2015年02月09日
中小企業の永続的発展に貢献したい/元 林原社長 林原 健
企業家倶楽部2015年1/2月号 核心インタビュー
今から約4年前の2011年2月2日、林原は会社更生法を申請し、事実上、倒産した。岡山の世界的な研究開発企業はなぜ、倒産したのだろうか。民事再生法など自主再建の道はなかったのだろうか。当時の社長、林原健氏に会社更生法申請の真相を聞くとともに、全国の中小企業の経営のあり方について、率直な意見を吐露してもらった。
(聞き手は企業家ネットワーク会長、徳永卓三)
問 林原といえば、岡山の超優良企業と思っていたのに、どうして急に経営がおかしくなったのでしょうか。
林原 当時、林原の売上高は280億円あった。これに対し、借入金はグループ中核企業で約1300億円。数字だけみれば、借入金は過大のように思えるが、林原は不動産を多く保有しており、過大とは思わなかった。ただ、経理は弟で専務の靖に全てを任せていた。全面的に弟を信頼していたことが大きな落とし穴になった。
問 経営が厳しくなり、初めは事業再生ADR(裁判外紛争解決)を考えられたそうですね。
林原 はい。主取引銀行の勧めでADRで行くことになりました。しかし、このADRは全取引銀行の合意がないと、成立しません。結局、合意しないうちにマスコミに漏れて、ADRが成立しませんでした。
問 そこで、会社更生法を申請されたわけですね。民事再生法などの道はなかったのでしょうか。
林原 私は社長として、取引先に1円たりとも迷惑をかけない、社員は1名たりとも整理しないことを願っていたので、次々に粉飾決算が明らかになるにつれ、会社更生法申請がいいと思いました。同法の申請によって、取引先、社員には一切迷惑を掛けませんでした。
問 そういうことで、会社更生法を申請された。
林原 それ以外はありません。その後、ADRというのは、今のやり方では日本ではうまくいかないということで、私のところが例になって法律がかわりまして、今は過半数かもうちょっと6割とかそのくらいの賛成でよくなっている。
問 林原が教訓になったわけですね。もうちょっと先にやっていただければよかったのに。
林原 一番大事なのは雇用の確保。お得意さんに迷惑をかけないという2点だと思っている。
問 林原さんは今、中小企業の経営のあり方について提案されているそうですね。
林原 日本は、中小企業が大半ですから、90%強が中小企業。それに基本的にほとんどが同族経営。今のままの中小企業経営ではうまく行かないと、昔から疑問に思っていました。
また、日本の中小企業は、だんだん色々な規制とか法律で狭まってきていますから、放っておけばいずれダメになって大企業に吸収される形になっていくと思う。そういう風にならない、何百年でも続く。中小企業の経営のあり方を提案しています。
林原 林原の生き方はどの中小企業にも通用するわけではない。私がとってきたやり方は新しいものを開発して、特許でまるごと抑えて、特許は基本的に期間が15年ですから、大体10年くらい経ったら、それに代わるものを4つか5つ用意するわけですね。消えちゃいますから。それを繰り返していただく。それは中小企業にとっては大変なこと。そんなことしなくても、そこしかできないという形で、やっていける方法はあるのです。
問 その林原でやられた研究開発型企業では難しいと。インターフェロンやトレハロースといった開発は素晴らしい。しかし、実際に普通の中小企業では難しい。
林原 やはり人・モノ・金の無いところから皆さん出発されますから、それがピッタリ当てはまるところって無いと思うんです。だから、もっと日本にぴったり合った形でもってやっていくため、私はソニー創業者の井深大さんと、環境ホルモンに携わっていたコルボーンさんというアメリカの方と3人でずっと研究していたんです。
井深さんが亡くなる3年くらい前に大体の形ができあがって、だけど井深さんは、自分のところは電気屋だから、当時まだソニーの勢いが強かったんですよ。だからちょっとこれは自分のところでは動かないんじゃないかと、お前のところで広めて欲しいということで私にバトンタッチされて、その後も私がやっていた。今から4年くらい前にできあがって、面白いと思って今もそれをやっている。9割方整って、2015年に再出発しようと。
問 井深さんと親交があったのですか。
林原 私は井深さんとお会いした最初の時に、井深さんのお宅でお会いしたが、その時ウォークマンを「これは私が作って売れないか」と言ったが誰も売れると言わないから、頭に来て、「私は自分がこれを愛用している」と言って、自分で聞いておられた。しばらくして、どなたかがあれを出して欲しいと言ってこられて、出したら爆発的に売れた。
問 中小企業の経営の生きる道について教えてください。
林原 私はそこでお金儲けというよりも、一番大事なのは、こういうモデルを一つ作っていくことだと思います。
問 私は林原がそのモデルだと思っていましたが。
林原 全部では通用しないと思います。やはり、今回みたいな問題もおきてきますし、研究一本で特化していって、会社が大きくなると、経営に目が行き届かなくなる。そうすると大企業とほぼ変わらなくなってしまう。
問 つまり、売上はあまり増やさないほうがいいというお考えですか。
林原 売上は増やしていいけど、人を増やしたり、工場を増やしたり研究者を増やしたり、そんなことは必要ない。特許を主体にして、しかも一発で終わりと言うならいいけど、継続していこうと思うと、どうしても大企業みたいになってしまうから、それは向かないと思う。
問 人は増やさずにやるというのは。
林原 人も、土地も、工場も。そういうのは一切無くても何百年でも続くという。しかも特許もいらないと。真似はされません。
問 禅問答みたいな感じがするんですが。
林原 お話すればすぐにわかっていただけると思うんです。
例えば、日本古来の伝統・文化・芸術というのは日本にたくさんあるわけですね。例えば漆(うるし)なんかもそうですし、刀、焼物。そういう一子相伝みたいな形で代々伝わって行って。そういうノウハウを持っている人が、ずっと続けて今日まで来ているというのはよくあるわけですね。
だから、そういうものと、現代の科学技術とをドッキングさせると、全く違ったものができるので、もう真似できないわけですよ。誰にも。一子相伝されたところしかできないわけですよね。これはもう特許も何もいらないわけで。
問 漆や日本刀のような古来からあるものと、新しい技術とをドッキングさせるようなものですね。すると、特許も何もいらないと。未来永劫続いていくだろうと。
林原 焼物ならその技術を継承している人が家業としてできるわけですよ。それなら何百年でも続くんですよ。それができるようにしたいと思っている。
問 百年や2百年続いている会社は日本にはありますよね。
林原 家業として。長くやっていれば、しかも技術的に特徴があれば、永続的に続きます。だから長男が受け継いで、その人がいないと何もできないという形になっていれば家業として存続できるんです。
問 ですが、技術を受け継ぐ人がいないといけませんね。
林原 それを受け継ぐ人を探すのが社長の仕事ですね。
問 初めは社長が受け継ぐんですか。
林原 一番最初は技術を持った人が社長になって、次にバトンタッチすれば、それを広げない限りはそこでずっと続いていく。
問 ところで、著書の中でお父さんのことを書かれていましたが、どんな方でしたか。
林原 陸軍で満州に行っていまして、満州国を作った甘粕大尉の直属の部下だった。だから、特務機関。そこでずっといて、だから随分いい目ばかりしてきているんですよ。その代わり、世界的な視野ではなかったかもしれない。父は早く亡くなりましたが、あと10年も20年も生きていれば、会社をもっとちゃんとして。
胃がんの一番ひどいやつで亡くなった。九州に大きな工場を作るというので、その前に健康診断だけしておこうといったら、見つかった。そのときはもう手遅れ。51。若いですね。残念だったと思います。息子がこんなに長生きするとは思っていなかったでしょう。
問 非常に豪放磊落な方だったんですか。事業家としては一番向いている。
林原 ああいう人が企業経営はするべきだと僕は思っている。本当はすぐ下の弟の暲が継ぐ予定だったが、交通事故で亡くなった。彼が一番向いていた。本人も納得していたし。
問 それでその次の下の弟さん、靖氏が経理を担当したんですね。靖氏は社長には絶対服従みたいな。
林原 表はそうでしたけど、裏ではそうではなかったんで、私もそれは気付かなかった、最近まで。だから、倒産の一番の大きな原因は弟だったんですよ。それは私が言いたくないし、いまさら言っても元に戻るわけでもないし、弟にとっても良くないから黙っていてやろうと思って、棺桶まで持っていくつもりだった。一応社長ですから、社長の責任ということにしておけばいい。でも、靖がああいう本、『破綻』を出して、みんなに迷惑かけたわけですよ。
問 こういうことが起こらなければ、林原さんは林原一社で全うするところを、日本全国の中小企業のためにやることになったわけですからね。
林原 今、一番気が楽です。
問 中国銀行と住友信託銀行がありましたが、浅からぬ縁。もう少し銀行にチエはなかったのでしょうか。
林原 それは、弟の本を見れば、そう書いてある。銀行が悪いという感じ。それはさっき申し上げたように、中国銀行なんて父親の代からずっとの付き合いですから、担保とかいろんな持分は桁違いに違うわけですよ。住友信託も、私の家内を紹介してくれたのも信託です。
結局、両方とも担保を持ちすぎてて、他の銀行から見ると、それは少しよこせという風に。だけど、銀行の立場上それはできない。
問 最後に、人生で一番大切なことは。
林原 大切なのは、今を生きること。若い人で老後のことを考えるなんてナンセンス。
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