トピックス -企業家倶楽部

2015年05月28日

3年で1000人のスタートアップ人材を育てたい/スカイランド・ベンチャーズ 代表パートナー 木下慶彦

企業家倶楽部2015年6月号 先端人


スタートアップの企業を発掘し、投資を行うベンチャー・キャピタル(VC)。その中でも、主に学生企業家を含む若手のベンチャー企業とタッグを組んでいるのがスカイランド・ベンチャーズだ。代表の木下慶彦は未だ20 代。「渋谷をシリコンバレーにしたい」と意気込む彼の若き志に迫る。(文中敬称略)



26歳でVCを創業

 20代にして総額5億円のファンドを動かす男がいる。ベンチャー・キャピタル「スカイランド・ベンチャーズ」の代表パートナー、木下慶彦。社名が書かれた自作のパーカーを着て、訪ねて来た学生企業家たちとフランクに話す様子は、まるでサークルの先輩と後輩のようだが、彼によって見出された金の卵たちは次世代を担おうと日夜励んでいる。

 その中には、世界1200万ダウンロードを突破したアプリゲーム「ブレイン・ウォーズ」を開発・運営するトランスミット、消費者と商品をマッチングするメディアサイトを立ち上げたカウモなどが名を連ねる。トランスミット社長の高場大樹は現在28歳、カウモCEOの太田和光に至っては22歳というから驚きだ。

 木下がVCに関わることとなった発端は大学時代、日本テクノロジーベンチャーパートナーズ(NTVP)の代表を務める村口和孝との出会いがきっかけだ。彼の運営するVC養成講座に参加し、学校の文化祭で焼きそば屋やお化け屋敷といった出し物を会社に見立てて投資を行った。無事に収益が上がり、投資額に応じた資本が返ってきた時、同じお金にも関わらずアルバイトで稼ぐ時給とは全く異なる不思議な感覚を抱いたという。

 2009年に早稲田大学を卒業すると、証券会社勤務の後、26歳でスカイランド・ベンチャーズを立ち上げた。



渋谷にいなければ投資しない

 スカイランド・ベンチャーズの投資先は現在16社。そのうち9社が渋谷に本拠を構える。それもそのはず。木下が「渋谷にオフィスを構えなければ、投資はしない」と明言しているからだ。「事業内容も重要だが、感覚が合う企業家と一緒でなければ成功は難しい」というのが彼の持論。同じ場所にいれば、勉強会を開くにせよ、簡単なミーティングを行うにせよ、すぐに集まれて話が早い。出先からの帰りがけに投資先へ立ち寄ることもしばしばだ。そうした距離感の近さが同じ価値観を醸成し、結果的に二人三脚で歩みを進めることを可能としている。

 木下の掲げるもう一つの投資条件。それは、「ツイッターのアカウントを持ち、発信していること」である。

 事実、木下はツイッターをビジネスにフル活用しており、彼らが主催したイベントの広報ではこれが力を発揮している。自身がつぶやくだけでは自作自演感が出るが、より 影響力のある人物に頼んで発信してもらうことで多くの人々に情報を届けることができる。また、社長とのツイッター上でのやり取りを通じて、採用したエンジニアを送り込んでいる投資先もある。

 ツイッターのアカウントなど1分もあれば無料で誰でも作れるのだが、意外に抵抗を示す経営者も多い。エンジニアを探していると相談してくる社長には、まずはツイッターで発信してみるようにアドバイスする。こうした簡単な施策でさえ意見が食い違うようでは、今後共に歩みを進めることは難しいだろう。

 
 20代という若さは諸刃の剣である。紹介した二つの条件は、ある意味で「踏み絵」の役割を果たしているわけだが、どうしても貫禄の面では年上に敵わない以上、投資先との距離感を詰めることで成功の可能性を上げようとしているのだ。



創業期はエンジニアしかいらない

 木下は「今どきのスタートアップの創業期は、社長は社内でサービスとメンバーに向き合っていた方が成功する」と説く。彼が主に投資するのは、創業初期段階のIT企業。全国行脚で営業をするよりも、自社製品の質を高められるエンジニアのチームで固めた方が得策だというわけだ。前述のトランスミットやカウモもエンジニア社長が率いる会社だが、自社サービスと真摯に向き合うことで成果を出している。

 ただ、得てして創業社長は非エンジニアを入れたくなるもの。確かに、今後の経営戦略や資金調達を担うような人材がいるに越したことは無い。しかし、創業初期において、その選択は誤りだと木下は断言する。

 彼自身、09年に証券会社に入社して勤務していた際、サブプライム・ローンの打撃を被って、社員数を半分にされた経験がある。ただ、彼にとって衝撃的だったのは、その規模のリストラが行われたことよりも、半分になった人員でも会社がきちんと回ったということ。小回りを効かせて経営しているはずのベンチャー企業も例外では無く、社員数を半分にしても成り立つと思われる会社を木下はいくつも見てきた。

 エンジニアの会社を作る重要性を説く木下だが、そうした技術者の不足には頭を悩ませる。エンジニアの能力が足りないチームでは、作ることのできるサービスに限界が生じてしまうのだ。特にアプリやゲームは製作が難しい領域なので、優秀なエンジニアの育成は急務である。

 
 「そもそも、日本にはエンジニアを育てる基盤が整っていない」と嘆く木下。今注目しているのは、プログラミングなど情報系統の知識を学ぶことのできる高等専門学校(高専)だ。最近投資を行った、人工知能を研究している企業家も高専の出身。高専に進学して情報系統の学科を選んでいる人間は、それ以前からプログラミングを学んでいるケースも多く、学校でそのスキルに更なる磨きがかかるので、エンジニア育成という観点では有望だ。木下は同時に、エンジニアを目指す学生が増えるような啓蒙活動にも取り組みたいと考えている。


創業期はエンジニアしかいらない

お金を集めるより投資先を探す方が難しい

 VCの業務は、資金集めと企業家への投資という二つに分かれる。資金を調達してくる方が大変だと思われることも多いが、実は世の中に余っているお金はたくさんある。しかし、良い企業家が発掘されなければ、その資金が行き場を失い、滞留してしまうのだ。裏を返せば、優秀な企業家に投資している限り、必ずお金は付いてくる。金の卵を見つけ出す方が、よほど難しいということになる。

 そのため木下は、VCとして誰よりも多くの企業家に会おうと決めた。有望な企業家を見つけることに重点を置くスタイルに賛同する仲間の支持もあり、彼の下には現在5億円もの資金が集まっている。

 投資とスタートアップの立ち上げは全く別のものだ。創業期には何がなんでも事業を立ち上げて、売り上げが立つようにせねばならないので、企業家と二人三脚でうまく経営を進めることが肝要となる。そのためにも、木下は日本一企業家と出会い、同じ方向に進めると確信した経営者のパートナーになろうと決意したのである。

 「優秀なエンジニアチームを持っていて、新しいテーマを追っているか」

 投資の決め手は至ってシンプルだ。トランスリミットの場合、試作段階の「ブレイン・ウォーズ」を見て、投資を決めた。試作と言っても現在のサービスと比べて遜色無く、デザインもグローバルに展開できる予感が漂っており、潜在力を見て取った。

 カウモへの投資も、太田が実際のウェブページを見せに来たことがきっかけで、話を聞いたところ自信が十分に感じられた。やはり、具体的なモノを見せてもらえると一番分かりやすく、投資に繋がる可能性が高いようだ。

 「まだ試作段階でも、やりたいことや伝えたい世界観が分かれば十分。それだけで僕は話を聞きたいと思います」と木下。実は企業家が成功する秘訣として、投資家を口説けるか否かよりも、踏み出すか否かの違いの方が大きいのかもしれない。


お金を集めるより投資先を探す方が難しい

渋谷をシリコンバレーにする

 ベンチャーの聖地とも言うべきシリコンバレーには、企業家を育てる生態系が整っており、陽気な気候に恵まれ、そしてスタンフォード大学という知の集積地がある。翻って日本には、そうした風土が無い。

 木下は、渋谷をシリコンバレーにする計画を日夜練っている。企業家が集まるから、それを支える人間も寄ってくる。そんな環境を渋谷に作ろうと言うのだ。

 目下、彼が目指すのは「3年で1000人のスタートアップ人材を育成する」こと。そのために、ベンチャー企業家が参加するカンファレンスを主催したり、ピザパーティ感覚で起業に興味のある学生やエンジニアが集うミートアップを開いたりしている。

 前者は年に1、2回で十分だが、ミートアップはより頻繁に行いたい構えだ。それも木下が「ミートアップに参加するような人の方が起業には向いている」と考えているから。カンファレンスは著名な企業家を招いて行うことも多く、そうした「コンテンツ」を目当てに人が集まる。しかし、そうした人々は得てして勉強しに来ているだけ。口では「起業したい」と叫んでいても、ほとんど起業せずに終わる。むしろ、誰が来るかに左右されず、面白い人材を求めて自分から動いて来るくらいの人間の方が、企業家としては合っているというわけである。

 また、ツイッターを活用してスタートアップに適した人材を探す試みも行っている。有望ならば例外なくオフィスに招くようにしているが、その際も「今日明日中に来るスピード感のある人こそベンチャーに向いている」と木下。フットワークの軽さは絶対条件のようだ。

 スタートアップともなると、常に業績が伸びてばかりというわけにもいかない。不測の事態も起こるだろう。そうした急激な変化にも耐え、新しいものを生み出そうと邁進できる「スタートアップ人材」が1000人いれば、日本発のグローバル企業が次々に生まれてくるかもしれない。(相澤英祐)



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