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トピックス -ビッグベンチャー

2014年04月27日

南欧復活への道/和田昌親

企業家倶楽部2014年6月号 ラテン式経営学 vol.5


スペインが「経済危機」以外で、久しぶりに世界の話題を集めた。2020年五輪招致である。フアン・カルロス国王を先頭に招致活動を展開したが、「安心・安定」を前面に出した東京に及ばなかった。競争相手が東京だったのが不運だった。




 2013年9月、アルゼンチンのブエノスアイレスで開かれたIOC(国際オリンピック委員会)総会。ロゲ会長が「2020年は東京!」と五輪開催地を発表、日本国民は歓喜に沸き返った。その発表の直前、ふと考えた。もし東京が負けるとしたら「勝者はマドリードになって欲しい」と。

 欧州経済危機の元凶は「南欧」だ、といわれて久しい。「南欧」のほとんどすべてがラテン系諸国だ。「ユーロは崩壊する」、「ギリシャはユーロ圏離脱か」などとマスコミやエコノミストらの無責任な予測が広がり、気分を変える転機が必要だった。20年五輪がマドリードになれば、欧州経済の回復を後押しし、世界経済の発展に寄与すると思った。スポーツが景気回復の起爆剤になることはよくある。

 当連載コラム「ラテン式経営学」ではこれまで「ラテンアメリカ」を主な対象にしてきた。実際ラテン式といえば、ラテンアメリカをイメージする人が多い。しかし、もともとラテンの語源はイタリアの州「ラツィオ」が発祥と言われており、源流は欧州だ。ローマ帝国の公用語もラテン語だった。

 ラテン語はイタリアから、フランス、スペイン、ポルトガル、ルーマニアへと派生し、それぞれの地で言語をつくった。ギリシャ語は、と言えば、ローマ人がラテン語を生み出す際に、参考にした“親言語”だ。これらの国の言語は文法が似ており、兄弟言語と言える。

 だから、この回では「欧州ラテン」の復活話を紹介したい。欧州ラテン諸国、とりわけ単一通貨ユーロを使う国の多くが世界で“鬼っ子扱い”されている。経済危機で世界経済を揺るがせているというのがその理由だ。

 世界の「南欧」に対するバッシングはひどかった。そのひとつが国際金融界で喧伝された「PIIGS」(ピーグス)という言葉である。各国の頭文字を並べた新語で、その国々はポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペインだ。

 アイルランド以外は「南欧」で、豚を連想させる「ピーグス」は英米のアングロサクソンによる命名に違いない。それにしても、蔑称を堂々と使うとは失礼千万である。

 仕方がない面はある。PIIGSの政府債務残高のGDP(国内総生産)に対する比率はポルトガルが90%、イタリアは100%超、スペインは65%程度(2010年)と威張れたものではない。

 それでもさすがに言葉の響きが悪いと誰かが言い出したのだろう。英国系銀行などから「GIIPS」(ジープス)への言い換えが始まり、その後は余り使われていない。

 欧州経済危機をおさらいしておこう。始まりは08年のリーマンショックの少し前だ。米国発のサブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)の焦げ付きが世界に広がった。このローンが証券化され、多くの金融商品に組み込まれていたため、影響は世界全体に及んだ。 

 そしてギリシャ政府が経済危機を隠す指標の粉飾をしていたことがわかり、同国から資金が流出、債務危機に発展した。さらにポルトガルやスペイン、イタリアの国債金利も一時は危険水域とされる7%前後に上昇した。

 ギリシャなどでは多くの預金者が銀行から預金を引き出し、銀行経営も悪化していった。対応策として公務員数の削減や給与の引き下げが行われたが、緊縮財政は国民の反発を招き、デモが相次いだ。先進国の債務危機という事実上「初めての試練」もギリシャからだった。

 イタリア、ギリシャ、ポルトガルなどの「南欧」は予算のバラ撒きが裏目に出て、スペインの場合は日本と同じような不動産バブルの崩壊が起きた。銀行の経営も悪化し、スペインでは12年に大銀行のバンキアを公的資金で救済した。

 スペインの場合は失業率がいつも話題にのぼる。労働者の失業率は25%前後と悪化したままだ。同国では国債増発も金利上昇を招くのでやりにくい。財政と銀行システムの「複合危機」と言われ、解決にはもうしばらく時間が必要といわれる。




 さて欧州危機を観察していると、かつてどこかで見たことがあるデジャビュ(既視感)におそわれる。そう、1980年代の中南米債務危機の記憶である。筆者がサンパウロに住んでいた82年当時の債務危機はメキシコに始まりブラジル、アルゼンチン、チリもやられた。あのドミノに比べると、欧州危機の衝撃度は少ない。

 あの時は先進国も途上国も皆初めての経験で対処法がわからず、IMF(国際通貨基金)も頭を抱えていた。そしてブレイディ・プラン(米国の財務長官の名前を取った)による徳政令(元本削減、金利減免など)で中南米経済が回復するまで10年かかった。

 欧州の場合は回復にそんな時間はかからないはずだ。欧州国民は中南米国民と違って、IMFなどに押しつけられた緊縮政策に素直に従わないのが気になるが、欧州の先進国の人たちは生活レベルを下げたくないのだろう。

 それよりも、IMF、EU(欧州連合)による素早い緊急融資が効いた。中南米の場合はIMFと民間のシンジケートローン(協調融資)が頼りで、融資実行の協議に時間がかかった。これに対し、欧州危機ではグローバル時代を反映し、IMF、EUなどがすぐに問題国の救済に動いた。この救済スキームは中南米債務危機の教訓があったからできた。

 ユーロ圏へのIMFとEUによる金融支援は10年のギリシャ向け2400億ユーロに始まり、ポルトガルには11年に780億ユーロ決定、スペインには銀行支援向けに最大1000億ユーロ、キプロスには13年に最大100億ユーロが決まった。

 2014年1月のIMFの世界経済見通しによると、世界の主要国で12年、13年ともマイナス成長となっているのはユーロ圏とイタリア、スペイン両国だけだ。ただ、よく見ると、復活の兆しが感じられる予測が並んでいる。IMFも欧州景気は底打ちが近いと判断しているのだろう。

 この経済見通しでは、ユーロ圏の13年の実質経済成長率はマイナス0.4%で12年のマイナス0.6%からマイナス幅は縮小している。各国別ではイタリアの13年はマイナス1.8%で12年のマイナス2.4%から好転している。またスペインの13年はマイナス1.3%で、12年よりわずかに好転、底打ちムードが出ている。

 イタリア、スペインは痩せても枯れても南欧の「大国」である。両国の実態は再度検証する必要がある。イタリアのGDPは世界のベスト・テンの常連だし、スペインの経済規模は韓国やメキシコより上だ。財政赤字や銀行不良債権問題を抱え、失業率も高いが、まだ見捨てるわけにはいかない。

 つまるところ、イタリア、スペイン両国が欧州復活のカギを握る。国際社会は2つのラテン大国に何としても復活してもらわなければならない。「欧州危機」と言っても、ユーロ通貨の弱点が露呈しただけで、国力が弱まっているかどうかは数字ではわからないと分析する人もいる。

 欧州の懐の深さと底力を見直す必要があるかもしれない。大手航空機メーカーのエアバスが欧州ラテンを含めた各国合作だったりする。いがみ合うばかりの日中韓では考えられない結束力である。

 文化遺産という資産を持つのも強味だ。半永久的に観光客が入国してくるからだ。イタリアを例にとれば、レオナルド・ダ・ビンチ、ミケランジェロらはまさしく南欧の英雄だ。そうした天才を育てた土壌は今も生きる。加えて現代の産業技術。たとえば自動車やアパレルの高級ブランドなどは他国にはマネできない。 




Profile 和田昌親(わだ・まさみ)

日本経済新聞社顧問(元常務取締役)
1947年神奈川県生まれ。1971年東京外国語大学スペイン語科卒。同年日本経済新聞社に入社、産業部や国際報道部門に長く在籍。1980年代半ばにブラジル・サンパウロ特派員、その後東京本社経済解説部長、米州編集総局デスク(ニューヨーク)、欧州総局長(ロンドン)などを経て日経常務取締役(国際担当)を務める。2010年子会社の日経HR社長、13年から日本経済新聞社顧問。
著書に『ブラジルの流儀』(2011年、中公新書)、『逆さまの地球儀 複眼思考の旅』(2008年、日経出版社)、『蒼天に生きる新生モンゴルの素顔』(1994年、日本経済新聞社)。



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