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トピックス -企業家倶楽部

2015年03月10日

【佐藤綾子のパフォーマンス心理学】vol.26 危機の時代のリーダーの表現

企業家倶楽部2015年4月号 トップの発信力


佐藤綾子

日本大学芸術学部教授。博士(パフォーマンス心理学)。日本におけるパフォーマンス学の創始者であり第一人者。自己表現を意味する「パフォーマンス」の登録商標知的財産権所持者。首相経験者など多くの国会議員や経営トップ、医師の自己表現研修での科学的エビデンスと手法は常に最高の定評あり。上智大学(院)、ニューヨーク大学(院 )卒。『日経メディカルOnline』、『日経ウーマン』はじめ連載7 誌、著書178 冊。「あさイチ」(NHK)他、多数出演中。21年の歴史をもつ自己表現力養成専門の「佐藤綾子のパフォーマンス学講座 」主宰、常設セミナーの体験入学は随時受付中。

詳細:http://spis.co.jp/seminar/

佐藤綾子さんへのご質問はi n f o @ k i g y o k a . c o m まで



「私の裏庭はだめよ」

 英語に「Not in my back-yard.」という常套句があります。

 何か起きた時に、多くの人が「まったくひどいことだ。断固として戦う!」と宣言します。けれど、「その戦いが自分の裏庭で行なわれるのは嫌だ」というわけです。

 放射能の汚染物質に対しても、同じ態度がとられました。「いつまでも汚染物質がそこにあるのはよくない。どこかに片づけてほしい。でも、自分の裏庭にあるのは嫌だ」という考え方です。

 このような考え方は、世の中で何か物騒なことが起きた時に、「本質的にはその事柄に反対だけれど、自分自身に密接に関わることは嫌だ」といった人間の心情を表しています。

 私たちには今回、そんなことを試される事件が起きました。他ならぬ、「イスラム国」(Islamic State)を名乗る人々による、ジャーナリストの後藤健二氏、湯川遥菜氏の日本人人質事件です。非道としか言いようのない暴挙でした。

 これまでも世界中でテロ事件はたくさん起きていましたが、「まさか自分の国に、あるいは自国民には火の粉は飛ばないだろう」と、多くの日本人がそう思っていたにもかかわらず、予測はまったく覆されたのです。



相手が見えない不安にリーダーはどう闘うか


 今回の事件が「イスラム国の人々の犯罪」と報じられると、遠く日本に住む私たちとしては、「イスラム国」なるものが実在しているような錯覚に陥りがちです。確かに、脅迫宣言をしたのは「イスラム国のテロリスト」とされているので、そう考えるほうが自然でしょう。

 しかし実際は、確固たる国家主体はまったく存在しないのです。

「イスラム国」とは、百戦錬磨のテロリストのAなのかBなのか、あるいは、つい昨日まで中東のどこかで働いていた「シロウト」なのか、単にお金欲しさに雇われた犯罪知識もあまりない人間なのか?

 具体的には、あの覆面の陰に隠れて殺人を実行した人物が誰なのかすら、わからないのです。

 日常においても、私たちの身のまわりには多くの不安があります。今回のケースのように、その不安をもたらす正体がAかBか、まったく特定できないとなると、私たちの不安の感情はより一層大きくなります。特定の相手や原因が限定されない限り、対処の仕方が難しいからです。

 そのような不安を「漠たる不安」と、心理学では呼びます。「非常に不安だ。しかし、誰に直接聞いて対処していいかわからない」というわけです。

 相手の正体がつかめないと、不安は特別に大きくなり、ついには解決できない不安は怒りの感情に変化します。

 今回の事件についても、ヨルダンが間に入っていたので、ちょうど靴の上から足を掻くような、隔靴掻痒の例え通りのもどかしさでした。よけいに、日本のリーダーたちが焦りと怒りを募らせたのは当然でしょう。

 こんな時に怒るなというほうが無理な話で、安倍晋三首相はじめ日本国民が皆一様に、怒りに震えました。



相手を不要に挑発しないリーダーの表現

 ただ、だからと言って、今回の一件に対した日本のリーダーの表現が、そうするしかあり得なかったのかと考えると、私見ですが、それは違うような気がします。

 平時の場合は、「売られたケンカは買ってやる」と威勢よく言っていてもかまわないのですが、実際に、自国民の命にかかわる危機が目前に起きている場合は、こぶしの振り上げ方や下ろし方には工夫が必要でしょう。

 後藤さんが殺害されるかもしれないと、数カ月前からわかっていたにもかかわらず、安倍首相の口から出た「人道支援金に2億ドル」と犯人側の「人質解放に2億ドル」といった要求がまったく同じ金額だったことと、その要求のタイミングが安倍首相の中東訪問時期と重なっていたことも、それらが「イスラム国」にとっての犯罪の刺激材料になったのではないかと思わされます。

 もちろん相手はけしからん卑怯者で、弁解の余地は一切なし。テロには絶対に屈するべきではない。しかし、ここぞという時のトップほど、「言葉の選択」は大事でしょう。

 この度の最悪の犯罪に対し、首相声明の中には「テロには絶対に屈しない」という強い態度はもちろん必要でしたし、「人道支援をさらに拡大する」も当然でしょう。

 しかし、自身の手で直前に筆を入れた「テロリストを決して許さない。その罪を償わせる」といった言葉が必要だったかどうか。これには多くの日本人が頭を抱えたに違いありません。

 中東では今なお、数えきれないほどの日本人が仕事に従事しています。きっと「Not in myback-yard.」と心の中で祈りながら、職場にいるに違いありません。

「テロリストにはその罪を償わせる」とまで書き加えてしまうと、思い出されるのは「目には目を、歯には歯を」という、ハンムラビ法典にある一種の同害報復のことわざです。

 聖書にも、この言葉は引用されています。「『目には目を、歯には歯を』と言われたのを、私たちは知っています。しかし、右の頬を打たれたら、左の頬を出しなさい。上着を盗るものがいたら、下着をも差し出しなさい」となっています。

 実際に実行しようにも、生身の人間には理想が高すぎて難しいのですが、日本のトップがテロリストとまったく同様の「目には目を、歯には歯を」の声明を出した影響は、世界的に見ても恐らく大きいだろうと危惧しています。

 危機のリーダーにふさわしいのは、怒りの感情すらも、高い理想の言葉に置き換えて発信することでしょう。

 かの有名なコメディアン、喜劇王のチャールズ・チャップリンは、アドルフ・ヒトラーとナチズムを風刺した映画「独裁者」(チャップリンが監督・製作・脚本・主演)を、第二次世界大戦の真っ只中の1940年に発表・公開しました。

 その中に「史上最高のスピーチ」と言われる、彼の自筆のスピーチがあります。これこそが、憎しみよりも格段レベルの高いリーダーのスピーチなのです。



「独裁者」(1940)ラストシーン 自筆のスピーチ

by. チャールズ・チャップリン

" 申し訳ないが、私は皇帝などなりたくない。それは私には関わりのないことだ。誰も支配も征服もしたくない。できることなら皆を助けたい、ユダヤ人も、ユダヤ人以外も、黒人も、白人も。

I’m sorry but I don’t want to be an Emperor ?that’s not my business ? I don’t want to rule orconquer anyone. I should like to help everyone ifpossible, Jew, gentile, black man, white.

私たちは皆、助け合いたいのだ。人間とはそういうものなんだ。私たちは皆、他人の不幸ではなく、お互いの幸福と寄り添って生きたいのだ。私たちは憎しみ合ったり、見下し合ったりなどしたくないのだ。

We all want to help one another, human beingsare like that. We all want to live by eachother’s happiness, not by each other’s misery.We don’t want to hate and despise one another.

【中略】

今こそ、約束を実現させるために闘おう。世界を自由にするために、国境のバリアを失くすために、憎しみと耐え切れない苦しみと一緒に貪欲を失くすために闘おう。

Now let us fight to fulfil that promise. Let us fightto free the world, to do away with national barriers,do away with greed, with hate and intolerance.

理性ある世界のために、科学と進歩が全人類の幸福へと導いてくれる世界のために闘おう。兵士たちよ。民主国家の名のもとに、皆でひとつになろう。

Let us fight for a world of reason, a world wherescience and progress will lead to all men’s happiness. Soldiers ? in the name of democracy,let us all unite!"



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