2014年12月09日
【海外リポート】vol.4 インドネシア「変身大国」浮上へ/小牧利寿
企業家倶楽部2014年12月号 海外リポート
この10月20日、インドネシアにジョコ・ウイドド新政権が発足した。初の庶民派大統領として国民の強い支持を背景にした新大統領の手腕に内外の期待は大きい。ユドヨノ前政権が十年かけて築いた政治・社会の安定、経済発展の土台をどこまで発展させることが出来るか。まずは、経済面の出発点の現状を押さえておきたい。
「インドネシアの経済規模 世界の第10位」。
ことしの5月中旬、最有力紙コンパスをはじめインドネシア各紙にはこんな見出しが躍っていた。世界銀行が発表した購買力平価換算で見た各国の国民総生産(GDP)のランキングによると、インドネシアが初めてトップ10のリストに顔を出したのだ。ジャカルタの道路渋滞に悩まされている在留邦人ビジネスマンも「そこまで来たのか」と妙に納得された方も多かったに違いない。
上位10カ国のランキングは(表1)の通りである。米国、中国、インド、日本、ドイツと続く国々は大国または先進国と言われる国ばかりである。しかもインドネシアの後にイタリア、スペイン、韓国、カナダといった同国に経済援助をしている国々が並んでいる。世界第4の人口大国であることは知っていて、経済的にはまだまだ力の弱い発展途上国と自らを見なしていたインドネシア国民の多くが胸を張った。
国民一人当たりで見ると、ランキングは世界の107位とまだまだ低いものの、その点では中国(99位)インド(127位)と事情は同じである。インドネシアメディアの中にはその辺に着目、「世界10 位になったとしても、決して我々が豊かになったわけではない」とクールな受け止め方もある。 それでも世界銀行という権威には弱いのがインドネシアの人々である。ユドヨノ大統領も「我々の努力が数字になってあらわれた」と述べ、大いに自分の国に自信を付けた政治家も少なくなかったようだ。
この購買力平価で上位10カ国に登場した背景は近年の政治の安定である。1998年のアジア経済金融危機でもっとも大きな影響を受けたインドネシア。30年続いたスハルト長期独裁開発体制が崩壊し、その後しばらく政治、経済ともに大きな混乱が続いて来た。最終的に政治の民主化に成功したことが経済発展に結び付いた。
2004年には国民の直接選挙による大統領選挙の実施にこぎつけ、スシロ・バンバン・ユドヨノ氏が初の民選大統領として登場したことで政治、経済ともに次第に落ち着きを取り戻したことは読者の方々も御承知の通りである。この結果、経済成長率はほぼ6%前後を維持したことで、GDPは確実に上昇した。一人当たりでも2014年には4000ドルをうかがうところまでこぎつけた。
さらに最近では、かつてのインドネシアでは考えられなかった予測も出ている。米国の大手会計事務所プライス・ウオーター・ハウスによると、インドネシア経済は成長を続け2050年には総額で日本と肩を並べるところまで拡大する。同社だけではなく米国の大手金融機関研究チームも同様の発表をしている。インドネシアが保有する広大な国土、人口、各種資源が有効に活用されれば、インドネシア経済が日本と肩を並べることになる。
インドネシアの経済が好転している状況をうかがわせるのはこれだけではない。日本の国際協力銀行が2013年11月に発表した日本製造業企業の海外展開に関する「中期的有望事業展開先国・地域」という調査(表2)がある。その中に向こう3年をめどとした場合、投資が有望と思える国、地域を企業にアンケートで答えてもらう項目がある。この結果は日本企業の目から見た各国投資環境の評価を反映する。
今回の結論の一つは「インドネシアが初めて第一位になりました」だった。詳細は表をご覧いただきたい。1位はインドネシア、2位はインド、3番目はタイ、そして過去一貫して首位を続けていた中国が4位に後退した。中国の場合、賃金上昇などによるコストアップといった経済的要因のほかに、尖閣諸島問題などで外交関係が緊張している事情もあるにはあっただろう。
この国際協力銀行の調査、日本企業による投資先の見方の変遷が分かるので興味深い。で、インドネシアを見ると、アジア金融危機前の1997年は中国、米国に続いて第3位につけていた。エネルギーをはじめとする豊富な資源、東南アジアで最大の市場規模、スハルト長期独裁政権下での政治、社会の安定といった要素が長年にわたって日本企業の評価点になっていた。
ところが、金融危機に端を発したインドネシア経済の破たん、政治、社会の混乱などで、インドネシアを重要視してきた日本企業もさすがにいやけがさしはじめた。インドネシアを長く知るビジネスマンが口を揃えて「インドネシアも普通の国になってきたのですかね」となげき始めたのはこのころである。
一方、このインドネシアと入れ替わるようにベトナム、ロシア、ブラジルといった日本企業に目新らしい投資先が次々に浮上してきた。とりわけこれまで馴染みのなかったロシアが日本企業のアプローチを始めたことで、米国を除けば新しい投資先を東南アジアで探していた日系企業には大きな魅力として映った。このようなライバルの登場でインドネシア人気は2006年には9位まで後退した。
インドネシアの人気が上昇に転じるのは2007年からである、2004年10月に発足した第一次ユドヨノ政権で、まず政治状況が落ち着きを取り戻し、経済も軌道に乗り始めて、離れていた日本企業の目が再びインドネシアに向かい始めた。その後はほぼ一貫して順位を上げ続け、2013年の調査でついに1位になった。インドネシアが日本企業の目に昨年の勢いを取り戻したかのようだ。
人気度だけではない。同国の外国投資受け入れ窓口である投資調整庁(BKPM)によると、2013年の日本企業のインドネシア直接投資額は50億ドル近くとなり国別では7年ぶりにシンガポールを抜いてトップに立った。BKPM東京事務所によるとシンガポールからの投資額には日本のシンガポール拠点からの投資も含まれており、実際には日本の投資額はもっと大きいはず、という。
正直に言って、読者の方々がインドネシアに持っておられる印象は必ずしもいまだに良いとは言えないだろう。経済的、社会的側面に絞って言えば、「人々の生活が貧しい」「技術的に遅れている」「各種施設も十分でない」「不衛生」といったものであろう。確かにインドネシアの社会全体を個々に見渡せば、そのような指摘は間違っていない。しかし、経済的のマクロデータを見れば、過去に比べて明らかに改善していることは間違いない。
第5回目ではインドネシア経済が明らかに大きくなり始めたことを認識してもらえればよい。
小牧利寿(こまき としひさ)
1948年4月生まれ、72年東京外国語大学インドネシア語科卒。同年日本経済新聞社入社。自動車産業キャップなどを経て87年から6年間ジャカルタ支局長。93年から編集委員。マレーシアのマハティール首相はじめ東南アジア4カ国首脳の「私の履歴書」も担当。
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