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トピックス -企業家倶楽部

2014年11月11日

【松井忠三の経営道場】中 徹底した仕組み化で強固な会社を創る/良品計画代表取締役会長 松井忠三

企業家倶楽部2014年12月号 経営道場


前回は、人材の適材適所を行う方法について実例も交えながらご教示いただいた。今回は、店舗マニュアル「MUJIGRAM」、本社業務の内容を網羅した「業務基準書」など、全般的な仕組み化について語っていただく。

 



作って終わりの自己満足型マニュアルから抜け出せ

 弊社には、約2000ページに及ぶ「MUJIGRAM(ムジグラム)」と呼ばれる店舗のオペレーションマニュアルがあります。光栄なことに拙著『無印良品は、仕組みが9割』の売れ行きが好調であったこともあり、ビジネスマンの間では名前をご存知の方も多いかと存じます。

 一言でマニュアルと聞くと、おもてなしの心を重んずる日本人はマイナスなイメージを抱くことが多いでしょう。冷たい、画一的、機械的。そうした感覚を覚える方もいらっしゃると思います。

 しかしそれは、マニュアルを作り終えた時点がゴールになってしまっているからです。そして、そのような言わば自己満足型のマニュアルは、実際に業務を遂行していく上で何の役にも立ちません。

 世の中が動いている以上、私たちの業務にも大小の変化があって当然。その変化が常に取り入れられ続けなければ、マニュアルは化石も同然になってしまいます。

 私たちは、お客様からいただいたお声やスタッフの気付きをもとに、店舗業務の中で改善を行います。すると、その案はすぐに本部まで上がってきて、しかるべき審査の後、必要だと判断されればムジグラムに反映されるのです。

 変わった部分に関しては、店長会議で全て説明し、試験まで行います。各店長は店舗に戻ると今回差し替わった部分をスタッフに教え、把握してもらうのです。

 ムジグラムには、掃除から商品陳列まで、単なるやり方だけでなく「なぜその業務をしなければならないのか」という理由も明確に記載しています。

 仮に対応の仕方が分からなくなっても、このムジグラムを見れば全ての業務を一から理解することが出来るのです。マニュアルは常に最新の状態を保ち、それを全社で見える化できていなければなりません。



平均して9割の店舗を作る

 私がマニュアルを作らなければならないと思い立ったのは、西友時代に営業本部長を務めていた折のことです。

 新しい店舗を出店する際には、開店前日の午後6時頃に最終点検を行います。すると、ベテランの店長が応援にやってきて、色々とモノの配置などを直していくのです。

 当時の西友は個人に仕事のノウハウが蓄積するような社風でしたので、100人店長がいれば100通りのやり方がある。そして、部下たちは最初に上司となった店長の背中を見て育っていくのです。

 こうなると、翌日の午前10時に開店を控えているというのに夜12時を過ぎても点検が終わらない。これではダメだと私は悟りました。つまり、仕事の内容をある程度は標準化して、人に仕事を付けるのではなく、仕事に人を付けなくてはなりません。

 確かに、数ある店長の中でも数人は、他の人よりも遥かに早く、卓越した良い店舗づくりをすることが可能です。しかし、大概の店長は自分の裁量では及第点くらいの店舗しか作れない。120点の店舗が少しと60点の店舗が大多数という現状よりも、全店舗で80~90点のクオリティを出した方が良いと私は考えました。そこで必要となったのが、マニュアルだったというわけです。

 もちろん、ベテランの優秀な店長たちはこれに反発します。しかし、むしろそうした反対派の店長を作成委員に任命して、マニュアル作りを進めさせました。マニュアルは、自分たちで作らなければ役に立たない。そのためには、反対派をも抱き込んで良いものを作っていくしかないのです。

 最初は本部で作成していましたが、現場が分かっていない人が作っても使いにくいものしかできない。そこで、お店発のマニュアルになるよう心掛けてきました。

 私は3年間辛抱すれば何とかなると思っていました。新入社員はもはやムジグラムでしか教育されませんから、それだけの年月が経つと店長のうち半分くらいはムジグラムで育った層になります。

 マニュアルがあることで、最低限の部分に関してはスタッフの教育が自動的に終了した状態から業務に携わってもらうことができるのです。



新人でも即戦力に

 本部業務に関するマニュアルは「業務基準書」と呼ばれ、ムジグラムよりもさらに多く、全部で約6000ページあります。例えば店舗勤務から経理部に入ると、一人前になるのは大変です。しかし、この基準書通りに動けば、パソコンのスクリーンに映る画面まで全て書いてありますから、仕事の大枠は問題なくこなせる。2、3年もすれば、ノウハウも溜まって部の業務は大体出来るようになります。これは他の部署でも同様です。

 私は西友時代、経理部の役員が「経理部では一人前になるまで10年かかる」と言うのを聞いて、危機感を覚えました。確かに昔は経理というと特殊任務で、育てるのには時間がかかるため、外部から採用していました。

 ところが、そうした人々が一斉に退職したことがあり、決算もできなくなるくらい追いつめられたのです。さすがに懲りて、社内で一番優秀な社員を経理部に異動させ、一から業務を練り直しました。

 朝礼メニューもマニュアル化されています。朝礼は社内のコミュニケーションを図る上でもかなり重要な方法だと思いますが、やる人間によって内容がバラバラでは意味がありません。

 私たちの店舗では、パソコンを立ち上げると朝礼メニューが出てくるようになっています。これさえ見れば、その日に伝えるべき事柄が細かいものまで全て含まれているのです。画面に書いてある内容を把握して話をすればよいので、誰が行っても必要な項目が必ず全社員に伝達されるような仕組みになっています。


新人でも即戦力に

アイデアは他社から輸入する

 販売の仕組みに関しては、2000年当時に経営が苦しかった時分の体験が大きいですね。その折は、新規出店をしても成功率は約2割といったところ。残りの8割は計画を達成してくれません。

 キヤノンは新製品を出すと、計画のブレは上下3%。つまり、97%~103%の誤差に収まる精度だと言います。私たちもそのレベルまで持っていかねばならないと思い、地域ごとの人口や所得といった因子を全て分析し、無印良品との相関性を割り出しました。今では、出店するかしないかの基準も最初の部分は感覚値では無く統計によって決められています。

 経費節減という面でも、仕組み化が重要です。人員削減は逆効果になることが多いため、極力やるべきではありません。となると、基本的にやるべきことは仕事を無くすか、効率化するかということになります。

 しかし、同質の人間が集まっても良い知恵は出てきません。こればかりは社内に横串を通して人を集めても難しく、最終的に別の企業からヒントを持って来なければならないという結論に至りました。

 例えば、弊社の商品タグはファッションセンターしまむらに影響を受けています。私は本当に驚いたのですが、しまむらはあれだけ数多くの衣料品を扱いながら、たった3種類のタグで商品管理を行っていたのです。それに比べ、私たちは200種類以上。これでは勝負になりません。

 社員一同、弊社はボールペンからベルトまで、商品の種類が違うので仕方ないと主張しましたが、それで諦めてしまっては成長が無い。基本的には効率を上げるかコストを減らすしかありませんので、タグについては半分にすることを決め、最終的に100種類未満に減らすことに成功しました。

 無印独特の特殊なインクで染め、カタログまで打ち出して、点検までしていましたから、これで5億円かかっていましたが、種類を半分にしたことでコストは下がり、効率は上がりました。

 もう一つ、参考にしたのはウォルマートです。同社は什器を全部中国で作り、パートさんに組み立ててもらっていました。一方弊社は国内で作って国内のメーカーに組み立ててもらい、社員が陳列に入るというやり方。ウォルマートがやっていてできないことはないと思い立ち、什器を全部中国で作ることにしたところ、コストは4割削減されました。



ボトムアップを取り入れ経営の全体最適を図る

 これまで様々な事柄をトップダウンで決断してきましたが、何かの物事を社員に浸透させるには、社風の形成がとても重要だと気付きました。誰もが憧れるある有名企業から来てもらった役員が、前職の飲み会では会社か上司の悪口しか話題に上らないとの旨を話していて驚いたのも、そのように思ったきっかけです。

 改善や提案などをボトムアップで行える施策を取り入れようとして始めたのがWH運動です。Wは2倍、Hはハーフ(2分の1)。良いことは2倍やり、無駄は半分にしようという意味が込められています。首位打者賞といった賞も用意していて、その一例をご紹介しましょう。

 これまで、店舗が在庫を求める際の流れは、以下の通りでした。まずは店長が依頼書を書いて販売部に送付し、審査となります。その後、審査で許可が下りると購入部門は総務部か店舗開発部に依頼書を送り、それらが発注を管轄します。発注が出ると、それが取引先に向かい、約3週間後にお店に納品されるという仕組みです。

 ところが、ある社員が、店長が直接業者に発注したらどうかと考えたのです。もちろん、予算を握っている総務部や店舗開発部としては、発注を自分たちでコントロールしたいと考え、店長が無駄遣いする可能性などを主張します。

 実際に、販売部も総務部も経由せずに取引先に直接注文するようにしたところ、店長も経営者ですから費用をかけまいと無駄な発注はせず、最終的に3日で納品できるようになったのです。

 見事に効率化が図れたことを受け止め、社員には首位打者賞をあげたのですが、他にもこうした活動は盛んに行われています。すると、ボトムアップで経営の全体最適化を図るように動いてくれるのです。

 業務が複雑化している以上、一部門だけで解決できる事柄はほとんど無いと言っていいでしょう。3~4つの部門が協力しなければ上手くいかない業務が多い中、会社の中に部分最適が生まれるのが一番良くありません。企業の失敗の多くの原因がこれですが、私たちは自動的に全体最適になるような仕組みを作ることで、業務改善が下から上がってくるように心がけています。もちろん時々失敗することもありますが、こうした考え方は大事だと思います。


ボトムアップを取り入れ経営の全体最適を図る

トップ自ら挨拶に立つ

 次に、決まったことをきちんとやる風土作りをしました。私たちが行ったのは挨拶の徹底です。

 挨拶はコミュニケーションの基本です。声は大きく、そして笑顔でやればなお良いでしょう。それまでは、むすっと挨拶もせずに出社し、いきなりパソコンを開けて仕事を始める人が多かったのですが、これでは万事うまくいきません。

 というわけで、掲示などを行って挨拶を徹底するように呼びかけました。私たちは1回やると決めたら止めません。風土作りのため、ひたすらやり続ける。

 それでもうまく行かないので、今度は役員が立って、入り口で社員を迎えるようにしました。すると、自動的に挨拶をせざるを得なくなります。もちろん私も例外ではありません。午前8時から9時まで、来る人来る人、皆に挨拶を行います。

 ただ、本社勤務が600人もいると、たまにそれでも挨拶をしない人がいるのです。呼び出して叱っても仕方ありませんから、今度は彼らの直接の上司を立たせることにしました。これで、さすがに挨拶をしない人はいなくなりました。

 そのうち、私が立っていると緊張するので嫌だと言う声が上がりました。そこで、それまでの週2回から頻度を抑え、今では月に1回立っています。それでも、やはり中心となる人間は必要なので、「あいさつ隊」を募集し、現在は約35名の社員がボランティアで挨拶をしてくれています。

 このように、社風とは現場から作るものです。どんなに立派な社訓や行動規範を作り、幹部や店長会議で話しても、思う通りに人は動きません。もちろん上からトップダウンで共有すべき事柄もありますが、それだけでは不十分です。下からボトムアップで挨拶ができるようになれば、そこで初めてコミュニケーション豊かな、笑顔の絶えない社風が構築されます。

 これは決して難しいことではなく、現場で具体的にコツコツと最後までやり抜くことが重要です。こうした徹底力こそが、理想の会社に近づくための近道だと私は考えます。



計画5%、実行95%

 前述の通り、私たちは他社から学ぶことが多い。今回の論題であった仕組み化自体、実はしまむらのマニュアルにヒントを得て作成したものです。ただ、単に視察をして話を聞いてくるだけではいけません。それでは勉強をしたつもりになるだけで終わってしまいます。「計画5%、実行95%」というのは私のモットーですが、まさに実行しなければ意味が無いのです。

 今や、私たちの仕組みを参考にするため、多くの方が弊社を訪れますが、やはり自身の仕組みに落とし込めなければ役には立ちません。皆さんには弊社のマニュアルから本質を学び取っていただき、その上で各社の具体的な事例などを交えながら、真に実践的な自社だけの仕組みを作っていただければ幸いです。



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