トピックス -企業家倶楽部

2015年08月20日

インターネットの未来を創る/フリービット 代表取締役社長CEO 石田宏樹

企業家倶楽部2011年4月号 今、日本を最も面白くする企業家たち


この記事は、テレビ東京系BSデジタル放送・BSジャパンで放送中のワールド・ビジネス・チャンネルの番組を紙面化したものです。今、日本を最も面白くする企業家の熱きドラマです。なお、過去放送分も含めた当番組の全てのラインアップは、企業家ネットワークのホームページでご覧頂けます。(http://kigyoka.com)



ソニー盛田昭夫からの一通の手紙

 私は大学時代に起業して、インターネット関連のコンテンツ制作やコンサルティング活動をしていました。同時期に三菱電機の目に留まってプロバイダー事業の参入に協力し、その後インターネットをより広げるために2000年5月にフリービットを立ち上げました。フリービットはBtoBでインターネット接続業者にサービスを提供し、社数ベースのシェアでは業界ナンバーワンの実績があります。

 起業に至るまでの経緯は、子供の頃にソニーの盛田昭夫さんに憧れて、将来はソニーを動かす男になろうと決心したことから始まります。

 私は昔から目的と手段をはっきり分けて考える性格で、高校進学の際にその意味を見出せず、1年間浪人となりました。そんな時に出会ったのが、盛田さんが書かれた「MADE IN JAPAN」という本でした。「ビデオに録画できることは個人をテレビの前から解放するのだ」という論理で、ビデオデッキの著作権侵害を訴えるハリウッドに真っ向から挑んだ盛田さんの考え方に感銘を受け、ソニーで働く夢を抱くようになりました。目的が決まったので今度は手段として、高校もベンチャーにしようと新設の高校に進学しました。

 ある日、ソニーの製品で校舎の様子を撮影しようと、ハンディカムビデオを買いに行きました。非常に値段が安かったため、店員に「中古製品ではないのに安いということは、これから新製品が出るのでしょうか」と聞いたところ、「出ません」と言われました。ところがその2週間後に新製品が発売されました。尊敬するソニーが消費者に嘘をつくとは、当時の私には信じられませんでした。そこでハンディカムに記載されていた住所宛に自分の思いの丈を書いて送りました。

 2週間かけて「自分はソニーを動かす男になりたくてベンチャーの高校で頑張っている、ソニーはどうしたんだ」という思いと「ソニーは今後こういう風にやるべきだ」とネットワーク社会についての考えを書いて送りました。すると信じられないことに盛田さんからお返事が来て「君はソニーに入社するよりも自分で起業した方が良い、そしてやるならばこれからは通信だ」と勧められました。

 起業も、通信でやっていこうという考えも盛田さんの手紙がきっかけです。目標が決まると、手段として大学も通信に力を入れているところに行こうと思い、慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパスに進学しました。



インターネット自体を進化させる

 フリービットは「インターネットを広げて社会に貢献する」という理念で作った会社です。こう言うとネット上でのビジネスが思い浮かべるかもしれませんが、インターネットの可能性はより広いものです。その可能性を追求していくのが我々の使命で、実際にどのようにインターネットを支え、広げていくのかが事業区分となります。

 最初に事業化したのがブロードバンドのインフラを提供する部門です。現在日本にあるインターネット接続業者300社のうち250社が我々のインフラを利用しています。

 接続した上で、今度はネットビジネスを始めるために必要なクラウドコンピューティング、パソコンにソフトウェアをインストールしなくてもサーバー上で実行できるプラットフォームも提供しています。

 接続、ウェブ上でのビジネス、その次に来るのがインターネットマーケティングです。これは皆さんが検索エンジンで目的の情報にたどり着くための支援をする事業です。今までインフラ専門だった我々はウェブの世界を知るために、日本で代表的なSEO(検索エンジン最適化)会社で、ネット広告事業などに精通しているフルスピードを買収しました。

 最後が一番面白い領域になります。現在パソコンや携帯電話、スマートフォンなどでインターネットを利用していますが、将来的にはさらに多くの機器がインターネットに繋がるようになります。例えばデジタルフォトフレームとデジタルカメラがインターネットで繋がると、撮影したデータをそのままフォトフレームに送ることができるようになります。さらにはフォトフレームからまた他の媒体に送ることができるようにもなります。

 我々の特長はそうした機器も自社で開発できることで、回線から機器まで全てが垂直統合で行えるようになっています。



万里の長城も10元から

 中国市場は非常に膨大な市場で、現在アメリカを超えて4億人のインターネット人口があると言われています。インターネット人口は毎年日本の人口と同じくらい増えていますが、それでも全人口の13億人に達するまで、まだ10年近く伸びしろがあります。

 その点から見ると、日本の場合は人口が減少し始め、インターネット自体が普及し終わっているところもあります。この中でパイを取り合うよりも、広い所に出て行く方が良いと思います。そこで重要なのは成長市場に対してどのように存在感を示していくのかです。

 インターネットが発明された30年前には、現在のように多くの人々が利用するとは考えられていませんでした。そのため従来のIPv4というバージョンではアドレス数が2の32乗個(約43億個)しか振り分けられず、すぐ底を付くと言われています。そしてアドレスの枯渇が最初に起こるのが中国です。なぜかというと、中国がインターネットを導入した時には、既にアメリカや日本が殆どのアドレスを取得していたからです。

 中国ではIPv6という、アドレス数をほぼ無限大に増やすバージョンに更新する必要があるのですが、これには多大なコストが掛かります。そこでフリービットの仮想化技術、インフラに手を加えずに低コストでアドレスを無限に増やす技術を提供するのです。

 中国進出は7年前から始め、中国でインターネットコンテンツを運用するために必要なライセンスについて学ぶことから始めました。2年前にやっと北京に会社ができて、事業が始まってきたところです。

 事業は現地企業と提携しながら進めています。我々は中国で最も歴史が長く、政府関係や通信事業者とのパイプが強いインターネットシンクタンク会社の北京天地互連と合弁会社を作りました(北京天地互連飛比特網絡科技有限公司)。ここではフリービットと同じくインフラを提供しており、我々が培ってきた技術やノウハウを活かしています。

 もう1つ、PCに限らず多様な家電にネットワーク機能を拡げていくために、中国最大のコンシューマーエレクトロニクス機器メーカーのaigoと提携しました。中国ではブランド価値だけで2000億円あると評価されている会社で、フォトフレーム、ミュージックプレイヤー、モバイルストレージの分野では中国トップシェアの会社です。

 2009年に我々の、スマートフォン自体をサーバーに変えるアプリケーション「サーバーズマン」のライセンスを機器メーカーに販売しました。現在では様々なライセンスをクリアして、BtoCで直接のビジネスも始まっています。この間初めて中国の一般のお客様から、オンライン決済で100元頂きました。それを下ろしてきた最初の現金10元は一生の記念としてとっています。



1人の天才より多くの人材を育てる

 我々の世界では、継続的に優秀な人材を生み出す事が重要です。例えば、優秀な若者が携帯電話1台で起業して、天才的な能力で市場に参入してきます。我々もその意味で個人を成長させ続けることは重要な課題となっています。

 我々は去年、有名なビジネス書の作家である酒井穣を戦略人事部のゼネラルマネージャーとして招き、オリジナルの教育、採用システムを開始しました。例えば「道真公の愛」という読書制度がそれです。これは本を買って書評を社内のSNSに投稿すると書籍購入の代金が半額負担になる制度です。給与明細に「道真公の愛」と書かれたコーナーがあって、そこに金額が毎回記載される、この欄がゼロだと寂しい(笑)。

 読書教育をベースとして、社員へ我々の言葉を伝えるためにまとめて頂いた本があります。これには「全ての行動は理念から生じる」「自分を諦めているのは自分だけだ」「フリービットが次のソニーになれないという合理的な理由はどこにもない」といった言葉が載っています。できないと言っている人に対してその理由を聞いてみると、実は合理的ではないことが多い。どうしても解決しないといけない問題、その答えが自分の中に無いのなら外に求めるしかありません。そのための読書はとても重要なものだと思っています。


1人の天才より多くの人材を育てる

コンピュータは10年間で175倍の性能になる

 インターネットの進化はものすごく動きが早いように見えますが、俯瞰して見るとたった2つの法則で動いています。1つはインテルの創業者であるゴードン・ムーア氏が提唱した、ムーアの法則というものです。コンピュータのCPUや集積容量が18カ月から24カ月で倍になるというもので、これを考えれば2年後にどういうスペックの物が出てきてコンピュータで何が出来るかの予想がつきます。もう1つはリチウムイオン電池の理論限界、簡単に言えば、外に持ち出せるようになるかどうかということです。この2つの法則で、実際かなり予測が出来てしまいます。

 2000年に、採算度外視すれば技術的には実現可能だと言っていたことの多くが、現在では実際に普及してきています。この10 年間でCPUの速度は175倍に上がりました。今まで175台のサーバーが必要だったものが、たった1台のサーバーで行える時代になったのです。そのためハードウェアやネットワークに使う電力が非常に安くなり、基本的なサービスを無料で利用できるフリーミアムという形態が可能になりました。

 また10年後には、現時点で175台のサーバーが必要だったものが、1台のスマートフォンの様な端末に入ってしまう時代になります。先程も言ったように、これからは更に様々なものにネットから直接アクセスできるようになります。今までのようにウェブで何か検索する、という形ではなく、自らが情報を発信する、よりダイナミックで面白いインターネットの世界ができてくると思います。



コンピュータが情報の意味を知る時代へ

 コンピュータサイエンスの著名な先生が言われていることですが、インターネットの動きは、2000年から08年まではブロードバンド化の時代で、銅線から光ファイバーに変わるという、材質変化の時代です。これが十分安くなって、様々な機器があらゆる場所から繋がるようになるのが、今のユビキタス化の時代です。このユビキタス化の時代で一番重要なのは、全てのデータに直接アクセスできるようにすることです。これが完了しないと次の時代にはいけません。

 クラウドコンピューティングは次の段階に進むため、現在メールやブログに分散している情報全てをサーバーにコピーすることを求めますが、これは案外乱暴なものです。例えばデジカメのデータは何十ギガもありますが、オンラインにコピーできるのは1ギガや5ギガ程度です。さらにネットワークにアップロードするにも時間が掛かる。実際に情報全てをネットワーク上に移せるわけではありません。しかし、それでも多くのものに直接アクセスできるようになって来ています。

 これが完全な状態になると、次は最終段階、セマンティック化の時代になります。セマンティックとは「意味」という言葉で、コンピュータが情報の意味を正しく知るようになる段階です。現在の情報検索では、例えば画像検索の場合、画像自体ではなく画像データの周りに存在するテキスト等から情報を探しているのです。しかしムーアの法則があと何回転かすれば、画像や動画の中身が何であるか、自分に対して必要な情報かどうかまでが正しくわかる時代になります。

 我々が目指すのは「2001年宇宙の旅」に出ていたHALと言うコンピュータの時代です。コンピュータに話しかければそれを教えてくれる、今から30年前のSF作家が描いた未来にキーボードはありません。我々技術者は2001年までにそのインターフェイス、情報量、検索の精度を実現できませんでした。ですから現在目標としているのがこうしたセマンティックの世界です。



誰もが使える技術を目指して

 情報革命でこれから先はどんどんIT技術が見えなくなっていくべきです。今はまだ情報やイノベーションが意識的に使われている状態で、人間に対してやさしい技術になっているとは言えません。

 デジタル化するとは、専門家にしかできなかったものが、初心者でもできるようになることです。写真を例にすると、昔は多くの人々が介在していたのですが、デジタルカメラが登場すると撮影から現像まで全て一人で可能になりました。

 今度はデジタル化した物がネットワークと繋がることによって、人間がまったく意識せずに様々なことを行えるようになります。これまで技術に囚われていた時間から開放され、人間が人間らしい生活に戻っていく、その世界を実現させていきたいと思っています。

 我々は「インターネットを広げて社会に貢献する」という企業理念を常に追求しています。10年後には「ウェブからシルクに変わる」という事を目標としています。現在ウェブの世界は蜘蛛の巣型の、目の荒いネットワークです。しかし我々は絹のように滑らかな、きめ細やかなネットワークを創って行きたいと思っています。10年後、ムーアの法則で更に175倍になった世界において、人が携帯電話を1台持っておけば世界中に情報を発信できる。どんな人も自己表現ができて、人と繋がることができる。そうした個人に力が集まって行く未来を創りたいと思っています。




P r o f i l

石田宏樹(いしだ・あつき)
1972年佐賀県生まれ。98年3月慶應義塾大学総合政策学部卒。在学中に、有限会社リセットを設立、取締役に就任。同年10月、三菱電機株式会社よりISP立ち上げの依頼を受け、株式会社ドリーム・トレイン・インターネット(DTI)設立に参画、99年4月には同社最高戦略責任者に就任し、「顧客満足度ナンバーワンプロバイダー」に育て上げた。2000年5月、株式会社フリービット・ドットコム(現フリービット株式会社)を設立。2007年10月、DTIを買収、08 年9月に完全子会社化した。07 年3月20 日東証マザーズ上場。2009年、第11回企業家賞受賞。



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