難色を示している。

 有利子負債が2014年3月段階で9兆円に膨らんでいることも気がかりだ。ソフトバンクはアリババ集団が2014年秋にも株式上場すれば、約37%の出資比率があり、仮にアリババの時価総額が10兆円になるとすれば、3兆7000億円の含み益が出ることになる。アリババの上場がソフトバンクの財務体質を支えているのは事実。

 しかし、相次ぐM&Aによって、ソフトバンクの財務体質が弱くなっていることも心配だ。TモバイルUSをドイツテレコムから買った場合、約4兆円の資金が必要と言われる。スプリントの210億ドル(2兆1000億円)の約2倍だ。

 この4兆円の買収費を考えると、ドイツテレコムに足元を見られているのではないか、という疑問がわいて来る。米国進出を成功させるためには、スプリントとTモバイルUSとの合併が不可欠とみて、ドイツテレコムが吹っかけているフシがある。

 孫正義はあまりにも法外な値段を要求するなら、TモバイルUSの買収を諦め、スプリント1社の経営を立て直すという方針転換も必要かも知れない。



9兆円の有利子負債は重荷?

 実際、スプリントの2014年4~6月期の決算は初めて黒字経営に転換した。Tモバイルとの合併がなければ、米国進出の成功スピードは最も難しい米国進出が遅くなるが、財務的には安全である。

 かつて、破竹の勢いだったスーパー、ダイエーは1兆円の借入金が重荷になって、2001年に経営破綻した。借入金1兆円というのは、それほど経営の足かせとなる。ソフトバンクの場合、借入金がすでに9兆円になっているのだ。孫正義は「カネは天から降ってくる」とうそぶいているが、内心は片時も借入金のことは脳裏から離れることはないだろう。

 ダイエーの1兆円と比べるのは、現在のソフトバンクの企業規模の大きさを知らないからだ、と反論する説もある。確かに、現在のソフトバンクの連結売上高は6兆6666億円(2014年3月期連結)、経常利益9324億円(同)となっており、1期で1兆円の借入金を返せる体力がある。「2006年3月にボーダフォン・ジャパンを2兆円で買った時と今のソフトバンクは格段に違う」と孫正義が胸を張るのもわかる気はする。

 それにしても借入金9兆円は重たい。なぜなら、売上や利益は変動するが、借入金は厳然と残る。どんな天災が来ようと借入金は9兆円のままである。軽飛行機よりジャンボジェット機の操縦の方が得意という孫正義のことだから、計数管理に間違いはないと思うが・・・。

 もう1つ気がかりな点は、日本国内でNTTドコモが遂に本気を出してきたことである。これまでは、ドコモは圧倒的なシェアを背景に悠然としていた。ところが、2014年3月期で売り上げ、利益ともにソフトバンクに抜かれてしまったのである。

 ドコモの2014年3月期の連結経常利益は8330億円とソフトバンクに1000億円の差をつけられたのである。そのほかの経営指標はドコモがソフトバンクに差をつけているが、利益で抜かれたというのは痛くドコモのプライドを傷付けた。「このままソフトバンクをのさばらしておくわけには行かない」と2014年6月に安値攻勢をかけて来た。



孫正義、寸前の所で思いとどまる

と、ここまで原稿を書いたところで、8月7日付け日経3面トップに「携帯4位買収交渉 白紙に。破談補償折り合えず。ソフトバンク 米当局の壁」という見出しの記事が掲載された。

 補償額については具体的な数字はしめされていないが、いかに気前の良い孫正義といえども応じられる額ではなかったのだろう。それだけFCCの壁は高かったと言える。

 これで一応、ソフトバンクの米第4位携帯会社、TモバイルUSの買収はご破産になった。また、条件が違えば、再交渉ということも考えられないわけではないが、当面、TモバイルUSの買収話は遠のいた。 

 Tモバイル買収を諦める代わりに、スプリントCEOを交代させた。これまでのダン・ヘッセから米携帯卸販売ブライトスター CEOのマルセロ・クラウレ(43)にかえ、販売強化に乗り出した。孫正義は「マルセロはストリートファイターのような男で、販売強化にはもってこいの人物だ」とこれから携帯電話の販売攻勢をかけると宣言した。

 孫正義は崖っぷちで踏みとどまったのである。もし法外な破談補償をドイツテレコムに約束すれば、FCCが第3位と4位の経営統合を許可しなければ、ソフトバンクは窮地に陥ることになる。孫正義は寸前の所で危機を回避した。

 軍師といわれた笠井和彦が昨秋亡くなって、孫正義を引き止める男がいなくなったと心配していたが、孫正義の危機回避能力は健在だった。

 こういうことも考えられる。最近、ソフトバンクの社外取締役に就任した日本電産社長の永守重信の存在である。永守は取締役就任に際し、「自分が納得いかない決定は阻止する。単なるお飾りの社外取締役なら、受けない」と語っていた。今回の破談補償についても、ソフトバンクの取締役会で議論されたであろう。その際、永守が発言したであろうことは想像に難くない。

 ソフトバンクにはもう1人、大物社外取締役がいる。ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正である。柳井も歯に衣着せず、はっきりと自分の意見を述べる。今回の破談補償についても、自分なりの意見を述べたのではないか。

 考えてみると、孫正義には永守重信、柳井正という日本を代表する創業経営者が助っ人に加わり、さらに中国からはアリババ集団のジャック・マーも社外取締役として参画している。これだけの豪華メンバーはないだろう。



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