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1996年08月27日

【ジャストシステム特集】インターネットで再対決/ジャストシステムの21世紀戦略

企業家倶楽部1996年9月号 特集第1部


ジャストシステム社長の浮川和宣がひそかに意識するライバルは米マイクロソフト会長のビル・ゲイツであろう。もちろん、パソコンソフトで世界を支配したビル・ゲイツとの現在の差を考えれば、本人の口からははっきりと明らかにできるものではない。しかし、インターネットの急浮上によってバラダイムががらりと変わる。その激変の隙間がジャストシステムにとってスパートのチャンスである。


 ジャストシステムが二十一世紀の初頭に生き残るためには、一つの壁を乗り越えなければならない。その壁は、「マイクロソフト」という世界のパソコン業界のガリバー企業である。また、ジャストシステムの浮川和宣にとっては、その壁はマイクロソフトの総帥である「ビル・ゲイツ」そのものである。巨大な壁に風穴はないのか。どうやら突破口は見えてきた。キーを握るのはインターネットである。浮川は、爆発的に普及するインターネットの中に「ビル・ゲイツ打倒」の可能性を見いだしたようだ。



■決め手になるかJava

 七月下旬、ジャストシステムは同社の二十一世紀戦略を明確にする、重大な発表を行った。ジャストシステム、日本電気など八社が中心になる「Java推進協議会」の設立である。一般のビジネスマンには馴染みにくいが、「Java(ジャバと呼ぶ)」はインターネット上で飛び回り、これまでのパソコンの使い方を根本から変えて、大きな革命を引き起こすと考えられている技術である。この技術を日本国内で早急に普及するように、その周辺技術を整備するのがこの協議会の目的である。

 幹事会社としての参加メンバーは、日本電気のほか富士通、東芝、日立製作所、電通国際情報サービス、日本オラクル、ノベル(日本法人)と国内・海外のそうそうたる企業だが、この中にジャストシステムが交じるには理由がある。この協議会の仕掛人はジャストシステムだ。いや浮川和宣その人だからである。誘われて加入したのではない。仕掛けて同志を集めたと言える。特別会員には日本サン・マイクロシステムズが名を連ねる。

 このJavaの普及が、浮川がマイクロソフトと対抗するための決め手になる武器である。場合によってはパソコン業界でのマイクロソフトの圧倒的な市場支配を根本から転覆することができるかもしれない。日本市場だけでなく、世界市場での話である。



■天下分け目のパソコン業界

 もちろん、Javaは、ジャストシステムにとってだけ重大な意味を持つわけではない。いまコンピューター業界の「天下分け目」の決戦の場となりつつあるキー技術である。

 だれとだれが天下を分けるのか。 一方は、マイクロソフトの陣営である。ウィンドウズを軸にパソコンOS(基本ソフト)で圧倒的に市場を支配し、さらにその帝国の支配圏を拡大しようというマイクロソフトと、製品開発や供給面で強い提携関係にあるインテル、コンパックなどがこの陣営に属する。パソコン各分野のトップグループの同盟軍である。マイクロソフトの主力商品である「ウィンドウズ」とパソコンの心臓部を占めるMPU(マイクロ・プロセシング・ユニット)で市場を制圧した「インテル」の社名を合成して「ウインテル陣営」などとも呼ばれる。

 これに対抗するのは、どこが主導権を握っているとも言えないコンピューター業界のゆるい連合軍である。ワークステーション大手のサン・マイクロシステムズ、データベースソフト大手のオラクル、パソコンソフト大手のノベル、パソコン分野で激しくマイクロソフトと競合するIBMやアップルなどがこの陣営に属する。一括すれば「反マイクロソフト」のコンピューター会社の連合軍である。

 ジャストシステムはこの反マイクロソフトの連合軍に参加したということである。この意味はきわめて大きいものがある。

 サン・マイクロシステムズを率いる会長のスコット・マクネリーやオラクル会長のラリー・エリソンはともにマイクロソフトのビル・ゲイツと犬猿の仲である。いずれもコンピューター産業の新しいメッカ、米国西海岸に本拠を置き、コンピューター産業の新興勢力の盟主の座を争うライバルとしての意識が強い。

 特にスコット・マクネリーはハーバード大学でビル・ゲイツ(ハーバード大学中退)のやや先輩に当たり、年代も近いことからライバル意識がことさら強い。互いに「ビル・ゲイツはもはや死んだも同然だ」、あるいは「スコット・マクネリーの息の根は止まった」などと事あるごとに悪口を言い合っている。この二人がいまやジャストシステムの浮川和宣にとっては盟友になった。逆に、この二人にとっても、日本市場でマイクロソフトを迎え撃ち、孤軍奮闘する浮川は頼もしい友邦である。



■目立つMSとの競合

 ジャストシステムがマイクロソフトに激しい競争心を燃やすのはここにきて競合が本格化してきたからだ。パソコン用の日本語ワープロソフト「一太郎」によって国内で唯一、ビジネス用パソコンソフト企業として成長してきた。しかし、マイクロソフトはOSでの市場支配を終えると次に応用ソフトの分野にも乗り出してきた。

 ジャストシステムの牙城である日本語ワープロソフトでも、「マイクロソフト・ワード(日本語版)」を投入して、日本市場でのシェアを拡大しつつある。マイクロソフトの戦略は「エクセル」などのマイクロソフトの他のオフィス用ソフトとの連携である。「エクセル」などを使う際には「マイクロソフト・ワード」を一緒に使うほうが簡単なため、「一太郎」のユーザーも「ワード」へと乗り換えるケースが出ている。

 これに対してジャストシステムの側の反撃の余地はこれまでのパソコン市場の中ではなかなか見つけられない。攻撃は最大の防御である。最も考えられる反撃は、マイクロソフトの本拠の米国市場に進出し、「一太郎」で「ワード」を攻めることだ。残念ながらこの戦略は日本語を基礎にソフトを展開するジャストシステムには無理だ。

 かつて海外の企業から日本市場を守る「一太郎」の最大の強みは日本語ソフトだということだった。しかし、その特色は時間とともに打ち破られている。問題は、逆に、海外に進出しようという時には、日本語は不利な材料になることである。ジャストシステムが海外進出で「一太郎」を軸にする限り、マイクロソフトへの反攻は日本語が国際的に異端児であるという限界にぶつかる。これまでの「一太郎」だけでは限界がある。



■インターネットとJava 反撃の有力武器に急浮上

 そこへ、インターネットとJavaが登場した。Javaのコンセプトの発表は九五年夏。その製品が姿を現したのは九六年春だから、まだ、歴史と言える歴史はない。にもかかわらず、コンピューター業界にとっては歴史を根本から引っ繰り返すような大騒動が始まっている。なぜなら、Javaによってウィンドウズがコンピューター市場から蒸発(!)するかもしれないからだ。ジャストシステムにとっては絶好のチャンス到来である。

 ジャストシステムにとって幸いなのは、マイクロソフトがインターネット戦略を見誤って出遅れたことだ。

 マイクロソフトは昨年「ウィンドウズ95」を発売する時に、同時にパソコン通信ネットワーク「マイクロソフトネットワーク(MSN)」のサービスを始めた。MSNではインターネットへのアクセスも同ネットワークを通じて行う仕組みである。ビル・ゲイツはどうやら、この方法でインターネット全体を自社のネットワークに吸収できると思っていたフシがある。



■MS、インターネットで出遅れ

 しかし、すでに米国の新興ベンチャー企業、ネットスケープ・コミュニケーションズなどが世界中のインターネットユーザーに供給してしまった「ネットスケープ・ナビゲーター」が、このマイクロソフトの楽観的見通しを打ち破った。「ネットスケープ・ナビゲーター」はインターネット内のホームページを閲覧するブラウザーソフトの草分けの一つである。インターネットの爆発的な普及もこのブラウザーによってパソコンで簡単に世界中のコンピューターを呼び出すことができるようになったからである。

 ウィンドウズ95の出荷が始まって一時期、ユーザーはそれ以前から使って来たネットスケープ・ナビゲーターにトラブルが生じるのを経験した。マイクロソフトはソフトウエアのミスがあったと説明しているが、ユーザーはマイクロソフトが意図的に細工をしたのではないか、と疑っている。ユーザーがネットスケープを使うのに嫌気がさし、マイクロソフトが新たに開発してウィンドウズ95に組み込んだブラウザー「インターネット・エクスプローラー」に乗り換えるのを狙った、と推測する向きも少なくない。

 ネットスケープ撃墜作戦だ。今回のケースはともかく、これまでも米国のベンチャーがライバルをたたくのにしばしば使われた常套手段である。

 ところが、ネットスケープとの闘いはマイクロソフトに対して厳しいものだった。マイクロソフトが巨費を投じて行ったウィンドウズ95とMSNの大宣伝作戦にもかかわらず、インターネットはMSNの中にはなかなか取りこめなかった。今年に入ってマイクロソフトはウィンドウズとインターネットを結び付ける新たなコンセプトを発表したが、これは、ビル・ゲイツがインターネットを甘く見て構築してきたこれまでの戦略を根本から見直したものと見られている。つまり、インターネットでマイクロソフトはつまずいた、と見る観測が広がっている。



■「部品ソフト」の秘密

 コンポーネント(部品)・ソフトウエアー。ジャストシステムがマイクロソフトへの反撃の切り札として準備している作戦の一つだ。Javaとも関係するが、コンポーネント・ソフトウエアは、ネットワークを使った新しいコンピューターのコンセプトである。「ネットワーク・コンピューティング」とも呼ばれる考え方のキーになる重要な要素である。これまでの主流である複雑で膨大になったパソコンの基本ソフトはパソコン本体の記憶装置や演算処理装置などの資源を大量に使用する。しかも、そのほとんどの機能は実際には使われないにもかかわらず、使うことがあるかもしれないという想定で、ムダに準備されている。

 これに対し、ソフト機能を部品(コンポーネント)のように小分けして、ネットワークのあちこちに準備して置き、必要が生じたときだけ、ネットワークからコンピューターに移して利用する新しい考え方がコンポーネント・ソフトウエアの考え方である。これができれば、マイクロソフトに対する決定的な対抗策が完成する。ウィンドウズ95というのは、膨大なソフトウエア機能を予め準備しておくタイプのソフトウエアである。コンポーネント・ソフトウエアが完成すると、このウィンドウズは行く行くは不要になる、という見方が有力なのである。

 これまでのウィンドウズの優位は膨大なソフトウエアを予め詰め込んであることにあったが、コンポーネント・ソフトウエアが完成すれば、これは逆に邪魔になる。ウィンドウズの優位はただちに不利に転ずる可能性が出てきた。

 ジャストシステムが九月十三日に発売する「一太郎7」は、まさしく、このコンポーネント・ソフトウエアの機能を取り込んだ全く新しいソフトウエアである。ウィンドウズを不要にする可能性を秘めている。しかし、新しいコンセプトである分だけ開発は難しい。ジャストシステムは当初の発売予定を次々に延期してきた。繰り延べて七月になった発売予定も再び延期されて九月にずれ込んだ。二十一世紀への生みの苦しみであるが、その向こうには、ウィンドウズへの究極の対抗策を確立する意気込みがうかがえる。



■ベールを脱いだネット戦略

 昨年春頃から、マスコミのインタビューで「ジャストシステムが一太郎を柱にパソコンソフトの事業を続ける限り、日本以外の市場を開拓することはできない」と指摘されると、浮川は、「世界市場に飛躍する秘策がある」と笑ってみせた。

 その秘策はネットワーク戦略だった。その戦略はいまや「ジャストネット」で開花している。インターネットのサブネットワークとしてサービスを開始した「ジャストネット」は利用者が市内電話で接続しやすいようにすでに全国約五十カ所にアクセスポイントを設置した。インターネットは世界のコンピューターネットワークを相互に接続して、文字・数値のデータ情報だけでなく映像や音声情報も極めて低料金で送受信できる仕組みである。

 マイクロソフトがウィンドウズ95とともにサービスを始めたマイクロソフトネットワーク(MSN)と全く同じ発想である。この点ではマイクロソフトに遅れをとることなく、ぴったり事業展開することに成功している。

 このネットワークの中では、クレジットカード会社と提携してオンラインショッピングのセンターが開設された。八月には、ジャストシステムの本拠がある徳島県の一大イベントである阿波踊りの模様が映像で世界に提供された。ネットワークの利用者が画面で読む電子小説も提供されている。インターネットの機能をフルに使いながらの新しいタイプのパソコンネットワークである。ネットワークはジャストシステムの次の時代の有力な収入源である。



■部品ソフトとネットの連携

 しかし、マイクロソフトのMSNとは違う意味がこのジャストネットにはある。マイクロソフトでは積極的に取り組めない試みが、ジャストネットでは意欲的に取り組める。

 このネットワークでのコンポーネント・ソフトウエアの試みである。ネットワークにアクセスした利用者は、必要に応じてジャストネットのサーバーに置いてあるコンポーネント・ソフトウエアを取り出して、その時々に利用すればよい。コンポーネント・ソフトウエアは特定の機能に専門化した小さなプログラムである。しかも絶えず改良を続けてソフトウエアの質は向上している。利用者は取り出したプログラムを後生大事に保存して置く必要はない。絶えず最新のものを使えるので、使い捨ててよいのである。

 未来型のネットワークコンピューティングの世界を実現する体制が整う。



■ジャストネットに利あり

 マイクロソフトのMSNに比べてジャストネットが有利なのは、「一太郎7」でジャストシステムは早くもコンポーネント・ソフトウエアの商品をリリースできるからである。その最大のメリットはマイクロソフトに振り回され続けてきたこれまでの「一太郎」の開発の苦労から脱出できる可能性があることだ。そして、マイクロソフト側がコンポーネント・ソフトウエアの思想を採用するのに躊躇している間に、差を広げることができる。

 これまでの「一太郎」はいつもマイクロソフトが発表するOSに合わせて開発して行かなければならなかった。パソコンの世界的な標準規格を決めるのは事実上、マイクロソフトだからである。世界のパソコンメーカーのほとんどはマイクロソフトのOSを採用するので、ジャストシステムも追随せざるを得ない。そのマイクロソフトが一方で「一太郎」の強敵である日本語ワープロソフトの「ワード」を投入している。

 「ワード」はマイクロソフトのOS情報を早くから知りながら開発できるのに対し、「一太郎」は、マイクロソフトがOS情報を開示する前に試行錯誤で商品開発する不安が消えない。長期的には形勢の不利は目に見えている。

 しかし、いまやネットワーク全体がOSの代わりにさまざまなソフトウエア機能を準備することが可能である。もしかすると、ネットワーク・コンピューティングは将来はウィンドウズそのものを無用の長物にするかもしれないのである。

 マイクロソフトがネットワーク・コンピューティングやコンポーネント・ソフトウエアの考えを素直に追求できないと思われているのは、それが折角築いてきた「ウィンドウズ」の世界と矛盾するからである。コンポーネント・ソフトウエアをうっかり強化すれば、ウィンドウズの寿命を縮めるかもしれない。マイクロソフトのMSNとジャストシステムのジャストネットでは、その意味するところがまるで違うのである。ジャストシステムにとってはこれまでのつらい過去から逃れることができ、マイクロソフトはこれまでの圧倒的に優越的なポジションを捨てなければならない。



■五百ドルコンピューターの衝撃

 さらに、マイクロソフトを苦しめるもう一つのプロジェクトが進行している。今年春にオラクル、IBM、アップルコンピュータ、サン・マイクロシステムズ、ネットスケープ・コミュニケーションズの五社が共通規格の策定を発表したネットワーク専用の五百ドルコンピューターである。早ければ今年のクリスマス商戦から市場に姿を現すと予想される。

 「反マイクロソフト」の観点から言えば、五百ドルコンピューターは「ウィンドウズを搭載しないパソコン」と言った方が分かりやすいだろう。ソフトウエアの機能はOSの中にではなくネットワークの中にコンポーネント・ソフトウエアとして準備されている。ビル・ゲイツのライバルである陣営が集まって格安のハードウエアを開発する共同戦線である。実は、あのJavaの連合軍と同じメンバーである。

 日本のパソコンメーカーは今のところ、海の向こうの戦争に対しては用心深い。マイクロソフトの同盟軍にも参加し、反マイクロソフトの連合軍にも顔を出している。その中で、ジャストシステムの旗は鮮明である。インターネット、Java、ネットワーク・コンピューティング、コンポーネント・ソフトウエア。ジャストネットの二十一世紀戦略はマイクロソフトを乗り越えるところから始まる。



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