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トピックス -企業家倶楽部

2011年08月27日

“不易流行”の経営哲学「守り」と「変革」の企業文化/スギホールディングスの強さの秘密

企業家倶楽部2011年10月号 スギホールディングス特集第2部


20代の新婚夫婦が開設した小さな薬局が35年の時を経て店舗数約800店、連結売上高3047億円の大手ドラッグストアに躍進した。2015年度には1500店舗、売上高5000億円を目指すという。スギホールディングスの成長力の源泉はどこにあるのか。その強さの秘密に迫る。 (文中敬称略)

 



■強さの秘密1   薬剤師としての使命感 不易流行”変えてはいけないもの

「今日は15年前の平成8年に作成した本年度基本方針を持ってきました」

 6月16日午前9時30分、スギホールディングス本社がある愛知県三河安城駅から車で30分ほどの場所にあるあいち健康の森プラザホールにて、月一回の頻度で開かれる店長会(中部地区)が始まった。会の冒頭で会長の杉浦広一が中部地区から集まった全店長、スーパーバイザー、エリアトレーナーら500人に向かって話し始める。

 「これは店舗数が18店舗、売上高は70億円だった頃のものです。1番目には欠品の防止と前出し(商品棚の手前側に出す作業)の実践と書かれています。2番目がクリンリネス。皆さん、常に店舗を綺麗に掃除していますか。3番目は……。これらの基本がスギホールディングスの原点であり、50年、100年先も変わりません。これからも守っていきましょう。それを支えていくのは皆さんの意識です。基本の徹底を宜しくお願いします」

 杉浦の座右の銘は、「不易流行」である。「いつまでも変わらないこと」と「時代に合わせて変化すること」を軸に経営判断をしてきた。この言葉は、スギホールディングスの企業理念にもなっている。

 創業から5年経った1981年、杉浦はアメリカへのドラッグストア視察で理想の薬局に出会う。その店は当時の日本の薬局とは違い、広くて明るい店舗。そして、調剤併設型のドラッグストアで全米ナンバーワンの規模を誇る「ウォルグリーン」であった。アメリカでは常に尊敬される職業に薬剤師がランクインするほど、ステイタスが高い。杉浦の追い求める薬局の姿がそこにあった。調剤併設型ドラッグストアは、薬剤師の採用から教育、調剤室への設備投資など、コストと時間がかかってしまう。

 しかし、薬剤師のカウンセリングを受け、処方箋調剤の受付もできる調剤併設型ドラッグストアこそ、単なる物売りではない、接客重視の真の“町のかかりつけ薬局”への挑戦である。高く険しいハードルだからこそ、実現できた暁には人々の信頼を勝ち得ることができる。杉浦夫妻の薬剤師としての使命感とスギホールディングスの気高い志が支持され、今日の姿がある。

 「目にヘルペスができた患者さんが来た時、薬を売るのではなく、お医者さんを紹介しました。実際にこの患者さんは失明寸前で、後に命の恩人と呼ばれ、薬剤師冥利に尽きる」と、副社長の昭子は何でも相談できる「かかりつけ薬局」の魅力をこう語る。

 目の前にいる一人ひとりのお客様を大切にする

 35 年前、周りは田んぼの田舎町にスギ薬局1号店はオープンした。名前も信用もない小さな薬局に客は来なかったが、患者のためを思い、朝の7時から夜の11時まで店を開けていた。杉浦は学生時代から描いていた「薬剤師として地域社会に貢献する」という夢の実現のためなら妻と二人、貧乏にも耐えられた。一日の来店客は多くても10人、日商は1万円がいいところだった。それでも年中無休で店を開け続けた。

 苦難の時は5年ほど続いたが、来店する患者の話をじっくり聞き、杉浦の調合する薬はよく効くと評判になり、いつしか杉浦は「先生」と呼ばれるようになる。患者一人に2時間から3時間かけることもしばしば。相談の内容は、健康の悩みや家族の話、人生相談の話し相手になることもあった。こうして近所の信頼を得て、レジ前には行列ができる繁盛店になり、多店舗展開の道が拓けた。現在のスギ薬局グループは、平均的な店舗で売り場面積が150坪?250坪に大型化し、日商は8億円を超える。株式上場で知名度も上がり、今やドラッグストア業界を代表するプレイヤーに成長した。

 杉浦は創業当時のお客の来ない頃の気持ちを今日でも忘れない。創業経営者だけが客の来ない店舗の寂しさ、世間に認知されていない孤独感、資金繰りの厳しさを知っている。それに打ち克つ、くじけないタフな精神力が試される。苦しい時間を経験したからこそ、店を育ててくれた一人ひとりのお客に対する感謝の気持ちも決して忘れることができない。お店を信じ、自分たちを信じて購入してくれたお客の前では、素直な気持ちで謙虚に成らざるを得ない。

 「目の前にいる一人ひとりのお客様を大切にする」

 創業35 年目を迎えた今も変わらぬ想いである。地域密着を掲げ、“町のかかりつけ薬局”を目指すという企業理念を貫いてきたのには、杉浦夫妻のこうした原体験があるからだ。“ローマは一日にして成らず”近隣に住む住人と少しずつ信頼関係を築きながら、今日まで成長してきたのだ。



■強さの秘密2  健康と美容 メーカー派遣ではない独自の美容部員BA

   店内を見回すと黒いスーツを着た若い女性の店員が目を引く。ここはJR名古屋駅のすぐ近くにあるスギ薬局名古屋駅前店。来店客数は1、2位を争う繁盛店のひとつである。駅前という立地の良さもあり、夜10時を過ぎても客足は途絶えない。帰宅途中のOLやサラリーマンが買い物をしている。20代から30代と思われる女性客らが壁側に陳列されている化粧品のテスターを手に取っている。この今ではスタンダードになっているセルフで化粧品を販売する壁面展開はスギ薬局が他社に先駆けて始めた販売方法である。若い女性向けのメイクアップ化粧品から、年配者向けのスキンケア化粧品まで8000アイテムを扱っており、品数の多さに驚く。

 「最近のOLさんは女性雑誌やネットをよく調べていて、新商品のこともよく知っていますね」(名古屋駅前店BA)、商品知識で負けないように勉強しているという。スギ薬局ではビューティアドバイザー(BA)の教育にも力を入れていて、等級制セミナーなど独自で開発した教育プログラムも充実している。メーカー派遣ではない、独自の美容部員を育てて配置し、メーカーに縛られることなく、お客様の肌質にあった化粧品をお勧めできるのが特長だ。

 スギホールディングスの中核をなすスギ薬局では、調剤併設型ドラッグストアを標榜し、処方箋調剤や医薬品のカウンセリング販売を行う他、化粧品のカウンセリングを行う美容部員を自社で教育している。創業より「美と健康」を掲げ、「身体が健康でなければ本当の美しさは生まれない」という発想から、化粧品だけでなく、体の内側から綺麗になっていただくようにコラーゲンなどの美容補助食品やサプリメントを紹介している。美と健康の分野は女性心理を的確に押さえた戦略で他社にない差別化を作り上げている。副社長の得意とする分野である。町のかかりつけ薬局を目指し、調剤併設型ドラッグストアをチェーン展開するという大きな経営判断を会長の杉浦が担当し、主に売り場作りや人材教育、CSRは副社長の昭子が受け持っている。自然と役割分担がなされ、お互いの強みを活かし、補完しあう「おしどり経営」の真骨頂と言える。現在では、ビューティケア関連商品が売上げの30%を占めている。

顧客第一主義

 「この通路に置いてある商品、お客様が歩くのに邪魔にならないかな」

 会長の杉浦が店舗視察に立ち寄ると気が付いたところを近くにいる薬剤師に気軽に声を掛ける。杉浦は年間の3分の1を掛けて、精力的に店舗視察に出かける。新店舗の案件は必ず視察するほど、現場・現物・現実を重要視する。

 「会長はいつもお客様の目線で店を見ているので、例えば車椅子などの歩行困難なお客様にも配慮が行き届く」と店舗スタッフは驚く。機会あるごとに接客が大切と話す杉浦だが、商品の価格が分かりやすく表示されているか、店内は歩きやすく、綺麗に掃除されているかなど、小売業の基本はお客様が何を求めているかを考えること、常に顧客目線で考え行動することが店長や薬剤師といった現場のスタッフに求められている。

 スギ薬局には、店長の他に1店舗2から3人の薬剤師、BAと呼ばれるビューティアドバイザーが1.5人、登録販売員が数名、さらにパートナーと呼ばれているパートタイムの主婦や学生のアルバイトが配置されている。それぞれの専門性を活かした接客をしているが、縄張り意識がないのがスギ薬局の企業文化である。薬剤師もBAも進んで品出し、レジへの誘導、受け持ち以外の商品説明を行う。

 「お客様とコミュニケーションをとるなど、調剤限定ではなく接客など総合的に仕事が出来るのがスギ薬局の魅力です。若い薬剤師のお手本となりたい」(京橋店薬剤師)



■強さの秘密3 ムリムダを省く「仕組み」 スギ薬局中部ロジスティクスセンター

   スギホールディングスの強さの秘密は、店舗での質の高い接客であることは前述の通りだ。創業当時から続く「目の前の一人ひとりのお客様を大切にする」という企業理念は変えることなく、先輩社員から新人社員へと受け継がれている。現場を預かる店長はスタッフがお客の立場に立ち、親身になって気持ちの良い接客が出来ているか、いつも気にかけている。

 「お客様と信頼関係を築くためには、社員やスタッフ間の信頼関係がなければ、成り立ちません。上司が指示を出すだけでは部下から信用されません。自ら実践し、背中を見せるように心掛けています。そうすると何でも話しやすい文化が生まれてきます」(京橋店店長)

 近隣の住民から愛される町のかかりつけ薬局を目指すスギホールディングスでは、店の雰囲気を何よりも大切にしている。そのために第一に心掛けているのが、接客の時間をできるだけ多く確保することである。欠品がないか確認したり、品出しする作業は効率よく済ませ、お客とのコミュニケーションが取れる接客やレジにどれだけ時間を割くことができるかが、店の善し悪しを決めるポイントとなる。当然、売上・利益にも反映される。

 現在、中部地区だけでも300店舗を超え、全国で800店舗近いチェーン展開をしているので、スタッフが効率よく店舗の業務を進めるためには、物流を含め「インフラ整備」の確立が重要となってきた。そこで、2005年7月、愛知県春日井市に中部地区の300店舗をカバーする物流センター「スギ薬局中部ロジスティクスセンター」(通称:SLC中部)を本格稼動させた。

 「この3月の東日本大震災のように予期しないことが起こっても、店舗に商品を届けられるように体制を整えています」とロジスティクス部長の弦巻弘は胸を張る。敷地面積は1万4500坪。巨大な物流センター内には、陸上の400メートルトラックが優に入る広さだ。常時400名のスタッフが働き、365日24時間稼動する、まさしく不夜城である。自家発電設備も備え、停電になっても稼動し続ける。欠品は許されない。

最新鋭のハイテクピッキングカート

 次々と大型のトラックが入庫し、メーカーからの品物を運び込む。同時に店舗ごとに納品する出荷作業が行われている。一見、巨大な倉庫だが、最新テクノロジーを駆使し、徹底的に無駄を排した生産性の高い物流センターである。

 一番の特長は、店舗の商品棚と同じレイアウトで物流センター内も商品が保管されており、店舗作業の無駄を省く工夫が施されている点だ。店舗に配送されるオリコン(折りたたみ式コンテナ)は運びやすい40リットルに統一され、商品棚が近い商品と一緒にピッキング(仕分け)される。このピッキング作業中に間違いが起こるわけだが、SLCでは、化粧品・日用品、一般用医薬品卸の最大手であるPaltacと組み、ハイテク機器を搭載した独自のピッキングカート、SPIEC(スピーク)を採用している。

 店舗は商品1個から発注できる。仕分けのミスはこのバラピッキングの際に起こりやすいが、スピークはカートに内蔵したディスプレイに無線LANを使って受注商品の個数と棚番号を表示する。スタッフはカートを棚番号まで押して行き、商品のJANコードをスキャナーで読み取り、正しければカートに詰まれたオリコンに入れる。その際に重量を計量し、間違いがなければ、緑色の表示がされ、次の商品に進むことができる。この基本さえ理解できれば、多くの商品を覚え、それがどこにあるのか覚える必要はない。ピッキングが終わったオリコンは店舗名、種別、商品カテゴリーが記載されたシールが貼られ、店舗ごとに並べられ、出荷を待つ。このようにスギホールディングスでは、各店舗での部分最適ではなく、多店舗展開での全体最適が図られている。

 例えば店長やスタッフが異動で別の店に配属されたとしても、同じカテゴリー別に詰められたオリコンが店舗に届くので、品出しで迷うことはない。また、ハサミやホッチキスといった備品の管理場所も机の何段目の引き出しに収納するか決まっており、配属されたその日から戦力として働くことが出来るように仕組み化されているのだ。



■強さの秘密4  スギイズムの結晶 想いを共有する同志

   古今東西、偉大な企業家というのは多くの人々と夢を共有し、仲間を増やすのに長けているものだ。杉浦はまず副社長の昭子を妻にし、薬剤師として地域医療に貢献するという志を立てた。愛すべきパートナーが常に隣で支えてくれたことにどれだけ勇気をもらったことだろうか。筆舌に尽くし難い。現在、スギ薬局社長を務める榊原栄一も1号店の時代から加わった同志である。近隣住民から必要とされ、何でも相談できる先生がいる「町のかかりつけ薬局」という原点の語り部の使命を担っている。

 「ウチで、あなたの夢を実現してみないか」

 スギホールディングスのグループ企業であるスギメディカル社長の荒井恵二は杉浦から誘いを受け、入社を決めた。

 “士は己を知る者のために死す”と言う。地域医療に貢献するという杉浦の理念に共感し、懐深く飛び込んでくる杉浦の人柄に惚れ込み入社を決めた社員は少なくない。

 「仕事を任せてくれそうな雰囲気を感じた」、スギ薬局副社長兼営業本部長の大田貴雄も夢を共有する一人だ。社内外を問わず、常に物事の本質をとらえ、高い志を目指す杉浦夫妻の人柄に魅せられる人は多い。今後も杉浦夫妻の夢に共有し、仲間に加わる同志は増え続けることだろう。どれだけ、仲間が増えるかがスギホールディングスの成長を決めるといっても過言ではない。

 「スタッフがいてここまで成長できた」と杉浦が語るように、社員を大切にする文化が根付いている。

地域医療対応型ドラッグストアを目指す 

 少子高齢化社会に向かう医療制度改革の中で、医療現場が病院から在宅にシフトしている。2012年から団塊世代が高齢者の仲間入りをし、日本は世界で類を見ないほど加速度的に超高齢社会に突入していく。病院のベッド数が不足し、在宅医療への対応が急がれている。

 「家族と貴重な時間を過ごしたい」と、自宅で療養することを希望する患者も多い。医療法の改正により、調剤併設型ドラッグストアは「医療提供施設」と位置付けられた。

 そこで、今後スギ薬局グループでは医療事業を軸に「地域医療対応型ドラッグストア」と進化し、地域社会へ貢献することを目指す。具体的にはこれまで培ってきた在宅医療に関わる調剤技術、医療機関との連携ノウハウを活用した新しい地域医療のあり方を提案していく。

 薬剤師出身である杉浦夫妻のおしどり経営からスタートした「町のかかりつけ薬局」は、これからも地域社会に貢献する公器として「スギイズム」を継承し、地域医療のインフラとなるに違いない。



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