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トピックス -企業家倶楽部

2003年02月27日

【フルキャスト特集】人材のトータルソリューションを担い 21世紀の雇用を変える/フルキャスト強さの秘密

企業家倶楽部2003年4月号 特集第2部


軽作業請負というユニークなビジネスで、急成長を遂げるフルキャスト。長年終身雇用を引きずり、人件費の膨張に苦しむ日本企業に、必要なときに必要な人員を調達するという新しい雇用形態を創出する。社長の平野岳史は25歳で創業、家庭教師派遣からスタート。バブル崩壊という時代の追い風を受け、人材ソリューションカンパニーとして大きく飛躍しようとしている。全国65万人の若者たちを束ね、雇用の世直し事業を推進するフルキャストの強さの原点を探る。



■タスコシステムズと提携 外食向けのプロを養成

「いらっしゃいませ。お客様お二人さまですか。ただいますぐお席にご案内いたします」。きびきびした心地よい挨拶に出迎えられ、店の中に進み入ると「いらっしゃいませ」の笑顔と合唱に圧倒される。月曜日の夜だというのに店内はすでに満杯。


「お客様カウンターでもよろしいですか」の声にうなずくと、軽やかな身のこなしで席に案内される。オープンキッチンを囲むカウンターの隅に身を落ち着け、周りを見まわすと仕事を終えたサラリーマンやOLが、つかの間のくつろぎを楽しんでいる姿が目に飛び込んでくる。


 ここは外食業界で急成長を遂げるタスコシステムの主力業態「北前そば高田屋」八丁堀店である。フルキャストが飲食業向けにスタッフを教育・訓練するために自らがフランチャイジとしてオープンした実験店舗だ。


「北前そば高田屋」「YAKITORIとり鉄」「炙り焼き高田屋」などさまざまな業態を多店舗展開、二〇〇二年だけで百七十六店を出店したタスコシステムにとって、優秀な人材をいかに確保するかが成長の鍵となっている。そこに目をつけたフルキャストが新しいビジネスモデルを考案、タスコに特化した人材を育成するための研修の場としての店舗を持ったというわけだ。


「飲食業が多店舗展開していくうえで一番のネックとなるのが人材の確保です。特にベンチャーにとっては資金調達より人材確保の方が難題。そこにフルキャストの活躍の場があると考え、社長に提案しました」と目を輝かすのは二年前にフルキャストに転進した企画営業部フランチャイズキャステイングチームのチーフを務める白川朱門だ。


 コンサルテント会社に勤務時代、タスコシステムの幹部と親しかった白川は、フランチャイザーが抱える悩みを熟知していた。そしてその解決策にと提案したのが今回のタスコにカスタマイズした人材の提供システムである。平野とタスコシステム社長の高田貴富とは旧知の仲、互いにトップ会談で話が進み、今回の提携にこぎつけた。


 今や十八兆円規模に成長した飲食フランチャイズ業界だが、人手不足が恒常的課題。この課題を解決すべく、経営企画部内に「フランチャイズキャステイングチーム」を設置、ソリューションビジネスを模索してきた。


「これまでは挨拶や簡単なマニアルなど机上での訓練しかできませんでした。今回実際に店舗を持つことで、飲食業にかかわる全ての作業をOJT(オンザジョブトレーニング)で訓練できるようになります」と白川。


 これまで多くの飲酒店に人を派遣してきたがいずれも短期で清掃や皿洗いなど、ブルーカラーの域に留まっていた。今回タスコとの提携により、接客や調理、店長候補向けに経理やシフトの組み方など、飲食業にかかわるすべての作業を実地で教育・訓練することができる。これはフルキャストにとってもワンランク上の仕事を獲得でき、業務領域の拡大になる。


「接客や身のこなしなどOJTでなければできない訓練が機動的にできる」と意気込むのはスタッフのトレーナーを任されている外川美香である。


「お客様、コートをお預かりする場所はございませんので椅子にかけさせていただきます。バックはテーブル下の棚をご利用くださいませ」。


 高級会員制リゾート「エキシブ」を展開するリゾートトラストに五年間勤めたというだけあって、外川の接客や身のこなしにはそつがない。客がちょっとでも首をかしげるとスッと近寄ってきて、さりげなくアドバイスする。客への目配りや身のこなしなどキメ細かな接客術はOJTでなければ習熟できない。そしてここで鍛え抜かれたスタッフは全国に展開するタスコシステムの店舗に派遣され、力を発揮することになる。


「まずはタスコシステムと提携したが、これがうまくいけば他社と同じビジネスモデルを展開することもある」と平野。フルキャストが提案するこのFC向けのビジネスモデルは、二十一世紀型の新しい人材ビジネスとして定着する可能性を秘めている。



■フルキャストという会社

フルキャストとはどんな会社なのか。ここでその成長の軌跡をたどってみよう。


 平野がフルキャストを創業したのは一九九〇年、二十五歳の時である。十八歳のときから起業することを考えていた平野は、三年間でサラリーマン生活に終止符を打った。アルバイトで勤めた家庭教師派遣業がいけると判断、「神奈川進学研究会」を設立した。ときはバブルの絶頂期、事業は順調に滑り出した。当時登録済みの学生を四千人抱えていたが、家庭教師派遣では稼働率がせいぜい一〇%程度だった。残りの学生をなんとか活用できないかと考え、知人の依頼に応じたのが引越しの手伝いだった。


 学生でもできる仕事として始めた短期軽作業の請負業が当たった。ホワイトカラーの派遣業はあったが、ブルーカラーの派遣サービスはなかったからだ。


 当初はここまで成長するとは思わなかったという平野たが、創業三カ月で家庭教師派遣時代の規模を越えたとき「ひょっとしたら」とその鉱脈の大きさに気づいた。バブル崩壊で人材サービス業にはまさに追い風。平野は東京、大阪と次々と支店を出し、拡大路線を走ってきた。現在、フルキャストの登録スタッフ会員数は六十五万人、全国九十六カ所を網羅する。「この仕事は大都市型」という平野だが、引越し補助、倉庫の仕分け作業、組み立て、飲食店の皿洗いなど、産業の下支えとなるブルーカラーの仕事は大都市だけではない。「きつい、汚い、危ない」の三Kの職場でだからこそ確実に人が欲しい。こうした要請に応えるために全国に出店、規模を拡大してきた。


 二〇〇一年には創業十一年で店頭市場(JASDAQ市場)に公開を果たし、二〇〇二年は連結売上げ高二百六十三億円を達成した。



■正社員だけが社員じゃない


 フルキャストが短期間でここまで成長した要因はなにか。


「会社員がフリーターよりエライとはかぎらない」二〇〇三年一月フルキャストが新聞に出した全面広告が目に焼き付いた。一昔前までは考えられなかった言葉である。しかし今は“当たり前”として受け止められる。つまりフルキャスト成長の最大の要因はバブル崩壊後の人々の就業・雇用に対する意識の変化といえる。


 かつては一流大学から一流企業に就職、終身雇用で勤めあげることが理想の仕事人生と思われていた。しかし、バブル崩壊で終身雇用制が崩れ、若者たちの間に「せっかく頑張って一流企業に勤めても何時リストラで放り出されるかわからない」という不信感から、正社員に対するこだわりが薄れてしまった。この正社員信仰の崩壊がフルキャストのような人材ビジネス業者の成長を後押したといえる。


 もう一つは雇用する企業側もバブル崩壊後、組織のスリム化や人件費抑制のために、正社員を減らし、派遣スタッフを活用するという雇用形態が当たり前のこととして定着してきた。雇う側、働く側双方の意識が大きく変化したこの十年間はまさにフルキャストにとって追い風。時代の風に乗ってここまで成長してきたといえる。



■決まった時間に決まった人数を確実に

 そうした社会環境だけではない。フルキャストの成長には平野が身を徹して磨き上げたきた様々な武器がある。まずは “決まった時間に決まった人数を確実にコーディネイトする”というデリバリーの強さである。しかも前日の午後三時までのオーダーに対応できる機動力を備えている。


「当時ブルーカラーの世界では遅刻・欠勤が当たり前。約束した時間に約束した人数を確実に派遣するという当たり前のサービスを提供したことで、ユーザーの信用力が高まった」と平野はなつかしそうに語る。


 このデリバリーのノウハウはフルキャストの前身である家庭教師派遣業時代に培ったものだ。


「約束の時間になっても家庭教師が来ないというクレームがたびたびあり、急遽駆けつけ、代役をやることもしばしばあった」と苦笑する平野。こうした経験から、就業意識や責任感の乏しい若者を確実に現場に行かせるためのノウハウを身につけたという。


 モーニングコール、外出時間、さらには集合場所でのチェックなど、何重ものチェック体制を敷き、確実なデリバリーを実現した。今のように携帯電話がさほど普及していない時代のこと、手間隙かかる作業である。しかし、こうしたキメ細かなデリバリーサービスがフルキャストの信用力を高め、成長の土台となっている。そしてこれは今も受け継がれ、ユーザーとの信頼関係を築いている。



■「主人公は最前線で働くスタッフ」を具現化

 さらにフルキャストの強みは登録スタッフを単に働かせるだけでなく“人を生かす”という考えが社風として醸成、仕組みとして具現化していることだ。


「人をマネジメントしてコントロールするシステムは誰でもつくれる。しかし“人を生かす”という考え方が末端まで根付いているのがわが社の強み」と平野は胸を張る。そして「わが社は派遣したスタッフが活躍してこそ成り立つ会社。人を大切にし、人を生かすという基本を浸透させ、“最前線こそが主役である”という考えを徹底している」と。


 平野のこうした考えは表彰制度という仕組みに落とし込まれ、わかりやすく具現化されている。登録スタッフには下からアシスター、サブリーダー、リーダー、サブチーフ、チーフという五段階のクラスター制度を導入。毎月評価会議を開催、リーダーシップの発揮、作業能力の発揮、作業態度などさまざまなチェック項目をもとに評価し、成績優秀者はランクアップし、給料、人事権、裁量権も上がることになる。


 さらには、年間の成績優秀者は毎年十月に行う社員総会の場で表彰し、さまざまなインセンティブを与えている。こうして“人を生かす”“最前線こそが主人公”という平野の考えを、わかりやすい仕組みに具現化し、実践していることが、定着率のアップなど、スタッフの動機付けに繋がり、フルキャストのブランドを作り上げている。



■得意分野に特化

 今後一番力を入れる分野はブルーカラーと断言する平野。軽作業請負ではどこにも負けないという自信をのぞかせる。現在のフルキャストにとって最大の顧客は製造業の物流関連だ。今でこそユニクロもブームが去ったが、一時はユニクロの物流倉庫の仕分け作業をかなり請け負っていた。また今、人気絶頂のカメラ付き携帯電話メーカーの物流倉庫で仕分け、検品、発送作業など縁の下の力持ち的作業を一手に請け負っているのもフルキャストである。
「今、こうした製造業の物流倉庫での仕事の依頼が多くなっている」と平野。


 もともとフルキャストは引越し作業のアシスタントなどの短期軽作業請負が中心。現在でもスポットの短期軽作業請負が六〇%、工場作業請負が二五%、IT関連などテクニカルな分野が一〇%、一般事務などオフィス関係が〇・五%と、九割近くがブルーカラーだ。従って今後もブルーカラーを中心に得意分野に集中することが勝ち抜く条件と睨む。


 そのためには登録スタッフの採用には余念がない。失業率五パーセントを越え、日本全国に失業者が溢れているというイメージが強いが「ブルーカラー分野に関しては既に不足ぎみ」と平野。


 女性が一生涯に産む子供の数が平均一・四人を切った日本では、今後かなり速いスピードで十八歳人口が不足すると予測される。そうなるとブルーカラーを主体とした軽作業請負業に重きを置く平野にとっては死活問題だ。そこを補うのがアジアなど海外の労働者である。今は就労ビザの関係もあり登録者はいないが、今後はアジアなど外国人の登録も視野に入れている。



■特定企業にカスタマイズ

 創業以来、短期の軽作業請負を主流とし、どちらかというと質というより、確実に人員を供給するということに主眼を置いてきたフルキャストだが、ここにきて特定の企業に特化した長期の請負事業にも乗り出した。


 二〇〇二年四月、フルキャストはトヨタ系の自動車車体製造のセントラル自動車と、部品製造の大昌工業と合弁で車体組み立てライン作業を請け負う新会社「フルキャストセントラル」を設立した。ここでは自動車組み立てラインをまるごと請け負う。


「自動車業界はこれまで期間工を抱え繁閑期を調整してきたが、組み立て作業をまるごと外部化することで人件費を変動費化することができると」と平野。


 フルキャストとしては二年前からセントラル工場の仕事を請け負ってきたが、ラインの請負はそれまでの短期軽作業請負と異なり、より高い技術と専門性が求められる。従って派遣してもすぐ作業がこなせるというものではない。そこでセントラルと合弁、生産技術のノウハウの提供を受け、専門スタッフを育成、製造ラインに組み込もうということだ。既に七百人のスタッフを配置、トヨタの自動車生産ラインを請け負っている。


 この合弁は、定期的な請負先を獲得したというだけでなく、フルキャストにとってさらに新たなステージを拡大したといえる。そして何よりも「“世界のトヨタ”の仕事を請け負うことで、妥協を許さぬ厳しさなど“トヨタ方式”を直に学べることもメリット」と平野。ここで培ったノウハウをトヨタ系メーカーに広げ、点から面として拡充していくことになる。



■“人件費の変動費化”に応える

 日本ではこれまで工場の生産ラインへの人材派遣は規制されていたが、規制緩和でこれまでのオフィスや営業、物流だけでなく、製造業へのアウトソーシングも拡大すると予測される。これは製造業にとっては大変な朗報だ。人件費を変動費化することでコストを削減できるだけでなく、生産変動に伴い人員をリアルタイムに配置することでより機動的に動けるようになるからだ。


 そういう意味では製造工場の業務請負が今後急拡大することが期待でき、フルキャストにとっては願ってもない追い風となる。


 すでにフルキャストでは製造業のアウトソーシングに特化した専門集団「フルキャストファクトリー」を設立、メーカーの人事部門のアウトソーシングを提案している。従って今後はトヨタの自動車生産に特化するフルキャストセントラルのように、特定の企業に特化した業務請負を増やしていきたい考えだ。


 飲食向けにはタスコシステムと提携、タスコ向け人材サービスをスタートしている。今後は各業界、業種の勝ち組と提携、そこにカスタマイズしたスタッフを育成、派遣していくことで新しい人材ビジネスを創造したいと平野の夢は膨らむ。



■人材のワンストップショッピングの実現

 これまではスポット的短期軽作業請負というニッチ戦略で成長してきたフルキャストだが、ここ一、二年はそれに加えて、テクニカルスタッフ、コールセンターや一般事務派遣など、人材に関することすべてに対応できる“ワンストップショッピング”の実現に注力している。


 そのために二〇〇二年に組織を改定、短期請負を中心としたフルキャスト本体だけでなく、フルキャストオフィスサポート、フルキャストファクトリー、フルキャストセントラル、フルキャストテクノロジーとそれぞれ専門性をもった企業に分社化し、シナジー効果を追求している。


 ユーザーにとってはフルキャストに頼めば、仕事内容によって最適の人材を抽出、請け負ってくれるならば、便利なことこの上ない。人材に関する顧客のコンセルジュ的役割から請負実施までを一貫して果たすことになる。



■ リーダーとしての素質

 株価低迷でますます色あせが気になる東京の兜町。かつて株の立会人が華々しく活躍した東京証券取引所の会議室で若手経営者が集まり勉強会が開催されていた。ベンチャー協議会の定例会である。平野は二〇〇二年この協議会の会長としてリーダーシップを発揮、当時四十人だった会員を百人も増やした実績を持つ。そしてメンバー百人を率い、二〇〇二年には中国でベンチャー企業家との交流会を果たした。その柱となって奔走したのが平野である。今後は日中だけでなくアジア全体のベンチャーとの掛け橋となりたいと意欲を燃やす。根っからのがき大将で、面倒見がいい平野を慕う若手経営者は多い。開けっぴろげで裏表がなく、人を大切にする平野のリーダーとしての素質がフルキャストをここまで率いてきたともいえる。


 アジア太平洋大学では先輩経営者として教壇に立ち、後輩を激励する平野だが、アジアの留学生と日本の大学生とでは真剣味が違うと、今の日本の学生のひ弱さを憂う。だからこそ自分にあった仕事を一日でも早く見つけ、定職に就いて欲しいと奔走する。


「若者の就職・転職という分野で限りなくお手伝いしたい」という平野。若者応援企業としての姿勢がフルキャストの企業文化として根付いている。しかし一方日本の若者をどう生かしていくかという命題も背負っていることも確かだ。



■フリーター養成所にはならない

 最近定職に就かない若者のフリータが増加、社会問題となっている。若者を抱え、”手配師”として急成長を遂げただけに、「自分がフリーターの養成所になってやしないかと気になる」と打ち明ける。


 終身雇用が崩壊、就業する側も雇用する側も、よりフレキシブルな働き方を求めていることは事実である。そしてフリーターでも暮らしていける雇用環境ができつつあるのも現実だ。平野もそのことを憂い、適正を見つけ定職につくまでのインキュベーション的役割と位置付け、アルパーム制度の導入など正社員への後押しを強化している。


 バブル崩壊から十二年、フルキャストはバブル崩壊に苦しんできた日本の産業界が生み出した潤滑油ともいえる。新しい働き方を提案、日本の産業界を後押しする平野への期待は大きい。日本の若者に就業に対する神聖さと厳しさを伝授し、真の人材ビジネスでぜひ日本を活性化してもらいたいものだ。



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