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2015年07月28日

音楽・映像ビジネスに「ストリーミング革命」メディア業界地殻変動も/梅上零史

企業家倶楽部2015年8月号   グローバルウォッチ


肩書き、プロフィール、会社概要等は掲載当時のものです。


音楽、映像コンテンツをどういう方法で楽しむか、その形態が一昔前から大きく変化してきている。レコード、CD、DVD、さらにはパソコンの記憶媒体といったハードに保存して再生するやり方ではなく、遠隔地にあるサーバーから逐次配信を受けるストリーミング形式で楽しむ方法が世界中で次第に比重を増しているのだ。コンテンツを保有しない欧米発の「ストリーミング革命」はメディア業界に地殻変動をもたらしつつある。

 



Profile 

梅上零史(うめがみ・れいじ)

大手新聞社の元記者。「アジア」「ハイテク」「ハイタッチ」をテーマに、日本を含むアジアのネット企業の最新の動き、各国のハイテク産業振興策、娯楽ビジネスの動向などを追いかけている。最近は金融やマクロ経済にも関心を広げ、株式、為替、国債などマーケットの動きもウォッチしている。




 日本上陸はまだか――。国内で消費者が待ちわびているコンテンツ関連のサービスが二つある。音楽配信の「スポティファイ」と映像配信の「ネットフリックス」だ。

 サービスと同名のスポティファイは本社を英国ロンドンに置くが、もともとはスウェーデン・ストックホルム発のベンチャー企業。2008年にサービスを開始して以来、瞬く間に世界に広がった。欧州、北米、中南米のほかアジアでは香港、台湾、シンガポール、マレーシア、フィリピンなど計58カ国・地域でサービスを展開している。

 日本からサイトにアクセスすると「日本でのサービス利用は現在準備中です!」と表示されるが、裏技を使って米国のサービスに無料登録してみた。メールアドレスを入力して専用アプリをパソコンにダウンロードする。アプリを立ち上げると、トップ画面にはロック、ラテン、クラシックなどのメニューが並び、それぞれの分野でさらに細分化されたプレイリストが表示される。好きなアーティストの名前を入れても曲目が表示され、1950sと入れると50年代のヒット曲が並ぶ。

 試しに「Abba」と入れるとさすがスウェーデン発だけあって、ABBA本人たちが歌う曲がずらっと出てきた。「Beatles」と入れると曲は表示されたが、コピーバンドの曲ばかり。日本のアーティストでは海外でも人気のアイドル「きゃりーぱみゅぱみゅ」やBABYMETALの曲が数多く登録されていた。

 無料会員だと途中にCMが流れたりするらしいが、裏技だったからかそうしたこともなく、頻繁にCMが入る「YouTube」のような煩わしさはない。月9.99ドル払えばより高音質の音楽が聞き放題となり、楽曲を端末にダウンロードすることもできる。世界で1500万人以上の有料会員がいる。米国市場には11年7月に参入し、それまで主流だった米アップルのダウンロード方式の音楽配信サービス「iTunes」を脅かすまでの存在となった。アップルは14年5月に米ビーツ・ミュージックを買収。そのノウハウを取り込み、6月に「アップル・ミュージック」としてストリーミング配信に本格参入する。ストリーミングなら端末の記録容量は軽くて済み、サーバーに蓄積された膨大な楽曲をクリック一つで簡単に呼び出せる。

「音楽のデジタル革命の新段階は消費者が音楽を所有したいというよりも、アクセスしたいという欲望に牽引されている」。国際レコード産業連盟(IFPI)トップ、フランシス・ムーア氏はこう語る。IFPIによれば、14年の世界の音楽市場ではデジタル音楽市場がCD市場を初めて上回り68.5億ドルとなり、そのうち23%をストリーミングサービスが占めた。その成長率は前年比39%増で、会員数は前年比1.5倍の4100万人に達した。

 音楽のデジタル配信は99年にファイル交換サービスの米ナップスターが登場して一躍注目された。しかし同社は大手音楽レーベルに著作権侵害で訴えられサービス停止に追い込まれた。01年にアップルが著作権管理を徹底した「iTunes」を投入し、業界も協力するとCDで音楽を聞くスタイルが次第に変化。今は定額制のストリーミング配信が急伸し、3大レーベルもスポティファイに出資する。業界の姿勢は大きく変わった。



野望の階段

 一方、映像のネット配信で世界を席巻しそうなのが米国発のネットフリックス。この秋には日本でもサービスを開始する予定だ。

「このドラマは副総理には見せたくない」。4月28日、米国ホワイトハウスでの公式夕食会で安倍晋三首相が披露したジョークに、オバマ大統領など出席者は爆笑の渦に包まれた。ドラマのタイトルは「ハウス・オブ・カード 野望の階段」。ケビン・スペイシー演じる政治家フランク・アンダーウッドが下院院内総務を経て副大統領に就任し、冷酷無情に権謀術数を駆使して大統領を追い落とすというストーリーだ。オバマ氏もはまった大ヒットドラマだが、テレビで放映されたものではない。ネットフリックスが独自に制作しネットで独占配信した。テレビドラマのオスカー「エミー賞」を受賞するなど、娯楽性の高さは折り紙付きだ。

 ネットフリックスが97年に営業を開始した時は、郵送方式によるDVDレンタルサービスだった。07年にストリーミング配信を開始。既存テレビ局などが気前よくコンテンツを提供してくれたおかげで、飛躍的にサービスが拡大した。今や米国ではケーブルテレビの地位を揺るがす存在となっている。北米や欧州など50 カ国以上の国で6200万人の有料会員が月額千円ほどで映画やラマなど好きな映像を楽しんでいる。

 ネットフリックスの本質は他社が作ったコンテンツを配信するだけではなく、「ハウス・オブ・カード」のように同社のサービスでしか見られない独自コンテンツの制作に乗り出しているところにある。米国ではすでに「チャンネル」としての地位を確立し、テレビ受像機のリモコンにもネットフリックスボタンが標準装備されるほどだ。

 5月26日、米ケーブルテレビ業界の再編のニュースが流れた。4位のチャーター・コミュニケーションズが2位のタイム・ワーナー・ケーブルを買収するという。この再編劇はネットフリックスの映像配信における攻勢が一因との見方もある。ケーブルテレビからネットフリックスへの乗り換えが相次いでいるからだ。同社の時価総額は現在380億ドル(約4兆7000億円、5月末現在)。チャーターの200億ドルの倍近い。日本の在京5キー局の合計時価総額約1兆6000万円よりも大きい。

 一方、スポティファイは5月20日、動画配信サービスへの参入を表明した。テレビ局などと提携してニュースや音楽のビデオクリップなどを主体に配信し、独自コンテンツも増やしていくという。音楽、映像のストリーミング配信にはアップル、米アマゾン・ドット・コム、米グーグル、日本ではエイベックス・グループなども参入しており、今後、競争は激化していくとみられる。合従連衡の動きも出てくるだろう。ストリーミング配信の「野望の階段」を上りつめるのは誰だろうか。



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