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トピックス -企業家倶楽部

2014年10月14日

W杯と日本企業の今後/和田昌親

企業家倶楽部2014年10月号 ラテン式経営学 vol.6


グローバル経営の時代。経済発展の可能性はどの地域にもあるが、日本企業のラテンアメリカへの進出気運は衰えていない。サッカー・ワールドカップ(W杯)が終わったあとのラテン諸国の動きと日本企業の戦略を改めて点検してみよう


Profile 

和田 昌親 (わだ まさみ)

1947年神奈川県生まれ。1971年東京外国語大学スペイン語科卒。同年日本経済新聞社に入社、産業部や国際報道部門に長く在籍。1980年代半ばにブラジル・サンパウロ特派員、その後東京本社経済解説部長、米州編集総局デスク(ニューヨーク)、欧州総局長(ロンドン)などを経て日経常務取締役(国際担当)を務める。2010年子会社の日経HR社長、14年から日本経済新聞社客員。著書に『ブラジルの流儀』(2011年、中公新書)、『逆さまの地球儀 複眼思考の旅』08年、日経出版社)、『蒼天に生きる新生モンゴルの素顔』(1994年、日本経済新聞社)。




 新興国で何かと注目されるのがW杯が開かれたブラジル。BRICSで唯一のラテン国で、今大会で優勝し、景気を盛り上げることが期待されていた。しかし結果は「惨敗」だった。

 ブラジルは準決勝でドイツと対戦、1対7というスコアで敗退した。点取り屋のエース、ネイマールの負傷と主将チアゴシルバの警告累積による欠場で苦戦が予想されていたが、完膚なきまで叩きのめされた。

 ブラジルにとってサッカーは「存在」そのものである。国民が寄って立つ基軸が倒されたに等しい衝撃だった。「惨劇」と表現したテレビのアナウンサーもいた。10月の大統領選挙でジルマ・ルセフ大統領の再選が危ぶまれる状況になっている。

 しかし、W杯後にブラジルから戻った日本人研究者に聞くと「もちろん敗戦で落胆はしたけれど、何ごとも引きずらないタフな国民性は変わらないし、アッという間に話題にしなくなるんじゃないか」と言う。ラテン気質の「陽気で大らか」という良さが悲劇を蹴散らすという見方だ。

 確かにルセフ大統領はW杯直後にブラジル北東部フォルタレザでBRICSの首脳会議を主催し、W杯のマイナスを取り戻そうとするかのように政治的成果を強調している。ルセフ大統領はW杯開会式では、反政府デモやストライキ発生などの混乱に配慮してか、あいさつもしなかった。

 この会議でBRICS5カ国(現在はブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)は世界銀行に対抗して、独自の「新開発銀行」を創設することで合意、途上国への融資、支援を強めることを決めた。本部は上海に置き、初代総裁はインドから選出する。資本金は500億ドル。欧米諸国がつくったブレトンウッズ体制が世界経済の実体を反映していない、という認識が背景にある。

 ブラジルが主導して、この合意を実現したことは、国内ではさほど大きな話題になっていないが、国際政治の中ではルセフ大統領の得点につながることは間違いない。

 アルゼンチンはどうか。南米開催の大会では必ず南米が優勝するというジンクスがあるが、決勝戦でドイツに競り負けた。あと1歩でマラドーナ以来の優勝の栄誉を得られるはずだったアルゼンチンのショックは大きい。世界一の点取り屋メッシも最後は疲れ果てていた。




アルゼンチンのサポーターはもともとヒートアップする傾向が強く、ブラジル以上に応援が激しい。今回も陸路で訪れた多くのアルゼンチン・サポーターがホテルを避けて、テント生活する姿がテレビで紹介されていた。負けたとたんに、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスでは怒った国民が暴徒化し、一時大混乱したという。

 アルゼンチン政府はアメリカとの債務返済問題で劣勢に立たされ、いまだに国際社会の信頼を回復できないでいる。そうした中でフェルナンデス大統領は起死回生策として自国のW杯優勝を利用したかったところだが、それもかなわなかった。

 メキシコはよくやったと言える。さほど注目されていなかったチームだが、大会に出てくれば必ずと言っていいほど決勝トーナメントに出てくる実力国だ。今回もブラジルと一次リーグで引き分けに持ち込んだ。

 経済的にはこの国は21世紀に入り急成長した。10年以降は3~4%の安定した成長率。「自動車産業の国」といえるほど、自動車に特化している。米国市場への輸出が期待できるからだ。

 このため世界の自動車メーカーがこぞって進出している。日本も日産を始め、トヨタ、マツダ、ホンダが出そろい、ドイツの大手自動車メーカーもそろい踏みした。日産はいずれ国内生産より多い100万台を現地生産する計画だ。

 さてブラジルの話に戻そう――。それにしても日本のテレビ、新聞はよくぞ、あれだけ、ブラジルのあら探しをしてくれたと思う。「治安が悪い」というのがそれ。

 共同通信のリオ発によると、W杯期間中の日本人の犯罪被害申告件数は31件だった。現地の日本大使館によると、強盗6件、窃盗25件だった。ダフ屋行為でつかまった日本人も2人いた。

 でも死傷者は出なかったし、案外少なかった印象だ。ブラジルでなくてもこのぐらいの犯罪には出会う。しかもサッカーの国際試合ではサポーター同士が衝突したり、窃盗、置き引きは日常茶飯事だ。

 建設準備の遅れについても、つじつまを合わせるブラジル人の得意技を知らない記者やレポーターたちは「大変だ」と大騒ぎしていた。でも、どこのスタジアムも芝生も完ぺきに仕上がっていた。

 ブラジルには資源と食料に代表されるように、サッカー以外の別の力があるし、今後は16年のリオデジャネイロ五輪に備えなくてはならない。W杯で使用したスタジアムのIT化に多大な貢献をしたNECは引き続きリオ五輪でも勝負してくるだろう。

 国際通貨基金(IMF)や日本貿易振興機構(ジェトロ)の最新の調査によると、日本の海外進出企業数は中南米全体で1700社、うちメルコスール5カ国780社、太平洋同盟4カ国750社だった。ちなみにインドは1700社、ASEANは7300社とケタが違うが、これは距離の近さやアジアとの交流の深さに起因しているとみられる。

 日本のブラジル進出企業数は580社。ブラジル側から見た直接投資受入額は652億ドル(2012年)だ。1980年代の累積債務危機後は一時190社まで落ち込んだ日本企業数は急速に増えている。

 メキシコへの進出企業数は550社で、直接投資受入額は120億ドル。小泉政権時代の2004年にEPAを結んだあと、2010年までに両国の貿易量は45%増えた。アルゼンチンへの進出企業数は55社で直接投資受入額は125億ドルだ。チリに進出しているのは90社、ペルーは40社となっている。

 ひところに比べ、中南米への進出企業数は大幅に増えている。日本にとってラテンアメリカは物理的な距離は遠いが、日系人が多い分心理的距離は近い。戦前戦後を含めて多くの移民が南米に渡っていった。世界の日系人の数は現在260万人といわれるが、そのうち6~7割が中南米だ。

 A・マディソンという英国の経済学者が作成した「経済大国の歴史」という研究論文がある。紀元ゼロ年を起点として、100年から数百年ごとに世界のGDP(国内総生産)大国が交代していることを検証したものだ。

 紀元ゼロ年、世界全体のGDPのシェアはどの国に集中していたかを見ると、首位はインドの32%、そして中国とローマ帝国が25%で2位を分け合っている。

 インドと中国両国は1600年ごろまで「大国」を維持するが、1800年代になると急速に衰退し、その代わりに19世紀にはフランス、大英帝国という欧州勢がのし上がる。20世紀は新興のアメリカがおよそGDPシェア25%の超大国に成長する。世界のリーダー国はかなり激しく交代していることがわかる。

 ただ、この研究成果は「北・南米大陸」を無視してきた欠点がある。コロンブスが新大陸に到達するまでは、この大陸のGDPはゼロとしているがとんでもない。当時インカ帝国などの人口は欧州を凌いでいたとの説もある。

 100年後にはラテンアメリカのリーダー国が出てきておかしくない。W杯開催とリオ五輪を機にそんなことを考え始めている。



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