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トピックス -企業家倶楽部

2014年12月26日

本物ベンチャーキャピタリストの条件 日本の成長戦略に必要な視点/日本テクノロジーベンチャーパートナーズ投資事業組合代表 村口和孝

企業家倶楽部2014年12月号 日の丸キャピタリスト風雲録 vol.40

Are you venturecapitalist?

 1984年アップルが上場して4年後、学生の身分ながら、私が初めてシリコンバレーに行き、レンタカーでベンチャーキャピタリストの事務所を訪問した。アジアで最初のベンチャーキャピタリストとなることを目指したのだ。その後、日本でベンチャーキャピタル会社に就職し、1984年から1998年まで14年間、組織のサラリーマンとして、まるでドラマ半沢直樹のように、組織人として仕事をした。

 私はずっと、好成績を収め、国内で数々の成功事例を創った。ただサラリーマンとしては、国内投資営業担当だったので、海外に行く機会もなく、仕方なく夏休みや冬休みを利用して、私費でシリコンバレーを訪問した。聞かれた質問が、「Are you venture cap italist ?」。日本での投資活動をあれこれ説明し、言われたセリフが、「You are NOT venture capitalist.」 。ショックを受けた。



本物ベンチャーキャピタリストの条件

 1998年イスラエル私費旅行を契機に、会社を退職し、堀場製作所創業者の堀場雅夫氏らの協力によって、自分で個人が責任を負う独立ベンチャーキャピタルファンド(LP)を設立した(NTVPi-1号)。それは、たまたま投資事業責任組合法の成立によって、日本初の投資事業組合ともなった。

 独立をしてから15年間、楽しいことや辛いこと、成功した投資や失敗したものや、様々な経験を積んだ。ふと振り返ってみると、サラリーマン時代に経験しなかったことをずいぶん経験させてもらった。ここで、本物のキャピタリストが経験すべきことを12列挙してみる。なるほど、こんな経験をしていないようでは、キャピタリストではないと言われて仕方がなかったと、今になって思うのだ。

1.ファンド参画設立・運営経験

 自分がGP(業務執行組合員)となって、出資者から資金を出して貰い、自らもGPとしての種銭(ファンド総額の1%)を投資して、LP(投資事業組合)を設立したか?そのためにも、LP契約書を、自分で弁護士と相談して設計したか?毎年、毎半期、LP決算書を作り、監査を受け、出資者にちゃんと報告したか?ということだ。

 組合決算は12月決算が多いので、キャピタリストは1月レポートの作成と監査対応に追われていることが多く、3月には組合集会(いわば株式会社の株主総会)を開催して、組合員に説明する。うまく行っている時は良いが、うまく行っていない時こそ誠実に説明が必要で、額から汗が出る。

 この作業によって、一見ベンチャーキャピタリストは、ファンドマネージャーみたいに見えるが、実は違う。なぜなら、まず、投資の目的が創業立上げなので、運用期間が平均十年と非常に長い。また普通のファンドマネージャーとは違って、自分で出資しないといけない。ある程度金がないと、キャピタリストはLPを設立できない。だから、キャピタリストのスタートアップ立上げは、自分の出資分を確保しなくてはならないので、個人的な資金繰りとの戦いになる。

 今度いったん成功し始め、キャピタリストとして成功して二周目になると、手元資金が潤沢になって、自分が設立する組合にどれだけ資金を投入すべきか、迷うことになる。日本でやっと2000年頃に出来たLPファンドが回収して二周目、三周目に入りつつあり、本格的なキャピタリストが日本に登場しつつある。

2.税務対応経験

 GPとして自ら個人で確定申告したか?ということで、春になると毎年、キャピタリスト個人の税務申告するのだが、非常に複雑である。税理士と相談しながら、金融所得、事業所得など、所得区分に注意しながら公正に納税しないといけない。これは、源泉徴収制度に依存したサラリーマンの税務とは、抜本的に異なる体験だ。

 キャピタリストがLPで投資成功すると(例えば私の組合で、DeNAへの投資で成功するなど)、当然、所得が増えることになる。私自身、2006年から何度も事務所に税務調査が入り、複雑な投資契約と資金の流れについて、説明した。何しろ日本で個人でGPを申告する日本人がそれまでいなかったので、税務当局にとっても初めての体験だったと思う。本物のキャピタリストは税務調査を何度も受けることになる職業だ。 また、納税作業の過程で私が考案し、2006年3月日経夕刊コラムで提唱した「ふるさと納税」が翌年制度になった。

3.会社設立経験

 創業設立会社の一員となったか?設立登記を経験したか?定款を作ったことがあるか?優先株設計経験あるか?と言うことだが、ゼロの状態から創業する経験を積んでおくことは、キャピタリストとして活動する上で大変重要である。そこが体験的に理解できないということは、起業家がなぜ創業して、どんな体験をしたのか、共感する事が難しいからだ。

 私の場合、現エクスペリアンジャパン(元ヘルスケアネット、創業者有田道生社長)の創業時の社外取締役となった。

4.事業構想経験

 起業家もキャピタリストも、長期的な時代の産業フロンティアのトレンドを見ながら、事業を立ち上げようとする。当然、十年も経てば時代が変わり、経済環境や、消費行動の動向が変化していく中で、判断を柔軟に変更していく、つまり、常に経済の動向を観察する目が必要だ。

 特にキャピタリストは、未来仮説に基いて、長期産業・技術トレンドを読みながら、事業の未来構想を常にああでもない、こうでもない、と組み立て続けなければならない。私は、パソコン通信体験を通じて、インターネットの将来性に強い可能性を感じ、また、XMLという情報記述言語と出合ったことで、インターネットが高度に変化する事を確信した。また、CPUやメモリが、ムーアの法則によって集積度をあげ、いわゆるIT革命がすべてを変えて行くだろうと確信したから、DeNAに投資をした。

 古い話だが1991年頃、まだ介護保険法が制定される4年ほど前に、超高齢化社会がやって来ることを出発点に、産業の未来仮説を組み立て、日本で初めて介護で上場したジャパンケアサービスの創業期に投資した。天然水の宅配事業のウォーターダイレクトは時代の要請に応えるものであると確信したし、事業構想を豊かに持って時代を創っていく体験が必要だ。

5.取締役経験

 未上場投資先取締役経験があるか?また、上場会社の取締役経験があるか?未上場企業も上場企業も、取締役の責任と仕事の中身は同じだと思うが、組織がすでに出来上がっている上場企業のあまりに形式的な(本音の出にくい)取締役経験は、本音バリバリで言動することが必要なキャピタリストの経験には、役に立たない。

 実は創業ベンチャーの取締役経験の方が、組織が何もないので、すべて忠実責任で何でも対応しなければならず、大変だ。創業ベンチャーの取締役を経験した事のないキャピタリストなど世の中にいない。キャピタリストの力量とは、取締役に就任してちゃんと生産的な活動が出来るかどうか、にかかっていると言っても過言ではない。ただし、事業の立上げ経験のない次行現場の経験の浅いキャピタリストが、取締役会でバリバリ発言し過ぎると、これはこれで厄介なことになる事が多いが。

 キャピタリストと企業の関与の場の大半が、取締役会という場合が多いので、ここを通じての活動は大変重要になる。特に利益相反と競業避止義務は、取締役としてキャピタリストが活動する上で、注意しなければならない事であるが、活発に活動する業界で有力なハンズオンのキャピタリストであればあるほど、ぎりぎりの調整が常に必要となる。しかも、キャピタリストは同時にLPファンドのGPとして、出資者への忠実責任もあるので、契約に基づくバランス感覚が大変重要だ。

 もちろん、経営が軌道に乗せる踏ん張り時の、取締役会外の活動も重要だ。

6.事業立上げ経験

 新しい事業の立上げに関わったことがあるか?事業撤退に関わったことがあるか?特許戦略に関わったか?提携など重要契約に関わったか?

 商品やサービスを仕入先や提携先と協力しながら、市場に出すのは大変骨の折れる試行錯誤のプロセスである。会社経営の根幹が商品と顧客なので、価格戦略、マーケティング戦略、仕入生産在庫戦略など、最適化に関する知見が重要だ。特許に関する判断を求められることも多く、申請にも、特許成立後の維持にも経費が掛かるため、まったく体験がないでは済まされない。

7.人事政策関与経験

 投資先幹部採用、解雇に関わったか?結局は人が企業を発展させていくので、幹部にどんな人をそろえるか、ってすごく重要だ。どんな人が、どんな会社立上げのタイミングで参画すべきか、そうでないか、人事の構想が描けないと、本物のキャピタリストとは言えないだろう。大企業の小型版みたいな組織を作れば、ベンチャーが成功するなんて間違ったイメージを押し付けるキャピタリストなどは、会社を官僚主義にしてしまう残念な結果にしてしまう。

8.資本政策経験

 資本政策とは、創業ベンチャーの増資による資金調達をどうするか、という矛盾だらけの問題に解を与える、非常にデリケートな金の絡む作業である。優先株や、ストックオプションの企画も必要になる。さらに投資契約書を作成し、LPファンドからの出資作業をしなければならない。また事業買収、事業売却に関わったか?これは、事業立上げの経験と、資本政策の経験と両方の経験を投入して判断できる難しい作業だ。

9.上場作業・売却経験

 投資先の上場作業に関わったか?監査法人や弁護士、主幹事証券との信頼と連携が大切だ。投資先の一括売却に関わったか?投資先の上場後売却に関わったか?特にハンズオンキャピタリストが役員のまま上場するのが当たり前の業界なので、インサイダーの不正取引に巻き込まれないように十分注意することが必要だ。



成長戦略=本物キャピタリスト増加

 そのほか、10.事業・会社リストラ経験(投資先の倒産を経験したか?社長を交代して貰った経験あるか?訴えられる危険を感じたことがあるか?)11.ファンド終了経営経験(投資先の長期売却に関係したか?LP延長経験があるか?LPの出資持分買取の経験があるか?)12.成功資金、活用経験(成功資金を、どう運用していいか困ったか?社会貢献活動に資金を投じたか?社会貢献活動で、人に騙されるなど、困ったことがあるか?)など、本物のキャピタリストなら体験していなければならない。

 こんな体験を積んだ本物キャピタリストが日本の成長戦略が必要だ。

 産官学連携といい、リスクマネーの供給というのはいいのだが、現場のミクロ経済の世界で、多様な顧客行動を伴う事業機会を見据えて、そこに向かって複雑な商品を、仕入れ先や提携先との協力によって、華やかに仕上げ、販売していく、気の遠くなるような事業化の作業に携わる「本物ベンチャーキャピタリスト」の多数の輩出なくして、日本の未来はない。その視点が、成長戦略に必要だ。青色LEDでノーベル賞をとった中村修二氏らの、日本の旧体制への嘆きを打破できるのは、仕組みでも精神論でもなくて、本物ベンチャーキャピタリストを増やすことなのだ。



著者略歴

日本テクノロジーベンチャーパートナーズ投資事業組合代 表 村口和孝 《むらぐち かずたか》

1958年徳島生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。84年現ジャフコ入社。98年独立し、日本初の投資事業有限責任組合を設立。07年慶應義塾大学大学院経営管理研究科非常勤講師。社会貢献活動で青少年起業体験プログラムを品川女子学院等で実施。投資先にはDeNAの他、ウォーターダイレクト社が13年3月15日東証マザーズに上場。



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