トピックス -企業家倶楽部

2015年08月26日

応用技術で食の未来を追求/理研ビタミン代表取締役社長 堺美保

企業家倶楽部2013年4月号 今、日本を最も面白くする企業家たち


肩書き、プロフィール、会社概要等は掲載当時のものです。

堺 美保(さかい・よしやす)1939 年9月23 日生まれ。63 年、東北大学農学部食糧化学科卒。同年4 月、理研ビタミン油(株)入社。本社工場東京研究課配属。70 年草加工場技術グループリーダー。82 年本社食品企画室長。88 年取締役。食品事業担当。92 年常務取締役。95 年代表取締役専務。営業部門担当。96 年、代表取締役社長に就任。



理研ビタミンの誕生

 我が社は1917年に設立された理科学研究所の流れを汲んでいます。当時、物作りをしている企業で、理科学研究所の研究成果を使って商品開発を行い、そこで得た利益を研究所に還元するというスタイルの企業が10数社ありました。これを「理研産業団」といいます。当社の起源となったのは38年に設立された「理研栄養薬品」という会社です。そこで作ったビタミンAを抽出・精製・濃縮し、ゼラチンカプセルにした「理研ビタミン球」という商品を販売していました。しかし、戦後の財閥解体に伴い理研産業団も解体となり、49年に改めて「理研ビタミン油」として設立し、現在の「理研ビタミン」ができたのです。



乳化剤の効果を活用し商品開発を行う

 我が社の事業はご存知の通り食品事業です。調理用のソース、ドレッシングやワカメを中心とした海藻の製品を取り扱っています。これらを作る上で母体となっているのが天然調味料です。これを自社開発し、より良い味の商品を作ろうと日々努力しています。

 当社の食品には代表すべきものとして、脂肪酸エステルのモノグリセライドといわれる乳化剤があります。これは、いわゆる界面活性剤と呼ばれるもののひとつです。パンやアイスクリーム、チョコレート、そして日本古来の伝統食である豆腐にも使われています。これらの食品内に発生する気泡を消すために、この界面活性剤が必要なのです。日本では1960年代から使われており、例えば豆腐に関して言えば、表面を滑らかにする効果があります。食パンには世界的に使われ、小麦粉を水で練った際の粘度を減少させる効果もあります。この素材によって機械に小麦粉が付きにくくなり、故障などが抑制されることによって、生産効率も上げることが出来るのです。焼いた際にも滑らかなパンができ、しばらく放置してもボロボロになりにくいなどの効果があります。

 一般家庭用商品の売り上げは全体の2割に過ぎません。残り8割の売り上げは業務用が占めています。当社ではプラスチックフィルムの開発も行っており、主に農業用ビニールハウスの曇り止めとして使われています。作物を育てる上でビニールが結露すると太陽光が遮られてしまう為、作物の生育に良くないのです。このフィルムは水滴が付いたらすぐ水が切れ、太陽光が入りやすいようにする効果があります。またヘルスケアの部門にも力を入れており、天然物から健康機能のある素材を抽出して販売しています。例えば、ワカメから血圧抑制効果のある成分を精製した商品などがあります。



ビタミンからワカメへ

 我が社で取り扱っているビタミンAは魚の肝油から作られているため、社内には海や浜に詳しい人が多くおりました。65年頃にワカメの養殖技術が確立され、養殖によって数量・品質・価格が安定した品が手に入ると判明したため、ワカメの事業化に踏み切ったのです。養殖したワカメを使い「海藻サラダ」の販売を始めたのですが、ここで一点「これは何をかけて食べたら美味しいのか」という疑問が持ち上がり、他社で販売されているドレッシングを調べました。しかし、ワカメは独特の食感と潮の香りがあり、健康に良いと言われている食材です。そこに油のドレッシングをかけても良いものかと疑問に思いました。さらに、人間の味覚細胞は水性の物質の方がより味を感じやすいように出来ています。これらの要因が合わさり、ノンオイルドレッシングの開発に至ったのです。

 油には成分そのものが持っている特徴があります。例えばコク・深みなどの旨みです。我が社は自社開発した多くの天然調味料で、本来オイルドレッシングが持つ特性をカバーし、更には応用技術を駆使することで、油を入れなくとも深みとコクのあるノンオイルドレッシングを完成させました。これらの天然調味料は、我が社の食品事業において最も重要なもののひとつです。我々はこの調味料をベースに味づくりを行っています。確かに、各メーカーに原材料を持ち寄ってもらい、調合する方法でも調味料は完成します。しかし、それでは我々の仕事は混ぜるだけ。これでは「混ぜもの屋」です。我々の味づくりのキーポイントであり、他社と大きく異なるところは、自社で開発を行い、調合する点にあるのです。

 これらノンオイルドレッシング等を利用したメニュー提案は、我が社が力を入れている分野の一つで、普段から「ヒット商品を作る勢いでヒットメニューを作ることが重要」だと発破をかけています。例えば、青じそドレッシングを使ったメニューが青じそドレッシングより有名になる位に力を入れるようにしています。メニューの開発は、四ツ谷にプレゼンテーションセンターがあり、そこで家庭用・業務用の商品開発も行っています。

 我が社はドレッシング市場のシェアを100%持っているわけではありません。まさにサバイバルゲームのように多くのライバルが存在するのです。しかし、私は100%市場を取っていない限りは、まだまだ伸びしろがあると考えています。今後も生産、開発と連携し、更なる高みを目指しながら戦略を構築し行動力を上げていく方針です。



製剤化技術の進化こそが勝負

 グリセリンに脂肪酸が一つ付いた構造をモノグリセライド、三つ脂肪酸が付くとトリグリセライドといい、皆さんが普段使われているサラダ油になります。これらは自然界の存在するものなので、安心して使えます。

 また、乳化剤の分野で大事なのは、製剤加工前の有効成分である原体(原末ともいう)を作ることもさることながら、製剤化技術をどこまで進化させることができるかの勝負こそ重要だと私は考えています。我が社は蒸留モノグリセライドという純度90%の素材を使っており、この製作には「理研ビタミン油」創業時に開発したビタミンAの濃縮技術を蒸留技術に活かしています。この濃縮技術があったからこそ、この分野に参入することができたのです。

 我が社はモットーとして、他社と差別化された独自性のある技術を開発しなければなりません。そして、市場において真似をしない商品開発を具現化し、生産技術化していこうと考えています。それが実現しなければ消費者の方々に存在感のある企業として、期待していただくことはできないと思っているのです。



改良剤事業のグローバル展開

 我が社においてグローバルな展開をしている事業は、改良剤事業です。原体となる脂肪酸エステルのモノグリセライドは、現在マレーシアで約4万1千トン生産されています。2年後には約5万トンの大台に乗せられるように、原体の生産能力を上げていく所存です。原体を使い、マレーシアで製剤化も行っているのですが、他に中国の天津工場でも製剤化を行い、中国全土に拡販しています。

 また、これから伸びてくるのは新興国です。今後は新興国を中心にパンやアイスクリーム、洋菓子などを販売し事業を展開していきたいと考えています。販売拠点もドイツのデュッセルドルフ、アメリカのシカゴ、上海、台北と増やしています。他にもインドに事務所を持っていますが、この事務所を現地法人化してさらなる拡販に努める予定です。

 また、この改良剤を販売していく上で大事なのは、使い方の情報を同時に発信していく必要があるということです。生産工程上のメリット、コストダウンや、より良い新商品ができる、品質改良ができるといった技術情報は購入していただく際の判断材料となるでしょう。営業部門もそうした情報を持ちながら販売していくことが肝要です。

 食品は地域ごとに趣向が異なるため、その点を考慮しながら販売していかなければならない。そのために、日本及びシンガポールに点在するアプリケーションセンターから情報発信を行っています。今後、新興国に事業を拡大していく際、その地域にもアプリケーションセンター及び製材所を建築することになるでしょう。今後はインド、中近東、南米等にも展開する予定です。



「利は元にあり」良い商品は良い原料から

 今後の理研ビタミンは、天然物をいかに有効活用するかが鍵だと思っています。天然物の中に含まれる成分を活用し、用途開発を行い、商品を作り上げていく。そのような天然物を活用した技術にさらに磨きをかけて、お客様の要望・期待に応えられるように事業を展開していきたいと考えています。

 その為には「利は元にあり」という言葉があるように原料が良いものでなければ、良い商品ができないということがありますので、原料調達をしっかり行っていくことが大切だと考えています。もちろん他にも、抽出、精製、濃縮技術など、開発に伴う製剤化の技術を進化させていくことを目指しています。



世界に通ずる商品開発をしたい

 私は夢というものを明確に考えたことが無かったのですが、今後もより多くの重責に挑戦して成功したいと思っています。私は、当社の食品事業を長年手がけてきて、味を作るベースは出汁であると結論に至りました。食品業界にはグルタミン酸ソーダという味のベースを作っている素材があります。これは大変力のある商品として世界中で愛されているものです。

 私は天然調味料でグルタミン酸ソーダのような世界に愛される商品を次世代の調味料として作りたいと思っています。そのためには、我が社の抽出、精製、濃縮の技術を行う過程で、発酵技術や食品の加工時に着色されるメイラード反応を活用する等、味の部分だけではなく香りまで考慮したような商品が作れれば面白いのではないかと考えています。

 私は世界に通ずる天然調味料をつくりたい。それが今の夢です。



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