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トピックス -企業家倶楽部

2013年01月02日

理念共有と権限移譲で勝ち抜く/ヤオコーの強さの秘密

企業家倶楽部2013年1/2月号 ヤオコー特集第2部


現在、店舗数119を数えるヤオコー。そのうち73 店舗は地盤となる埼玉に集中し、その他の店舗も東京、神奈川、千葉など全て関東圏内で展開する。しかし、同地域への出店にもかかわらず、その業績は23 期連続の増収増益。24期目も同様の成長が見込まれ、多くの同業他社からベンチマークされる存在となっている。その力はどこから来るのか、強さの秘密に迫った。(文中敬称略)




 秋も深まる11月13日午前8時半、30分後の開店を控えたヤオコー三郷中央店の前には、続々とお客が集まりつつあった。空は晴れ渡っているが、時折冷たい風が吹き抜け、肌寒い。そんな中、スタッフがお客一人ひとりに挨拶しながら、温かい飲み物を振舞う。

 
 店内も最終調整に余念がない。新店舗のオープンに駆けつけた他店からの応援部隊が内に外にと駆け回る。丹念にレジを拭く従業員の様子も、窓の外から見て取れた。

 
 オープニングセレモニーが始まった。まずは三郷市副市長の山崎利吉が挨拶。川野も「地域の食生活をより豊かにしていく」と抱負を述べた。ついにお待ちかね、新店舗のテープカットだ。式には会長の川野と副市長、新店長はもちろん、新店舗に一番乗りした男性客も加わった。こうした粋な計らいも、真面目で堅実な社風を持ちながら、柔軟な対応力が洗練されているヤオコーらしい。

 
 セレモニーが終わると、いよいよ開店だ。並んでいたお客が順次店舗へ入り、従業員が笑顔で出迎える。川野も店内を一周すると、自ら一般客と共にレジに並んだ。「お客様がいかなる経路を歩き、どのように商品を手に取られるのか、自分自身がその身になって見ている」のだという。そんな川野率いるヤオコーの強さを紐解いていこう。



強さの秘密1 個店経営

店舗ごと、地域に密着

 なぜヤオコーは粛々と業績を伸ばし続けて来られたのか。それは、店舗ごとに地域密着型の運営を行ってきたためである。特に大手には、欧米から導入したチェーンストア理論に基づき、本部主導で全店舗が一律に同じ運営方法を採るスーパーが多い。トップダウンで決断を下し、大資本を投じて一括で物流を管理する方法は一見効率的だが、商品を一度指定の集積地に集めてから再び原産地へ運ぶなど、非合理な部分も少なくない。その点、関東のみを基盤とするヤオコーは生鮮食品を扱う上で有利だ。また、画一化したチェーン展開では難しい、地域に応じたきめ細かな対応も行うことができる。

 
 とは言え、もはやヤオコーも100店舗の大台に乗り、それぞれの店の客層に応じた商品展開を行っていくのは至難だ。それでも、「我々は、その土地のお客様が求めている商品を提供しなくてはならない」と川野。そうした理念に基づき、個店経営を貫くと決めた。そこで必要となるのが、権限移譲型のシステム構築である。

 
 店長に大きな権限を与え、企画などを従業員と話し合いながら売り場に表現する自由度を持たせているのだ。本部と店舗の役割を区分し、任せるべきは店舗ごとに全て任せるという精神のもと、全員参加の経営を目指す。

 
 その顕著な例として、最近オープンした川越的場店の取り組みを見てみよう。




川越的場店に見る権限移譲システム

 2012年3月22日にオープンした川越的場店。同店舗の店長として大島潤が辞令を受けたのは、開店に先立つこと10か月前だ。お膝元川越での出店という期待感もあり、通常の倍の期間が与えられた。そのため、什器の配置から商品陳列に至るまで、大島の意識が行き届いている。川越的場店に足を運ぶと、知らず知らずのうちに大島が施した工夫の虜となるだろう。
 

 店内に入ると、まず目に留まるのは果物だ。人に贈る品物としての格を表わしつつ、季節感を打ち出すこともできる。その後ろには野菜が並ぶ。価格変動が比較的大きいので、主婦は買い物の際、野菜をまず手に取り、それと組み合わせる形で価格を考慮しつつ肉や魚を選ぶ。そのため、野菜は前方に置かなくてはならない。地域のスーパーならではの強みを生かし、「今朝採り野菜」といった新鮮な商品も供給している。

 
 その後ろに控えるのは鮮魚だ。魚離れが進む中、鮮魚は店舗の壁際や角など、お客が滞留しやすい場所で扱うべきだが、川越的場店では季節感を重視し、意図的に前へ配置。その奥の精肉コーナーで専門性を打ち出している。
 

 鮮魚、精肉と続くコーナーでは、商品の組み合わせが意識されている。例えば大根を買った場合、ぶりやいかがあることでぶり大根、いか大根という発想が起きやすい。また、鮮魚を通り過ぎても、精肉でブロックの肉を見つければ煮豚が連想されるという具合だ。
 

 加工食品はどこで買っても大差無いが、生鮮商品は同じものでも鮮度や味が違うし、切り分け方などの表現方法で差別化が図れる。そもそも、おかずになりうるのは野菜、鮮魚、精肉だ。そのため大島は、生鮮において圧倒的な強さを誇らなくてはならないと考え、入り口から真っ直ぐ奥まで続く道を全て生鮮食品で固めた。
 

 大島の工夫は、商品陳列に止まらない。川越的場店は通常より広い820坪の店舗だ。しかし、店内はお客で満ちているように見える。実はちょっとした仕掛けがある。通常、店舗の棚は170センチと低く、売り場全体を見渡せるが、大島が用意した棚の高さは190センチ。意図的に視界を遮ることで、圧倒的な広さを感じさせない。
 

 また、要所々々で斜めに設置された什器が目立つ。お客の興味が無いものでも自然と視界に入ってくるようにとの工夫だ。結果的に360度を商品に囲まれているような感覚を覚え、よりお客に臨場感を感じさせることができる。
 
 生鮮食品の反対側に至ると、まず眼に入ってくるのはワインだ。必需品ではないが、生活にゆとりを提供できる商品を、部門を超えて一ヵ所に集めたコーナーとなっている。

「生鮮で圧倒的に強い売り場を作り、そちらで集客するのならば、それ以外のコーナーは多少余裕ができます。むしろ、それを有効に活かして、落ち着いた空間でもう一品買っていただける売り場を提案しているのです」

 
 これも、全てを活かす大島の知恵だ。ゆとりを持って買い物ができるよう、床の色も高質感漂うシックな茶色に変えてある。
 

 型に囚われず、臨機応変な対応が可能である権限委譲型のヤオコーだからこそ、大島も自由に取り組める。当初の想定を大幅に上回る業績を上げていることからも、こうした取り組みが一定の評価を得ていることは明らかだ。しかし大島は「まだまだ先は長い」と気を引き締める。




強さの秘密2 商品提案力


惣菜が強み

 ヤオコーは、もともと八百幸。長年野菜を扱ってきた背景もあり、惣菜に強い。三菱UFJモルガン・スタンレー証券のシニアアナリスト金森淳一も「惣菜事業のSPA(製造小売業)を担う三味はヤオコーの心臓だ」と語る。

 例えば、ヤオコーの店舗で作られるサラダは他社の外注商品とは一味違う。精肉部門で仕入れた商品が加工されて盛り付けられるなど、部門を超えて素材を生かすことで、中身の美味しさ、新鮮さにこだわっている。

 
 通常、惣菜事業はその場で調理しなければならない特性上、人件費の増加が避けられない。また、売り切れなかった商品は衛生管理上そのまま処分せざるを得ないため、利益を上げるのが難しい。しかし、きちんと売れさえすれば、惣菜は30%以上の粗利益を上げられる。日配食品の粗利益が20%程度であることからしても、その価値は一目瞭然だ。特に近年では女性の社会進出などで台所に立つ人が減ったため、惣菜には大きな需要が期待できる。


強さの秘密2 商品提案力


気付くと自分の欲しい商品がある

 
 ヤオコーの店舗で必ず見かけるクッキングサポートのコーナー。今日の献立に悩む主婦たちに調理の提案を行う。ヤオコーにおける食卓提案の代名詞のようなコーナーだが、こうした表面的な部分のみで「ミールソリューション」は語れない。

 
 ヤオコーでは、同じ600グラムの牛肉を200グラム×3パックで売るか、100グラム×6パックで売るか、曜日や時間帯によって変化する。まさに「今」来ているお客が欲しい商品の提案ができることこそ肝要だ。

 
 こうした提案は、大きさに止まらない。鮮魚、精肉に関わらず、包丁の入れ方、見栄え、陳列方法など、全てに気が配られている。ふと気付くと、自分の欲しい商品が欲しい状態で目の前にある。そんな商品展開の最適化がヤオコーの強みだ。

 また、ヤオコーではただ商品を売るだけではなく、お客との会話も重視している。特に鮮魚では、その場で値付けしなければならない商品も多く、自然と「お刺身、塩焼き、煮付け、どうします?今日の魚は油が乗ってるから、塩焼きが一番美味しいよ」「じゃあ、それでお願い」といった会話が交わされる。

 
 ヤオコーの生鮮の強さの本質は、こうした対話力にもある。お客とのコミュニケーションは人間にしかできない。当事者意識を持って考え、動ける人材育成は、すぐには数字に表れないが、端々でお客の信頼に繋がっているのだ。では、ヤオコーの育成する人材とはいかなるものであろうか。



強さの秘密3 人材開発力

圧倒的なモチベーションを誇るパートナーたち

「おいしいですよ!是非お味を試して行って下さい!」

 
 ヤオコーの店舗に行くと、必ず従業員が笑顔で迎えてくれる。従業員の70%を占めるのは「パートナーさん」と呼ばれる時短の主婦たちである。一般的に「パート」と言うと「パートタイマー」を指し、非正規雇用者が連想される。しかしヤオコーでは、そうした時短の主婦たちを「相棒」との意味を込めて「パートナー」と呼び、厚遇しているのだ。

 
 パートナーがいかに重視されているかは、川野の対応にも顕著に表れている。川野は土日や祝日を利用して臨店を行うが、パートナーとの距離感は近い。
 

 また、業績が好調な年は、パートナーに高報酬を与えることで報いている。経営者は自社の株価や利益を増やして業績を良く見せたいと考えるものだが、川野は「一番頑張ってくれているのはパートナーさんだ」と言って上記の施策をとる。

 
 極めつけは、「感動と笑顔の祭典」だ。1ヶ月に1回開催されるこのイベントでは、参加した各店舗の部門ごとに、パートナーが自分たちの問題点を洗い出し、その改善策をプレゼンする。川野はもちろん、役員、店長も参加し、優勝者は川野のアメリカ視察に同行が許される。
 

 こうした数々の施策が、圧倒的なモチベーションの高さに繋がっている。パートナーの一人になぜヤオコーで働き続けるのか聞くと、「ヤオコーが大好きだからです!」と即答。彼女は自宅でも、店舗で使用するポップを作成するなどしており、「お母さんは家でまでヤオコー漬け、と子供に文句を言われます」と苦笑いする。時短の主婦が、仕事にここまで真剣に取り組むのも珍しい。
 

 パートナーの心を掴んでいるのは高収入よりも働き甲斐だ。他社よりチャンスがあり、大きな権限を与えてくれる社風に染まり、自発的に動くようになるという。




個店経営に必要不可欠な存在
 

 ここまでパートナーを重視するのは、彼女たちこそ個店経営に最も必要な人材だからである。パートナーは一度仕事を離れれば、その地域に住む一般の主婦だ。そのため、自然と当事者意識を持って地域のニーズを捉えやすく、最もお客に近い存在として店舗作りができる。

 
 また、社員には異動があるため、同じ店舗に永続的に残るとは限らない。長い目で見て店舗が信頼を勝ち取るためには、同店舗で長期間にわたって働くパートナーの教育が肝となる。
 

 もちろん本部から企画や商品面での提案はあるが、その指示に従うだけではお客の満足する店舗は生まれない。それぞれの店舗の客層に合った形で商品を展開することは、現場の人間しか不可能だ。
 

 そして、店長にいくら強い思いがあっても、膨大な商品数を実際に動かすのはそれぞれの部署の従業員であり、その大半を占めるパートナーだ。考え方の本質が共有できていなければ、ある特定の案件では指示通りに行動できても別の事例で応用が利かず、結果として全てに口を挟まなければならなくなってしまう。パートナーとの目線合わせは最重要事項なのだ。
 

 川越的場店では営業する364日、朝礼を欠かさない。朝礼は約10分。一見すると長くないが、朝礼時に集まる従業員の数が80?90人であることを考えると、のべ800?900分もの時間が使われている計算になる。それだけの時間を取り、パートナーにしっかり理念の共有を行っている。

ヤオコーには同業他社から多くの人々が視察に来る。確かに商品は、買って持ち帰れば、素材、美味しさ、価格などを分析し、模倣することができるだろう。だが、自社の理念を共有し、自主的に動ける人材を一朝一夕に育て上げることは難しい。
 

 ヤオコーの商品陳列は、曜日や時間帯によって刻々と変化する。パートナーたちが自分の頭で売り場の有り方を考え、臨機応変な対応を行っているのだ。店舗ごと、よりその地域のニーズにあった商品を供給すべく試行錯誤が繰り返されている。パートナーによって進化し続けるヤオコーに、限界の二文字は無い。



強さの秘密4 川野イズム

軸のぶれない経営

 
 各店長、そしてパートナーたちにまで浸透しているヤオコーの理念とは何か。それは、他ならぬ創業者である母トモ、そしてそのDNAを受け継いだ川野幸夫に至る川野イズムであろう。

 
 様々な人に川野の特徴を聞くと、異口同音に「軸のぶれない人」という答えが返ってくる。川野は、「ヤオコーは何を目指すのか」を明確に定義している。すなわち、「小売業を通じてお客様に合った商品を提供する」という考えだ。川野の、地味だが堅実でぶれない精神がブランドとなり、ヤオコーの信頼性に繋がっている。

 その最たる例は、価格戦略だ。通常、株主や環境変化への対応を迫られて、デフレならば安売り、インフレならば高級志向路線に方向転換しがちである。また、流行に振り回されて経営を多角化するケースも多い。だが、ヤオコーはデフレの中でも世の中に左右されず、他社に追随してその場しのぎのディスカウントは行わない。
 

 ヤオコーカードの導入も同様だ。ポイントが貯まるという特典によって一時的にお客を呼び込もうという短期戦略ではない。カードから得た情報を元に、その店舗で何が求められているかを綿密に分析し、可能な限りお客のニーズに対応した店舗作りを行わんがための施策である。
 

 ヤオコーでは全てが「お客様のためになるか否か」を基軸に考えられる。上場企業である以前に、お客がいてこそ成り立つ会社だという認識があるからだ。こうした理念は、1000人規模の社員を一堂に会して行われる全体会議でも共有される。

 
 以前は誰もが同じ商品を買ったが、もはや単なるコンシューマー(消費者)を取り込むだけでは勝てなくなった。独自の付加価値を見出すことにより、カスタマー(自分の店にこそ来てくれる顧客)を作る必要が出てきたのである。その結果ヤオコーが目指したのが、ライフスタイルを提案するスーパーだ。店舗ごとの独自の試みを推奨するには、従業員に権限を委譲する必要がある。そのためには、根底にぶれない軸が必要だ。川野イズムは、その軸としてヤオコー全体に浸透する。

 
 川野は様々なシーンで「成功体験に安住しない」と口にする。温和だが、挑戦しないことに対しては厳しい。臨店の際も「お客様のため」にどれだけ近づけたのかを問いかけ、従業員を叱咤激励する。
 

 母トモが体現していた商人道を受け継いだ川野が「儲け主義」に走ることはない。確かな倫理観の下、信用第一の堅実経営を行っていく。その基本哲学を次世代へ脈々と伝えていく限り、ヤオコーは今後も緩やかに、しかし確実に伸び続けていくであろう。



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