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トピックス -企業家倶楽部

2007年10月27日

遺伝子ハイテク技術を駆使し製薬業界の版図を変える/ジーエヌアイ代表取締役会長兼社長 佐保井久理須

企業家倶楽部2007年12月号 注目企業

注目されるゲノム創薬

肩書き、プロフィール、会社概要等は掲載当時のものです。

「近頃、どうも体調が優れなくてね」と、ぼやきつつ背広の内ポケットから取り出した薬の束。それは果たして、本当にあなたに合った薬なのだろうか?
 
 ジーエヌアイは、2001年11月創業の、ここ数年注目されているゲノム創薬の研究開発を行っているバイオベンチャーだ。独自のバイオテクノロジーとスーパーコンピュータ、研究開発のグローバルネットワークを用い、アジアに多い疾患の、肺がんや肝炎などの薬の研究開発に特化している。

 ゲノム創薬とは、病気の原因と考えられる遺伝情報や仕組みを詳細に調べ、それに対応した化合物を探し出す手法で「分子標的薬」とも呼ばれ、従来の創薬方法とは大きく異なる。

   これまでの創薬は手当たり次第に物質を調べ、「なぜ効くのかはわからないが、効くようだから使ってみよう」と、有効成分を抽出、作用・副作用を治験で何回も確認する。その上、国の審査と認可を受けなくてはならない。これでは莫大な時間と費用がかかってしまう。

   そのように慎重に慎重を重ねて作られた薬でも副作用が出ることがある。メルク社のバイオックスという関節炎の薬は、一部の人に心臓発作を起こす副作用があるとされ、遺族との裁判では敗訴、2004年に自主回収し大幅減益となった。大半の人にはとてもよく効く良い薬なのに、一部の人に副作用が出るとその薬は市場から消えてしまう。また、カワラタケというキノコから抽出された抗ガン剤のように「実際はあまり効果が認められなかった」と再評価される、ということも多々ある。通常使われている全身麻酔も、その効くメカニズムは完全に解明されていない。全身麻酔を使う手術では、専門医がこれまで蓄積された先人達の経験を元に、常時患者の状態をモニターし対処しているが、麻酔が原因と見られる死亡事故が発生しているのも事実である。

   このように、創薬は莫大な利益を生むが、コストは高く、副作用のリスクもまた高い。訴訟も多く、医薬品産業の重大な問題となっている。

   バイオテクノロジーとITの融合した、ゲノム創薬の手法が注目されているのは、低コストで、副作用のリスクが低く、高い効果が期待でき、これまでの問題が一気にクリアできるからである。

   病院へ行って採血し、遺伝情報を分析し、個人の遺伝子カルテを作成。そのカルテを元に「あなたのこの症状には、遺伝子の配列や発現量から考えて、この薬が副作用もなくよく効くでしょう」と処方される。そんな時代がやってくるのは遠くないかもしれない。



強力な武器の遺伝子ネットワーク

   期待の高まるゲノム創薬だが、ただ難点は、ヒトの遺伝情報(ヒトゲノム)が数千と膨大な数に上るため、どれが病気の原因となる遺伝子で、どれが連動している遺伝子なのか、特定するのに高度な知識と経験を要することだ。

   ジーエヌアイにはヒトゲノムの関係図を網羅した遺伝子ネットワークという技術がある。遺伝子ネットワークを使えば、ゲノム創薬の研究に欠かせない、遺伝子の特定とそれに連動している遺伝子の判別が容易になり、化合物による反応、つまり作用・副作用が把握しやすいのだ。ジーエヌアイ佐保井久理須社長は、その遺伝子の関係を企業組織図に例える。

「組織で問題が発生した場合、その担当者を処分すれば済む話ではありません。その上司が悪かったのかもしれませんし、環境が悪かったのかもしれない。またその影響がその担当者だけとも限らない。そのひとつひとつのラインや関係性を丹念に調べあげた遺伝子ネットワークが、他にはない、ジーエヌアイの強みなのです」

   数千にも及ぶヒトゲノムと、その個々の関係性を調べ解析する遺伝子ネットワークには、スーパーコンピュータと優秀な人材が不可欠だ。ジーエヌアイ創設メンバーには、日本バイオインフォマティクス学会設立メンバーの久原哲教授や、東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター宮原悟教授、ケンブリッジ大学婦人科教授を務めた英国インペリアルカレッジ医学部校長スティーブ・スミス教授など、各分野の世界的権威やエキスパートの名前が連なる。また佐保井社長自身も1991年の、マサチューセッツ工科大学(MIT)のテクノロジーレビュー誌が主催する、21世紀に注目すべきテクノイノベーター「TR100」に選ばれた医学博士である。

   佐保井社長の起業のきっかけは、1991年九州大学に留学したことだ。生まれ故郷に似た、豊かな港町福岡をとても気に入った佐保井社長は、指導教授の勧めもあり、日本でバイオベンチャーを志す。

「病気や苦しみに国境はありません。そして病気に苦しむ人々を救いたいと思う医療にも国境はないのです」そう熱く語る佐保井社長率いるジーエヌアイは、中国、アメリカ、イギリスに拠点を置きグローバルネットワークを生かした研究開発を行っている。中国ではすでに骨折治療補助剤の販売を開始し、日本で発売予定の治験中の薬もある。それは肺がんの治療に行われる放射線のダメージを減らす薬、F647だ。放射線を肺がんに照射すると周囲の肺組織が火傷して炎症を起こし、呼吸困難になって治療途中で亡くなるケースがある。この薬は放射線への耐性をつけさせ、日焼け止めのような効果をもたらし肺を放射能から守る。これで肺がんの放射線治療を安全に行うことができるのだ。



投資家にはバイオベンチャーを理解してもらいたい

   日本に帰化した佐保井社長だが、アメリカと日本のバイオベンチャーに対する理解の違いに苦労したことも多々あるという。

「アメリカではバイオベンチャーの数も多く、新薬発売後の高リターンの前例も豊富なので、資金が容易に集まります。ですが日本ではバイオベンチャーの数も少ないですし、成功例がまだないので、今この研究開発時期の数字だけを見て、投資を躊躇されてしまいます」。それゆえ、ジーエヌアイに投資するファンドは外資系が多い。

   研究開発は費用がかかるもの。その期間は共同研究などの収入だけなので、数字は厳しいのが現実だ。今年8月、マザーズに上場したジーエヌアイの2007年3月期決算の売上高は2億4千7百万、経常利益は9億2千2百万の赤字だ。だがこの数字も、新薬を市場に投入すれば大きく化けることになる。

「黒字に見えても、研究開発を行っていないバイオベンチャーが優れているわけはないでしょう。日本の投資家は数字ばかりを見て研究内容を見てくれていない。ジーエヌアイの事業は、これまであまり製薬企業が参入していないアジア地域に特化しています。人口の多さ、今後の市場性から見ても、今後の成長が大変期待できる分野です。研究開発費が多く確保できれば、短期間で研究開発も進み、治験の患者数も確保できます。資金力次第で早く市場に薬を出して大きく躍進することができるのです」。

   これから求められるのは、個人の遺伝情報に基づいたオーダーメイドの薬だと佐保井社長は語る。またこれまでの薬にも「このような遺伝情報を持つ人には副作用が出ます」というバイオマーカー(目印)が義務化される可能性もある。世界的な高齢化社会、これから病気の数、患者数が増えることは確実だ。一人一人が安心して的確な投薬治療を受けられる需要は確実にある。遺伝情報に基づいたオーダーメイドの創薬は、バラエティが必要なため大手製薬企業では対応しきれない。そこにバイオベンチャー、ジーエヌアイの活路はある。その地域、その人種、その人個人に合ったゲノム創薬の発展によって、医療の現場、製薬業界は大きく変わることになるだろう。



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