トピックス -企業家倶楽部

2010年08月27日

ニトリの21世紀戦略/安さと独自開発商品で世界の人々に豊かな住生活を提供したい

企業家倶楽部2009年8月号 特集第1部


2008年秋のリーマン・ショック以来、消費者の購買意欲が冷え込んだまま回復の兆しは薄い。そんな中、ユニクロを展開するファーストリテイリングと共に、ホームファニシングチェーンを創造、勝ち組として成長を続けるニトリ。社長の似鳥昭雄は創業以来「日本人に真の住生活の豊かさを提供したい」という夢とロマンを掲げ、価格革命に挑んできた。「お、ねだん以上。」のキャッチコピーで消費者に圧倒的支持を得るニトリが提唱する、豊かな住生活とはどんなものか、その真実に迫る。 (文中敬称略)

 



売上日本一をはじき出す店舗力

 東京の北東部、北区・赤羽。公団の団地や新興のマンションが立ち並び、クルマの往来が激しい環七通りに近い一角に、ひと際大きなニトリの看板がそびえる。5月後半の金曜日、平日だというのに入り口には11時の開店を待つ客が集まっている。開店と同時に店内に入った30代と思しき主婦は大きなカートを手にすると、手馴れた手つきで奥の売り場に向かった。そして夏用の敷物である綿85%のスペースラグ180×180cm、2990円を手にすると満足そうにカートに入れ、次はカーテン売り場に向かった。ここでは遮光性と断熱効果が高い機能性カーテンを探すのに余念がない。彼女は夜でも室内が見えにくい白いレースのカーテン100×196cm、3990円を手にとると、カートに入れた。夏の日差しを少しでも遮り、涼しく暮らすための準備である。

 広い店内を見回すと「夏を涼しく快適に」の看板とともに、いたるところに「値下げ宣言」の文字が目につく。これからの暑さに備え、住まいを夏向きに衣変えしたいこの季節、ニトリの激安価格は消費者の強い味方である。安さと独自開発商品で世界の人々に豊かな住生活を提供したい

 ここ赤羽店は、1フロアの売り場面積1200坪、1階と2階を合わせると2400坪の大型店である。1階はホームファッション、2階は家具とトータルコーディネートを提案する売り場となっている。ここ赤羽店の商品アイテムはざっと8000。ここに来れば住まいに関するすべてが揃う。 平日のこの日はまだゆっくりと買い物を楽しめるが、週末ともなれば土日で1万人もの客が押し寄せる。売上高は週末2日間で約5000~6000万円、年間で40億円以上を売り上げる赤羽店は、ニトリ全店の中でナンバーワンを誇る。この赤羽店の6階はニトリの本社となっている。取材中にも経営幹部が自ら店頭チェックをする場面に出会った。現場主義を貫くニトリならではといえる。

 赤羽店の主要顧客は30代~40代の主婦。大衆に受け入れられる商品提供がモットーである。人気商品は白い食器シリーズである。99円と格安のカップから揃えているが、圧倒的な値ごろ感も手伝ってか、この食器類は全店で1280万点以上を売り上げるヒット商品となっている。また最近人気の低反発枕は、客にわかりやすく売り場のエンドでしかも面で提案。またトータルコーディネートの基本となるカーテンは、ニトリならではの多彩な色、柄サイズを揃え、全国での売上数は443万組と他を圧倒する。



他を圧倒する低価格戦略

 損をしてでもまずはお客様の得を考えよ、そうすれば最後は必ず利益につながる。似鳥はこれをブーメラン現象とよび「お客様のために」ということばが1日10回は口から出なければならないと社員を諭す。この考えが今回の世界同時不況の中でも年度内4回の値下げを実現している。『お、ねだん以上。』のテレビCMをごらんになった向きも多いことであろう。この『お、ねだん以上。』を実現するための商品開発、価格革命にかける情熱はすさまじい。中でも今、ニトリが渾身の力を込めて世に送り出した商品は、IHヒーターを完備したシステムキッチンである。価格は驚きの19万9000円。「通常なら60万円はする」と涼しい顔で語る似鳥だが、IHヒーターを備えたシステムキッチンをどうしてこの価格で実現できるのか。それはニトリが販売だけでなく、企画・製造・輸入・物流にいたるまで、自社でプロデュースする「製造物流小売業」を実現しているからである。

 そしてお客の得を考えよ、という似鳥の強い思いがある。その価格にかける強い意志はニトリ憲法にもあらわれている。ニトリ憲法には、一に安さ、二に適正な品質・機能、三にトータルコーディネーションと定めているが、実態は一に安さ、二に安さ、三に安さ、四番目が適正な品質・機能、五番目にトータルコーディネーションなのだという。それだけ価格の安さにかける執念はすごい。

 これまで大ヒット商品となった、洗える2枚合わせ羽毛布団シングルサイズ9990円、オリジナル食器棚4万9900円、そして今年の戦略商品IHヒーターを完備したシステムキッチン19万9000円など、自社開発商品はまずは価格ありきの戦略で進められる。9990円の羽毛布団を、実現するにはどうすればいいか。19万9000円のシステムキッチンを可能にするにはどうするか。担当者は原料調達に世界中を駆け巡り、人件費の安いインドネシアやベトナムの自社工場で製造、さらには自社の物流センターを経て店頭に並ぶ。いかなる状態でも似鳥の「価格ありき」の姿勢に揺るぎはない。



手の届くトータルコーディネートの楽しみを提案

 ニトリが提案するのは家具単品ではない。トータルコーディネートによる豊かな住まいである。O・T・C・M・(ワンハウス・トータル・コーディネーション・マーチャンダイジング)という考え方に基づき、一軒の家まるごとトータルにコーディネートする住まい方を提案、ここ赤羽店でもさまざまなコーディネーションを体感できる。

 2階のフロアでは、キッチン、居間、書斎、寝室にいたるまで、家具、カーテン、ラグなどインテリアまでをコーディネートする住まいを提案。客がコトータルコーディネートしたキッチンを提案ーディネートされた部屋を自由に体感できる売り場を実現している。 白や黒など色を基調にしたコーディネート、またカントリー調やモダンなどテイストの好みにより、いくつものパターンを実際の売り場で体感できる。このトータルコーディネート力がニトリの最大の強みとなっている。しかも自社開発商品だから激安。庶民でも楽しめる価格なのである。手が届く住まいのトータルコーディネート、これがニトリの最大の強みである。

 実例をご紹介しよう。9.1帖のリビングルームをコーディネートしたモデルはシックで落ちついた雰囲気の家具、3人用ソファと1人用ソファ、センターテーブル、ローボード、キャビネット2点の6点合わせて16万9400円とリーズナブルだ。この値段なら若いファミリーでも手が出せる。勿論一緒にコーディネートされたテーブルの下のラグもカーテンも一階のホームファッションフロアで手に入る。 ではもう一例。白い家具でコーディネートされた8.4帖のオシャレなリビングルームは、3人用ソファ、一人用ソファ、センターテーブル、テレビボードになど、6点合わせて万6400円。この価格なら地デジ対応のテレビを買い換えたついでに、部屋ごとコーディネートすることもできる。

 こうした部屋まるごとのトータルコーディネートだけではない。ニトリでは特別考えなくても、簡単にトータルコーディネートできる商品を提案している。ニトリでは今年のホットカラーをオレンジ&グリーンと設定。オレンジとグリーンを使った商品を開発している。バスマットやタオル、プレートやコップ、食器3点セット、夏用のスツール(イス)やシートクッション等商品はさまざま。

 売り場でこれらの商品を買い集めていくと、特別センスのない人でも自然とトータルコーディネートできてしまう。こうした小物類からでも気軽にコーディネーションの楽しみを実感してもらいたいという似鳥の強い願いが込められている。



使う側の立場にたった独自の開発商品

 アイデアマンで商品大好きという似鳥だからこそ、独自商品開発には力が入る。まさにニトリならではのユニークな商品が続々と商品化され、ヒット商品となっている。これは価格の安さだけではない、その機能・品質も評価されているからであろう。

 ニトリらしさで大ヒット商品となったのが、リクライニングソファである。これは出張が多い似鳥が、飛行機に乗っているときにひらめいたのだという。電動式で、スイッチ一つで好きな角度で止めることができる。3人掛けの商品は真ん中のイスの部分を倒すとテーブルにはや変わり。ソファにゆったり身体を沈めたら、起き上がることなく横のテーブルに置いた飲み物を手にすることができる。常識破り、しかし「あったら便利」を具現化していく商品開発力がニトリ流なのである。

 
 耐震装置つきの家電ボードもありそうでなかった商品だ。地震で食器が飛び散り、棚が倒れるのは、扉が開くためという。そこで扉が開かない方法を考えた。傾斜3度以上の傾きで扉が自動的にロックされ、開かない装置を取り付けた。これにより、地震での食器の飛び出し、倒壊を防ぐことができる。これは5万9900円、地震国日本では必需品といえる。


 



「お、ねだん以上。」を創り出す商品部

 さまざまな開発商品を生みだすニトリの商品部は人気の部署だ。ここではマーチャンダイジング、デリバリー、コーディネート、バイヤー、棚割りの5つのグループが一緒になって、独自の開発商品を創りだす。さまざまな部署が一緒になって創り出すからこそ、モノとしての価値だけでなく、倉庫、物流から、店頭に並んだときのディスプレイまで、細かいアイデアが盛り込まれる。それぞれの部門の意見が集約され、最大の価値を生み出しているのである。  ディスプレイまでを考えた商品としてはスリッパがある。これは一品一品を店頭の棚にディスプレイするのではなく、箱ごと陳列できるよう工夫されている。コンビニのお菓子のように箱の上部を切り取ってディスプレイするだけで、商品を並べる手間が省けるのだ。週末の土日2日間で1万人が押し寄せる売り場では、客を待たせずに済む。こうした細かいアイデアは現場を知っていればこそである。

 また夏用の肌がけ布団。これはのり巻きのようにまるめてネット入りで販売している。のり巻き形にすることで、持ち運びがしやすいだけでなく、倉庫でのスペースが格段に少なくて済み、物流面で効率的という。このようなちょっとしたアイデアはさまざまな部門が一堂に会して、プロの目線で考えるから生まれるアイデアである。これこそが安さだけでなくニトリの商品力、店舗力の原点となっている。



危機を予見逆の戦略で勝利

 安さと独自開発商品でニトリは今や全国に店舗数194店(09年5月1日現在)を展開、09年2月期の売上高2441億円(前期比12%増)、経常利益340億円(同28%増)と圧倒的な成長力を誇る。この数字をたたき出す裏には、似鳥の商売人としての鋭い勘と経験がある。世界同時不況でかつてない窮地に立たされているが、似鳥は2年前にこれを予見、準備をしていた。毎年、米国に流通視察団を送り込むが、それだけに現地の動きには敏感だ。似鳥によると07年にはその兆候が見え始めたという。現実の数字しか信用しないという似鳥は、そのとき、2年後の09年に住宅バブルが崩壊すると睨んだ。そして売上高の2%にあたる40億円を準備した。その後08年、世界的な原材料高騰で各社が値上げを余儀なくされる中、ニトリは1年間で4回もの値下げを断行、庶民の味方として一躍脚光を浴びることになる。なぜニトリだけが値下げができるのか。そこには「人と同じでは勝てない、皆が値上げするときこそ逆を行く」という似鳥の綿密な戦術がある。生活物資の値上がりで消費マインドが冷え込む中、ニトリは億円の準備金をテコに値下げを敢行。効果は絶大、トヨタやソニーでさえかつてない多額の赤字に苦しむ中、ニトリは売上高前年比12%増、経常利益同28%増という絶好調の決算を達成している。これは偶然でも、幸運に恵まれたわけでもなく、根っからの商売人似鳥の周到な準備と果敢な決断に因るものである。この経営手腕が評価され、似鳥は企業家倶楽部が主催する11回企業家賞で、その年最も優秀な企業家に贈られる『企業家大賞』に選出された。



米国出張で一生の目標を得る 

 そもそも似鳥がなぜこのようなチェーン店を展開しているのか。ニトリをご存知ない向きのために、少しニトリの歴史に触れたい。似鳥はもともと北海道で小さな家具店を営んでいた。創業7年目の1973年、アメリカに視察旅行に参加、開眼することとなる。米国のトータルコーディネートされた豊かな住まい、それを可能にしているチェーンストアの存在を見た似鳥は、頭を殴られたような衝撃を受けた。そこには一般庶民でもコーディネートされた部屋を楽しむ光景があった。日本は一品一品はいいものでもトータルコーディネートという発想はなかった。当時は消費者にそれを気づかせる場もなければ、提供する企業もなかった。日本では衣・食・住の順番通り、住まいは一番後回しだったのである。日本人の住まいの貧しさに直面した似鳥は、これ以降、日本人に豊かな住生活を提供することを生涯の目標と定めることになる。米国の視察から戻った似鳥は、60年計画を立てた。最初の30年は日本を豊かに、後半の30年は世界にチャレンジすることである。最初の30年の完成度は、価格については70点、ようやく従来の1/2までこぎつけた、「あと30%価格を下げる」と宣言する。機能・品質は60点、コーディネーションについてはまだ50点程度、これからが勝負と語る。後半30年については「世界のニトリ」の目標のもと、07年には台湾に進出、今は4店舗を展開している。今後は中国、インドなどのアジアは勿論、欧米進出も視野に入れている。



2032年に3000店売上3兆円を目指す 

 現在、全国に194店を展開するニトリだが、店舗を増やすことが社会貢献になると似鳥。手軽に来店し、その価格、商品を直に体感、納得して買っていただくためには店舗網が必要だ。今後の出店目標は明快だ。2012年には340店、2022年には1000店舗、2032年には3000店舗、売上高3兆円を目指すという壮大な計画だ。現行は平均売り場面積2000坪前後の店舗を基本としているが、今後は少し小さめで1200~1500坪の店舗展開も視野に入れている。世界中の人に安価で楽しい夢のある住まいを提供したいという似鳥の夢とロマンが込められている。当然2032年、3000店舗体制のときには海外が8割強を占めることになろう。まさに世界のニトリに飛躍することになる。 そのための社員教育は熱心だ。社員一人当たりにかける金額は年間23万円と群を抜いている。特に米国流通業視察は似鳥が考える夢とロマンを共有するために欠かせない。社員だけでなくパート社員も対象となっている。2008年は1年で759人が参加した。

 彼らが米国で視察するのは世界最大のチェーンストアであるウォルマートである。ここでは安さの原点を体感する。また北米に1000店近くを展開するホームファッションストア「ベッド・バス&ビヨンド」のコーディネート力。またアッパー層を対象とする百貨店も視察の対象だ。さまざまな角度から米国の住生活の豊かさ、戦う流通の現場を体感することで、世界のニトリを実現する原動力を養う。 世界最大のホームファニシング業イケアも視察対象となる。「よくライバルはイケアと聞かれるが、ライバルではない。むしろ互いに切磋琢磨し日本人の住生活を豊かにする同士」と明言する似鳥。「例え自分たちが負けることがあっても、イケアが頑張ることで日本の住生活が良くなるならそれも良し」と語る似鳥。そこには本気で日本人の住生活を豊かにしたいと願う似鳥の熱い想いがある。1、2カ月に一度はイケアの店舗を視に行くという似鳥、トータルコーディネートなど学ぶところは多いようだ。大塚家具店についてはターゲット層が異なる。ニトリがターゲットとしているのは年収800万円以下の人々。あくまで大衆に対しての商売がニトリの道と割り切っている。



ホームファニシング 業態を創造 日本を豊かにしたい

カーテン、カーペット、カバーリング、食器などのホームファッションと、家具のファニチャーを合わせてニトリはホームファニシングという新しい業態を創り上げている。これまでは家具の売上構成が多かった。しかしここに来て逆転、ホームファッションが5割を超えるなど、その位置づけが大きくなってきている。これは日本でもコーディネートを楽しむという文化が根付いてきた証ともいえる。 ニトリは野武士の集団だ。即断即決即行動、スピードが求められる。そのため年間52週の週単位のマネジメントを導入。一週間単位で改善、やるべき目標を設定、スピード経営を基本としている。悩むより先に行動、というドライ主義もニトリ流だ。あれこれ悩むよりやり抜くためにはどうするか、常に前向きに考え、行動する姿勢が求められる。 こうした鍛え抜かれた野武士の集団だからこそ、この安さが実現できている。今年65歳になる似鳥だが、その行動力、好奇心に満ちた目は少年のようだ。似鳥が抱くロマン(志)「欧米並みの住まいの豊かさを世界の多くの人々に提供する」という壮大な理念を達成するために、日本が生んだ元気印企業、ニトリ軍団がどのような戦法で勝ち抜いていくのか楽しみだ。

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