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トピックス -企業家倶楽部

2000年12月27日

【アスクル特集】新時代のセブン-イレブンをめざす/アスクルの21世紀戦略

企業家倶楽部2001年1/2月号 特集第1部


文具メーカー、プラスの新規事業部として九二年に誕生したアスクル。中小事業所にオフィス関連用品を翌日届けるサービスが受けて、毎年売上高倍増の急成長を遂げ、一気に公開企業となった。インターネット取引も急拡大中で、今や年間百億円、わが国最大規模のeコマース(電子商取引)サイトとなっている。社長の岩田彰一郎は「お客様のために進化する」を経営理念に掲げ、「あと五年ですべての決着がつく」と断言。「オフィスのトータルサポート企業」へと進化のピッチをさらに上げている。しかし、それは通過点に過ぎない。岩田の頭の中にあるのは新時代のセブン-イレブンになることだ。(文中敬称略)

 



■初値6000円で店頭公開

二〇〇〇年十一月二十一日、午後二時四十分、東京・日本橋茅場町の東京証券会館二階に現れた岩田彰一郎は、さすがに緊張している。『今日から、公開企業アスクルの第一歩が始まるのだ』という決意と気負いが全身にみなぎっていた。

 店頭株式上場の認証式会場には「鉛筆一本からちゃんと届ける」という思いが込められたアスクルのシンボルマークが大きく掲示され、左手には『初値 6,000円』の表示、そして『祝 店頭上場』の電光掲示が華やかさを演出している。

「うちでも使ってますよ」と日本証券業協会の役員。

「そうですか。きっと総務の女性にお使いいただいているんだと思います」と岩田。

「何でも翌日届くんですってね」

「ええ。うちは注文をいただいてから二十分後にはパッキングが終わっているんです」

「アスクルという社名は『明日来る』の意味なんですってね」

「そうなんです。お客様との約束を社名にしたんです。(朝七時から夜十一時まで開いていることを社名にした)セブン-イレブンと一緒です」と岩田。どんな瞬間の、どんな質問に対しても、アスクルの理念で答える岩田はまさに「ミスターアスクル」である。

 認証状の授与、記念楯の授与に続き、シャンパンで乾杯。常に自然体でにこやかな微笑みを絶やさない岩田だが、そのとき表情がわずかに変化した。胸にこみ上げるものがあった。至福の瞬間。愛おしむようにシャンパンを飲み干した。

 長年の夢が叶ったその日は、朝から身が引き締まる思いだった。岩田は東京文京区・音羽の本社に行くと、さっそくパソコンに向かった。

『アスクルは今日店頭公開します。新しい歴史が始まります。われわれは次の時代のエクセレントカンパニーになるのです。われわれはビジネスピープルとしての新しい形をつくるのです。だからプライドを持って、これからもよりよいビジネスをつくっていきましょう……』

 熱い思いを込めたメールを全社員に送った。その後、同じビルにあるプラス社長の今泉嘉久のところへ行った。

「いよいよ来たね」

 今泉はにこやかな笑顔で岩田を迎えた。

「責任の重さを感じます」

「でも志を共にする仲間がいっぱいいるから心強いだろう」

「これからも、もっといいビジネスをつくっていきたいです」

 プラスに入社したときは三十六歳だった岩田。五十歳になった今、その柔和な顔に精悍さが加わってきた。

『うちには俺より優秀な奴がいっぱいいるから安心だ。が、俺だって負けてはいないぞ』と、今泉は思った。

 アスクルはどこまで行くのか──。それはビジネスモデルを生み出し、資金を提供した今泉ですら予知できなくなっている。なぜならアスクルは絶えず自己変革していくことを意味する「進化」という翼を持っているからだ。



■文具からPCへ

「超」低価格でご提供する12.1インチ・ディスプレイモデルが9万円台!
 
  液晶15インチモニタのデスクトップPCがなんと13万円台!──

 刺激的なコピーが躍るそこはパソコン量販店ではない。ネット上のアスクルパソコンショップ『B2Bマート』のコピーだ。

 アスクルの進化は留まるところを知らない。取扱商品は一万一千アイテム。文具、飲料から始まってPC消耗品、PC周辺機器、ソフトウェア、冷蔵庫、電気消耗品、バケツ、金槌、トイレ芳香剤、キッチンペーパー、名刺、名入り封筒、印鑑、書籍と拡大し続け、ついにOAの本体であるパソコンと、そのシステム構築事業にも乗り出した。

 インターネット受注方式が急速に拡大しているアスクルでは、ネットだからできる新事業が続々と生まれた。その一つが値動きの激しいパソコン販売であり、新品PCオークションだ。いずれも市場価格でビジネスマシンを提供している。五年後のオークション関連での売上目標を一千億円と設定。この一年間で参加企業を約十五万事業所まで拡大する計画だ。

 もう一つのネット先端商品は書籍。二〇〇〇年八月に開店したオンライン書店「アスクルブックカフェ」で五十六万点の書籍・雑誌を扱う。オフィス用品などと一緒に注文すれば送料はかからないし、五千から一万点の売れ筋在庫品については即日配送というメリットがある。

 PCや書籍はモノだが、アスクルのサービスはモノを超えてコトへと拡大している。名刺や名入り封筒、名入りボールペンなどプリントサービスを付加した商品に始まって、現在はe-ソリューションサービスへと進化している。同サービスにはパソコン移設サービス、インターネット接続出張サービス、ネットワーク構築サービスがある。たとえばネットワーク構築サービスでは、「パソコン十台、プリンタ一台をネットワーク接続し、インターネットを利用できる環境で、ファイル共有、プリンタ共有できるようにセットアップしてほしい」といった要求に応える。

 この仕組みの優れたところは、客の要望が掲示板に掲載され、それに対して各メーカー、業者側が応札という形で提案を出すこと。客は居ながらにして最もよい提案を選択できるのだ。今あるサービスの中で最良のものを提示し、客が選択するという手法は、eコマース(電子商取引)ビジネスの先端を行くモデルである。

■ネット上の2000億円企業

今最も新しいアスクルの試みは中小企業にデータベースなどのシステムを提供するASP(アプリケーション・サービス・プロバイダー)事業であろう。

 アスクルが三四%出資し、ソフトバンク・イーコマース、インディゴと共同で設立したスマートファームは、二〇〇〇年十月からサービスを開始した。

 この会社は「自社のホームページを立ち上げたい」「経理をシステム化したい」「eビジネスを始めたい」といった要望に応える。中小企業のOA化・インターネット化はそもそも専門のシステム構築会社の仕事だが、その分野にも風穴を開けようとしているのだ。

 アスクルのネットによる売上高は九八年五月一億三千万円、九九年五月十四億三千万円、二〇〇〇年五月七十七億五千万円と急角度で伸びてきた。二〇〇〇年の五月度においては全売上高の二〇%を占めるまでになった。二〇〇三年から二〇〇四年にはネット比率が七〇%になる見通しだ。この頃アスクルの売上高が仮に三千億円になっていると仮定すると、ネット上の取引が二千億円を超える計算になる。おそらく金融を除けば、日本一取引高が高いインターネット・サイトになっているだろう。

 アスクルはこうした見通しの元に『オフィスデリバリーサービスのナンバーワン企業』から『オフィスのトータルビジネスサポート企業』へ進化していこうとしている。

■心臓部は問い合わせセンター

東京・文京区音羽のプラス本社ビル、四階にアスクルの心臓部はある。企業の心臓部といえば、社長室や役員室、経営企画室などをイメージするだろうが、そんな人は「えっ! ここが心臓部?」と思うだろう。四階にあるのは「お問い合わせセンター」なのだ。決して広くないフロアにオペレーターがぎっしりと並び、一日六千~一万件にも上る顧客の声に対応している。その数百二十人。ほとんどが二十代の女性契約社員。それを統括するのも若い女性社員だ。若い女性が生き生きと活躍している様子が目立つ。

 従来のピラミッド型組織をひっくり返すとアスクルになる。アスクルに偉い人はいない。社長の岩田も雑踏の一角、西日が当たる窓際に机を置いている。アスクルで一番偉いのは「お客様」である。アスクルは経営理念の会社だ。「お客様のために進化する」──。この理念を万難を排して遂行してきたところに、アスクルの今日がある。この理念の最大の信奉者・伝道者が岩田なのだ。

 アスクルが成長した最大要因の一つはメーカーの子会社であるにも関わらず、価格をドラスチックに下げたことにあるが、岩田に言わせればそれすら「値段を下げれば売り上げが上がるだろうという発想ではなく、たくさんのお客様から値段を下げてくれという要望があったから下げたのです」となる。

 こちらの事情、思惑を徹底的に排し、とにかく客の声を聞く。そこからニーズを汲み取り、誠実に応えていけば結果がついてくる。余計なことは考えなくていい。経営理念を実行し続けることが究極の戦略になる。だからこそ、お問い合わせセンターが心臓部なのだ。

「お客様はだれ?」から始まった

 九〇年、プラス社内で「二十一世紀はどんな時代になるか」をテーマに語り合う「青空(ブルースカイ)委員会」が始まった。社長の今泉を座長に、慶応大学の井関利明教授(現千葉商科大学教授)らの識者を招いて、約二年間議論を重ねた。

「お客様はだれ?」という議論の中で、本当の客は問屋でも小売店でもなく、中小の事務所で事務をしたり、お茶を入れたりしている女性が圧倒的に多いのではないか。ならば、その人たちのニーズを明確にして、その人たちの喜ぶサービスを提供すればいい。この認識からアスクルのビジネスモデルが生まれ、九二年、社内の一角から実験的サービスが始まった。

 一番最初に注文のFAXが流れてきたとき、岩田は手を合わせた。顧客第一号は岩田の友人の事務所だった。客=友人という認識が強かった。しかし、元々開発者だった岩田は客の声よりも、いいものをつくれば売れるという思いの方が強かった。

 直接、消費者の所に商品を運ぶアスクル商法の発案の裏にはこんな事情があった。プラスはよい文具をつくっているのに売れない。それは理不尽だと思っていた。弁当箱に文具をセット詰めしたようなアイデア商品は売れるが、定番商品をつくった途端に売れない。アイデアの自転車操業から抜け出そうと、気合いを込めてつくった定番商品、マーケティングの結果も上々だった自信作が全然売れなかった。「なぜだ」割り切れない思いで文具店を回ってみて、岩田は愕然とした。文具店に置いていないのだ。文具店に並んでいるのはコクヨの商品ばかり。コクヨが全国の文具店を組織化し、リベートの仕組みを活用して、流通を支配していたため、プラスの定番商品は入る隙間がなかった。せっかくいい商品をつくっているのに、客の目に触れることもなく負けてしまうのは開発者として死んでも死にきれない、と思った。

 このままではプラスは生き残れないのではないかという危機感もあり、アスクルを始めた当初は直販でプラス製品をうんと売ろうと思っていた。五百品目のカタログにはプラスの文具しか載っていなかった。

「いつも使っているキングジムのGファイルが欲しいのですが」と客が言ってきたときには、「プラスでも同じパイプ式ファイルを扱っております。アーバンカラーでとてもよい商品ですので、こちらを使ってみてはどうでしょうか」と説得し、プラス製品の拡販に努めた。電話口では説得は効いたように思われた。ところが、後でデータを見てみると、恐ろしいことがわかった。自分が説得したはずの客はリピート客にならず、どんどん離れていたのである。

 こちらの都合を押しつけてもダメなのだ。客が欲しいものを安く、早く提供する。当たり前のことを追求していくと、その答えが手に取るように返ってきた。感動した。

 以来「お客様のために進化するアスクル」を標榜し、驚異的な成長を遂げた。しかし、岩田はアスクルの可能性がこの程度のものとは思っていない。二〇〇五年五千億円。その先には兆円というレベルのエクセレントカンパニーになるという壮大な目標がある。

■ 続々と登場するライバル

ここにきて王者コクヨが重い腰を上げた。中小事業者や個人事業者を対象にしたオフィス用品の通販会社カウネットを設立、二〇〇一年一月からサービスを開始する。

 全国の既存流通網をがっちりと築いてきたコクヨにとって、通販はタブーだった。にもかかわらずカウネットを設立したのは、もはや事態が並々ならぬ状況にあることを示している。コクヨの看板を掲げた街の文具店は相当な打撃を受けた。撤退した店も少なくない。「このままではじり貧だ」という危機感がコクヨの首脳部を動かした。それだけに決死の覚悟で「打倒アスクル」を図る。カウネットは初年度七十五億円(二〇〇一年九月期)、二年目四百五十億円(二〇〇二年九月期)という強気の目標を掲げている。アスクルが八年かかって達したレベルに、わずか二年で追いつこうというのだ。

 強敵はまだまだいる。今後は文具という枠を超えたネット企業がライバルとして台頭してくるだろう。

 たとえば二〇〇〇年十一月に華々しく事業説明会を開催した日本アリバ。米国のB2Bプラットフォームナンバーワンの仕組みを、ソフトバンクが日本に持ち込んだ。この企業の説明会には三千人も集まった。アリバのシステムを利用すれば、たとえばA商品を買いたいという条件を出すと、あらゆる企業から応札が返ってくる。客はそこからナンバーワンを選択すればいい、ということになる。まだ未知数の事業だが、アスクルのライバルになりそうな気配が濃厚にある。

 ヤフーや楽天といったネット企業もライバルになる可能性がある。現在は大企業、中小企業、個人というように客先によって棲み分けができているが、そうした垣根がいつまで有効かは疑問である。ネット取引に関する限り、相手が企業だろうが個人だろうが関係ないのである。

 強力なライバルは岩田の身内にもいる。プラスグループには「大手企業向けアスクル」といえるビズネットがある。九七年九月にプラス社内で事業を開始し、二〇〇〇年五月に独立会社となったばかりだが、売上高は早くも七一億円。アスクル以上に早い立ち上がりを見せている。

 さらにプラスは二〇〇〇年十一月二十七日、「新しい形態のオフィス・マーケット問屋」ジョインテックス(JOINTEX)の設立記者会見を行った。新会社はプラス支店・販社が中心になり、大手文具卸六社と共同で、アスクルモデルに酷似した新事業を始める。アスクルと違うのは、既存の店舗や販売員を生かし、通販で対応しきれない需要を取り込むこと。三十万アイテムをオフィスに提供する仕組みを整え、二〇〇三年度千八百億円の売り上げをめざす。

「現場でアスクルと競合するのではないか」という記者の質問に対して、プラス社長の今泉は次のように応えた。

「それはあるでしょう。しかし、事務機器を含めたオフィス市場は七、八兆円あることを考えれば、アスクルやビズネットではせいぜい三〇%ほどしか網羅できないと思います。同じ店舗でもコンビニ、スーパー、百貨店という違いがあるように棲み分けできると考えています」

 プラスグループによるコクヨ包囲網が着々と進行している、と見る記者もいた。それよりもプラスの今泉にしてみれば、アスクルが大成功したからといって、それだけに安住しているつもりはない、というところだろう。アスクルのビジネスモデルを、あらゆる分野で展開していこうと考えているのだ。

■新時代のセブン-イレブンになる

アスクルのサービスの根幹は「早い・安い・便利」という言葉に集約される。すべて顧客が喜ぶこと。顧客のために、自らの仕組みを変え、進化し続けた結果、支持されているのだ。

 創業三年目の頃、プラス製品以外の文具を扱ったとき、営業の現場から「現場でしのぎを削っているわれわれに塩を送るのか」と激怒された。ディスカウント価格にしたときは、「メーカーの子会社が安売りするとは何ごとか」と業界団体から猛反発を受けた。「地下鉄に乗るときは、ホームの端を歩くなよ」とまで言われた。それでもやった。

「お客様のために進化する」という経営理念には凄みがある。この理念は絶え間ないイノベーションを要求する。自己都合は端に追いやられ、大手を振って歩く客のわががまともとれる要望に対して血と汗を流す。

「お客様」を連呼する岩田はまさに「お客様教」の教祖。そんな岩田率いるアスクルは中小事業所相手のビジネスから、その背後にいる個人にまでターゲットを広げるだろう。百二十万件の登録事業所に一件平均十人の個人がいるとすれば、千二百万人のユーザーを持っている計算になる。これらの人が家庭からインターネットで注文することが既に可能になっている。商品・サービスの種類と共に守備範囲もさらに広がっていく。アスクルは二十一世紀初頭には、三千万人規模のユーザーを獲得しているだろう。

 そのときアスクルはどうなっているか。岩田の頭の中にあるのはスバリ、公開の時口にしたあの社名だ。

 セブン-イレブン──。時間を約束する。便利さ。データ主義。顧客指向。絶えまない変化……。といった点で、アスクルとセブン-イレブンは似ている。

 新時代の店舗を持たないセブン-イレブンこそ、岩田のイメージする二十一世紀のエクセレントカンパニーだ。

 イトーヨーカ堂から生まれて、イトーヨーカ堂を超えたセブン-イレブンは、プラスから生まれてプラスを超えようとしているアスクルに、見事に重なるではないか。われわれは今、新時代のビジネスが胎動している現場を見ている。歴史的な現場に立ち会っているのかもしれない。

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