2015年02月16日
【海外リポート】vol.5 インドネシア「変身大国」浮上へ/小牧利寿
企業家倶楽部2015年1/2月号 海外リポート
インドネシアで国民の期待を受けたジョコ・ウィドド大統領が率いる新政権が発足した。しかし、大統領就任直後に見込まれていた組閣は大統領就任から1週間もずれこんだ。連立政権であるため陣営内で閣僚ポストの分配をめぐって意見が衝突、組閣が難航したことによる。国際社会の祝福を受けて誕生したジョコウィ政権だが、内情を見ると今後、新大統領が国民の期待するイニシアチブをどこまで発揮できるか楽観できない状態が見えてきた。
ジョコウィ大統領は20日の大統領就任を前に、組閣は大統領就任の翌日に発表できる、と記者団の質問に気軽に答えていた。ところが、1日、2日と日が経つのに発表はされない。ようやく3日目になって、海洋政策を重視する姿勢を示す狙いも込めジャカルタ港の波止場で発表する、と記者団に連絡があったものの、理由も明らかにされないまま発表は中止された。
さすがにジョコウィ大統領に好意的報道を続けていたメディアからも批判が出た。10月23日付けのジャカルタ・ポスト紙は「大統領は多くの国民の支持が背後にあることを忘れてはならない。組閣に当たって政党の圧力は、はねのけなければならない」と指摘した。
結局、新内閣の顔ぶれは大統領就任から1週間遅れの10月26日に発表された。ジョコウィ大統領に近い筋によると大統領自身の意向が直接反映したのは閣僚34人中わずかに3人である。大学が同期であるプラティクノ官房長官、ムハンマド・ナシル研究技術・高等教育相、アンドレノフ・チャニアゴ国家経済企画庁長官だけである。
もともと、ジョコウィ大統領は大統領選挙で勝利が確定した8月下旬、閣僚はプロフェショナル(専門家)から選びたいと表明した。
しかも「閣僚には有能な人材を公募したい」と表明した。国民の目線で考えることで知られている同大統領は、能力、経歴、人柄などを重視、多くの国民が認める人材を閣僚に任用するという、文字通り庶民派の発想による組閣を描いていた。インドネシアのメディアがジョコウィ大統領に好意的報道を続ける理由もうなづける。そんな新大統領の組閣方針はあえなくつぶされたのだ。なぜそんなことが起きたのだろう。
ここでジョコウィ陣営の成り立ちに立ち戻ろう。大統領候補の人気調査で有力だったのは常に40%前後の支持があったジョコウィ氏と最終的にジョコウィ氏と一騎打ちで大統領選を戦うことになるプラポワ・スビアントのみである。メガワティ氏も含めて他の候補の支持率は低く最初から勝ち目がない。不人気候補が選んだ道はどちらかに合流して勝利の暁には、分け前を手に入れる道である。
結果的には、大統領候補の人気投票で2%程度の支持しかなかったユスフ・カラ氏が副大統領の座を得て、組閣人事に影響力を発揮したのはその一例だろう。大統領選挙に先立つ総選挙でジョコウィ人気に乗り議会第一党の座を得た闘争民主党も5人の閣僚を出した。国民民主党のスルヤ・パロウ党首もうま味のある閣僚ポストを確保した。
大統領選挙前の世論調査では、支持率を合計してもジョコウイ氏にはとても勝ち目がなかった3人が、ジョコウィ氏が大統領選挙に勝利したとたん閣僚の人選では強い発言力を持つという皮肉な結果が生まれているのだ。別の言い方をすると、今回の組閣では肝心のジョコウィ大統領の意向はほとんど反映されていないばかりか、意向に反した人材も顔を並べているのだ。
今回の閣僚を派閣別に見ると別表の通りである。閣僚の数はユドヨノ政権と同じ34人である。ユドヨノ政権の内訳を見ると、34人の内訳は政党出身者18人、学者、経営者、軍人などそのほかが16人である。これに対してジョコウィ政権では政党出身者が15人で、専門家は19人と数の上では、ユドヨノ政権よりも専門家が多い「勤労内閣」となり、ジョコウィ大統領が標榜していた「専門家」が運営する政権に近づいたと言えなくはない。
しかも、選出された閣僚の顔ぶれを見るとそんな判断は甘いことが見えてくる。ジョコウィ大統領は、全体で44人にまで絞り込んだ閣僚候補者の清潔度を汚職撲滅委員会(KPK)などにかけてチェックした。実は過去のメディア報道などで汚職疑惑で名前が挙がった閣僚候補の目星はついていた。それでもKPKに適格性のチェックを依頼したのは、ジョコウィ大統領に陣営内の実力者が推す問題候補を自身ではなくKPKの力で抑え込む狙いがあったと見られている。
現にKPKはこれらで問題があると思われる候補には「赤マーク」、問題があるとは言い切れないものの疑いが濃厚な人物には「黄マーク」をつけていた。44人の中で何人がこの「赤マーク」「黄マーク」だったかはもちろん極秘である。ただ、メディアにはそれらしい人物は浮かんでいた。例えばインドネシア最大の自動車会社であるアストラ・グループのリニ・スマルノ会長はその一人。利権が大きい国営企業相に就任した。
さらに今回の政権構想でまだ発表されていない重要人事もある。新設が予定されている大統領室の室長である。大統領室は大統領に直接重要事項を補佐する極めて重要な任務を期待されている。官房長官は「総務的な案件」だけとし「重要で戦略的な問題」は大統領室が司る。
政界筋によると大統領室のモデルは米国のホワイトハウスにある。一般に、政権運営で最も難しいとされる各省庁間の対立事項の調整がこの大統領室の仕事である。ユドヨノ前政権は「大統領開発監査室」を設けていた。優れた行政能力を持ち清廉でも知られるクントロ・マングスブロト氏が室長になっていた。
ジョコウィ陣営はこのクントロ氏を大統領室長の有力候補者として検討していた節がある。クントロ氏は政治的基盤をまったく持っていない。室長に就任するとせっかく自陣営が手にした大臣ポストの活用も思うにまかせなくなる可能性もあるため、メガワティ陣営は強く反対していた。クントロ氏の代わりにやはり清廉な実力派軍人のルフト・パンジャイタン氏を推す声もここへきて浮上しているものの、守旧派の抵抗で先行きはまだ不透明である。
インドネシア政界の事情通の間で、ジョコウィ大統領は2年程度しかもたないのではないか、との見方も流布され始めた。インドネシアではハビビ大統領、ワヒド大統領とも1、2年の短期政権に終わったことを踏まえたものだ。
「センサシ」という言葉が最近、インドネシアの政界で盛んに使われている。英語の単語「センセーション」をインドネシア語にしたもので、国民のハートにタッチするそんな政治家のセンスというか、持って生まれた資質である。俳優や歌手に使われていたが、政界にも広がった。ジョコウィ大統領の人気はまさにこのセンサシである。
国民には人気があっても、国内各派のむき出しの権力争い、勢力争いが激突する中でそうした政治姿勢を維持することは困難だ。議会で強力な反対勢力ばかりでない。むしろ陣営内守旧派の突き上げ、反発も激しい。陣営内部には打算でジョコウィ陣営に身は寄せたものの、次の大統領選挙を視野に入れると、ジョコウィ陣営を盛りたてる必要はないと考えてもない。そればかりか足を引っ張る可能性もある。ようやく動き出したジョコウィ政権だが、2カ月もたたないのにそんな空気が広がっているのが現状だ。
このシリーズの前回、第4回では、末尾に、次回はインドネシア経済の大枠を紹介するという趣旨の文章で締めくくった。しかし、大統領選挙後のインドネシア政界の動き、情勢の変化をつぶさに観察すると、経済の今後の展望を紹介する前に政治の現状を紹介する必要があると判断して第5回目は政治の最前線の事情をご紹介した。ひとことお断りしておきたい。
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