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トピックス -企業家倶楽部

2015年06月26日

【潮田健次郎の経営道場】6 最終回 独自の経営システムが高利益を生み出す/INAXトステム・ホールディングス社長 潮田健次郎

企業家倶楽部2004年6月号 経営道場


日本屈指の創業経営者である潮田健次郎氏が豊富な経験に基づいて持論を展開するとともに若手経営者のさまざまな疑問、想いに答える。今回は「経営書から学ぶ」をテーマに、若手有力経営者たちと盛んな意見交換がなされた。

 

 

 

 肩書き・プロフィールは掲載当時のものです。



潮田健次郎(うしおだ・けんじろう)

1926年東京都生まれ。小学6年生の時、結核でサナトリウムに入る。家業の建具屋を関東最大の建具卸問屋に発展させる。66年住宅用アルミサッシ事業に進出、翌年東洋サッシを新設。アルミ建材総合メーカーとして事業を拡大し、85年に株式を上場。92年社名をトーヨーサッシからトステムに変更。2001年INAXと共同持株会社INAXトステム・ホールディングスを設立、会長に就任。


潮田健次郎(うしおだ・けんじろう)

無駄を省く仕組みを作る


 今回は経営書から経営の原則を学び実践に役立てる方法をお伝えします。テキストは高畑省一郎氏の『会社存続の原理』(ダイヤモンド社1900円+税)を使います。この本は利益責任のある管理者に特に役に立ちます。この本では「六つの成功原則」が示されています。

 
 第一の原則「経営指標を確立する」は、イトーヨーカ堂(以下ヨーカ堂)を例に取り上げます。ヨーカ堂は華々しい高利益を生み出していますが、その秘訣は経営の設計にあります。私の経験ですが、グループ会社の中でホームセンター事業を行っているトステムビバとイトーヨーカ堂で一緒に大きなホームセンターを作るときに、トステムビバが地所を買いヨーカ堂が借りるという形にしました。二社で買いに行くと値段が競り上がってしまうからです。しかしヨーカ堂に店舗を貸す段階になったら、それはもう厳しい。ヨーカ堂はこちらの採算が合わないような値段でないと借りないんですよ。それで「どうしてそんな値段が出るんですか、お互いハダカになって徹底的に検討しましょう」ということで調べてみたら、ヨーカ堂は建築費を二十万円に設定しているのに、トステムビバは四十万円なんですね。びっくりしまして、どうしてそういう差がでてしまったんだろうと質問したら、ヨーカ堂はその値段で出来るような設計を建築会社にさせていたんです。ふつうならそんな安い値段ではどの建築業者も請け負いませんが、仕事のない建築会社はその値段でもやりますと来るんですね。これが高利益を生み出す設計になるのです。


 トステムビバは設計所に頼んで設計してもらうので、設計事務所は体裁のいいものを作りたいから、どうしてもコストが高くなってしまいます。ヨーカ堂は設計事務所を入れますが、「この値段で、こういうやり方なら出来るという知恵を持ってきてくれ」というやり方なんです。それを知ったうちの社員が本当にもうビックリして帰ってきましてね。自分達のやり方は本当に間違っていた、四十万円だと利益出ないというのがわかったと言うんです。実際にトステムビバはあまり利益出てないんですが、ヨーカ堂は確実に利益が出ている。私たちはこんなに安い建築が出来るとは夢にも思わなかった。

 小売業界ではイオンとヨーカ堂が高収益ですが、その理由は作れば必ず儲かるような仕組みを作っているからです。他のスーパーは利益を考えずに店を作ってしまうから、潰れてしまつたりするわけです。例えば北海道のあまり人がいないようなところに巨大でお金をかけた店舗を作ってしまう。ですから潰れるべくして潰れ、利益が上がるべくして上がったわけですね。必ず利益が出るという基準を作り、その基準の中で店を作っていく。これが「経営の指標を確立する」という第一の原則です。経営指標を確立するということは利益の出るような設計を初めからしなくてはいけないと言っているわけですね。

 私の友人で水道のメーターを作っている会社があるのですが、水道メーターの売値は長い間談合で決められていました。ところが公安取引委員会が入ってもう出来なくなったんです。そしたら入札にあらゆる所が参加して、売値が半値になってしまった。それまでもあまり儲けていたわけではないのに、半値になったら潰れてしまう。会社を辞めちゃうかどうか迷ったんですが、それでも半値でできるにはどうしたらいいかを必死に考えて、給料の高い人は半分辞めさせて、仕入れ価格も公表して下げてもらったら、半値でもきちんと利潤がでるようになったんです。つまりいかに無駄があるかということですね。儲かっていれば儲かっている分だけ無駄があるということです。ヨーカ堂はその無駄を徹底的に省く仕組みを作っているのです。



売値を自分で決定できるかどうかを見極める

第二の原則は「業種哲学を熟知する」です。経営は「率による経営」と「率を変える経営」の二つの業種に分かれます。

 「率による経営」は、自分で売値を決定することが出来ないということです。例えば、卸・小売業などの流通業、土木・建築業などが挙げられます。「率を変える経営」は、自分で売値を決定できるということです。製造業や知的サービス産業(弁護士や医者・芸術家など)が挙げられます。例えば画家や音楽家はランクが上がれば上がるほど売値がいくらでも高くなります。

 自分の会社がこの二つの業種のどちらなのかという見極めが重要である、と著者は述べています。トステムは「率による経営」なので、率を変えられないわけです。工場からくる仕切り価格はピシッと決まっていますからね。競争がありますから勝手に売値を上げたり下げたりできないわけです。つまり競争があれば理論的には利益率がどこも同じになるはずです。ところがトステムでは営業所によって利益のバラつきがすごく多いんですよ。その利益のバラつきを全部いいとこ取りすると、例えばもつとも経費率の安い営業所を一つ出して、もっとも利益率の高い営業所を出しますね。そして利益がもっとも高い営業所ともっとも利益の低い営業所の差を計算してみると、なんと三百億円の利益が出てくるという結果が出てきました。つまりそれだけ無駄の多い経営管理をしていることを示しているのです。そういう場合は、徹底的な効率管理を行うことに力を注ぎます。トステムでは営業部門で百億円を利益改善をしようと決めました。この本を一冊読むことで、百億円が儲かる計算になったわけです。

 流通業は競争があるので率を変えられません。土木や建設も一人のお客様に対して売り手がたくさんいるので、率を変えられないんですね。ですが、メーカーのように画期的な新製品を開発すれば、ライバルが真似するまでのあいだは、高い利益が取れるわけです。例えばソニーはその手法で伸びていきました。ここで大切なのは、自分の会社は一体どちらなのかをしっかりと把握することです。「率は変えられない」業種(率による経営)なのか「率を変えられる」業種なのか。「率を変えられない」業種だったら、徹底的な経費管理をすることです。効率管理によって生産性を徹底的に上げるということを第一に考えなくてはいけない。「率を変えられる」業種の場合には、いかにして新製品や価値あるサービスを生み出すかに全力投球をしなくてはならない。その見極めが必要になるわけです。



差異化をしなければ利益は出ない

 第三の原則の「経営システムを確立する」は「差異化モデルを作り上げる」ということです。有名な米国の経済学者であるマイケル・E・ポーターは、企業の利益というものは差別化しないと出てこない、と言っています。他社と同じことをしていても利益は求められないわけですね。私の業界でも五社が競いあっているので、一つのビルが建つと五社が売りにいきます。だから一番安く最もいい商品を作るところから売れていきます。そういった場合に工場が遊んでしまうと大きな赤字になりますから、工場が遊ばない程度の限界利益でもって「材料+工賃」でかまわないから売りたいと言う人が必ず出てくるんです。そうすると本社費も管理費も金利も何も取れないわけですよ。売らないよりかはいいわけですが、それをやると値段がどんどん下がってしまうんですね。つまり買い手が売り手よりも少ない状況だと、必ずどこかの会社が安く売りますとなってしまう。これだと利益が出しにくくなります。それを避けるには差別化しかありません。その商品に独創性を持たせるとか売り方を変えるなど、とにかく何らかの差別化をしない限りは利益がでないのです。

 東京大学経済学部教授である岩井克人氏の『会社はこれからどうなるのか』(平凡社1600円+税)では「差別化」ではなく「差異化」という言葉で表現しています。「差異化をしなければ絶対に利益がでない」ということをそれこそ繰り返し述べてるんですね。ヨーカ堂のようにコストが非常に安いことも差異化のひとつです。企業がいかにして平均的な競争から脱出するかが重要になるわけです。



目標の設定と達成する手法を確立する

 第四の原則「意思決定の重要性を熟知する」は、「新事業がダメだったらすぐにやめる」ということです。これができないでダラダラと赤字を出して見込みのない仕事を行いがちです。設備投資は三年なら三年で償却して何%の利益が出るかというような一つの基準を作っておかなくてはいけません。この基準に当てはまるなら設備投資や新事業を行うという考え方です。

 第五の原則「常に三年後を考える」は、会議の三分の一の時間は「三年後どうなるか」について時間を割かなくてはいけないということです。今月の売り上げはどうだったのか、その理由はこうだ、ということを一時間も二時間もかけても意味はない。それは文章でまとめて読めばすむことです。会議では三年後にどういうふうに状況が変わっているのか、そのときわが社ではどう動くべきなのかということを議論しなくてはいけません。

 第六の原則「経営戦略を確立する」では、戦略という言葉の定義が重要です。戦略の意味は「経営が成功するために確立されるべき基本的な目標の設定とその達成のための最も基本的な手法の確立である」と高畑氏は定義しています。経営戦略がなければ社員は動けません。会社が向かっていく方向がわからなければ、十年経っても同じ状態が続くだけです。経営戦略は現在よりも飛躍した姿を描き出して、それに向かう道筋を立て実行していくことです。自分たちはどういう事業を行い、どういう会社になりたいのか。そのためにはどういう方法を活用するのか。その経営戦略をきちんと言えなければ経営者ではありません。経営戦略を明文化していくことです。これは経営者だけではなく社員も同様です。



いつでも寝られる旅館が流行る

  リチャード・ミニターの『なぜ企業はシェアで失敗するのか」(日本経済新聞社1600円+税)という本の中で、ゼネラル・エレクトリック社の会長兼CEOであるジャック・ウェルチの言葉が紹介されています。「あらゆるものを測定したがり、結果として何も理解しないという場合が多い。企業において測定すべき最も大切なものは三つ、顧客満足度、従業員満足度、そしてキャッシュフローだ。顧客満足度が上昇すれば、グローバルな市場シェアも上がっていく。従業員満足度が高ければ、高い製品品質やプライド、創造性が得られる。キャッシュフローは、脈拍のようなものだ。企業にとって大切な生命の証である」

 つまりこの三つ以外のことは枝葉末節だということです。顧客満足度を高めるには顧客主義を徹底しなければいけません。例えば倒産した旅館を安く買い取り一泊五千円で大繁盛している会社があります。食堂などはコストをかけないで見た目だけを綺麗にし、布団もお客様が来てから敷くのではなくてあらかじめ全部敷いてある。これこそ顧客主義なんですね。旅館に行って寝たい人はすぐに眠ればいい。朝早くに布団を畳みに来られると追い立てられるような気持ちになりますが、この旅館はずっと敷いたままだから、ゆったりした気持ちで過ごすことができます。帰るまで何回でも寝たり起きたりしていられるのです。

 これまでの旅館が潰れやすいのは顧客満足度を考えてなかったからです。食べきれないほどの料理を運び込んで朝になると布団をたたみに来られて二万円近く取られてしまう。人件費かけて高い値段にして結果的にサービスがよくない。お客様は二万円も払いたくないし、食べられもしないほどのご馳走を並べてられても困るし、朝起きてすぐ布団をたたまれてはなんのために来たのかわからない。「もっとゆったり過ごしたい」という顧客満足をこれまでの旅館は知らなかったのです。料理を豪華にせずにバイキング方式で食べたいモノが食べられて、いつでも寝ていつでも起きていられる五千円の旅館のほうが顧客満足を満たしていたので大人気になったというわけです。



イノベーションとは毎日の仕事のなかで改善することだ

 企業が競争力を獲得し向上するための王道はイノベーションを起こすことです。イノベーションなくしては生き残れません。経営誌『エコノミスト』の二〇〇四年二月三日号で東京大学先端経済工学研究センター客員研究員である安田聡子氏が書かれたイノベーションについて定義がとてもわかりやすいものでした。

 「イノベーションは『技術革新』と訳されることが多く、とてつもなく新しい製品の開発と誤解されがちであるが、実際には、たとえ小さな点であっても何かを変更し、それを業績の向上につなげることである。つけ麺を考案して売り上げを伸ばしたラーメン店も、工具の配置を変えて生産リードタイムを短縮した町工場も、イノベーションという意味では半導体開発に決して劣るものではない。つまりイノベーションとは、『何かを変更して業績を向上させる』ことである」と述べています。

 イノベーションという言葉を先端的な工業技術だけだと考えてはいけません。イノベーションは毎日の仕事のなかで改善することなのです。大切なことは全社員がイノベーションを行い、その効果を数値化して把握することです。例えば工具を改良した場合に、今までの工程を五十秒から三十秒にしました、つまり生産性が七割上がりましたというふうに数値化しなくてはいけません。一つの機械を組み立てるのに五十分かかるのを三十分にして六七%の生産性を上げますという目標も必要です。目標があれば知恵がでるんですね。全社員が目標を立てて改善するというイノベーションを繰り返して行うことによって差異化が実現するのです。つまり原価における差異化が可能になるわけです。

 不良を減らすことや生産性を上げることは商品のイノベーションですが、営業マンが各店舗を効率よくまわるのもイノベーションです。それを徹底的にやりつくしたのがトヨタなのです。それがトヨタ生産方式まで辿り着く原動力になった。これはもう驚異的な生産革命の極致です。トヨタは全社員が改善点を見つけ、それを五十年続けてきたわけです。そこまでしないと差異化は生まれてきません。コストの差異化にしてもシステムの差異化にしても同じです。現在の状態をこう直しますと全社員が言えることが、改善目標を設定するということなのです。



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