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トピックス -企業家倶楽部

2003年02月27日

【フルキャスト特集】日本一の人材サービス会社をめざす/フルキャストの21世紀戦略

企業家倶楽部2003年4月号 特集第1部


軽作業請負のトップ企業フルキャストは今、第2創業とも言える局面を迎えた。元気のいい若手ベンチャーという位置づけから、群雄割拠の人材サービス業界の中で真の強者になるため「ワンストップ・トータル・ソリューション」への取り組みを推進しているのだ。「最終的には世界一をめざす」と、とてつもない夢を語る社長の平野岳史は、その第一段階として、企業の開発・生産・物流すべての局面で人材アウトソーシングのニーズに対応する戦略に打って出た。(文中敬称略)



■再び急成長路線へ


 二〇〇三年一月十八日、土曜日の午前八時、フルキャストグループの全社長が集まるグループ代表者会議が行われた。毎月一回土曜日に行われるこの会議はグループ全体の意見のすり合わせ、懸案事項の確認、各事業の進捗状況の報告など、グループの協業体制を強めるための重要な役割を担っている。

 「はじめようか」平野に促され、フルキャストオフィスサポート社長の坂巻一樹が口を開いた。

 「十二月の結果ですが、前年対比二〇二%でした。新規獲得は二十一社。季節要因もありますが、コンビニ向け年賀状の印刷に関わる、入力、校正関係やADSL事業会社コールセンターへの派遣が特に好調でした。ADSLの方は今後の契約も決まっていますので三月まではこの調子でがんがんいきます」
 
フルキャストオフィスサポートは昨年秋、フルキャストレディから分化して、短期一般派遣業務に特化した会社。倉庫・物流が主力のフルキャストにとって一般オフィスへの進出は是非とも強化したい分野だ。
 
 頼もしい報告に、平野の表情も明るい。



■ワンストップ・トータル・ソリューション戦略

人材を通して多様な顧客企業のニーズに「ワンストップ」で、「トータル」に「ソリューション(問題解決)」するサービスを提供し、顧客の価値を最大化する「ワンストップ・トータル・ソリューション」が、フルキャストのグループ戦略である。
 
 大きな流れとしては、スポット(短期軽作業請負)事業での優位性を活用しながら、構内請負事業(フルキャストファクトリー、フルキャストセントラル)、技術者サービス事業(フルキャストテクノロジー)、一般事務派遣(フルキャストオフィスサポート)といった分野への進出を強化する方向。短期少数から長期多数、単純作業から専門職へと軸足を移すことで、開発(テクニカル事業)・生産(ファクトリー事業)・物流(スポット事業)といった企業活動の一連の流れの中に食い込もうとしているのだ。



■製造ライン請負でトヨタと組む

平野は昨年から、この基本戦略を大きく前進させる布石を矢継ぎ早に打ち出した。
 
 二〇〇二年四月にはトヨタ自動車系の車体製造会社、セントラル自動車、同部品製造の大昌工業と組んで自動車業界向けの作業請負会社フルキャストセントラルを設立した。フルキャストは元々工場ライン請負の専門会社フルキャストファクトリーを持っているが、世界のトヨタと組んで、自動車専門の会社をつくったことで、よりニーズに合ったサービスが提供できる。
 
 ラインの請負は軽作業に比べて高い技術、知識が要求されるため研修期間が必要だが、技術を取得すれば安定的に仕事が得られる。
 
 一方、自動車メーカーにとっても、仕事量に合わせて、三カ月三十人といった単位で人員の調整ができるのは魅力だ。コスト削減になるうえ、期間工を自社採用するより、機動的に活用できるからだ。
 
 フルキャストセントラルのスタッフは国際語ともなった「カンバン」が下がる工場で車体製造作業の流れや工具の使い方などの技能研修をしっかりと受けてから現場に入る。フルキャストにとっては世界のトヨタから、その超一流のノウハウを取得できるのも大きい。この事業が成功すれば、他のトヨタ系製造会社への顧客開拓につながる可能性もある。利益率も他の構内請負事業より高く、同社の稼動は今期の成長の原動力となりそうだ。
 



■  全国100拠点体制で営業を強化


 主力である倉庫内作業も営業体制の大幅な変更を行った。これまでは全国五十五カ所の拠点で、それぞれが営業活動とスタッフの採用活動を行ってきたが、営業を本社営業部に一元化、各地の拠点は採用に特化することにした。そのうえで全国に「フィールド支店」と呼ばれる大口顧客密着型の営業専門拠点をつくった。同支店には業務企画を行う「フィールドコーディネーター」と業務管理を行う「フィールドマネージャー」をおき、作業の請け負いのみならず、業務の効率化を提案・推進しながら、労務管理を行う。従来、顧客企業の社員やパートが行っていた仕事も新規に担うことで短期受注だけでなく、百人半年契約規模の大口受注を安定的に得られる体制を整える戦略だ。

 二〇〇二年六月には携帯電話の組み立て、筐体塗装、検品を約二百五十人の登録スタッフで請け負う「フィールド町田支店」(現フィールド鴨居支店)を開設。同七月には通信機器製造、自動車関連部品製造、流通加工など三社からの作業を約二百名の登録スタッフで請け負う「フィールド掛川支店」を開設。同八月には東京湾岸の物流センター向けの拠点として、約二百名の登録スタッフが入出荷、梱包、検品などの作業を請け負う「フィールド品川支店」を開設した。
 
 こうしたフィールド支店を全国に展開するとともに従来型の支店も拡充し、二〇〇三年中には全国百拠点体制にする。



■テクニカル事業の戦略


 テクニカル事業の強化策としては、二〇〇二年十月にフルキャストウィズとフルキャストシステムコンサルティングを合併し、フルキャストテクノロジーを設立した。フルキャストウィズは半導体業界向けに技術系の請負、人材派遣を行ってきた。フルキャストシステムコンサルティングはIT技術を基盤にシステムの開発・運用から経営コンサルティングを行ってきた。この二社を一つにまとめたことによって、顧客企業に技術者を派遣、業務を請負いながら、課題解決のためのコンサルティングをし、必要であればそのためのシステムまで開発できる体制ができた。

 つまりフルキャストテクノロジーは顧客企業に経営にまで踏み込んだ戦略提案ができる技術系人材サービス会社なのだ。逆に言えば、技術者の派遣や業務の請負もできるITコンサルティング会社でもある。たとえば装置の構想からシステムまでを設計開発して、それをメンテナンス、活用する技術者も派遣するといった一貫サービスができる。顧客企業にとっては頼もしい体制である。まずは営業基盤がある半導体業界で事業展開を図る。半導体業界の世界的な市場規模は三十兆円とも言われているため、中長期的には中国を中心にアジア圏への進出も視野に入れている。



■ ホテル・飲食業へも進出

開発、製造、物流の次はサービス業だ。二〇〇二年十二月、「北前そば高田屋」などを展開する外食チェーンのタスコシステムと業務提携。フルキャストがタスコのFC(フランチャイズチェーン)に加盟して出店。店舗に併設した施設でスタッフを研修し、タスコの直営店やFC店に派遣するビジネスを始めた。(第2部を参照)
 
 同十二月二十五日にはホテルのバックヤード、厨房関連業務請負業を展開するセントラルサービスシステムとの業務提携を決定した。フルキャストの登録スタッフはセントラルサービスの社員によるホテル業務の研修を受けたうえでホテルに送り込まれる。
 
 フルキャストはこれらを「ホテル・飲食系事業」として、今後大きな柱になる新事業と位置づけている。



■人材派遣・請負会社の覇権争いが激化

これらの展開でフルキャストは二〇〇四年九月期のグループ売上高五百億円をめざす。二〇〇二年九月の連結業績は売上高二百六十三億円、経常利益十四億八千万円と、売上高は伸びたものの下方修正となった。深まる不況のなかで、競合業者の新規参入が相次ぎ、価格競争が激化したためだ。
 
 この競争に勝ち抜くために上記のような価格競争に巻き込まれない戦略を進めてきた。しかし、ライバルも黙ってはいない。厚生労働省は人材分野の規制緩和を進めており、その一環として製造業への人材派遣が解禁される見込みだ。このためインテリジェンス、アデコキャリアスタッフ、マンパワー・ジャパンといった人材派遣を主力とする企業も工場への進出を狙っている。
 
 人材派遣各社が軽作業請負の子会社を設立する動きも急である。マンパワー・ジャパンは二〇〇二年一月、専門子会社スキルパートナーを設立。インテリジェンスは同五月、自動車ライン請負業に進出している。パソナは同七月、インダストリアル・アウトソーシングを設立。アデコキャリアスタッフはレイバーソリューション事業部を、テンプスタッフは子会社テンプロスを設立している。
 
 人材派遣と業務請負の違いは、前者がホワイトカラーの人材を送り出すというニュアンスが強いのに対し、後者は業務そのものをブルーカラーによって請け負うというニュアンスが強い。歴史的な背景は各社異なるが、今後は両者入れ乱れての競争が激化することは必至である。



■好敵手グッドウィル・グループ

人材サービス業界は成長産業である。長引く不況で企業は人件費を固定費から変動費へ変えようとしているからだ。その意味では景気の変動は人材サービス業界にとって追い風なのだ。日本企業の雇用形態も欧米化しているが、派遣社員の割合はまだ欧米のほうがはるかに高い。それだけに業界各社は拡大指向を強めている。
 
 フルキャストとしても安穏としていられない。出遅れることは敗北を意味する。平野がとりわけ強力なライバルとして意識しているのは折口雅博率いるグッドウィル・グループだ。同社は九五年に軽作業請負会社として創業。介護関連の子会社コムスンの成長もあって、連結ではフルキャストを上回る急成長をしている。平野と折口は同い年。ともにYEO(世界青年起業家機構)ジャパンの会長を務めたこともあり、新世代のベンチャー企業家として注目されてきた。
 
 タイプ的には「ビジネスマシン」の折口、「ビジネス野性派」の平野といったところか。ともに事業欲が強く、幼少の頃の貧乏が起業の動機となった。より人間くさくて近づきやすいのは平野である。

 「彼だけには負けたくない」という思いが平野を駆り立てる。折口も当然、同じ思いを抱いているだろう。

 「負けてもいいなんていう人間だったら、お互いにここまで伸びていませんよ」と平野。
 
 よいライバルを持てたことは、互いにとって幸運と言える。



■少年時の不遇を成功のバネに転換

平野は一九六一年、横浜市で生まれた。母親が洋裁店を経営、いつも四、五人の縫い子さんがいたのでちやほやされ、幼少期は男の子と遊ぶとよく泣かされた。
 
 小学校に入学した時に新入生代表の挨拶をした。足が速いことで注目された。三年生の時に長崎屋の店舗開発部長をしていた父が亡くなった。当時はその深刻さがわからず「(死んだのが)お母さんでなくてよかった」と思った。母は店を閉めて田舎に引っ込み、親戚の工場に働きに出ることになった。平野と弟を食べさせるだけで精一杯であり、欲しい物は何も買えなかった。ささやかな贅沢といえば母が帰りがけに買ってくるプリンやヨーグルト。それも二つしか買ってこない。平野が食べていると「お兄ちゃんちょっと食べさせて」と取られる。嫌だなあ、丸々一個食べたいなあ、といつも思っていた。自転車、コンポ、欲しい物はいっぱいあったが買えるはずもなかった。
 
 何かあると、「しょうがないね。平野君のうち片親だから」と言われる。それを知られるのも、同情されるのも嫌だった。小学生のとき健康手帳に両親の名前を書く欄があり、身体検査の時にはそのページを開けて出すのだが、出すと父親がいないことがばれてしまうのが嫌で「自分で書きます」と言って書いた。
 
 小学校では学級委員長を、中学校では陸上部で活躍し、生徒会長までやった。自己顕示欲は当時からあった。高校ではツッパリのまねをした。とにかく、どんなことをしてでも成功したい、金持ちになりたいと思った。「将来は大成功するか、牢屋に入っているかどっちかだね」と言われたことがある。まっとうでない方向に行ってしまう可能性も、若いうちはたくさんあった。平野がそこに陥らなかったのは、母親が真面目に生きて女手一つで二人の子供を育てた姿を見てきたからだ。
 
 人生の岐路では誰も相談する人がいなかったから自分で考え、自分で行動した。一時、プロゴルファーになることも夢見たが、事業家への道を選んだ。
 
 フルキャストが破竹の勢いで成長したのも「なんとしてでも成功してやる」という平野の執念があったからだ。創業時の営業がそれを物語っている。ダイレクトメールを送ったが反応がない。見てもらえないからだと思った平野は、今度はそれを相手の郵便受けの入り口に貼り付けてきた。苦情の電話が来ると、謝罪に伺うという口実で先方に面談し、仕事をもらってきた。支店が三つほどしかない時期に、全国どこの仕事でも請負うと宣言し、とんでもない田舎から仕事を受け、地元の業者に頼み込んで何とかしたこともある。

 「人が一番伸びる感情は悔しさだと思う」と平野は言う。片親で貧乏だった少年時代の悔しさ。見返してやろう、という気持ちが原動力になった。しかし、金持ちになりたいという当初の動機が変化していなければ、今のフルキャストはなかった。

 「一緒にやってきた仲間、そして社員全員がうちの会社に入ってよかったと思えるようになりたい」と思うようになったから、ここまできた。

 「創業時は百億円をめざせと言っていた。で、それを達成したら今度は五百億円と言う。付いてくるほうは大変ですよね。私はたぶん、人一倍強欲なんでしょう」と平野は笑う。



■さらなる躍進を期待する

フルキャストの課題は何か。一つは、若者の減少にどう対処するかである。フルキャストは「若者応援企業」として、若者の心をつかむ戦略をとっている。二〇〇〇年六月にフルキャストスポーツを設立。サッカーの日本代表選手としてワールドカップに出場したゴールキーパーの楢﨑正剛ら、人気Jリーガーのエージェント事業を行っているのもそこに狙いがある。
 
 登録スタッフにアンケートをとり、若者の意識調査を精力的に行い、マスコミなどに発信しているのも「若者応援企業」ゆえだ。この一月には『若者のエネルギー(元気のもと)観』の調査結果を発表している。若者を知り、若者の代弁者になり「この会社で働きたい」と思われることを狙っている。平野自身、新聞などで若者に対するメッセージや社会に対する提言を積極的に行っている。
 
 スタッフのモチベーションを高めるためには毎年、社員総会で優秀スタッフの表彰を行っている。平野をはじめとする役員、社員がみな若いから、会場は若々しい雰囲気でみなぎっている。この若さをどこまで維持できるか。「若者応援企業」のコンセプトの成否はそこにかかっている。そのためには大企業病に陥らないことが大切。これが二つ目の課題である。

 「フルキャストイズムとは自由闊達な社風。自らが自分で考えて動き、成果も出していく。何事も前向きにとらえて、チャレンジスピリットを持って仕事に取り組むこと」と平野は言っている。
 
 しかし、会社が大きくなり、二〇〇一年六月に上場企業になった。その過程で、このイズムが薄れつつあると感じている。

 上場企業として内部体制を強化することが求められ、そのためにトップが一歩引くことも必要だった。決められたことを正確に遂行することと野性的なたくましさを両立させるのは難しい。

 『自分の考えが、ちゃんと下まで伝わっているのだろうか……』
 
 渋谷本社角部屋の社長室に一人座っていると、焦燥感に襲われることがある。
 
 「今度、引越すときは、社長室をガラス張りにしようと思う。あるいは大部屋に机を置いてもいい。多分、大反対されるでしょうが。みんなの前面に出て真剣勝負。やるならやってやろうじゃないかと……」と平野は胸中をもらす。
 
 平野は元々器用なタイプで、仕事も遊びも何でもうまくやる。組織のリーダーとしても、自然体で概ねうまくやっている。しかし、まだ四十一歳。エネルギーはあり余っているはずで、祭り上げられる年齢ではない。
 
 自らが特攻隊長になって突き進んでもいいのではないか。大企業化するのはまだ早すぎる。世界一をめざす前に、まずはグッドウィル・グループ、そして大手人材派遣各社を打ち破らねばならない。それを実現し、日本を代表するベンチャー経営者になれるかどうかは、平野自身がどこまで成長し、器を大きくできるかにかかっている。



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