トピックス -企業家倶楽部

2014年11月18日

80億人市場を舞台に世界一に挑むファーストリテイリング社長柳井正の執念

企業家倶楽部2014年12月号 緊急リポート


この秋、ファーストリテイリングが燃えている。ユニクロ吉祥寺店やグローバル旗艦店大阪梅田店を矢継ぎ早に出店。2014 年度リテーラー・オブ・ザ・イヤーを受賞、世界最優秀小売企業に選ばれた。それだけではない。大和ハウスと新会社を設立。ネット通販の即日配送に取り組む。10 月にはナイキやコカ・コーラのクリエイティブを手がけた世界的なクリエイター、ジョン・C・ジェイ氏を社員としてスカウト、企業そのものを再デザインすると宣言した。FRコンベンションでは4000 人の社員を前に、柳井正会長兼社長は「80億人の世界のマーケットが舞台」と檄を飛ばした。世界一をどんな手法で実現しようとしているのか。今のファーストリテイリングの強さに迫る。



INNOVATION + CREATIVITY=FUTURE

「我々は今後のクリエイティブ戦略として、世界的なクリエイターとして名高い、ジョン・C・ジェイ氏を社員として迎える。ジェイ氏には経営陣の一人として我々のグローバルクリエイティブを統括してもらう。そして一緒にグローバル化を進め世界を変えていく」

 
 10月7日、ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、居並ぶ記者を前に高らかに宣言した。そして自信に満ちた顔を上げ、さらに続けた。「これまでは情報の中心はヨーロッパであり、アメリカであった。しかし時代は変わった。我々は極東だが、新しい日本の企業として誕生した。本当のイノベーターは辺境から現れる。そこでジェイ氏と一緒になって新しいビジネスをつくっていきたい。そして服を通して世界を変えていく。我々はビジネスを通じて未来をより良い方向にもっていきたい。そのためにジェイ氏に加わっていただいた」

 突然の宣言に詰めかけた記者は柳井氏の次のことばを待つ。

「ジェイ氏との交流は1999年のフリースを発売したときからで、ユニクロのコンセプトを一緒になって再発見、定義した。そして『ユニクロはあらゆる人が良いカジュアルを着られるようにする新しい日本の企業です』という定義を編み出した。今我々のビジネスの拠点はヨーロッパ、アメリカ、アジアに広がっている。このプラットフォームの上にジョン・ジェイ氏と共に新しいビジネスを作っていきたい。我々が真のグローバルカンパニーへと成長を続けるなかで、世界的クリエイターと仕事ができる段階に来た」

 満足そうな表情で語る柳井氏は、スカウトに成功したジョン・C・ジェイ氏を紹介した。

 続いてジェイ氏が登壇。「世界が激変する中で、ファーストリテイリングの前には未曾有のチャンスが広がっている。そのビジョンに対して行動を起こすために加わった。FRの一員として働けることを嬉しく思う。枠にとらわれず企業の立ち位置まで含めて、あらゆるクリエイティブに携わっていきたい」と語った。

 ジェイ氏には我々のブランドがどうあるべきか、具体的な形や言葉としてどう表現されるべきか、判断してもらう、と語った柳井氏。当面は柳井氏と共に、様々な局面でのジャッジを行っていくという。

 会見の最後にジェイ氏と並んで写真に收まった柳井社長の目には、新しいステージに立ち、さらなる高みに駆け上がろうという執念と決意が見て取れた。


INNOVATION + CREATIVITY=FUTURE

我々が世界一になるためになすべきこと

 ジェイ氏スカウト宣言から遡ること一ヶ月の9月9日と10日の2日間、ファーストリテイリング(以降FR)のコンベンションが開催された。横浜の会場にはユニクロはじめGU、コントワー・デ・コトニエなどFRグループの全店長、役員、本社スタッフら約4000人が集まった。熱気に満ちた若者たちの半数弱は外国人である。エントランスホールには、英語、フランス語、中国語、韓国語など多彩なことばが行き交っていた。

 午後1時きっかりにFR54期上期のコンベンションがスタートした。最前列のど真ん中を陣取っていた柳井正会長兼社長が登壇すると、会場からは大きな拍手が沸き起こる。柳井氏が笑みを浮かべ語りだした。

「今朝は嬉しいニュースがありました。我々が応援している錦織圭選手が全米テニス大会で大活躍。残念なことに世界一は逃したが、素晴らしい活躍に感動しました。しかし、我々が世界一になるには何をしたらよいか」

 広い会場は静まり返り柳井氏の次のことばを待つ。「スタッフ一人ひとりが主役となり、個店経営を実現する」。この日のテーマを高らかに宣言。そして続けた。

「今、我々はグローバルな世界に立っている。売上1兆円の壁は突破した。次は3兆円にチャレンジしていく新しいステージに入った。戦いに勝つために原点を確認しておきたい。それは『真・善・美』です。真とは正しいこと、本物であるということ。善とは倫理的に良いこと、世界に善意をもって受け入れられているか。美とは本当に美しいものかということ。この真、善、美が我々の商売の根幹を成す。我々は今世界中から期待されている」。柳井氏の力強いことばが会場に響き渡る。そして売上高5兆円に向けて、ミッションではないがと断りながらも、3年後売上高2.5兆円、営業利益4000億円を目指す。そしてトップのスペインのインディテックス、2位のH&Mと並ぶグローバルトップ3に入ると宣言した。柳井氏の話はさらに続く。



世界80億人市場が舞台

「我々はグループ全体の資産をもっと活用、グローバルな最適配置を行っていく。そしてグローバルで300店舗出店体制をつくりたい。グローバルな働き方、価値観・原理原則を共有し、全社視点で全員経営を実現したい。世界はよい方向に進んでいる。グローバル化とフラット化が加速、インターネットのおかげで緊密に繋がっている。世界中で特にアジア圏は歴史始まって以来の大成長圏となっている。中産階級が増え市民権を得ている。我々はその成長センターのど真ん中にいる。今こそチャンス」

 ますます熱が入る柳井氏の言葉に会場は釘付けになる。「既存の枠組みを超えない限りチャンスはつかめない。リスクをとって国境を越えればチャンスが広がっている。困難な時代だからこそニーズが産まれる。これからは大企業がベンチャーのように敏速に動かないと生きていけない。仕事は自ら創り出すもの。仕事を見つけるのではなく発明するものです。世界の人口はもうすぐ80億人になる。日本は今のままだと1億人になってしまう。我々は世界80億人の商売に変わる。我々には世界中で働けるプラットホームがある。グローバルis ローカル。ローカルisグローバルです。

 我々は人として成長できる会社にしたい。その主役はあなた方です。しかし一緒に仕事をしているスタッフを主役にしないとあなた方は主役にはなれません。チャレンジとは不可能なことを可能にすること。自ら考え実行、毎日の商売を楽しんで欲しい。そして手を挙げる人を称える企業文化にしたい。我々は世界の成長センターのど真ん中にいる。1万%の未来を信じてやっていこう。その主役はあなた方一人ひとりです」

 柳井社長の力強いことばに会場からは大きな拍手が沸き起こる。そして主役を目指す4000人の一人ひとりの目が輝きだした。


世界80億人市場が舞台

「スタッフ一人ひとりが主役となり、個店経営を実現する」

 毎年2回開催されるFRコンベンションだが、今回のテーマは「スタッフ一人ひとりが主役となり、個店経営を実現する」。このテーマに従い、全世界で輝いているスタッフの活躍ぶり、そしてそれを支える店長、マネージャー等の頑張る姿が映像で示され、それをもとに、参加者全員で考え、共有するというプログラムである。

 では一日目のプログラムを紹介しよう。

 柳井社長の熱いメッセージの後、壇上にはこの日主役となるスタッフ十数人が並ぶ。そして「一人ひとりが主役」、「個店経営」を実践している事例が映像で紹介される。

 お客様を友人のように想い、お客様に尽くし喜ばれているパリのコントワー・デ・コトニエのレベッカさん。現地をよく知るスタッフとして店長を助け、業績向上に大きな役割を果たすユニクロUKのアガタさん。年配のお客様に人気で、この人がいるとフィッテイングルームに行列ができるという札幌郊外のユニクロで働く桑原さん。

 それぞれが自分の持ち場で輝いている様子が、ドラマチックな映像で紹介される。その後はファシリテーションを務める一橋大学の楠木建教授のリードで本人や仲間、上司、そして参加者全員が一体となって考え、共有する。

 特に、1日目の最後のプログラムに登場した今年63歳になる桑原さんの事例は、会場を沸かせた。勤続15年という彼女にとってユニクロの店舗は第二の家庭。お客様を想い、仲間を想い、ユニクロの職場を心から愛する桑原さんの姿勢が映像から伝わってくる。彼女にとってユニクロはなくてはならない存在であり、可能なら今後も仲間の役に立ちたいという。20代、30代の若手社員で埋め尽くされた会場からは、ユニクロにはこんなスタッフもいるんだという驚きと共に、その真摯な働きぶりが感動と涙を誘った。


「スタッフ一人ひとりが主役となり、個店経営を実現する」

スタッフとともに目指すもの

 2日目も会場は朝から4000人の熱気が溢れていた。この日は「スタッフとともに目指すもの」というテーマで3人の事例が紹介される。

 最初はオーストラリアの新店オープンで活躍する若い店長のケース。さまざまな失敗やハプニングに見舞われながらも、スタッフたちに支えられ、なんとかオープンにこぎつけた入社3年目の錦織店長の頑張りには、会場から拍手が沸き起こる。

 次はGU光が丘店で働くスタッフの事例。今年初めて開催されたコンテストに出場、惜しくも2位になった彼女が積極人間に変身していく姿が紹介される。最後はスタッフの信頼が得られず、苦しみながも自分の欠点を改善。絆を取り戻し、店長として成長していく事例が紹介される。

 2日目のファシリテーターはハーバード大学の竹内弘高教授。持ち前の明るさとユーモアで会場を沸かす。映像に登場した本人と、仲間・上司と共に、どうやってスタッフを輝かせるかについて、気づかせ、考えさせる。

 2日目最後のプログラムは新人店長任命式である。この日は全世界のFRグループから241人の新店長が誕生した。さまざまなパフォーマンスで舞台に登場した新店長は、それぞれのブランドの社長・上司に迎えられ、笑顔でステージに立つ。この感動をもとに世界で活躍するのだ。「2~3年前と違い、最近のFRコンベンションは面白くなったね」と笑顔を向ける竹内教授のことばに、若手を育成、全員参加で新たなステージに立つというFRグループの強さが見てとれる。


スタッフとともに目指すもの

愛と絆で世界一を勝ち取る


 2日間のプログラムの最後に登壇した柳井社長は第一声、「会場の皆さんに勇気をもらった。心の繋がりをもらった」と語った。そして、「店は店長次第、店長が情報をシェアしてお客様の期待を超える。それぞれのブランドは違うが、店舗スタッフが主役となり、お客様の思いに寄り添うことが大切。目の前のお客様に喜んでいただくことが大切。スタッフが主役ということはお客様視点ということです。店長より、現場のスタッフの方がよく知っている。やらせて、やって、シェアして勉強する。店長はスタッフを守り、スタッフは仲間を信じ店長を支えてもらいたい」

 そして自分には似合わない言葉だがと前置きしながら、「最後は愛だと思う。お客様への愛、仲間たちへの愛、ブランドへの愛、FRグループへの愛、世界への愛である」と結んだ。

 できないスタッフを切り捨てるのではなく、スタッフ一人ひとりを思いやり、輝かせるにはどうしたらよいのか。高い目標を達成するために必須となるチームワークのつくり方など、参加者一体となってのコンベンションに、FRグループの新たな強さを見た。

 4000人の社員を前に、皆さんに勇気をもらったと、力強く語った柳井社長。この秋ジョン・ジェイ氏を迎え新たなステージに立った今、この社員たちとなら戦いに勝てるという確信を持ったからであろう。世界80億人の市場を舞台にグローバルワンに挑む柳井社長。その野心と執念は誰にも止められない。



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