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トピックス -企業家倶楽部

2015年05月08日

世界から目の病気をなくしたい/アキュセラ会長・社長兼CEO 窪田良

企業家倶楽部2014年8月号 注目企業




■学者、医者を経て企業家に

   加齢黄斑変性という病気をご存じだろうか。加齢と共に目の網膜が異常を来たし、最悪の場合失明に至る病である。全世界に1億2000万人もの患者がいるが、現在のところ効果的な治療法は見つかっていない。

   この難病を、服用が簡単な飲み薬で治療しようと挑む企業がある。米国シアトルに本社を構えるバイオベンチャー、アキュセラ。約60名いる社員は10ヶ国以上から集まっている。

   このグローバルベンチャーを率いるのは窪田良、47歳。20代で研究者、30代で眼科医、40代で企業家という異色の経歴の持ち主だ。慶應義塾大学の医学部を卒業後、同大学大学院に進学し、眼科治療の研究に従事。その後、虎の門病院などで眼科医の経験を経て、渡米した。ワシントン大学で再び研究を行った後、アキュセラを起業している。 異国の地で多国籍の社員を相手に、さぞかし様々な苦労があったことと思うが、窪田本人は全く意に介さない。

 「簡単に達成できたら、喜びなんて無い。苦労が目の前に訪れたら、大事を成し遂げる前兆だと感じますね。むしろワクワク感の方が強い」

   まさに、根っからの企業家である。そんな窪田の生み出そうとしている新薬とはいかなるものか。



■ 飲み薬で失明を防ぐ

   アキュセラが開発中の治療薬は「エミクススタト塩酸塩」と名付けられている。この新薬の革新性は、「飲むサングラス」とあだ名されるように、目の治療薬でありながら飲み薬である点だ。

   通常、目の病気への治療薬は、目の表面であれば点眼液、網膜や視神経などの目の後ろの部分となると眼球注射で投与する。だが、眼球注射は侵襲性が高く患者への負担は大きい。症状の進行した患者を対象にした治療法だ。加齢黄斑変性は、早期の「ドライ型」を経て、徐々に失明に向かうか、急激に視力を失う「ウェット型」に移行する。現在、「ウェット型」には眼球注射という治療法があるものの、「ドライ型」にはまだ治療法がない。


   そこへ行くと飲み薬は、服用するだけなので体への負担が軽減できる。白内障のように一度の手術で治る病気の場合、継続的に薬を飲み続けるよりも手術を行った方が費用対効果は高いが、現状として、手術が不可能な神経変性疾患でもあり、効果的な治療薬が上市されていない以上、アキュセラの新薬は画期的である。


   現時点で網膜に注射できる能力を持つ眼科医の治療を受けられるのは、世界で見れば先進国のごく一部の患者だ。それも、末期患者に限る。それでも、一部の治療薬においては約4000億円を売り上げている。一方アキュセラが開発している新薬は飲み薬のため、世界中の医療が進んでいない地域でも、診察さえできれば治療が可能だと考えられている。


   手術と比べ、薬の単価は低くなるが、その分多くの患者に使われるようになれば、市場規模は広がる。全世界に1億2000万人の患者がいる事実を勘案すれば、市場規模は少なく見積もっても5000億円。中には2~3兆円に上ると推定するアナリストもいる。その巨大市場に、アキュセラは足を踏み入れる。



■知財を武器に大手企業と渡り合う

   2014年2月には東証マザーズに上場を果たしたアキュセラ。2013年12月期は売上高55億7200万円、経常利益7億3800万円を達成し、業績も好調だ。しかし、実はこの会社には、まだ上市した薬はない。

   アキュセラの持つ一番の価値は知的財産であり、それをもとに大手製薬企業と共同開発パートナーシップおよび商業化契約を結んでいる。もともとの「タネ」をアキュセラが開発し、そのノウハウをパートナーと共有しているのだ。


   現在の収益は、そうした知財から得ている。アキュセラの開発する諸々の特許技術を使いたいという大手製薬会社などが、将来的に発生すると見込む権利を確保するために、未来志向で金を払っているのだ。


   もちろん大手企業も研究所を持って自社開発をしているが、効率は必ずしも芳しくない。現在、アメリカで年間に認可される薬の数は平均30前後だが、その半分以上はベンチャー企業由来の化合物だ。製薬業界においても、イノベーションは新興企業から生まれる傾向がある。


   だからこそ、大手製薬企業と共生関係を築けるのだ。アキュセラしか生み出せない知的財産があり、それを世界中の製薬企業が競合してでも買いたいと思えば、市場での価値が生まれる。バイオベンチャーとして、アキュセラは王道を進んでいると言えよう。



■3万分の1を潜り抜ける

   豊富な知財とノウハウを抱えるアキュセラだが、飲み薬の壁は厚い。人体内に入れるものなので、副作用なく分解されて血流に乗り、作用すべき部位に効果をもたらし、かつ適切なタイミングで排出されなければならない。

   一般的に見ても、最初に化合物ができてから認可される確率は3万分の1と言われている。最初は細胞で実験し、薬効が確認できたら動物に投与して調べる。そこでも有効性や安全性などが確認できたら、ようやく臨床試験が許される。臨床第一相試験では健康な男性から順番に、第二相試験では少数の病気の人、第三相試験では患者に対して大規模な臨床試験を行う。新薬として認可されるまで平均12年はかかるという。


「私たちの加齢黄斑変性に対する新薬が認められる確率は、3万分の1から2分の1になった」と窪田は胸を張る。成功確率は約1万5000倍に上がってきた計算だ。だからこそ株式上場も許された。


   しかし、まだまだリスクがあると捉える人は多い。今後もより多種多様な人々に協力してもらって実験を行い、認可を勝ち取る構えだ。まだモノを完成させていない以上、蓄積された実験成功のデータこそアキュセラの企業価値なのである。



■知識から巨大な価値を生み出す

「今や、たった一人の発想から始まった事業でも、仲間やお金を集めて、挑戦しやすい環境が整ってきた。面白い時代ですよ」と窪田は力説する。

   ベンチャー企業がどのように知的財産の特許を得て、薬剤開発を行っているのか、世間一般にはあまり知られていない。しかし事実として、知財の分野では、地球上に無尽蔵にある酸素や窒素、炭素、水素などを集めて化合物を作ることにより、それが人の病気を治す薬となり得る可能性を秘めている。その瞬間、空気の中にあるようなありふれた物質が、膨大な価値あるものに生まれ変わるのだ。


   日本のように資源に乏しい国でも、知識とノウハウさえあれば、圧倒的な付加価値を生み出すことが可能だ。それも、単に金銭的な利益にとどまらず、世界における問題の解決にも繋がる。


「失明を防げたり、命が救われたり、死活問題に対するソリューションを提供していける分野ですから、もっと挑む人が増えてもいい」と窪田は願う。


   窪田の夢は、日本人が世界に必要とされる集団だと発信していくこと。研究者から医者、そしてベンチャー企業家と転身を重ねてきたのもそのためだ。今でこそ知財を収益の柱としているアキュセラだが、将来的にはグローバルな製薬企業を目指している。窪田の挑戦は、まだまだ続きそうだ。(相澤英祐)



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