トピックス -企業家倶楽部

2009年04月27日

特集第2部 キタムラの強さの秘密 Secret of strength of KITAMURA/世界一の店舗数を武器に写真の価値を再構築

企業家倶楽部2009年6月号特集第2部


「世界一の写真専門チェーンを武器に、フォトコンシェルジュのオンリーワン企業を目指す」。会長の北村正志はそう断言する。独自のチェーンオペレーションで日本全国に1049店を展開。圧倒的な店舗数とIT技術を最大限に活用した「リアル×ネット戦略」で、デジタル時代の新しい写真の楽しみ方を提案する。アナログからデジタルへと急速に変化する業界で、いかに独自の魅力を築き上げ、フロンティアを切り開くのか。キタムラのオンリーワン戦略と強さの秘密に迫る。 (文中敬称略)



■強さの秘密1 写真ライフの提案力

写真の楽しみ方を提案するフォトコンシェルジュ

「最近話題のフォトブックで、ご自身の物語をつくってみませんか」 東京・新宿駅西口から徒歩3分、「カメラのキタムラ」新宿西口店では店員が客に積極的に声をかけている。1階の中央はフォトブックのコーナーで占められ、積極的な販売促進が展開されている。フォトブックは、デジタルカメラで撮った画像をアナログの写真集にしたもの。キタムラが今、最も力を入れている商品だ。

 店内では、女性客が店員に作り方を学びながら、フォトブックを作成している。出来上がったフォトブックは、イタリア旅行の思い出を文字と写真で綴ったものだ。

「つくるのがこんなに楽しいなんて、思わなかった」。女性客は満足げに微笑む。

「撮った写真を簡単に一冊の本にできるフォトブックは、お客様の思い出を表現した、まさに世界に一つのオンリーワン写真集です。つくる喜び、友人や家族に贈る楽しさ、そしてそこから生まれるコミュニケーションで『思い出』や『きずな』、『感動』を共有することができるのです」

 キタムラ会長の北村正志はそう語る。写真だからできる新しい価値を創造する。それが世界最大の写真専門チェーンであるキタムラの使命である。

「今年はフォトブックに賭ける年」。社長の武川泉もそう決意する。フィルムカメラの時代は、店を開けておくだけで客が来たが、今はわざわざ店に現像しに行かなくても、撮った写真をパソコンなどで見たり、家のプリンターで印刷できる。それ以上の価値を提供できなければ、店舗に行く意味はなくなった。

 キタムラの主力であるデジカメ販売やデジタルプリントも、他の小売店やインターネットのサイトで可能になった。同業他社との戦いも苛烈を極めている。新宿西口店では、斜め向かいに家電量販店のヨドバシカメラが大きく聳え立ち、デジカメなどの主力商品は格安競争が激化。そこでデジカメは3階で販売し、メインの1階にはフォトブックの展開で差別化を図っている。

「モノからコトへ。それが変化のキーワード。『感動』や『きずな』をアルバムにしましょうと提案する姿勢が大切です。思い出作りを一生懸命お手伝いする会社として、付加価値の高いサービスを提供する。そこにしか店舗の存在理由はないと思っています」

 今後は、もの売りでなくサービス業に転換する必要がある。「親切丁寧なフォトコンシェルジュになることが目標」と、武川は言う。同社では、コンシェルジュを「店舗の何でも相談士」と定義している。写真に関する悩みや相談を解決するコンサルタントであり、写真の楽しみを提案する伝道師でもある。「フォトブックを常に鞄に入れて、自己紹介に使う人も増えています。リアルの写真集だからこそ、その価値も高い。デジタル時代の新しい写真の楽しみ方を提案できるか。その提案力が生き残りの鍵を握ります」



■ 強さの秘密2 チェーンオペレーション

世界最大の写真専門チェーンへ

「写真専門のチェーンストアで日本一を目指す」

 北村がその夢を抱いたきっかけは、ひとつの本との出会いにあった。30代のある日、四国の小さな本屋で、チェーンストア理論の第一人者、渥美俊一の書籍を手にする。何気なく購入した一冊だったが、その本が北村の運命を決めた。渥美が掲げるチェーンストア構想の雄大さにロマンを感じ、「チェーンストア展開で全国を制覇してみたい」。そんな夢を描いたら、いても立ってもいられなくなった。

 当時、四国の小さな現像所を運営するキタムラがチェーンストアを実現するには、カメラ販売とDPEを組み合わせた写真専門店をつくるのが手っ取り早いと考えた。

 しかし、現像所のビジネスは地域の写真専門店が顧客だ。地元で顧客企業のライバル店を何十店舗もつくるわけにはいかない。そこでキタムラは四国から飛び出し、岡山県のロードサイドに出店した。モータリゼーションの到来を背景に、郊外型の店舗に自動車で訪れる顧客層を狙った。

 当時の写真専門店は10坪程度の小型店が主流だったが、キタムラは60坪から150坪程度の中規模店にした。スペースが広い分、カメラや周辺機器の品揃えが強化できる。専門店ならではの商品構成で、客の様々な需要に応えたのである。  チェーンストアの要であるローコスト運営にも知恵を絞った。他社の小型店は対面販売を重視するが、キタムラでは客のセルフサービスで商品を購入する店作りを意識し、カウンターを置いた半セルフ型の対面販売を構築する。

 大型店でもセルフ型を導入すれば、数人の店員で運営できる。ただ客の問い合わせには即座に対応することを意識し、従業員の商品知識とサービス力の強化を心がけた。経営計画とマニュアルが一緒になった事業計画書を毎年作成し、すべての従業員に配布した。毎日読み合わせをし、基本の徹底に力を注ぐ。

 フィルムカメラの販売とDPEという粗利益の高い商品構成に加え、地価と人件費を抑えたローコスト運営で高い収益率を実現。その収益をもとに全国各地への出店費用をまかなった。出店が増えれば増えるほど、商品の一括大量購入で仕入値を抑え、自社の現像所もフル回転で効率性が高まっていく。

 品揃えの豊富さと利用しやすい店舗展開で顧客の心をつかみ、ローコスト運営で大量出店を可能にした。このチェーンオペレーションの仕組みを作り上げるまでには、20年以上もの歳月がかかっている。「長い道のりだったが、200店舗の突破で壁を越えた」と、北村は振り返る。

 そこからは一気呵成に打って出た。苦労して築き上げたチェーンオペレーションを武器に、1999年、2000年、2001年には年間100店舗の大量出店で、550店舗体制を実現したのである。さらに同業の「スナップス」や「カメラのきむら」を矢継ぎ早に買収し、一気に業界トップに躍り出た。キタムラは写真専門チェーンの最大手として、日本全国に1049店舗を展開。店舗数では世界ナンバーワンを達成した。



■強さの秘密3 変化対応力

変わり続けることでデジタル化の危機を突破

 世界一の写真専門チェーンを実現。ついに夢を手にした北村だったが、その過程では数多くの危機に見舞われた。

 2001年以降、デジタル化という大津波が業界を襲い、以来その波に翻弄され続けた。デジカメやカメラ付携帯電話の普及により、フィルムカメラの年間の国内出荷台数がピーク時の10分の1の50万台まで落ち込んだのだ。技術革新が、フィルムカメラの販売で成長してきたキタムラを未曾有の危機に落とし入れた。そこで北村が編み出したのは、「売り上げを稼ぐ役目=デジカメ」「利益を稼ぐ役目=デジタルプリント」と、完全に収益の役割を分ける作戦だった。粗利益率の高いデジタルプリントは利益を生み出すのにうってつけの存在だ。デジカメを買った消費者には、キタムラの店舗でプリントするようにあの手この手でサービスを提案する。デジカメ販売からプリントまで、キタムラが顧客を囲い込む作戦を遂行したのである。

 この一点集中の販売促進でデジカメは急速に売れてきたが、その過程で多くの従業員が苦しんだ。フィルムカメラに長く携わる従業員の中には、デジカメの新商品についていくのが必死だった。「デジカメをいくら売っても儲からない」と、不満も噴出した。北村は彼らを叱咤激励すべく覚悟の程を記したメッセージを配布した。

「デジカメ販売は闘争である。デスマッチである」「売り上げ台数は2倍を超えた。売上増分の粗利益はすべて安売りにつぎ込んでいる。これは覚悟してやっているのである」「我々が日本一にならずしてどうするのか!がんばろう」

 一部の従業員からは反発もあったが、「利益の源はデジタルプリントになる」と、新しいビジネスモデルを提示し続けた。

 総額約200億円をかけて高品質のデジタルプリントを実現する仕組みを全国の店舗に導入、プリントの質を底上げした。

 このシステム投資が功を奏し、生き残りと成長を実現した。デジタル化の津波に溺れ、3万店あったDPE店は現在1万店にまで減っている。同業他社の55ステーションも会社更生法を適用、DPE業界大手のプラザクリエイトの傘下に入った。そのプラザクリエイトも減収が続いている。

 だが、キタムラはM&Aやデジタル化の対応、コールセンターや物流センターへの投資、グループの統合など、総額約350億円もの投資で勝負をかけた。投資負担は重くのしかかったが、それでも突き進むしか生き残る道はなかったのだ。

 結果、01年3月期に12万台だった同社のデジカメ販売数は、08年3月期には111万台を販売。ヤマダ電機についで、2番手の位置につけるまでになった。デジカメプリントも順調に成長し、ネット経由のプリントでは、日本の需要の4割をキタムラが占めている。



■強さの秘密4 情報共有による組織力

情報を共有することで人材を自発的に育てる

 新横浜本店7階の経営幹部の部屋は大部屋式で、固定した机はない。北村も武川も事業部長たちと同列で執務する。「情報共有のためには大部屋式が一番」と北村は言う。

「チェーンストアの最大の鍵は、情報共有にあります。会社の出来事が『見える化』されているかどうか。そこがポイントになります」

「見える化」するために、北村が武川にメールを送る場合、同報(CC)で他の役員にも同じメールを送る。取締役会などの会議でも、北村と武川らトップ層のメールのやりとりを情報として公開し、事業部長や店長ら現場統括者もトップと同じ情報を共有する。

「情報を共有すれば、人は自ら育ちます。情報を知らなければ、自主的に行動することはできません。知らせることが人材育成なのです」と北村。

 情報を共有すれば、個人個人が考え、新たなアイデアが浮かびやすい。個人が創発し、その活力をグループに共鳴させれば、1049店の改善がハイスピードで進む。全国チェーンの強さもここにある。全員に伝えれば、全員の意思と智恵が集まり、改善がより一層進む。この「個人の創発」が、チェーンストアの原動力になる。

 西埼玉地区事業部長の森木繁雄が提案した大容量メモリーカードの大量販売作戦の事例を挙げよう。森木は当時在籍した静岡の店舗で、実験的に大容量のメモリーカードを格安で販売した。すると、そのメモリーカードを購入した客は、撮影枚数が50枚、100枚、200枚と爆発的に増えていき、デジタルプリントの量も数十枚へと一気に増加した。

「画像メモリーが少ないと、失敗した画像を消すという行為を繰り返さなければなりません。それでは写真撮影もゆっくりと楽しめない。お客様に写真を撮る楽しみを味わってもらうにはどうすればいいか。それを考えているときに浮かんだアイデアだったんです」

 森木はそう振り返る。この成功事例を聞いた北村は即座に全店に通達、大容量メモリーカードの大量販売作戦を遂行した。

「情報共有のポイントは、現場のスタッフが堂々とものを言えたり、アイデアを気軽に提案できる環境を、経営陣が作り上げること」と、北村は言う。

 情報共有は社内だけに留まらない。2001年10月のJASDAQ上場以前から、メインバンクには決算内容や事業計画を定期的に報告してきた。主要の取引先にも情報を公開することで、協力体制を構築する。このガラス張り経営が同社の強さになっている。



■強さの秘密5 店舗とネットの融合戦略

接客サービスの強化でリピーター獲得

「わぁ、とっても可愛い!ドレスが似合ってる」

 4月13日、子ども向けの専門写真館「スタジオマリオ」の埼玉坂戸店では、店長の山下麻衣らスタッフが、女の子の最高の一瞬を撮ろうとシャッターを切っている。

 アンパンマンなどの人形や数多くのおもちゃで気を引き、穏やかな会話と抜群の笑顔で接している。そして、女の子がニコッと笑った瞬間、店長の山下はすかさずシャッターを切る。

「最高の写真が撮れたね!」。女の子の母親も嬉しそうな顔を見せる。子供写真館を利用する客は、七五三やお宮参り、入園・入学、誕生日の記念写真など一生に一度の大切な記念日や思い出を写真で残すために来店する。そこでスタジオマリオでは最高のサービスを提供できるよう、スタッフの社内研修と外部研修の両面を重視。社内研修では、撮影、着付け、ヘアメイクなどの専門的な知識や技術を基本から学ぶ仕組みを整え、どのスタッフでも短期間で活躍できる現場を作り出している。さらに外部研修では、芸能プロダクションのホリプロと協力し、人を魅力的に磨き上げるトレーニングを受けている。 「一番大切なのは、技術よりも明るくて朗らかな心です。子どもと接するのが大好きなスタッフとともに、むずかるお子さんを最後は最高の笑顔にしてしまう。子供の笑顔が溢れる写真スタジオをつくりたいのです」と山下。

 このスタジオマリオは、カメラのキタムラ埼玉坂戸店の店内に併設する店舗だ。キタムラの坂戸店は、同社の関東進出第一号店であり、20年以上の歴史を誇る旗艦店。その旗艦店に、今年4月のキタムラグループのブランドリニューアルに合わせて、スタジオマリオを併設させた。

 スタッフは女性が主体だ。「女の子の着替えに、おじさんが関わるわけには行かないですから」と、キタムラ坂戸店店長の森木繁雄は笑う。

 子ども向けの専門写真館では、同業他社のスタジオアリスが2008年12月期で364店舗数を誇り、先頭を走る。同社は大型商業施設内や単独のロードサイド型店舗を主力に展開し、成長を遂げてきた。

 一方のスタジオマリオは、カメラのキタムラの店舗内に出店することで、カメラや写真のワンストップショッピングを実現し、顧客の利便性を高める戦略に出た。今後は、4月から7月まで毎日1店舗のペースでスタジオマリオをキタムラの店舗内にオープンし、「スタジオマリオの全国300店舗体制を築きたい」と、社長の武川は語る。さらに証明写真の「スタジオK」など、専門店の実店舗だからこそできるサービスに力を入れ、リピーターの獲得を推進する方針だ。

店舗とネットの融合でクリック&モルタルを実現

 キタムラが全国に店舗を持つチェーン店だからこそできるネット活用は何か。その回答のひとつが、クリック&モルタルである。これは実店舗とネットで相乗効果を狙う戦略手法で、例えば、ウェブ上でプリントしたい写真を注文し、数日後近くのキタムラの店舗でデジタルプリントを受け取る仕組みだ。フォトブックでも同様のことができる。キタムラグループでは、このようにネットで利便性を高め、店舗の集客力を高める方針だ。

「写真は不滅です。サイトは写真画像を保管する『映像の銀行』の役割を果たし、お客様の要望に合わせて、デジタル画像をフットブックなどで楽しめるようにしたい。ネットと店舗の双方の強みを活かし、デジタル時代の写真の楽しみ方を提案します」 

 北村は今後の戦略をそう語る。自社の店舗網とネットの融合に加え、他社との事業提携も推進する方針だ。CDやDVDなどのレンタル&販売店で国内最大手の「TSUTAYA」を運営るカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)とは、04年7月にポイント事業で提携。06年10月にはCCCとキタムラで会員制ポイントカードの統合に乗り出した。

「Tカード」は現在、ポイントカードとしては国内最大級の約3000万人の会員数を誇り、「この3000万人の購買情報をいかに販売促進につなげるか。そこに私たちの企画力が問われる」と、CCC社長の増田宗昭は語る。

 その成果はすでに出始めている。キタムラは「Tカード」を導入後、デジタルカメラの購入客を調べると、新たな顧客層を発見した。成人式の直前にデジカメを購入する若い女性客である。キタムラの自社分析では、主要顧客は40代から50代の中高年の男性が中心で、彼らに的を絞った販促活動をしていたが、「TSUTAYA」を利用する若い世代の購買データを組み合わせることで、若い顧客の動向を導き出した。こういった分析ができれば、成人式の前にTSUTAYAの会員向けにキタムラのポイント倍増キャンペーンを打つなど、効果的な販促ができる。

 写真業界は、デジカメなどのハード面でキヤノンやソニーなどの日本メーカーが世界をリードしてきた。だが、デジタル画像の楽しみ方は、「撮る」だけの時代から、「見る」「共有する」時代へと移り変わりつつある。今後は「撮る楽しさ」だけではなく、「見る楽しさ」「つながる楽しさ」といった方向へも進むだろう。

「今後はソフト面での充実が鍵を握る。キタムラは、世界一の写真専門チェーンを武器に、ネットや他業種との融合で、デジタル時代の新しい写真の楽しみ方を提案したい」と、北村は言う。「企業は人。事業はお客さまのため」「仕事を創り、仕事を楽しみ、仕事によって社会に応える」。その企業理念を軸に、新生キタムラの挑戦はまだまだ続く。



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