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1996年08月27日

【ジャストシステム特集】日本語文化は日本人の手で守りたい/ジャストシステム社長 浮川和宣

企業家倶楽部1996年9月号 特集第3部 編集長インタビュー


あまりにも有名な日本語ワープロソフト「一太郎」シリーズで全国を制覇するジャストシステム。その心は日本人の魂としての日本語を、時代を先取りし進化させることにあった。社長の浮川が夢を掲げ、専務の初子が実践部隊を指揮する。おしどり夫婦の二人三脚で世界一のソフトメーカーを目指す。

 夢は人間の脳を拡大する“お利口チップ”の開発。気さくで気取らず、シャイで真面目。現代の坂本竜馬、浮川が熱い夢を語る。



『一太郎7』新発売に向けて  エンジン全開

問 ソフト業界に不案内な私には、ジャストシステムというと『一太郎』しか思い浮かびませんでしたが、知的活動全体を支援するソフトメーカーというのが、御社のコンセプトなんですね。

浮川 我が社はもともとそういう概念でスタートしました。『一太郎』のジャストシステムと思われがちですが、人間が表現するものを手掛けたいと考えていました。それには ”ことば“が欠かせません。私はエンジニアですから、最初はCAD(コンピューターによる設計・製造)などの方が関心が高かったのですが、コンピューターに何が必要かと考えたとき、”ことば“そのものを主体にしなければと考えました。

問 それが時代のニーズに合ったという事ですか。

浮川 これからのコンピュターは何をやるべきかと考えた時、”ことば“が必須です。小さなパイでも市場全体が大きければそこそこやれると思ったわけです。しかし、最初から一太郎が出来たわけではありません、一太郎に辿り着くまで五年ぐらい試行錯誤しました。その間四苦八苦していましたね。

問 今、「一太郎7」がまもなく発売されると聞いていますが、これはどんな特徴があるのでしょう。

浮川 新機能を必要に応じて取り替え可能という点です。

今、ワープロ機能もいろいろ拡大されていますが、ある人に役に立つ機能がもう一方では必要ないという人もいます。「自分はこの部分はもっと高度なものが欲しい」と要求される方もいます。

 ですから、要らないものは取り外すことができるという、取り替え可能な機能のパーツということです。

 これは世界中で我社が初めてです。我々が先鞭を付けようと思って開発しました。

問 具体的にはどんな機能なのですか。

浮川 インターネットはまだまだ文字でのハンドリングが主流ですが、今のは文字は左から右へ流れていきます。これでは日本語としては読みにくいですね。例えば新聞は段組がありますが、その機能のみを付け加えることができるというわけです。日本語をもっと読みやすいようにする機能です。こうしたものをユーザーが選べるわけです。



視聴者参加型ネットワーク、 ジャストネットの展開

問 それは楽しみですね。九月に発売とのことですが、ぜひ期待しております。

 ところで、最近はジャストネットの方にも進出されていますが、これはどんなものですか。

浮川 インターネットとパソコン通信を統合したようなものです。これは仕掛けとしたら世界で一番進んでいる技術です。

 パソコン通信は閉じた世界ですが、インターネットは開かれた世界です。この両方のメリットを生かしたものがジャストネットです。会員だけでなく誰でもがアクセスできるのです。

問 今、ジャストネットの会員はどのぐらいいるのですか。

浮川 月二十万人ぐらいアクセスがあります。

問 具体的にはどんなサービスがあるのですか。

浮川 まずは最近始めたのが、毎日新聞のニュースサービスです。新聞は蓄積効果がないですが、パソコンなら幾ら蓄積してもじゃまになりません。膨大な情報から自分の必要な情報のみにアクセスできます。ここでは編集長は自分です。自分の必要な情報のみを収集し蓄積することができます。

 次にオンラインショッピングがあります。今は二十五店ぐらい開設しております。オンラインマガジンもあります。今、『モアイ』という雑誌を発行しておりますし、また単行本も年間八十冊ぐらい発刊しております。

 さらに面白いのが複数の人が参加し、自分の意思で付け加えられる新しいアート、連画ができます。これらのオンラインショッピング、オンラインマガジンは見ている人も参加できます。ここでは見る側、使う側が主体となり、自分で選択できる視聴者参加型ということになります。

 私はこれからはそういう時代でなければならないと思いこれを始めました。

問 最近サーバービジネスにも進出したと聞きましたが。

浮川 これはジャストネットを送信するために必要なので作ったのです。何しろ自分たちが作らないと世の中にないものですからね。

問 ところで今社員は何名ぐらいですか。

浮川 千二百名です。

問 二〇〇〇年には二千人と、ある紙面で語っていらっしゃいましたが。

浮川 それでは全然足りないですね。順調にこのまま伸びたとしたら三千人は必要になります。

問 本拠地はやはり徳島がいいのですか。

浮川 これからは東京もかなり拡大されると思いますが、基本的には徳島と東京でしょうね。しかし、どうなるかは分かりません。東京には営業部門を中心に開発、出版部門があり、今二百五十人いますが、五年後は千人にはなるでしょうね。



アメリカの自由、ダイナミックさに感動

問 アメリカのシリコンバレーにも進出していますね。

浮川 セールス&マーケティング部門です。研究所はピッツバーグに作りました。

問 ピッツバーグに研究所とは珍しいですね。シリコンバレーではなくなぜピッツバーグなのですか。

浮川 カーネギーメロン大学と深い付き合いがありましたのでここに研究所を作りました。この大学には世界の天才が集まっていますが、スコットファルマン所長を中心に六人の研究員が基礎研究を行っています。

問 なぜ日本の大学ではなくアメリカの大学なのでしょう。

浮川 日本の大学は大企業志向が強く、我々中小企業にとっては壁が厚いですね。アメリカはゼロから創りあげた企業をものすごく評価してくれます。

 それになんといっても自由ですね。彼等はチャレンジ精神に溢れ、自分たちの思うがままに事業をしている。そして何と言ってもダイナミックさを感じます。

問 日本は封建的なところがありますからね。

浮川 収入も努力に報いていますから税率も平等ですね。日本のように過度の累進課税なんてありません。何よりも頑張った人の足を引っ張るという思想がない。やはりアメリカは素晴らしい国だと思います。



ジャストシステム急成長の秘密は事業を拡大したいという意思

問 ジャストシステムの歴史を振り返ってみますと今年で創業十七年ですね。ここまで成長した秘密は何だと思いますか。

浮川 要因は二つあります。一つは丁度パソコンの成長とともに伸びることができた点です。そして日本人にとって必須の日本語のワープロソフトを創りあげたことです。

 二つめは我々が事業を大きくしようと思ったからです。自分たちの思ったことを達成するにはある程度の規模を持たないとできません。「一太郎」が売れた時、これはやらねばならぬと腹を括りましたね。

問 パワーを持たないとダメだということでしょうね。

浮川 そうですね。経営というのは社員が少ない方が楽しいんです。百人ぐらいでやるのが一番いい。大きくなればなるほど苦労も責任の重さも大きくなります。他人からは苦労するのにどうして大きくするのかと問われますよ。

問 それでも大きくしたいと思ったのは。

浮川 社会的使命感のようなものもありますね。日本語処理は自分たちが一番だと自負しています。だから作りたいものが作れるような会社にしよう、と社員と語り合いながらここまできました。



日本語を守るのは日本人としての使命

問 ライバルはマイクロソフトですか。

浮川 いやいやあちらは途方もなく大きな会社です。それより日本語のソフト開発は日本人の魂をもったものがやらねばという思いです。

問 全く同感です。ジャストシステムは日本の宝だと思います。他の日本の大企業が一つや二つ無くなってもいいが、ジャストシステムが無くなっては困ると本当に思いますね。

浮川 日本には今、一億二千万人強が生活し、ここまで培ってきた歴史・文化があります。日本語はまさに日本の文化そのものです。この歴史的資産を経済原則だけで変えてはいけないと強く思い、日本語変換システムを創りました。日本語は日本人の魂そのものです。我々の手で磨いて次の世代に伝えねばなりません。

問 日本語とコンピューターは合わないような気がしますが。

浮川 そんなことはありません。たまたまアメリカで先にOSを作ったから、英語が原語となっているのです。日本人は単一民族ですが、アメリカは市場規模が全然違います。アメリカ一国ではなく世界中から集まっています。一人対連合軍のようなものですから、全世界の人向けには英語がスタンダードになるのは当たり前です。



社長が夢を描き初子専務がモノ創りを実践する

問 ジャストシステムは真面目な会社という雰囲気がありますね。

浮川 そうですね。営業マンも皆真面目といわれますね。

問 若手社員が多いとのことですが、創造性を発揮させるためにどんな工夫をしているのですか。

浮川 チャンスがあればどんどんトライさせることをモットーとしています。大きくなると動きが鈍くなりますから、プロジェクトチームを小さくし、自由さが発揮できるようにしています。

問 おしどり経営として有名ですが、夫婦だといい面も悪い面もあるかと思いますがいかがですか。

浮川 そうですね。専務とはしょっちゅうケンカをしていますよ(笑い)

問 社長からみた初子専務は開発担当としてどうですか。

浮川 ネバーギブアップですね。一つのことを実現させていく力、集中力は凄いものがあります。体力の限界まで仕事をしますから毎日一時二時まで頑張ってますね。私は将来の夢を語り、コンセプトを創りあげていくほうですが、実際に作り上げる方は大変なんです。苦労をかけています。



託児所、給食の充実など働きやすい環境づくりに熱心

問 御社は女性を活用している会社 としても有名ですね。

浮川 世の中男女半々いるわけですから、女性を活用しない手はないと思います。実質、社員数は女性の方が上回っています。しかし、女性のエンジニアは一五%程度です。女性は世の中が今どうなっているかというマーケットリサーチなど情報のマネジメントが得意ですね。女性が活躍できる産業はまだまだあると思います。

問 日本の企業はまだまだ女性を活用しきれていない会社が多いように思われますがどう思われますか。

浮川 それは女性を使う男性側に問題があると思いますね。

問 御社は託児所も完備していると聞いていますが。

浮川 我々のようなソフトを開発している会社は定時では帰れないことも多々あります。しかし社会人としての責任も果たさねばならない。責任を果たしながら、さらにキャリアアップしてもらうためにはよりフレキシビリティな託児所が必要です。本来は行政がやるべきですが、硬直化しているのでやらざるを得ないということで作りました。

問 社員食堂も一流のシェフを入れているということですね。

浮川 一流かどうかはわかりませんが社員の健康管理のためには食事が大切ということで充実させています。パソコンに向かっていると、ついのめり込んで食事が面倒という若手プログラマーも出てきますからね。健康は食生活が基本ですから。



誠心誠意のバグ対応で 危機を脱出

問 挫折も経験されたようですね。一太郎バージョン4を発売した時バグがたくさん出たと聞いていますが。その時、もうこの会社はダメだとは思いませんでしたか。

浮川 一瞬そう思ったこともありました。しかしこれは自分たちのミスですから、納得できるまで誠心誠意お客様に対応しようと必死でした。結局二十三万人の顧客に改定版を無料で送りました。

問 かなり費用もかかったと思いますが、大変な決断でしたね。結果お客の信頼を勝ち得ることができたわけですね。

 今、若いベンチャー企業が続々と生まれていますが、成功した先輩として何かメッセージをお願いします。

浮川 あまり儲けようとか大成功しようと思って商売を探してはダメですね。結果はあとからついてくるものだと思います。



夢は人間の脳の機能を拡大させるお利口チップの開発

問 ジャストシステムを、今後どんな会社にしていきたいと思っていますか。

浮川 パソコンを駆使した新しい生活スタイルを世の中に提案していく会社になりたいと思います。

 例えば自分が考えていることがコンピュターで表せる文章自動創造システムです。これは自分が考えていることの骨組みをインプットすると文章にしてくれるというものです。現在東京の研究員が研究中です。また自分の創造性を高めてくれるアシスタント機能を創造することです。これは人間の脳の機能を拡大する”お利口チップ“です。これがあったらすごいですよ。例えば徳永さんが本日私にインタビューするという場合、パソコン関係の辞書機能のようなチップを脳に差し込むと、その世界のことはデータベースから用語まで全部頭の中に入り、なんでも引き出せるというような…。つまり人間の脳を拡大させる道具としての”お利口チップ“です。ここではあくまで人間が主役、パソコンを便利な道具として使いこなすと言う事です。

問 データベースを持ち歩くというような事ですね。そんなのがあったら凄く便利ですね。知識として記憶する必要がなくなりますね。

浮川 その通りです。日本の教育というのは記憶力や計算力というモノサシで計れる価値のみを重要視していますが、記憶力や計算力をパソコンで補えば、モノサシで計れないもっと基本的なものが教育の課題となっていくんだと思います。

問 夢のような話しですが、ぜひ一日も早く実現させて下さい。

浮川 この九月に「一太郎バージョン7」を発売しますが、バージョン10ぐらいにはこれが実現できると思います。



浮川和宣氏(うきがわ・かずのり)

1949年5月5日、愛媛県新居浜市生まれ、47歳。73年3月、愛媛大学工学部電気工学科卒業、同年西芝電気株式会社入社。79年同社を退職し、初子夫人と共に「ジャストシステム」を創業。81年6月株式会社ジャストシステムを設立、パソコン用日本語処理システムの研究を開始。85年日本語ワープロソフト「一太郎」を発売、使いやすいソフトとして大ヒットした。その後、一太郎を次々とバージョンアップし、一太郎バージョン2、3、4、5、6.3を発売、またたくまに日本を制覇した。95年科学技術庁長官賞「科学技術功労者」賞を受賞。今秋、「一太郎7」発売に全力を注ぐ。



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