• トピックス
  • 企業家倶楽部
  • バックナンバー
  • 企業家チャンネル

トピックス -企業家倶楽部

1997年04月27日

【伊藤園特集】伊藤園、急成長の秘密を探るⅠ 顧客に直結する販売軍団/激戦区を勝ち抜く ルートセールス商法

企業家倶楽部1997年5月号 特集第3部


伊藤園躍進の秘密はルートセールスにあるといわれる。しかし、その実態はこれまで明らかにされていない。取材班はセールスマンの一日を追って、同社の営業の原点に迫った。そこには、“一営業員一商店主”という凄まじい企業家魂が息づいていた。



一人ひとりが商店主。その心意気が揺るぎない信頼関係を生む

 朝八時過ぎ。そぼふる雨の中、伊藤園本社にほど近い新宿支店には、営業マンたちが次々に出社してくる。

「ITOEN」のロゴいりジャンパーに身をつつんだ総勢十八人の営業マンは、四グループにわかれ、ベンダー(自動販売機)と小売店をそれぞれ二グループが受け持つ。支店のオープンは四年前。もともと一拠点だった新宿地区を、件数の急増で二拠点にわけたという。

 取り扱い数は、ベンダーと小売店をあわせて九百三十軒あまり。九六年度の年間売り上げは九億四千万円に達し、「一、二年目に積み上げた新規の実績が、ようやく数字に出始めた」と支店長の佐藤喜彦はいう。 担当地域は、西新宿と歌舞伎町界隈。狭いテリトリーの上、オフィスビルが多く、コンビニなど業態の入れ替えが激しい、まさに激戦区である。

 小売店担当で入社三年目の神宮大に話を聞いた。実家は長野で兼業農家をしているという神宮は、大学も農業関係に進み、食品業界への就職を希望。入社の動機は、おもしろい商品が多くて、お茶という日本の文化を広げていくビジネスに共感を覚えたからだという。

 現在は、一日平均で二十軒を回るという神宮も、初めのうちは、とても全部回り切れず、夕方、支店に戻ってから電話で謝ることも度々だった。決まった時間に来ない、と客からクレームが入ることもあった。そんな経験から、時間管理の大切さを思い知ったという。

「地域性だけみて効率よく回ろうと思えば、二十軒は容易に回れるけれど、相手の業種によって訪問する時間が異なるんです。酒屋なら朝一番。パン屋は昼間が忙しいので、夕方になるし、薬屋は夕方が会社帰りのOLで混むから別の時間に行かないと迷惑になる。その辺りの事情をよくふまえて、回り方を考えます。また、在庫管理も大切な仕事ですから、納品がない時でも、週三回は定期訪問してチェックしますね」

 伊藤園の特徴ともいえるこの「ルートセールス」。問屋を経ることなく、メーカーが小売店に直接卸す流通の仕組みだ。これは、コカ・コーラが日本に上陸した際に話題を呼んだシステムだが、伊藤園にとってはそうせざるを得ない事情があった。

「のれん商法」が大勢を占める茶業界は、旧態依然とした古い体質。問屋とメーカーの間には、厳然たるつながりが出来上がっており、新参者はなかなか相手にしてもらえなかった。問屋に卸したくても卸せない、その逆境がルートセールスという発想につながったのである。

 こうして、お茶屋からスタートした同社も、飲料業界では最後発ながら、無糖飲料という新ジャンルを生みだし、いまでは業界のトップレベルを走る。飲料メーカーの多くは物流を問屋へ委託しているが、伊藤園はルートセールスという独自の手法を崩さない。その強みは、信頼関係にあると社(やしろ)三雄(取締役商品企画部長)は指摘する。

「創業以来、うちは販売店とダイレクトにおつきあいしてきました。とにかく、セールスマンが足を運ぶ、これが創業以来の方針です。ものを売る場合の基本は、何といっても信頼関係なんです。それを築くには、商品ありきを前面にだすのではなく、営業マンがお客さんとの接点を大切にしていくことが必要。問屋制にして、商品だけ物流するという商売は、うちの社風に合わないんですよ」



ものを売るより、人を売れ

 その社風を表すものとして、創業者で現会長・本庄正則がつくった社是があるという。

「お客様を第一とし、誠実を売り、努力を怠らず、信頼を得るを旨とする」――。自身も自動車のセールスマンを六年間経験し、消費者の欲求をじかにつかめるルート販売の良さを、肌で感じてきた本庄ならではの言葉といえよう。

 言い換えれば、お客様第一主義。客の困っていること、必要としていることは何かを常に考え、それに対応していくことである。と、言葉でいうのは簡単だが、その実践は容易ではない。入社後の三年を営業マンとして過ごした社も、いかに信頼を得るのが大変なことか、痛感させられたという。  

「商品が売れる、売れないといったことは、いくらでも理屈がつけられるんです。結局、現場でものの流れを動かすものは人間関係。入社した頃は、ものを売るよりも、まず人を売れ、とよく言われましたね。その地道な活動の連続が、会社の維持発展につながっていくんだと思います。企業体質がルートセールスですから、他の飲料メーカーのように宣伝力をもって華々しい世界で戦っていくのは似合わない。いち商店主に目を向けながら、地道に信頼を得ていくのがうちのやり方なんです」

 そんな日々の営業をしながら、営業マンは新規開拓をしていく。新人のうちは飛び込みばかりだったが、年月が経つと、既存客からの紹介が多くなる。この辺り、ルートセールスのフォローの良さが、確実に実績につながっているといえよう。

 再び、神宮に戻ろう。新規開拓の営業方法は、人によってさまざまだが、神宮の場合、曜日によって既存ルートと新規開拓を配分しているという。

「車で回りながら、新規の目星をつけるんです。会社帰りの飲み屋や、休日の新宿でも、常に開拓先はないかという視点はなくならない。ルートセールスは孤独な作業だから、マインドコントロールが大事なんです。自分で気合いを入れるしかない。その意識レベルは、みんな高いですよ。それは、私たちが努力した結果を、会社が公正に評価してくれるからだと思いますね」

 社員のやる気を引き出すという意味では、さまざまな報償制度がある。その内容は、会長賞、社長賞、フロンティア賞、努力賞など。新茶のシーズンである五月に、全社大会が行われ、その席上、成績優秀な営業マンには表彰状と金一封が贈られる。賞によっては、ハワイ旅行もプレゼントされる。また、給与に関しても、ベースアップやボーナスは、完全に実力主義。「公平を嫌い、公正を好む」という方針が貫かれる。ちなみに、ボーナスの差は、一か月以上つくという。

 神宮は、入社以来、毎月一軒の新規開拓を続け、今年度は月二軒のペースにアップ。新宿支店に課せられた一人当たりの年間ノルマは、小売店(手売りのみ)が十軒、自動販売機が五台というから、その実力がわかる。支店長の佐藤は、「実際、この激戦区で月に一軒とるのはかなり厳しい。たとえば、この地区で自動販売機を一台とれれば、その売り上げは他の地区の五台分ぐらいに匹敵する。今年は、彼を努力賞に推薦するつもりですよ」とコメントする。

 その佐藤自身、十年前、不動産関連の会社から縁あって伊藤園に移って以来、営業一筋に生きてきた。当時、ドリンクの販売部隊として曙橋に事務所ができてから、一貫して新宿地区を担当。新宿支店オープンと同時に、支店長に就任したのである。 前の会社でもセールスマンとして活躍していた佐藤は、伊藤園の強みをこう分析する。



ルートセールスだから客の顔が見える

「末端の客の声を知っていること。これがポイントですね。それは、客は何を欲しがっているか、売り場の最先端では、どんな商品が売れているのかといった情報が、直接入ってくるルートセールスだから可能なんです。その上、部長であろうが役員であろうが、商品企画や情報システムといった本社スタッフであろうが、何かあるとすぐ現場を見たいといって営業マンに同行する。まさに徹底した現場主義なんです。その辺り、小回りが利くというか、機動力のある会社だと思いますね」

 そういった意味での力はあるが、営業トークはまだまだと佐藤はいう。問屋はトークで売るが、うちは汗で売らなくちゃいけないんだと。だから、営業マンには「愛で売れ、配達屋じゃいかんぞ」と常に言葉をかけるという。

「伊藤園の営業マンは、一人ひとりが商店主だと思う。佐藤商店であり、神宮商店なんです。一日の営業が終わって疲れていても、支店に戻り、翌日の回り方を考え、納品書をチェックし、新規開拓の戦略を練る。その心意気は、一人ひとりのお客さんの顔が浮かぶからこそ生まれてくるんです。これこそが、ルートセールスの強さだと思いますよ」

 伊藤園の売上げ千百八十五億円(九六年度)のうち、原材料(リーフ)は約一〇%、百二十二店舗ある直営専門店「茶十徳」が五%であり、実に八五%までをルートセールスが占める。九七年四月で総支店数は百二十店舗。これを二〇〇〇年までに二百支店に増やすという。営業拠点拡大に伴い、ここ数年は三百人にのぼる新卒採用を続けている。

 また、五年前に数百台からスタートした自動販売機の普及も順調に伸び、現在四万台。うち二割をオフィスや集客施設の多い東京地区が占める。

 全体の七割がフルベンダー。つまり、売れ筋商品のレイアウト、商品補充、在庫管理から現金回収、ゴミの処理まで営業マンが一手に行う。一台のベンダーで、多いものでは月百~百五十万円の売りが上がる。最低でも月五万の売り上げが目安で、効率の悪いベンダーは、先方と話し合い撤退することもあるという。ただ単に台数を増やそうとはしない。きめの細かいフォローをできるルートセールスだからこそ、状況に従い臨機応変に対応ができるというわけだ。

 このところは、コンビニやスーパーから、一括配送の要望の声もあり、地方の一部では、指定問屋への納入という形も多少はある。だが、あくまでもルートセールスが基本姿勢なのは変わらない。

 過当競争の飲料業界にあって、毎年百億円の売り上げアップという快挙の背景には、ルートセールスで培ってきた信頼関係、そして確固たるフィールドマーケティング力があるといえるだろう。



缶パッケージをメディアに活用した「お~いお茶新俳句大賞」

 さて、これまでは主に伊藤園と顧客の間のコミュニケーションという観点から、その強さを探ってみた。ここで忘れてならないのが、消費者とのコミュニケーションツールともいえる「新俳句大賞」の存在である。 コンビニや自販機で買い求めた「お~いお茶」を飲みながら、缶に印刷された俳句を楽しむのも、今では当たり前のようになったが、いったいこの企画誕生の背景には何があったか。実は、ここにも最後発ならではの逆転の発想が潜んでいた。

 その誕生は、今から八年前の八九年。わが国で初めて日本茶を缶飲料にすることに成功し、発売五周年を迎えた頃のことである。

 ちょうど、その前年に煎茶というネーミングを「お~いお茶」に変更したのがきっかけだ。ネーミングの変更は、煎茶が茶業界の言葉で、一般にはあまり普及していなかったことに起因する。より消費者に訴えるメッセージ性のある名前はないかと考えた挙句、かつてリーフのCMで使用し商標権をもっていたこの言葉に光が当てられた。家庭的な雰囲気を伝えるには、絶好のネーミングだったのだ。

「お~いお茶」というブランドを背負い、消費者とどんなコミュニケーションをしていくのか。そこで生まれたのが、パッケージを使うという発想だった、と広告販促部長の丸橋晶はいう。

「事情から言えば、宣伝費が圧倒的に少なかった。ルートセールスは人件費がかかるから、マス媒体にCMをバンバンうって、キャンペーンを張るという体制が敷けない。そこで、パッケージプロモーションを思いついたんです。缶パッケージは、ある意味でメディアとして活用できる。その一部を開放して、何らかのコミュニケーションができないだろうかと考えました」

 では、なぜ俳句なのだろうか。それは、時代背景がキーになった。

「ちょうどこの年は、松尾芭蕉の『奥の細道』三百周年で、俳句が静かなブームを呼んでいた。その前年には、俵万智の『サラダ記念日』がヒットし、短文での自己表現ブームの兆しが見えていたんです。お茶は和の世界だから、俳句に関して何かできないだろうかと思いついた。でも、従来通りの俳句では、季語や定型といった細かい約束があり、誰でも気軽に参加ができない。そこで、縛りにとらわれない自由な表現ということで、『新俳句大賞』を設置したわけです」

 反響は驚くべき数字になった。丸橋は第一回目の応募数を五千句程度と予想した。協力をお願いした俳句の専門家も、「俳句のような地味なコンテストで、一万句の応募を超えることは、まずあり得ない」と口を揃えた。  ところが、蓋を開けてみると、応募数は実に四万千三百七十三句。以来、その数は年々増加し、今年二月末に締め切った第八回の応募総数は五十三万句以上。創作作品の公募キャンペーンとしては、日本最大規模にまでなっている。

 毎年、部門数を増やすなど企画を変化させていったことも応募者が年々増えた要因だろう。第一回目は、一般・大学生・高校生以下の三部門でスタートしたが、海外からの応募もあったことから、翌年には英語俳句部門を設置。今では小学生の部から、一般、海外まで含め八部門。国語教育の一環として、学校ぐるみで応募されるケースも多い。現在、海外三十七カ国から句が集まり、今年は、ペルー日本人学校の生徒達から日本大使公邸事件を詠んだ句も届いているという。

「これほど大規模なイベントになるとは、当初は予想もしませんでしたね。応募に際し、大々的に宣伝したわけでもないですから。毎年、十一月三日の文化の日に応募要綱を、七月七日の七夕に結果を、それぞれ新聞発表するだけです」

 とはいえ、そのアフターフォローにはぬかりがない。過去の入賞者へは、年二回にわけて大賞関連の情報を掲載したペーパーを送付。毎年、新しい入賞者を加え、いまやその顧客リストは六万人に上る。

 そして何よりも、入賞した三百人の俳句が、缶に印刷されるという企画のインパクトが大きい。大賞スタート当時で、一億本、現在では三億本強もの「お~いお茶シリーズ」に自分の作った俳句が掲載されるのだ。そのお茶を飲んだ消費者が、ふと俳句を目に留め自分もひとつ応募してみようか、と思う。こうして、新俳句大賞の輪が広がっていくのである。

「俳句を頂いて、商品パッケージを発表の場に提供する。私たちはそれを、感動のキャッチボールだと思っています。常連の応募者が多いのも、その辺りを評価して頂いていると自負していますね」

 宣伝費がないという、ある意味では苦肉の策で始まった新俳句大賞。国民的飲み物が、まさに国民的行事を生んだといえるだろう。



他社の真似はしない

飲料メーカーの最後発。その逆境が、伊藤園の強さにつながった。ルートセールス然り、商品企画然り、広告宣伝然り。こうして、お客様第一主義という、「言うは易し行うは難し」の企業文化を、脈々と築き上げてきた。それはまさに、「人の行く裏に道あり花の山」ではないか。その言葉を社に向けると、大きく頷いてこう続けた。

「社長との話でも、常にその言葉がでる。横並びや物真似は大嫌い。他がやっていないことを考えないことは罪であるという風土があります。お陰様で八九年からは、毎年百億アップの急成長を遂げてきましたが、調子のいい今だからこそ、内側をうまく固めないと烏合の衆になってしまう。」

 伊藤園文化の継承は、一枚岩の団結力をどこまで維持できるか、これからが勝負所である。



コメントをシェア

骨太対談
 
コンテンツメニュー
企業家賞
企業家倶楽部企業家大学
Page Top
日本のオンラインカジノでオンラインでプレーすることの本当の魅力は、実際に交流するプレーヤーがいないという事実です。 ご存知かもしれませんが、多くのプレイヤーは賞金を他の人と共有することを望んでいません。 したがって、彼らは楽しみのためにプレーし、お金を失うリスクを冒すことはありません。 その結果、ゲーム全体をオンラインで無料でプレイできます。 日本のオンラインカジノ これは、お金をかけずにゲームをプレイしたい人に最適です。 しかし、あなたが本当のオンラインカジノで本当のお金を勝ち取ろうとしているなら、あなたはいくつかの秘訣と戦略を学ぶために読み続けたいと思うかもしれません。