トピックス -企業家倶楽部

2015年04月21日

自分自身が”信用”であると心得、常に”正しさ”を追及する人間を育む/セコムの人づくり

企業家倶楽部2004年6月号 セコム特集第6部



文字通り、客の大切な鍵を預かるセコムの業務。それはすなわち、客と社会の安全や生命を守るものであり、さらに自らと仲間の安全をも確保しなければならぬものである。そんな業をまっとうできる責任感あふれた人材を育てるために、セコムはどのような人作りを行なっているのだろうか。毎年四月に御殿場の研彦センターで行なわれる定期時入社研修の取材をして、その人づくりの理念と方法論を探る。

 



定期時入社研修で見違えるほどに成長していく新入社員達

「起立」「礼!」教官の鋭いかけ声が飛ぶやいなや、一堂に会した約百名の研修生が一糸乱れず凄まじいまでの勢いで立ち上がり、直立不動の姿勢を取ったのち、まっすぐに上体を傾けて礼をする。慣れない者には、とてもついて行けない素早さ、規律正しさ、そして美しさ。九日間に及ぶセコム定期入社時研修、つまり新入社員研修の実質最終日の光景である。だが、これほど見事な動作を身につけた彼らはほんの昨日まで、ごく普通の学生であった者ばかり。いわゆる”今どきの若者“だ。それをここまで変えるセコムの新入社員研修とは、いったいどのようなものなのであろうか。

セコムの本年度の新入社員は約四百四十名。彼らは、今回取材した御殿場をはじめ名張、阿蘇と全国三か所に設けられた研修センターで研修を受ける。今年四月一日から九日までの九日間、ここ御殿場のセコムHDセンターで研修を受けたのはセキュリティ業務に就く男性新入社員、約百名。内訳はBE(ビートエンジニア)と呼ばれる機械警備に就く大卒者約八十名、常駐警備に就く高卒者約二十名である。

御殿場のセコムHDセンターは畑や森に囲まれた山の中にある。空気はさわやかに澄み、風景はのどか。都会のようなビルも遊び場所もない。この日常から遮断された空間で、新入社員の九日間が始まる。寝起きは四人一部屋。毎朝、九時頃からカリキュラムに沿った研修が始まり、夜にはグループ・ディスカッションや、研修最終日に行なわれる全体発表の準備などに追われる。



まず最大の難関は「気をつけ」「休め」などの基本動作

研修前半三日間の中心カリキュラムとなるのは基本訓練。かかとをつけ、背筋を伸ばして立ち、「気をつけ」「休め」などの基本動作をはじめとしたメリハリのある動作、礼節、マナーなどを学んでいく。それまで学生の日常生活ではまったく教え込まれることのなかったこの訓練は、研修生にとって最大の難関。そのため訓練は毎日繰り返し行われる。その中でセコム社員としての考え方を体を通して理解していくのだ。さらに、警備業法に関連した基本訓練も行われる。

続く四日間は職種別教育。BEと常駐警備、それぞれの業務に直結した実務的な訓練実習に入る。研修生は初めて学ぶ基本動作で、まず大きなインパクトを受け、さらに実務訓練の実習で、「お客のためにも自分のためにも、きちんとやらなければならないのだ」ということを学ぶのである。

研修を行うのは「教官」と呼ばれる研修インストラクター。さらにSCP(セコム・コーチング・パイロット)という名の先輩社員十数名が加わる。これは社内からの選抜者で、経験や年齢も様々。研修の現場で若手を育成することによって教育の考え方を体で知り、それを業務の現場へ持ち帰って後輩の教育に生かすものである。また、初めて規律正しい団体生活を経験する研修生達のガス抜きという役割を受け持つこともある。



最初は挨拶1つできない若者が次第に元気な挨拶をするように

 教官をはじめSCPも、いわゆる”今どきの若者“の実態に驚くことがある。「たとえば眠いとなったら、研修中でもそれを我慢できないんですよ」と、ある教官は笑う。そういった研修生達の悪い意味での”学生気分“を払拭し、プロとしての心構えを持たせることが研修の第一の目的である。ただし、セコムの場合、それをビシビシ叩き直そうという考えはない。「最近の若者は破天荒なタイプが少ないから、ある程度やんちゃでいい」と考えるからである。

 そんな教官達がまず一番に研修生に投げかけるのが挨拶である。最初は、自分から挨拶ができないどころか、教官が言葉をかけても挨拶を返さない者さえ少なくない。それでも教官達は明るく挨拶をし続ける。「強制してやらせたとしても、それではここだけで終わってしまう。なぜそれをやらなければならないかを自分で学び、自らやる気にならなければいけない」と考えるからだ。

 この「なぜそれをするかを自ら学び取り、進んでそれをする」という姿勢は、セコムがこの研修を通して大切にしていることである。こうして教官が挨拶をし続けていくと、次第に研修生も挨拶を返すようになる。実際、研修開始八日目のHDセンターで出会った研修生は一人残らず、驚くほど元気な声で気持ちよく挨拶をしてくれた。それは、きびきびとした挨拶とは、これほど気持ちよいものかと改めて思い知らせてくれたほどのものであった。



仲間と一つの目標を達成した時思わず感極まって涙する場面も


 挨拶以外でも、研修生はこの九日間を通し、教官達も見違えるほどに成長していく。だが、その自分自身の変化に誰よりも驚くのは彼ら本人のようだ。たとえば難関の基本動作がなかなかマスターできず、仲間と叱咤激励しながら奮闘し、遂に全員できちんとそろって完成できた時、思わず感極まって抱き合い、涙を流すこともある。学生時代の気ままな行動と違い、グループで何かを達成する新鮮な喜びを知った瞬間なのであろう。

 それについて彼らは「人前で初めて泣いた」「自分が泣くとは思わなかった」と素直な感想を寄せる。また研修終了後の所感を通して、「この研修で、身長がニセンチ伸びたような気がする」と述べた新入社員もいた。背筋を伸ばしたりする基本動作の訓練で、丸まっていた背が伸びたことも実際あろうが、彼ら本人も自らの心の成長を肌で感じているに違いない。

 取材に訪れた研修八日目は実質の最終日で、今まで学んだことの集大成としての全体発表を行う日であった。テーマは「俺たちが創る5年後のセコムー創造への挑戦1」。自分達が創る五年後のセコム、社会システム産業を表現するというものだ。十名前後のグループに分かれて、毎夜、ディスカッションを重ねてきた。その熱心さたるや、教官が「若くてエネルギーがるから、やり始めると止まらない。夜遅くまで頑張ってますよ」と笑うほどだ。その頑張りの成果を今日発表するのである。

 全体発表とはいえ、教官達は堅苦しいものを強制しはしない。スタイルは自由。採点されるものでもないから、研修生達の好きなようにやらせるのだという。そのため、パワーポイントなどパソコンソフトを使うものもあれば、寸劇仕立てのものもあり、と実に様々。発表当日、研修生達は午前中から準備の大詰めに入っていた。それぞれのグループがこもっている部屋をのぞいてみると、あるグループは熱心に最終準備をしており、あるグループはすでに余裕の表情で休憩中。だが、誰もが意欲たっぷりに、しかも楽しみながら、この発表に臨んでいるのがわかる。



発表の一番手を取ろうと一斉に元気いっぱいの返事と挙手が


 そして午後二時。いよいよ全体発表の始まりである。全員が集合して着席。続いて冒頭で述べたように、全員の見事な「起立1」が私達を驚かせ、感動させたのである。その後、教官が一人あて十枚のアドバイス・カードを配布。短冊のような小さな紙に、各グループの発表への感想、アドバイスなどを記すためのものだ。続いて、発表の順番を決める挙手がまた私達を驚かせ、微笑ませた。教官が「では、まず発表したいグループは?」と尋ねると、「ハイ!ハイ!」と元気いっぱいの声とともに一斉に手が上がる。その光景はまるで小学校の教室のようだ。「まるでピカピカの一年生みたいだな」と思って笑ってしまってから、気がついた。彼らも正真正銘、ピカピカの社会人一年生。素直な意欲と好奇心、積極性はまぶしく、そして頼もしい限りだ。

 かくして見事、一番手を射止めたグループの発表テーマは「保育事業」。保育所に入りたくても入れない待機児童の実情を挙げ、現在の保育所が抱える問題を紹介する。その上で監視カメラや出入管理、園児の安全を守るココセコム、BEによる画像配信サービス、セコム医療スタッフによる食事や医療対応などのサービスの可能性を展開。メリットやデメリットとその対策、この事業を通してセコムが目指すものまでが述べられた。全員、緊張はしているようだが、パソコンも使って、しっかりとした話しぶり。一芸コントのような寸劇も盛り込んで、意欲満々の発表であった。



グループ発表のあとは活発な質疑応答が繰り広げられて

続く二番羊・グループのテーマは「薬の自動販売機」と「セコム救急サービス」。前者は、病院の診察券を兼ねたカードを使って、自動販売機で薬を購入できるというもの。薬だけをもらいたいのに病院で長く待たされる、といったことがないようにする狙いだ。また後者は、セコム専用救急車によるサービス。マイドクターでの通報をカスタマーセンターが受け、消防署とも連携を取りながら、専門医が同乗するセコム専用救急車で救急サービスを行うというものだ。

 こうしたサービスの実現には現在のところ様々な壁があるが、彼らの主張は「セコムの”現状打破“精神で!」と力強い。この発表では活発な質疑応答がなされた。「もし自販機用のカードを紛失したらどうするのか?」「自販機ごとの盗難などの危険性はないのか?」など次々投げかけられる質問を、それぞれの得意分野に応じてだろうか、グループの誰かが即時に引き受け、的確かつ率直な答えを返す。こうした場面からも彼らの研究のきめ細かさがうかがえる全体発表であった。



自分で考えて、正しさを追求していくことが全社員の責務

 この九日間の研修で基礎知識を身につけたあと、新入社員は二十日間、先輩について現場を経験し、その後インターンへ、そして一人立ちしていくこととなる。だが、再び三~六ヵ月後にはより実務寄りの研修、さらに半年後にフォローアップ研修、一年後には中堅BE研修……と、再三にわたってきめ細かい研修が行われる。これら新入社員向けの研修を含めて、セコムの研修コースは実に三十~四十。年に全国三カ所の研修センターで、延べ一万二千人が研修を受ける。

 こうした研修をはじめとして、セコムが一貫して掲げる人づくりの理念は「正しさの追求」である。それはつまり、まともな精神、あるべき人間像。当たり前のことを当たり前にできること。どんな事柄においても、会社のためでなく、それが社会のために正しいのか、人として正しいのか考えることを、入社の時点から教え込む。それはセコム創業時からの飯田亮の理念でもある。新入社員の定期入社時研修は、それを気づいてもらうための一番最初の機会というわけだ。

 自分で考え、正しいことをするための一つの機会がチェンジ・リーダー制度。組織を変革させたいというエネルギーがある一般社員を公募し、任期一年で年四回の研修を行うものだ。自身の成功や失敗、悩みも含めたディスカッションなどを通して、目標を立て、組織変革の活動を行う。正しいことを考え、行つ努力をし、間違いはお互いに指摘し合うことで成長し、それを現場で自分より下の者に教えていく。それがセコムでは先輩から後輩へと脈々と続いてきた、と研修部長の鈴木隆幸は語る。

 「まず自分でしっかり考えるという心のくせをつけることが重要です。ルールの奥にある正しい意味を知るということ。ルールは明日には陳腐化するかもしれませんが、その裏の意味を正しくとらえていれば、何を変えるべきか、何を変えてはいけないかもわかるでしょう。飯田代表から末端社員に至るまで、企業理念や人作りに関する考えを単なる建て前や精神論、スローガンにとどまらせることなく実践してきたから、今のセコムがあると思います」



お客、自分、仲間の安全と命を守ろうとする”心“を持て

 また全社員が胸に刻み込むよう指導しているのは百分自身が信用である」という意識である。お客の鍵を預かるというのは大変なこと。その信頼に応えていかねばならない。社員一人一人の行動がサービスであり、信頼につながる。たとえば定期時入社研修で学べることは、実際の業務内容に比べれば多くはないが、新入社員がまずここで学ぶべきは、飯田代表以下全社員が胸に抱くその”思い“なのだ。さらに自分の身の安全を確保しながら、仲間のことをも思う”心“も重要である。

「たとえば常駐警備で身につけるオペレーションベストが重いからといって、はずしてしまったとします。その時、自分は無事だったとしても、誰かがそれを見てセコムの警備員はくみしやすいと考えるかもしれない。そのため後日、仲間が襲われることもあるかもしれないのです。そのようにお客、自分、仲間の安全と命を守ることを常に心がけることが大切なんです」(鈴木)

 セコム入社を志望する者の動機で最も多いのは「社会や人の役に立ちたい」との思いである。さらに「企業理念に惚れた」「飯田代表の本を読んで、引かれた」というものも多いという。そんな若手社員にセコムが望むことは、どのような現場にあってもマネジメントができる社員になることだ。鈴木はこう解説する。

「今はセキュリティ中心なので、セキュリティはできて当たり前ですが、これからはさらに医療や不動産に進出して行くでしょう。すると、どのような事業でもマネジメントが行える人材が求められるのです」

 そのためにまず磨かれるべきは人間力。そこで先のチェンジ・リーダー制度やSCPの制度による研修が生きてくる。常に「人としてどうなのか」を自らに問いかけ、自分自身を磨く努力を怠らないことが、セコム全社員に求められているのである。

 最後に話を御殿場で九日間を過ごした研修生達に戻そう。全体発表を終えた最後の夜、彼らは毎年恒例のキャンプファイヤーを囲んだ。暗闇の中、火の粉を巻き上げ、赤々と燃える炎を見つめながら、彼らはその明るさ、熱さに、希望にあふれた自らの未来を重ね合わせたに違いない。そして互いの九日間の健闘を称え、別れを惜しんで、再び抱き合って涙を流した。



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