2014年09月17日
トヨタウェイを受け継ぎ中古市場を制す/リネットジャパン&ネットオフの強さの秘密
企業家倶楽部2014年10月号 リネットジャパン&ネットオフ特集第2部
インターネットと宅配を駆使して中古市場に一石を投じているリネットジャパン&ネットオフ。幾度となく危機的状況に陥りながらも立ち上がり、成長を続けられている裏には、創業社長である黒田がトヨタ時代に鍛えた地道で泥臭いオペレーションと、それを可能にする社員の団結力があった。(文中敬称略)
「みんな、暑い日も寒い日も、いつもよく頑張ってくれて本当に感謝しています」
2014年7月22日、愛知県大府市にある、ネットオフ本社前。炎天下の中、弊誌の写真撮影のために集まってきた社員たちを前にして、黒田は丁寧に礼を述べた。
創業から14年。最初はなかなか赤字が解消せずに焦りを隠せなかったこともあった。チームがまとまらず、途方に暮れていたのはつい4~5年前。2012年にはシステムへのハッキング事件もあり、窮地に陥った。
だが、幾多の苦難を乗り越え、リネットジャパン&ネットオフは企業としてようやく軌道に乗ってきた。それも全て、目の前の社員が自分に付いてきてくれたお陰だというのが、黒田の真摯な気持ちだろう。
この勢いを駆って、今年から本格的に小型家電回収の新規事業にも乗り出そうという同社の、強さの秘密に迫る。
ネットオフの基本的なビジネスモデルは至って簡単だ。私たち消費者から不要になった書籍、CD、DVDなどを買い取り、それを欲しがる別の消費者に販売する。ただ、通常の中古販売店と決定的に異なるのは、同社がインターネットを駆使している点である。
リアルの店舗で中古品を販売するとなると、商圏は半径何キロかに限られる。しかし、ネットを駆使することで全国津々浦々からモノを回収することができるのだ。また、店舗が無いということは人件費やテナント代がかからず、かつ24時間365日受け付けられることも意味する。
しかし、もちろん実際にモノを扱う以上、ネット上の取引だけで成立するビジネスではない。やはり、モノを動かす仕組みが必要だ。そこで、ネットに掛け合わせたもう一つの要素が、宅配である。ネットオフは、もはや日本でも有数となっている物流インフラを形成しており、これが最大の強みとなっている。
忙しく過ごす中で、重い本をまとめて車に詰め、貴重な土日を潰してまでリアルの店舗に売りに行くのは面倒だという人が大半だろう。
そこへ来るとネットオフは、会社から帰ってきた夜だろうが売却・購入ができるし、好きな時に取りに来てもらえる。査定に関しても店内で待つことなく、ただ届いたメールを見るだけだ。店舗という概念を否定することで、新たな付加価値が生まれているのである。
ネットオフの客層は、20代と30代がそれぞれ35%ずつと、若年層が7割を占める。また、お客の半分以上が女性というのも興味深い。これは、ブランドバッグや貴金属類のニーズが高いためだという。こうした商品は、専門店の方が高く買取を行っているイメージがあるが、ここでもネットならではの強みが生きてくる。
例えば100店舗を展開している専門店では物理的に100人以上の目利きが必要となるが、ネットオフの場合は全ての品が商品センターに集結するため、目利きのプロは少人数でも問題無い。人件費を含めて運営はローコストで行い、浮いた分を買取価格の向上に回してリアル店舗を凌ぐ戦略だ。
また、目利き自体がネットオフの強みでもある。特に中古を扱う場合お客に満足してもらう上で、商品の質を見極めることは重要だ。今は買取から販売という流れのリユース事業がメインだが、少数精鋭の目利きが育つことで、この力は今後リサイクル事業でも遺憾なく発揮されることとなろう。
良質な上澄みだけを販売
では、実際にネットオフで商品を購入してみよう。送料は全国一律310円(税込)だが、1600円(税込)以上購入すれば無料となるので、数点購入する。
そのうちの一つは、新品定価637円の小説だが、付けられている価格は420円。下には「217円おトク」の文字が控えめながら表示されている。中古だから安くて当然と侮っていたが、数日中に届いた商品を開けてみて、驚いた。書き込みはもちろん、日焼けや擦れなども全く無い。とても中古品とは思えない綺麗さである。
それもそのはず。ネットオフが通常の中古販売店と一線を画しているのは、新品同然の商品だけを精査して自社販売しているという点なのだ。
従来、中古品と言うと、書き込みや日焼けは当たり前。そして、商品の劣化具合によって価格決めが行われるのが通例だ。だが、ネットオフは新品同様の商品しか売らないため、商品の人気度と自社の持つ在庫量によって価格設定を行っている。
こうした施策を採るのには、もう一つネットならではの合理的な理由があると、黒田は指摘する。「リアルの店舗ならば、お客様は実際に商品を手に取った上で納得して購入されますが、ネットとなると現物を見ることはできません。そのため、お客様から信頼していただくためにも、品質の基準はかなり厳しくしなければならないのです」
ユーザーから買い取った大量の品々のうち、上澄みの3~4割がネットオフのサイトに載っていく。精査の結果、ネットオフの基準に満たなかった商品は、古書店にコネクションを持つ業者などに流される。
だが、中古本を1冊販売することによって出る利益など微々たるもの。黒田と5年来の経営者仲間であるエポック・ジャパン代表の髙見信光も「良質な上澄みしか売らないことで信頼感が生まれ、リピーターはできるだろうが、少ない差益の中でよく利益を出していける」と驚きを隠さない。
ネットオフの買取価格は100点でも平均2000~3000円といったところ。サイトで販売している商品に関して言えば、利益率は悪くない。とはいえ、上澄み以外の商品が7割を占めるため、全体を考えれば一概に一冊あたりの差益が高いとは言えないのが現状だ。
いずれにせよ、差益をいかにして積み上げるかが勝負の分かれ道となるが、ネットオフの方策とはいかなるものか。
効率よく商品をさばく上で力となっているのが、トヨタ生産方式だ。黒田自身がトヨタ出身者ということはもちろん、トヨタウェイを体現してきた村上正人が参謀に加わったことで、徹底した管理体制が敷かれている。
私たちがネットオフに中古品を売った場合、まずは全てのものが一度第2商品センターに運ばれる。取り扱っている商品の7 割を占める書籍、CD、DVD、ゲーム類は1階、それ以外の物は2階で検品される。
本、CD、DVD以外で多いのはバッグなどのブランド品、そしてイヤリングといった貴金属類だ。あとは洋服、靴、フィギュア、ゴルフクラブなど多種多様な商品が置かれている。
オフィスの片方で送られてきた品々の検品が行われ、もう半分では洋服をマネキンに着せたり、ブランドバッグを撮影したりする女性スタッフの姿が目立つ。
検品の結果、販売可能と判断された商品たちが、ここからオークションなどに出品されるのだ。ヤフーオークションなどへの出品は、構造上は誰でも出来るが、綺麗に写真を撮り、分かりやすい説明を加えてサイトに載せるのには手間と覚悟がいる。また、購入する相手も個人なので、取引する上でのやり取りも何かと面倒だ。ネットオフには当然出品のノウハウが溜まっているため、代理・自社販売に関わらず一手に引き受けている。
オフィスから倉庫へと移動すると、フィギュアやゴルフクラブ、衣料品、ブランドバック、靴などが所狭しと並んでいた。これらは基本的にヤフーオークションやアマゾンのショッピングモールで販売するが、商材によって最も高く売れる時期を見計らう。
1階に到着する本、CD、DVDに関しては、来た日にちの早い物から査定ラインに運ばれ、自社在庫になると第1商品センターへ出荷される。一人が送ってくる量は平均して100冊。大掃除や引っ越しを契機に、棚ごと段ボールに入れられて届く。そうした箱は、お客単位で置かれ、査定ラインに送られる。
前述の通り、クオリティチェックは厳しい。基準が明記されており、ほぼ新品同様の売り物になる商品にだけ、番号が振られる。
査定と言っても商品単位で価格が決まっているので、チェックを通過した品に関してはバーコードを読み取る作業だけで金額が判明する。査定金額がお客に伝わり、承認を待つ間、商品は留め置かれる。
承認されて顧客にお金を支払うと、初めてネットオフの在庫として箱からお客の名前が外れ、商品の番号ごとに第1商品センターへ配送されるという仕組みだ。
泥臭く、地道に作業
さて、第2商品センターでの関門を潜り抜け、晴れて商品としてネットオフのサイトに出品されることになった書籍、CD、DVD関連商品は、第1商品センターに配送されてくる。
第1商品センターには書籍などの詰まった棚が奥の方までびっしり並んでいる。約2200坪というだけあり、壮観だ。さすがに、年間販売冊数でギネスブックに認定されただけのことはある。商品は、この巨大なセンターの片側から棚に詰められ、もう一方の側からピッキングされてお客の下へと配送される。
毎日棚に入れられ、かつ出ていく商品は約1万点以上に及ぶ。ホワイトボードには、時間ごとに区切られたノルマが明記されており、目標の数量に達しないと数字が赤く染まる。一人ひとりの進捗ももちろん全て見える化されているため、スタッフは緊張感を持ちつつ淡々と仕事をこなす。両側から来るスタッフ同士がぶつかり合わないように、通路は原則一方通行。うかうか突っ立ってはいられない。
時間は厳守である。システム上、予定通りの時間に「入荷有り」とサイト上に表示されるので、時間通りに商品を棚に入れなければ、サイト上では「在庫あり」にもかかわらず、ピッキング班が探せないという事態が発生する。
ピッキングチームはバーコードリーダーを持って、お客の注文ごとの商品明細に表示された番号の所に向かっていく。該当商品を取り、バーコードをスキャンすると、次に取るべき商品の番号がまた表示される。このようにリーダーが道先案内人となり、一筆書きで最も効率よく回れるよう、商品は棚に並べてある。
そうして集まってきた商品は、お客単位になって机に並ぶ。あとは最終チェックをし、一度全体に磨きをかけて、出荷ラインで梱包。無事発送となる。
ジャストインタイムで商品の滞留を防ぐ
ネットオフはブランド品なども扱うが、やはり核となるのは書籍やCD、DVD関連商品だ。しかし、これが同社の強みを生むきっかけになったと黒田は分析する。「ブランド品は利益が出やすいですが、本ではそうは行かない。反対に、だからこそローコストオペレーションが鍛えられて、コスト意識の厳しい文化ができました」
泥臭く、コツコツ利益を積み上げる社風は、他社には真似できない「参入障壁」となった。単価の安い本を年間2000万冊もローコストで回すのは至難の業だ。
ローコストオペレーションの肝は「ジャストインタイム」という発想である。元々トヨタ生産方式において、部品が滞留しないように「必要な部品を、必要な時に、必要なだけ送る」というものである。
この考え方は、現在のネットオフの商品センター運営に多大な影響を及ぼしている。ピッキング、検品、出荷などの工程の間で商品が滞留しないようになっているのだ。「昔は気合でピッキングしていました」と黒田も苦笑する。走り回る様子だけ見ると「よく働いているな」と感心したくなるが、ピッキングのし過ぎで検品工程が遅れ、そこがボトルネックになっていた。これでは走り回る労力も無駄になってしまう。
ピッキング作業では、一人が一回行って戻ってくるまでの目標時間が17分に設定されている。一方検品には約8分かかるため、人数比は検品とピッキングで2:1にすれば、ほぼ同じスピードで商品が流れていく。
スタッフが粛々と動き、一日を通し、一貫して同じスピードで商品が流れているという状態が、実は最も効率的なのだ。仮に遅れている班があれば、余裕のある班から応援を出して工程のスピード調整を行えばいい。ただ「8時間頑張ろう」ではなく、作業工程が数値化・見える化されていることで、最も高い生産性を現出できるのである。
買取と販売の絶妙なバランス
オペレーションを円滑に行うことはもちろん重要だが、ネットオフの場合、中古ビジネスならではの難点がある。それは、仕入れた商品は箱を空けてみなければ分からないということだ。新品の商売ならば、仕入れを自分でコントロールできるが、中古販売となると買取と販売で、変数が二つできてしまう。
ただ、黒田は「買取を制した者が中古市場を制する」と説く。この業界では仕入れが肝なのだ。買い取りたい商品をサイトで全面的に押し出すなど単純な方策も試みるが、より裏方にも余念が無い。マーケットに溢れている商品に関しては、バイヤーが商品センターの棚における数を戦略的に決めており、上限を超えると一気に買取価格が下がるように設定されている。
一番望ましいのは、売りたい商品ばかりが棚に並んでいる状態。在庫の需給バランスに気を配らねば、下手に倉庫がいっぱいになることも考えられるし、そうなることでかかる管理費対効果も計算の内にある。「創業期はアバウトでしたが、今では毎週月曜日の朝に私も含め幹部は全員細かい数字を見てミーティングをします」
買取コスト、広告宣伝コスト、人件費など、数字管理をあらゆるところで徹底し、細かいところでのチューニングを重ねて利益を出せるようになった。これら全て、ネットオフの積み重ねてきた試行錯誤の賜物なのである。
黒田はネットオフが満たしているお客のニーズについて、金銭目的と、片付けの2つがあると分析する。いずれにせよ、「使わないのに放っておくのはもったいない」という日本人の考え方にマッチしており、環境意識の高まる現代に合ったモデルと言えよう。
金銭目的のニーズを満たしているのは、フィギュアやゴルフクラブ、衣料品、ブランドバック、靴といった商品群。一方、書籍やCD、DVDは、片付けのニーズに合致している。
今回、リネットジャパンとして新たに始めることとなった小型家電回収事業は、片付けのニーズを満たすものだ。レアメタルの含まれるパソコンや家電製品を、これまで培ってきた宅配のインフラを利用して気軽に買い取る。追加料金でデータ消去も行う。これをより普及させていく構えだ。
こうした新事業に向かえるようになったのも、黒田の目指す経営チームが整ってきたからだろう。以前は自分の思いばかりが先行し、現実との乖離に苛立つことも多かった。「思えば、みんなを信じ切れていなかったのだと思います。コミュニケーション不足でベクトルが合わさっていないのに、ただ前に進もうともがいていました」と黒田は回想する。
それも、2010年に行った上海への社員旅行を経て、徐々に雰囲気が変わってきた。黒田も、自分のやりたいことを分かってもらえるまでトコトン伝えるようになったという。
そんな中、2012年10月、ネットオフはハッキング事件に巻き込まれた。実際に顧客情報の流出は無かったものの、サイトは2カ月間停止。3カ月で出た赤字は約6000万円にも上った。
パート・アルバイトは主婦が多く、生活が懸かっているため、例え仕事が無くても雇用を維持するしかない。在庫を切り崩す形で売上を立てていたが、窮地に立たされた。
しかし、これによって全社に危機感が生まれ、結束が固まった。新しい期が始まったばかりだったため、前半の大失態で顧客離れを覚悟したが、結果的には通期で3000万円の黒字を計上。「こればかりは自分一人で乗り切れるような話では無い。今の経営チームが固まっていたからこそ乗り越えられた」と黒田は振り返る。
苦労を重ね、ようやく手にした理想のチーム。飛躍の時は、すぐそこまで迫っている。新体制で新たな航海に乗り出すリネットジャパン&ネットオフから目が離せない。
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