トピックス -企業家倶楽部

2012年10月27日

アントレプレナー大国を創りたい/MOVIDA JAPAN代表取締役兼CEO 孫泰蔵

企業家倶楽部2012年12月号 今、日本を最も面白くする企業家たち


肩書き、プロフィール、会社概要等は掲載当時のものです。

孫 泰蔵(そん・たいぞう)
1972 年、福岡県西新生まれ。佐賀県鳥栖育ち。96 年、東京大学在学中に、日本最大級のポータルサイト「Yahoo! JAPAN」のコンテンツ開発のリーダーとしてプロジェクトを総括。その後、数々のインターネットベンチャーを立ち上げ、日本のネット業界の活性化に貢献。2009年、MOVIDA JAPAN 株式会社を設立。これまでの成功体験と失敗経験を活かしてベンチャー企業の創業・育成支援を手がける。現在、若手ベンチャーへの支援プログラム、Seed Acceleration Program を推進。



国内外のベンチャーを支援

 私たちは今、起業したばかりのスタートアップベンチャーの育成を行っています。一緒に歩む仲間とアイデアだけは決まったけれど、まだ「モノ」(実際の商品やサービス)ができていないというベンチャーに私たちが目利きをし、お金を投資します。お金だけでなく毎週スタートアップの起業家を集め、様々な分野の専門家の方をお招きして、ファイナンスのことや技術のこと、経営のノウハウなどを講義しながらみんなでコミュニティをつくり、切磋琢磨しながらサービスを作ります。「モノ」ができたら、今度は私たちが様々な事業に投資したいと考えている投資会社、もしくは投資家の方を年に2回ほど集め、その前で私たちが投資したスタートアップベンチャーの経営者らにプレゼンをしていただき、本格的に投資を募るという投資家と起業家のマッチングまでをプログラムとして行っています。

 究極の使命としては、アジアにシリコンバレーのようなベンチャーが生まれる生態系を創りたいと考えています。そうした思いから、若い日本の起業家たちの育成と同時に、アメリカ、ヨーロッパ、中国などの海外で急成長しているベンチャー企業が日本へ参入する際の支援も行っております。



誰もが起業できる時代に

 ソーシャルネットワークの普及によって、今まで自分では探し出せなかった情報を見つけられるような、ソーシャルグラフを使ったサービスが次々と生まれてきています。私が起業した15年前と今では、サービスの作りやすさが天と地の差です。

 昔は新しいインターネットサービスを作るためには、何千万から何億円という資金が必要でした。その資金がなかなか集められずに諦めるケースが多かったのですが、 今はグーグルやアマゾンが用意してくれているクラウドと呼ばれるサーバーを安く借りられるようになったため、自分たちでサーバーを買う必要がなくなりました。それにより、昔なら何千万円もかかるようなシステム、サービスを少人数でも作れてしまうのです。

 当社にも多くのビジネスプランが持込まれます。昨年の9月に公募をかけたところ、1000社以上の応募が1週間で集まりました。面接するのも大変で、一度打ち止めにしたほどです。そして、応募者の3分の2は学生もしくは20代前半という若い層でした。普通の若者が思い立ったら起業出来る時代になってきているのです。



ヤフージャパン創設秘話

 私が大学4年生で、ちょうどインターネットが普及してきた時のことです。周りの友達の就職先が決まっていく中、私はまだひとつも内定をもらっておらず、悶々とした学生生活を送っていました。

 そんなある日、兄の孫正義が私を食事に誘い、まだ将来のことが何も決まってない私に対して、「お前はのんびりしているなあ。ヤフーを知ってるか。お前と大して年の違わないスタンフォードの大学院生がやっているんだぞ」と言いました。私はヤフーを知っていましたが、まさか自分と大して年の違わない人が手掛けているとは思っていなかったので、なんとかして創業者のジェリー・ヤン氏に会ってみたいと思いました。そこで私はインターネットに詳しい友人を何人か集め、兄が考えているヤフージャパン創設の手伝いを申し出ました。それがジェリーさんに会うことになったきっかけであり、私にとって初めてのビジネス体験となりました。

 私は当初、ただのアルバイトとしてちょっとでも関われればいいと思っていました。しかし、アメリカ人はミーティングの際に発言しない人を一切無視すると聞いたことがあったので、何か発言しなければと思い、ユーザーの立場からあるアイデアを提案しました。するとそれがジェリーさんに認められ、「じゃあ君がやりたいようにやってみてくれ」と言われました。その時はよく意味が分からなくて安請け合いしてしまいましたが、それから地獄のような日々が始まったのです。

 ジェリーさんに、3ヶ月で自分が考えたサービスを立ち上げたいと相談したところ、無理だと言われ、ならばアメリカとは違う方法でやろうと決めました。インターネットに詳しい人たちを400人ほど集め、全員を24時間4シフト制に分けて仕事をするという体制を3ヶ月ほど続けたのです。

 しかし、なんと指導する私たちのシフトを考え忘れていたという致命的なミスのせいで、私は2ヵ月半ずっとヤフージャパン準備室に居続けなければならなくなり、結局そこにテントを張って2ヶ月間過ごしました。

 当時はシステムも学生が作ったものだったのでバグが多く、非常に完成度の低いものでした。バグを私たちが作り直しながら、一生懸命仕事を続けていきました。そういった努力の甲斐もあり、最終的には周りの人が絶対不可能だといっていたことをやり抜き、サービスを完成させました。しかし、そのサービス開始1週間後、私は過労で入院することになりました。



アジアにベンチャーの森を創りたい

 こうして私はヤフー創業者のジェリー・ヤン氏に会い、刺激を受けたのです。彼らはスタンフォード大学の大学院生ながら、世界を変えるヒーローでした。シリコンバレーからは、毎年のように世界を席巻する新しいヒーローが輩出されます。何年かぶりに会うと、前回会った時に経営していた会社を売却し、新しい会社を創業しているなどざらです。なぜこのように企業の新陳代謝が良く、世の中を変えていくイノベーションがシリコンバレーからばかり生まれるのか、私はずっと不思議でした。

 最終的に分かってきたことは、シリコンバレーにはベンチャー企業が生まれるための生態系が整っているということです。

 生態系と言うと、森が好例でしょう。もしベンチャーを植物に例えるとすると、まずアイデアという種があり、それは水や肥料をあげて育てないとすぐ枯れてしまいます。でも育ってくると自力で大きくなって実をなし、また種をつくります。そこへさらに雨が降り、水が循環し、森が豊かになっていく。この水に当たるものがお金です。水があるから生態系が保てるのです。

 水によって育った植物から果実を手に入れるように、投資をしていた人もしくは創業者も株を持っているのでリターンがあります。そのリターンで次のベンチャーに投資をしていく。そうすることでお金が循環し、豊かな国になります。この循環が、実はシリコンバレー以外の地域ではまだあまり見られません。

 企業家のサポートは資金面だけでなく、法律面では弁護士、財政面では会計士など、様々な人脈が不可欠です。シリコンバレーにはメディアもあって、新たに伸びてきたベンチャーを取り上げます。お金だけあればいいというものではなく、様々な企業家、そしてそのサポーターがいることで、次々と新しいベンチャーが生まれる仕組みが出来上がるのです。



早く失敗しなさい

 シリコンバレーと日本の一番の違いは、起業に関わる人材の層の厚さでしょう。シリコンバレーには世界中から優秀な人々が集まっていますし、一度起業した人が何度も起業することもあるので、経験や知識レベルなどが超一流です。それに比べて日本はそういう人が少ないですし、2回以上の起業を経験している人はほとんどおりません。また、シリコンバレーでは失敗は経験であると評価されます。要するに、たくさん失敗するほど評価が上がるのです。失敗経験が無い人は、大きな壁に直面した際に乗り切れるか不安ですが、失敗した経験を積んでいる人は、どうにか対処するだろうと信用されるのです。

「スタートファースト、フェイルファースト(早く始めなさい。そして早く失敗しなさい)」。シリコンバレーで流行っている言葉です。つまり、早く起業して早く失敗すれば、取り返しのつかないような大きな痛手は無く、次回は更に良い状況を生み出せるということを示唆しています。

 日本にも何度失敗しても再挑戦できるような環境をつくることが必要です。失敗した回数を自慢できるような環境を作れたら、日本の状況もかなり変わるでしょう。



アジアに1000社のベンチャーコミュニティを

 今、私たちがベンチャーに指導や投資をするプログラムの2期目がちょうど始まったところです。最終的にはベンチャー企業1000社を育成したいと思っています。生態系には数も必要です。圧倒的な量が質を生みます。1000社くらいあれば自分が失敗しても、何回でも挑戦が出来ます。

 ベンチャーを数多く生み出す仕組みを、これから3年以内にがっちり作るつもりです。その後はそれをアジアに展開できるようにして、2020年までには1000社体制をつくりたいです。おそらく2020年頃には簡単に海外へ行き来できる飛行機が開発されていて、低価格で気軽に海外へ行けるような世界になっていると思っています。そうすると国籍はあまり関係なくなり、違う国籍の人同士で起業することも出来ます。まさにこれからはアジアの時代だと思っているので、アジアでの存在を高める戦略を展開していきたいです。



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