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トピックス -企業家倶楽部

2000年12月27日

【アスクル特集】120万事業所のオフィスソリューションに挑む/アスクル強さの秘密

企業家倶楽部2001年1/2月号 特集第2部


オフィス用品の通信販売という新しいビジネスを展開するアスクル。明日来る“アスクル”を社名に戴く同社はプラスの社内ベンチャーから独立し、創業8年で売上高 471億円を達成、昨年11月には店頭公開を果たした。スモールオフィスを対象に、モノからサービスまでオフィスソリューションを展開、顧客数は全国120万事業所にのぼる。21世紀型の斬新なアスクルモデルは業界を席捲、今や古い文具業界を塗り替えようとしている。

 

 



■アスクルがオフィスを変える

「来週から始まるセミナーの参加者十五人にファイルを用意して」「それと名札ケースとレポート用紙一冊ずつ、ティータイム用にお茶やコーヒーのセット一式も頼む」

「はい。承知しました」東京下町の小さなコンサルティング会社に勤務するA子は上司の命令に快く返事すると、デスクの引き出しからアスクルの分厚いカタログを取り出した。手慣れた手つきで必要な商品をチェックするとファックスで注文、「これでよし」と小さく微笑んだ。

 社員八人たらずのこの会社には事務を担当する女子社員は一人しかいない。これまではこのような指示を受けると、その度に近くの文房具に走っていた。在庫があれば一回で済むが、なければ他店を回って注文したりと、極めて面倒であった。

 こうした小さな事業所で働く総務担当OLの強力な味方がアスクルなのである。三年前から女子社員の間で口コミで広まり、今や倍々ゲームで顧客を獲得、登録数は全国百二十万事業所にも及ぶ。

 なぜこんなにアスクルがもてはやされるのか。アスクル急成長の鍵はどこにあるのか。その強さの原点を究明した。



■強さ1 “明日届く”アスクルの価値に全力を尽くす

 まずは “注文したものは必ず翌日届けてくれる”という時間を約束したサービスであることだ。

「明日来るからアスクル、時間を約束したことてビジネスチャンスが大きく広がった」とアスクル社長の岩田彰一郎は目を輝かせる。そしてこの約束を果たすためには損得抜きで徹底する。

お問い合わせセンターに一本のクレームが寄せられた。「以前使っていた商品が気に入っていたので注文したのに入っていなかったのはどうして」。

直ちに原因究明をした結果、それが在庫切れで入荷が遅れていることがわかった。その事実を客に伝えていなかったのである。

 この連絡を受けた岩田はすぐさま飛び出し、自ら商品を買いに走った。そしてその足で客先に出向くと「遅れて誠に申し訳ございません」と深々と頭をさげた。

「翌日お届けするという約束をなんとしても守らねばならぬ。この約束が果たせなければお客様との信頼関係は築けない」という岩田。

 お客様との信頼関係、これこそがアスクルが創業以来築き上げた最大の資産といえる。

「アスクルを社名として掲げているとはいえ“明日お届け”という客との約束をここまでして果たすとは」と、九九年に花王から転身したCOOの冨田は、岩田のその姿に胸を打たれたと打ち明ける。まさにこれこそがアスクルの最大の強みといえる。

 そしてこの姿勢は、社員、パートナー含めてアスクル全体に染み透り、アスクルの企業風土として息づいている。



■強さ2 ワンストップショッピングの実現

 二つ目はアスクルだけでオフィスに必要なものは何でも揃う“ワンストップショッピング”を実現していることである。分厚いアスクルのカタログをのぞくとその種類の多さに驚く。事務用品だけではない。コーヒーやミネラルウォーター、カップラーメンに至るまでオフィスに必要なものは何でも揃っている。その数今や一万一千アイテムというから凄い。

「お客様の声を聞き半年に一回作るこのカタログに何を盛り込むかが、売上げのキーポイントとなるのです」と、カタログ制作担当の木村美代子は自信たっぷりの笑顔を向ける。ミネラルウォーターの売り上げ日本一はアスクルというから、顧客数百二十万という数がいかに大きいかを実感させられる。

 最近は商品だけでなく、封筒や名刺の印刷サービスなど各種のサービスをも取り扱い、顧客のコンセルジュ(世話役)としての役割を果たしている。

しかも値段はアスクル価格で、他より安いということなら、オフィスで必要なものはアスクルに頼もうということになる。今や、アスクルは全国のスモールオフィスで働く人々にとってなくてはならない存在となっている。 

 こうした全国の顧客の期待に一つひとつ応えることで、アスクルの事業は倍々ゲームで伸び、売り上高四百七十一億円を達成、創業八年で店頭公開という偉業を成しとげた。



■強さ3 外商が届かないスモールオフィスを狙う

 アスクル成功の要因の一つにニッチ戦略がある。それは外商が通ってくる大企業ではなく、“必要な時はその都度文具店に買い出しに行く”小さなオフィスをターゲットにしたことだ。

「日本には六百二十万も事業所があるが、そのうち九五%が、従業員三十人未満のスモールオフィス。ここに巨大な真空マーケットが眠っている」と岩田。このニッチマーケットに目をつけ、通信販売という手段で対大企業並みのサービスを提供すれば必ず売れると踏んだ。この岩田のニッチ戦略が見事に当たり、今や全事業所の二〇%に当たる百二十万事業所がアスクルに登録している。

注文品を確実に翌日配送するためにどんなノウハウがあるのか。一万一千もの商品やサービスはどのように選定されるのか。アスクルの強さの原点を解剖する。



■強さ4 卸や文具店と役割分担し画期的なB2B2Cのビジネスモデルを構築

 アスクルの顧客は今や沖縄を除く日本全国百二十万オフィスに至る。しかしアスクルには営業マンは一人もいない。ではどのようにして顧客を獲得しているのか。答えはこうだ。

 全国を網羅するアスクルの取引先である問屋や文具店をエージェント化し、営業をアウトソーシングしているのだ。つまり顧客獲得と代金の回収はエージェントに、カタログづくりや注文受付、配送はアスクルが担うという役割分担制を実現している。

 IT時代のB2B(企業間の商取引)は通常メーカと顧客が直結し“中抜き”となり、日本の既存の問屋や小売は存続の危機にさらされている。しかしアスクルはここの常識を破り“中を生かし”機能を分担することで最短のバリューチェーンを構築、問屋や文具店との共存共栄を実現した。

「当初はお客様と直結するのがいいと思いました。しかし、社会最適ということを考えたとき、直結するより卸や文具店さんと機能を分担した方が、最も効率的でお客様に価値を提供できると気付いたのです」岩田は柔和な目を向ける。

 日本に根強く残る既存の流通システムはメーカー→一次卸→二次卸→小売という非効率な長いバリューチェーンだ。これをシンプルにし有効な機能だけをネットワーク状に、作り直したのがアスクルモデルである。この画期的なエージェント制度は、アスクルビジネスモデルとして流通業界からも注目を浴びている。そしてこのエージェントは千四百六十社にも及び、アスクルの全国展開の下支えとなっている。

 それだけではない。アスクルは各々の納入メーカーやサービス会社、そして商社や配送会社とマーケティングパートナーシップを組み、“大アスクル”として有機的な連合体制をとっている。

 ここでは顧客データや情報を互いに共有し、業務の重複やロスを排除、お客の声にすばやく対応することができる。アスクルはここでプラットフォームとしての役割を演じ、全体の舞台回しを担っている。この「社会最適」システムは他に類のないアスクルビジネスモデルとして同社発展の構造的な強みとなっている。



■強さ5 受注から20分で梱包完了する独自の物流システム

 東京の臨海副都心にほど近い東京江東区辰巳、ここには二〇〇〇年度日本ロジスティック大賞を受賞したアスクルの最新鋭の物流センターがある。「客から注文を受けてから箱詰め完了までたったの二十分」という、離れ業をやってのけるロジスティクとはいかなるものか。

 岩田が敢えて「物流工場」と呼ぶこのセンターは、「少しでも早く正確にお届したい」と願うスタッフの知恵と最新鋭の技術とが融合し、独自のシステムが創られている。

 朝十時、物流センターの作業がスタートする。全国の顧客から送られた注文は、瞬時に受注データベースとして取り込まれ、注文品一つひとつの荷物に番号をつけ、自動的に総容量を計算、箱の大きさを選択すると、発送ラインを選択する。

 一件ごとの注文に従い自動的に発送伝票・納品書が印刷され、ピッキングボックスに投入される。次々と送り出されるボックスは、自動でセンター内を流れ、デジタルピッキングシステムにより商品棚に待機している作業員が、注文品を指定数量通り箱に詰める。

ガムテープとクリープが同じ商品棚に並ぶ

 デジタルピッキングコーナーの棚に並んだ商品に一瞬違和感を覚える。というのはガムテープの傍にはコーヒー用のクリーム、パソコンのフロッピーディスクの傍には食器洗いの洗剤が並んでいるからだ。ここではカテゴリー別はなく、注文頻度別の棚割りとなっている。ガムテープとクリープ、フロッピーディスクとカネヨンの食器洗い用洗剤の注文頻度が同じ程度ということになる。これは同社がいかに正確にスピーディに梱包できるかを考えて編み出したノウハウだ。

「この頻度別棚割りに至るには何度も試行錯誤を繰り返しました」と担当者。まさに人の知恵と経験の産物といえる。

 特に頻度の高い商品棚にはデジタルピッキングシステムが導入されている。受注のリスト通りに商品棚にランプが点灯、作業員はそのランプをみて箱詰めする。ここでもスピードと正確さを実現するため最先端の技術が導入されている。

 そして最後にウエイトチェッカーを通り、注文品と箱詰め商品に誤りや不足がないか、トータルの重量でチェックされる。ここではボールペン一本二グラム不足していても、重量の違いがチェックされ、箱ははじき出される。

 梱包最終の工程では箱詰めと袋詰めに分かれる。紙袋はボールペンやラベルなどの小型商品に対応したものだが、それ以上に環境問題に配慮する客の要望に応えるものだ。

「毎週アスクルに注文しているが、その度にダンボール箱を捨てるのはもったいない、なんとかして」この問いかけにすぐさま対応、紙袋による配送を導入した。

「梱包の手間やトラック配送の効率を考えるとダンボールの方がベター。しかしお客様のご要望には限りなくお応えしたい」という岩田。このお客様を大切にする姿勢がアスクルの企業文化である。

 一つひとつの商品をいかに正確にスピーディーに梱包できるか、を追求したアスクルの物流システムは、ハイテク技術と人間の知恵とハートがフレキシブルに融合されたノウハウの結晶といえる。お客様のために常に革新と効率を追求する。これがアスクルの足腰の強さだ。



■強さ6 一日8000 件のお客様の声に学ぶ

 東京都文京区にあるアスクル本社の四階、ここはワンフロア全体がお客様お問い合わせセンターとなっている。ここでは常時百人以上のオペレーターが待機、一日八千件というお客様の声に応えている。

「コクヨのファイルはないの?」という声に、ライバル会社の商品もカタログに載せた。

「残業食用の食品も扱って」の声には各種のカップラーメンやスープを。

「買いにいくのが大変なので水とトイレットペーパーも扱って」などさまざまな声が寄せられる。

「当初は事務用品だけでした。しかしオフィスで必要なのは事務用品に限らないと学習しました。お客様に学びフレキシブルに進化するのが当社の使命」と岩田。

「もっと値段を安くして」の声に応え、限りなくコストダウンを実現、値段も市価より安いアスクル価格として提供している。こうした顧客の声に素直に耳を傾け、確実に対応する姿勢がアスクルファンをさらに拡大している。

セブン-イレブンをしのぐデータの集積

 ここで集約された顧客の声はパートナー企業と共有。“データ・マイニング・システム”と連携することで、商品開発や改良に活かされている。従って客からの要望で生まれたオリジナル商品も多い。

「毎回コーヒーの瓶を捨てるのはもったいない、詰め換え用はないの」との要望に応えて、パートナー企業と共同開発したのが「アスクルオリジナル詰め換え用コーヒー」である。これは今や、大変なヒット商品となっている。

 また「オフィスで足先が冷えて辛い。座ったまま使える何かいい暖房器具を作って」との要望に応え、メーカーと共同で開発したのが、靴を履いたままで使える暖房器具である。これは冷え性に悩む女性たちに大変喜ばれ、隠れたヒット商品となっている。

 セブンイレブンのPOSシステムは、幾つ売れたかという売れた結果しか把握できないが、アスクルのデータ・マイニング・システムでは、誰が・いつ・どの商品を・いくらで買ったか。さらにはどのタイミングでブランドスイッチしたか、までが分析できるという。百二十万事業所から発信される一日八千件の顧客の声の集積は、アスクルの大きな財産といえる。

「お客様の声に精一杯応え、一つひとつ実現してきたからこそここまで成長できた。お 客様の声こそがアスクル発展のエンジン」と明言する岩田社長。それだけにどんな声をも聞き逃すまいと、お問い合わせセンターの充実には余念がない。

ライバル出現

 独走してきたアスクルだが、ここにきてライバルも現れた。

 まず気になるのは文具最大手のコクヨの動きである。同社も遅ればせながら通信販売に参入、顧客を囲い込もうと必死になっている。 ただし、コクヨが対大企業型なのに対し、アスクルはスモールオフィスを対象としているという点では、すぐに牙城は崩されない。ビジネスとしての効率を考えたらそうたやすくここまて参入はできないであろう。

もう一つ新しいライバルの動きがある。B2Bで米国市場を席捲しているアリバである。同社は二〇〇〇年十一月、ソフトバンクと提携し日本に乗り込んできた。アリバのプラットフォームはオフィス用品だけでなく、旅行チケット、ホテル、花などオフィスで必要とするものは何でも発注でき、しかも確実に三〇%弱のコストダウンができる。既に協力会社二十社が出資し、サプライヤーとして名乗りを挙げた企業は三百五十社にのぼる。これはアスクルにとっても脅威となるだろう。しかし、アリバも最初は大企業中心で、アスクルのような社員十名以下のスモールオフィスまでは手が届かないであろう。まして、アスクルを率いる岩田の顧客を思う姿勢はただものではない。消費者ナンバーワン企業として名高い花王から転身した冨田をして「花王が凄いと思っていたが、岩田社長の心意気にはかなわない。これほどまでお客様を大切にする人には出会ったことがない」と唸らせる。

 この客を大切にする姿勢が企業風土として全社員に貫かれていれば、どんなライバルが現れても恐れることはない。エージェント、パートナー企業が一丸となって築いてきた顧客との信頼の絆はそうたやすく切れることはないだろう。全国のアスクルファンがアスクルのさらなる発展を後押しすることであろう。

 そして、お客様を真ん中に据えた新しいビジネスモデルのプラットホームとして、常に客に新い価値を創造しつづけるアスクルは、二十一世紀型のリーディングカンパニーとして躍進し続けることだろう。



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