トピックス -企業家倶楽部

2015年09月08日

IoTが人類に革命をもたらす

企業家倶楽部2015年10月号  ベンチャー・リポート


 会社概要、プロフィール等は掲載当時のものです。

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ソフトバンクは7月30、31日、東京・港区のザ・プリンスパークタワー東京で、自社の法人向けイベント「ソフトバンクワールド2015」を開催した。本イベントではIT技術に関する最先端情報を発信し、ビジネスチャンスを広げる場も提供、各分野を代表するゲストスピーカーが多種多様なセッションを行った。基調講演では社長の孫正義が登壇し、「IoT、AI、ロボットこそ成長分野」と説いた。(文中敬称略)

 




「2040年には全世界で10兆個ものデバイスがインターネットに繋がる」

 7月末の猛暑の中、ソフトバンクワールド2015の基調講演に集った聴衆を前に、ソフトバンク社長の孫正義はそう言い放った。

 IoT。「Internet of Things(モノのインターネット)」の略であり、自社開発したPepper(ペッパー)に代表されるスマートロボットやAI(人工知能)と共に孫が「今、最も注目すべき成長分野」と言って憚らないこの新種の用語は、近年ビジネスシーンで急速に使用頻度を増している。

 モノがインターネットに繋がると言われても、いまいちピンと来ない方も多いだろう。しかし、その意義は人類の生活に大きな影響を与え得ると孫は説く。では、IoTは具体的にはどのような変化を我々にもたらすのだろうか。



東京オリンピックまでに自動運転車を走らせたい

 ここのところ話題によく上るようになった自動運転車は、IoTの成せる最たる事業領域である。

「前方20メートルで車が減速を始めた」「この先に急カーブがある」

 そういった外部情報をセンサーや地図データから認識し、ブレーキやハンドルに組み込まれたコンピュータと通信して制御を行う。その膨大な積み重ねが、車の完全な自動走行をも可能にするところまで来ているというわけだ。

 自動車は全部で2~3万個もの部品から成ると言われている。これまでは自動車に多くのセンサーを搭載し、部品ごとにコンピュータチップを付け、それらを通信させるなど不可能であった。しかし、18?24ヶ月で半導体の集積密度が倍増するという「ムーアの法則」が繰り返された結果、コンピュータチップの価格は急速に下落。これによって経済的・技術的な壁は突破された。

 自動運転の技術開発と言うと、アメリカの誇る最先端IT企業であるグーグルやアップルばかり注目されがちだが、実はこの流れは世界規模。タクシー配車事業を拡大しているUber(ウーバー)、中国最大のインターネット検索サービスを運営する百度(バイドゥ)なども、この事業領域に乗り出している。

 現在日本で実用化されている自動運転技術は、あくまで運転支援に止まる。しかし、ここに風穴を開け、自動運転車の普及を目指す企業がある。


 東京オリンピックまでに自動運転車を走らせたい


 ロボットベンチャー、ZMP。流通分野ではTHKと組み、先頭車両に追従して動く「かるがも機能」を備えた運搬ロボットを製作、航空分野ではソニーモバイルコミュニケーションズと合弁会社エアロセンスを立ち上げ、垂直離着陸が可能なドローン(無人飛行機)を開発している。

 今年5月にはディー・エヌ・エーと提携してロボットタクシーの会社を設立した同社。現行のタクシー会社と競合になるという指摘もあるが、社長の谷口恒は全く意に介さない。

「私たちが狙うのはタクシー会社が消えつつある過疎地域。ロボットタクシーでも走行の容易な田舎道に投入することで、移動の足が無くなって困っている人たちの手助けができる」

 現在タクシー会社が稼いでいる都市部は、判断すべき要素が多過ぎてロボットタクシーの導入はまだ難しく、むしろ互いの弱点を補い合えるというわけだ。

「1964年の東京オリンピックの際、日本人は東海道新幹線を開通させ、首都高速道路を作り、世界を驚かせた。2020年のオリンピックでは、無人タクシーを走らせて驚かせたい」と語る谷口。掲げる夢に向かい、着々と歩を進めている。



IoTで保険が変わる

 センサーなどから収集したデータをその場で反映して生かすのが自動運転の技術だが、IoTの神髄は空間を超越し、あらゆる機器と機器が通信できる点にある。

 今やコンピュータの力は計り知れない。ビッグデータと呼ばれる膨大な情報量を得て、それを分析することができる。データを取るだけならば、多くの企業が行っているだろう。しかし、それをどのように活用していくかが今後ビジネスを展開する上で、ひいては社会をより便利で豊かにする上で鍵を握る。

 例えば、トイレがインターネットに繋がるとどうだろうか。用を足さない人間はいない。様々なセンサーが毎日排泄物の成分を分析し、異常が見受けられれば行きつけの病院まで逐一自動で報告が飛ぶ。自分の感覚として体調変化に気付く前に、データ変化に基づいて病気が早期発見でき、医療費も抑えられよう。

 ヘルスケア領域にITを融合しようという企業は多い。時計型などのウェアラブル端末で心拍数や睡眠時間を計測し、健康状態を見える化しようというのだ。今後はそうした情報が単に自分の元に止まらず、家族や病院と繋がっていく。一人暮らしのお年寄りも安心できる社会となるだろう。

 これまで病気への対処は、実際に罹患してから治療するというのが基本だった。しかしIoTが普及すれば、自分が罹る可能性のある病気を事前に察知して対応することで発症を防ぐ予防医療が一般的になる。

 これが現実のものとなると変わるのは保険業界だ。毎日身の回りにあるセンサーから取られたデータを元に、現時点での健康度合いが正確に測られ、保険料が変動していく時代も遠からず訪れるかもしれない。

前述の自動車分野に関しても同様だ。ドライブレコードの全記録が蓄積され、それに応じて自動車保険の料金が逐次変わる。急ハンドル・急ブレーキといった危険運転の多いドライバーは当然、支払う額が高くなるというわけだ。

「自分にはITのことなど分からない」という方も、自腹が絡むとなると話は別だろう。保険料が安くなるのであれば、誰でも安全運転をしよう、健康でいようというインセンティブが働く。

 IoTにより寿命が伸びたり、人間の過失による事故が減ったりすれば、その存在を身近なものとして実感できるのではなかろうか。孫の言う通り、「情報革命が人類全体を良い方向へ向かわせる」と信じたい。



ロボットと暮らす世界

「あ、おかえりなさい!何か良いことでもありましたか?」

 近未来の日本。都内に住む一人暮らしの会社員A(28)が帰宅すると、1台のロボットが出迎えた。

「ただいま、ペッパー。よく分かったね!今日は商談がうまく行ったんだよ」 自然体のつもりだったが、つい口角が上がるのを彼には隠しきれなかったようだ。

「それは良かったですね!いつものコーヒーでも入れましょう」

「お、気が利くね。お願い」

 言うが早いか、コーヒーメーカーから好みの味が抽出され、芳ばしい香りが漂ってきた。カップを手に取り、ソファに座って目をつぶる。このあいだ新調したばかりのステレオコンポから自動的に流れて来るのは、お気に入りのモーツァルト。クーラーの電源はいつの間にか入っており、心地良い風が夏の暑さに火照った体を癒やす。

「コーヒーのカプセルが無くなりつつありますので補充しますね。あと、トイレットペーパーと牛乳も減ってきていますが、注文しておきましょうか?」

「うん、ありがとう」

 家族と話したい時には、向こうの都合にあわせてテレビ電話を繋いでくれるし、仕事で必要なデータもクラウドサーバからすぐに引っ張ってくる。まったく、この子は何でもお見通しだ。

 ̶̶さて、ここまでの話は全て夢物語と思われるだろうか。確かに今は、ロボットが家庭に普及している様子は想像できないかもしれない。しかし、孫が口を酸っぱくして「スマートフォンの時代が来る」と説いていた10年前、後に「ガラパゴス携帯(ガラケー)」と言われることになる折りたたみ携帯の時代が終わると、誰が信じただろう。ロボットの時代が来ないと、誰が言い切れようか。

 冒頭でも紹介した通り、孫はロボットに対しても本気だ。ソフトバンクワールドの会場では法人向けモデル「Pepper for Biz(ペッパー・フォー・ビズ)」を発表。月額5万5000円で受付や接客をペッパーに任せられるプランを提示した。その他、ペッパーを時給1500円で雇えるアルバイト派遣も行う。

 6月にはペッパーの一般販売を開始する旨を記者会見で発表した。本体価格こそ20万円弱だが、3年契約の通信費と保険料を合わせると100万円超になる。本当に欲しがる一般客などいるのかと訝しがる向きもあったが、6月発売分の1000台はなんと1分で完売した。



ジョブズに新製品を提案

「このiPоdに電話機能が付いたような商品を作って欲しい。私はスティーブにそう言いました。すると彼は、『君はクレイジーだ。だが私は君が好きだ』と答えたのです」

 基調講演で孫は、アップル創業者の故スティーブ・ジョブズとの逸話を紹介。自らの先見性をアピールした。

 勝てない戦はしないのが彼の流儀。近い将来、iPhoneという名で世界に出ることとなる新型機種の販売を、ソフトバンクが一手に担う。その目算があってこそ、2兆円のボーダフォン買収にも踏み切れた。

 孫は「この20年間の全世界における時価総額の推移を見ると、製造業が12倍になる中でインターネット産業は710倍になった」とも強調する。これは、IT産業が一時期のブームではなく、社会的な変革だと示す証拠というわけだ。

 ソフトバンクワールドの2日間で未来を垣間見るに、どうやらIoTの波には抗えそうにない。様々なデータが有機的に結びつき、人類にとって最も有益と思われる判断が下される。この激動の時代、次に登場するのはいかなるサービスか、一瞬たりとも目が離せない。(相澤英祐)



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