トピックス -企業家倶楽部

2015年04月03日

独ロケット・インターネット ネット「帝国」拡大、アジアにも

企業家倶楽部2015年4月号 グローバル・ウォッチ


ドイツ・ベルリンに本社を置くロケット・インターネットをご存知だろうか。ネット業界の「パクリ屋」として知られる新興企業で、米国で成功しているネットビジネスを欧州など米国以外の国でコピーして展開するというのがビジネスモデルだ。「タイムマシン経営」ならぬ「ロケット経営」で、電子商取引の普及期を迎えた新興国にネット企業を即席培養している。その「帝国」の版図はアジアにも拡大してきている。

P r o f i l e


梅上零史(うめがみ れいじ)

大手新聞社の元記者。「アジア」「ハイテク」「ハイタッチ」をテーマに、日本を含むアジアのネット企業の最新の動き、各国のハイテク産業振興策、コンテンツビジネスの動向などを追いかけている。株式、為替、国債などマーケットの動きもウォッチしている。



米国と中国以外で世界最大のネット基盤企業になる

これがロケットの社是だ。両国以外の、これからネットビジネスが本格的に立ち上がるおっとりした市場に、いち早く地位を築くというのが同社の作戦だ。欧州、ラテンアメリカ、ロシアなど旧ソビエト連邦地域、アフリカ・中東、そしてアジア・太平洋の5つを攻略地域として挙げている。

 ロケットはマルク、オリバー、アレクサンダーというケルン出身のザンバー3兄弟が始めた。オリバーが現在、ロケットの最高経営責任者(CEO)を務めている。オリバーはコブレンツ近郊の大学WHUのビジネススクールを卒業。大学の同僚のマックス・フィンガーと1998年に「最も成功している米国のスタートアップ│起業家から学べること」という本を出版している。

 オリバーは本執筆で学んだことを実践に移し、1999年3月にフィンガーらとともにネット・オークションの先駆け米イーベイのパクリサイトをドイツで立ち上げた。それがアランドだ。設立から半年も立たずに、この会社は本家イーベイに売却。ザンバー兄弟が次に、2000年に設立したのがジャンバ。着メロなど携帯電話向けにコンテンツを提供する会社で、この会社04年に電子認証サービスの米ベリサインに売却された。



競争のない機会を選べ

 こうして儲けた元手で3兄弟は07年にロケットを設立する。ロケットはネット関連企業への投資会社のような存在で、「実績のあるネットビジネス」を未開の市場に移転するという「パクリ精神」はそのまま。創業間近の企業の株式の大半を取得しベンチャーキャピタル以上に経営に関与し、インキュベーター以上に長い間、経営支援を通じて出資企業を帝国の一部として育て上げるのが特徴だ。

 ロケット設立後もパクリによる快進撃は続く。例えば10年に立ち上げたシティーディール。何人かが集まって商品を安く共同購入するサービスを提供する会社だ。米グルーポンのビジネスモデルをコピーした。シティーディールはサービス開始から半年余りで本家グルーポンに売却された。

 ロケットの出口戦略は投資企業のライバルへの売却だけではない。ファッション関連の独ザランドはロケットが08年に設立したベンチャー。靴のネット通販、米ザッポス・ドット・コムのクローンだ。ロケットは12年から段階的にザランドの株をスウェーデンの投資会社キネヴィックなどに売却していった。ザランドは14 年10月1日にフランクフルト証券取引所に上場。時価総額は現在50億ユーロ超に上る。



ほかのプレーヤーと提携せよ提携は顧客、流通、そして信用を強化する


 批判的な目で見られがちなロケットだが、そのビジネスモデルも大企業との提携を通じて世界から認知され始めた。ザランドに出資するキネヴィックは09年からロケットへの出資を開始し、現在では同社の株式14%を握る第二位の株主だ。キネヴィックはラテンアメリカやアフリカで携帯電話サービスを手がけるミリコムや無料新聞メトロなどを傘下に持ち、ロケットが出資する電子商取引関連の企業への投資を加速。アジアからは14年8月にフィリピン通信最大手、フィリピン長距離電話(PLDT)が3億3300万ユーロをロケットに出資し、第4位の株主となった。また地域ごとにも戦略的なパートナーを選び、投資会社を共同出資で設立している。

 ザランドの上場の一日後の10月2日、ロケット自身もフランクフルト証取に上場を果たした。こちらの時価総額は60億ユーロに迫る。シティーディール、ザランドなどの成功事例はいずれも欧州を中心とするビジネスだったが、ロケットは手にした軍資金で世界展開を加速する考えだ。その一つがアジア地域で、ネット通販の巨人アマゾン・ドット・コムが進出していない、2億5000万人の人口を抱えるインドネシア、1億人に手が届きそうなフィリピン、ベトナムなど東南アジアに目をつけている。

 ロケットのアマゾン・コピーとされるのがラザダ。シンガポールに本社を置き、「東南アジア最大の電子商取引サイト」と豪語する。12年3月にサービスを開始し、マレーシア、インドネシア、タイ、フィリピン、ベトナム、シンガポールでサービスを提供している。書籍は手がけていないが、スマートフォン、デジタルカメラ、家電、さらにワインなど酒類も販売している。ラザダは14年11月、シンガポールの政府系投資会社テマセク・ホールディングスなどから2億ユーロを調達している。

 ザロラはファッション関連に特化した通販サイトで、ザランドのアジア版。12年初めの設立で、ラザダが展開する東南アジア6カ国に加えてブルネイ、さらに香港でもサービスを提供している。14年9月、ロケットはザロラ、インドのジャボンドット・コムのほか3つのサイトをグローバル・ファッション・グループに統合すると発表した。


ほかのプレーヤーと提携せよ提携は顧客、流通、そして信用を強化する

競争は市場の発展を促進する

東南アジアやインドの市場に注目しているのはロケットだけではない。日本でアマゾンと競う楽天はタイ、マレーシア、インドネシア、シンガポールでネット通販を手がけている。米国のネットビジネスをいち早く日本に持ってきて展開する「タイムマシン経営」を唱えたソフトバンク。米Tモバイル買収でつまずいた後、米国からアジアに転じる変わり身の速さは驚くべきものだ。ソフトバンクが出資する中国アリババ・グループもシンガポールの郵便事業会社シンガポール・ポストと資本提携し、アジアにおける物流網整備への布石を打った。

 アジアの電子商取引市場が成熟してくれば地域を超えた業界再編も出てくるだろう。ロケットは出口戦略をどう描くのか。ライバルへの売却か、それとも上場による資金回収か。あるいはライバルを買収する側になるのか。オリバー・ザンバーCEOの本には出口戦略について記述はない。



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