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2014年09月26日

「琴棋書画」のたしなみ/イセ食品会長 伊勢彦信

企業家倶楽部2014年10月号 私の信条





 私が絵画などの美術品に魅かれたのは小学校1年生の頃だから、かれこれ80年前のことになる。以来、美への憧れは強くなる一方で、名品を見ると、あと先を忘れてつい買ってしまうほどの蒐集家になってしまった。

 イセコレクションと世間では言われているが、蒐集した美術品は約800点に上る。2012年にイセ食品の創業百周年を機に、石川県立美術館で中国陶磁をご披露した。なぜ、中国陶磁を皆さんに披露したかと言えば、中国陶磁こそ名品中の名品だと思うからである。

 私が中国陶磁と出会ったのは今から30数年前。それまでは印象派から現代美術まで、西洋美術を蒐集してきた。ある画廊で明の染付けの大皿を見た。端正でありながら、華やかな藍の青花を見て、一目で魅了された。以来、石器時代の黒陶から19世紀の清の時代のものまで様々な名品を蒐めてきた。

 中国陶磁の魅力をひと言で言えば、「完璧な美」ということになろうか。中国の歴代の皇帝たちは心血を注いで名工たちに美術品をつくらせ、その美術品を諸国の王侯たちに与えて臣下にした。

 先年、清華大学で350人の学生たちに講演する機会があったので、「中国は軍艦をつくるより、美術品をつくって諸国に分け与えた方が大国の風格がある」と意見しておいた。

 宋の時代の士大夫たちは「琴棋書画」の嗜(たしな)みがあって、国家を運営したそうだ。私もそういう生き方に憧れている。

 私がイセ文化基金を通じて、若くて才能のある芸術家を支援するのは、自らも現代の士大夫でありたいと願うからに他ならない。

 景徳鎮といえば、中国陶磁器の代名詞のように言われているが、もはや昔の景徳鎮は入手できない。これだけ文明が発達しても明や宋の時代の名工や窯はなく、名品を再現することは不可能。それだけに名品といわれる景徳鎮は価値がある。バイオリンの名器、ストラディバリウスのようなものである。

 中国陶磁をお茶会の席にも使う。マチスやセザンヌの絵と中国陶磁を組み合わせて、お茶の席を設えると、これまでになかった少々型破りのお茶会を楽しむことが出来る。

 私が美術品を見たいときは、蒐集にかかわってくれている美術商に並べてもらう。彼はその時々の私の気分を推し量って、まさに私が見たいものを出してくれる。中国の歴代の皇帝たちが愛でた天下の名品を見るひと時はまさに至福の時間である。

 このコレクションはおもとめに応じて美術館に無償で貸し出している。独り占めするつもりはない。中国八千年の美術品の魅力を永く日本に残すことが、私の願いである。

 芸術、文化を通じて、いろんな方との出会いがあった。全部は紹介出来ないが、1人、2人紹介させて頂くと、故堤清二氏(セゾン文化財団理事長)。堤さんにはイセ文化基金の理事を32年間務めてもらい、基金経理の銀行保証をお願いした。頭の上がらない人だ。堤さんほど、文化にカネを使った人はいない。そこで文化勲章をあげたいと思い、運動したら、ある時、長文の手紙が堤さんから来て「勲章はいらない。運動をするのは止めてほしい」と言われた。
 

 米国の日本文化研究の第一人者、ドナルド・キーン氏も古くからの付き合いだ。ロックフェラーの弁護士、アイザック・シャピロ氏から紹介を受け、イセ文化基金の理事をお願いしている。私の富山の自宅に何度も来てもらったが、キーンさんから日本文化の質の高さを教えられた。



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