トピックス -企業家倶楽部

2015年09月15日

人と文化を軸に日々挑戦/ボヤージュ・グループの強さの秘密

企業家倶楽部2015年10月号 ボヤージュ・グループ特集第2部


   肩書き、プロフィール、会社概要等は掲載当時のものです。

 

懸賞サイト、価格比較サイト、そしてアドテクノロジー。次々と業態を転換しながら、ボヤージュ・グループはインターネット領域の荒波を乗り越えてきた。「人を軸に事業を作る会社」を標榜し、一つの場所に止まることなく常に先を見据えて挑戦し続けてきた同社の強さの本質を探る。(文中敬称略) 




 「宇佐美さん、遊ばないで下さい!」

 都内の体育館で毎年6月に行われる恒例のボヤージュ・グループ運動会。メガホンで社長に注意を促すのは、司会進行を務める若いクルーだ。この日は言わば無礼講。上司も部下も関係なく、真剣勝負である。無論、社長の宇佐美進典も例外では無い。

 「よーい、スタート!」

 競技は玉入れ。クルーたちは全力疾走した先に散乱する紅白のお手玉を、籠に向かって必死で投げ入れる。出場の出番を待つ若手に話を聞くと、「1年かけて体を作って挑みますね」「1カ月前からは残業無しでジム通いです」と並々ならぬ本気度が伺えた。「いまや欠かせない行事」と宇佐美も楽しげだ。

 すでにお気付きかと思うが、同社では社員のことを「クルー」と呼んでいる。皆、「ボヤージュという同じ船に乗る仲間」との意味を込めてのことだ。こうしたフラットな社風はいかにもIT企業らしい。

 そんなボヤージュのオフィスを訪れると、まず目に飛び込んでくるのは異様な風景。「これがあの近代的なビルの内部か」と疑いたくなるのも無理はない。海賊船を模したというオブジェは「AJITO(アジト)」と呼ばれ、夜6時半以降はバーに早変わりしてクルーたちの議論の場となる。

 壁にはアップルを創業した故スティーブ・ジョブズが言ったとされる「海軍になるな。海賊になれ」の文字が踊り、各部屋を覗けばそれぞれ凝った作りがなされているのは一目瞭然。ここから多くの事業が世に送り出され、市場を賑わせている。



強さの秘密1 理念共有

一人ひとりのクルーがボヤージュ最大の強み

 「挑戦し続ける。」

 ボヤージュの経営理念「CREED(クリード)」。これらは、ボヤージュのクルーとして仕事をする上で大切にしたい価値観を言語化したものだ。一番下には宇佐美の大好きな言葉「夢と志、そして情熱。」の文言も。「ロジックだけではダメ。誰かの熱い夢と志があってこそ事業は成功する」と語る宇佐美の軸が垣間見られる。

 この「クリード」とともに経営理念の一角をなすのが「SOUL(ソウル)」だ。こちらは一言、「360°スゴイ」。ボヤージュの魂というだけあって、創業時から抱く「世界を変えるようなスゴイことを成し遂げる」という想いが凝縮されている。

 「一人ひとりのクルーこそボヤージュ最大の強み。挑戦し続けるカルチャーそのものが差別化です」

 自信を持ってこう語る宇佐美が経営理念に力点を置くのは、「ソウル」と「クリード」が会社の軸としてあるからこそ、多種多様な人材が揃うボヤージュのクルーがまとまっていることを知っているからに他ならない。

 参入障壁が低く、ビジネスモデルの差別化だけでは生き残るのが難しいネット業界。当然、守りに入っては生き残れない。「たとえ事業が無くなっても残る強みとは何か」。そう宇佐美が考えた結果、最強の障壁として作ったのが、人とカルチャーだった。まさに武田信玄の言う通り、「人は城、人は石垣、人は堀」というわけである。



強さの秘密1 理念共有


息づいてこその理念

 ボヤージュは、2015年度の「働きがいのある会社」ランキング1位を見事獲得した。だが、ただ単に言葉を掲げているだけで理念が浸透していると思えば大間違い。「理念は掲げるのみではなく、息づくことが大事」という宇佐美の考えの下、言葉だけが独り歩きしないように様々な取り組みと立体的に結び付いている。

 例えば採用。ボヤージュでは、クルーの実に3分の2が直接これに関わる。いかに良い人材を採るかという部分に目線が行きがちだが、同社では採用をコストとは考えず、クルーが自分の言葉で会社を語る機会と捉えている。

 もちろん、様々なクルーが新人とフラットに話すことで、ミスマッチも起きにくくなっており、入社当初から理念に共鳴した人材を採用することが可能となっている。

 人事関連で言えば、インターンシップ制度も同様だ。「無人島で海賊の宝探しみたいなことをするインターンがあるらしい」

 8000人の応募が殺到して話題騒然となった、無人島で1泊2日のミッションをこなす「Island(アイランド)」をはじめ、ボヤージュには新規事業の立案を体験する「Frontier(フロンティア)」、プログラミングの猛者が集ってモノ創りを体験する「Treasure(トレジャー)」など、参加者をワクワクさせるようなプログラムが満載。だが、ここで理念を説明するのも、やはり自社のクルーだ。自分の腹に落とし込まれていなければ、人に説くことなどできないだろう。

0から1を生めるのは熱い想いを持つ者のみ

 「この部屋は紐がテーマとなっています。細い糸でも撚り合わされば太くて強い縄、そして綱となる。未知なる世界に漕ぎ出す航海をする上で、力を合わせることの大切さを表しています」

 特徴的なオフィスにも、作りの細部に渡って理念が込められている。前述の「アジト」や、小説からテクノロジー系の解説書、漫画まで並ぶ社内図書室「OASIS(オアシス)」が取り上げられることが多いが、部屋ごとにコンセプトがあり、来客とのミーティングで話題に上ることもしばしば。そんな時も、独特なインテリアについてクルーが説明する。

 このように、制度からオフィスに至るまであらゆる施策が理念に沿って作られていることで、自然とクルーの中に理念が息づくのだ。

 「0から1を生み出せるのは熱い想いを持った人だけ。そんなクルーたちと一緒に、普通では無理と思えるようなチャレンジをしていきたいですね」

 強い信頼関係で結び付いた船長とクルーは、ボヤージュという海賊船を操り大海原を行く。



強さの秘密2 メディア×アドテク

適切な人に広告を届けるアドテクノロジー

 「ここのところ、やけに欲しい情報がバナー広告に表示されるなぁ」

 最近、パソコンやスマートフォンを触っていてこのように感じることは無いだろうか。実は、これこそボヤージュが裏方を担うアドテクノロジーの力。個人の年齢、性別、職業、使用頻度の高いサイトなどを分析することで、まさに欲しいと思われる情報を広告として表示しているのだ。

 ボヤージュは、近年売り上げの柱となりつつあるこのアドテク事業で、インターネット上でメディアを運営している企業に対して、広告配信のノウハウを提供している。

 「このページに来ているユーザー層を分析すると、格安航空券ではなく金融商品の広告の方が、親和性がありますね」

 適切な場所に適切な広告を載せることで、1ページあたりの収益を最大化するのが本事業の使命。近年はスマートフォンの普及に伴って人々のネット回遊行動にも変化が生じているが、ボヤージュはこれにも対応し、クライアントの広告収益を平均して10ー20%伸ばしている。売り上げを倍にした事例もあるというから驚きだ。

 クライアントとしても手間をかけずに広告収益を最大化できるため、本業であるコンテンツ作成に集中することが可能となり、win-winの関係を築いている。


ネット集客でイニシアティブ


 元々ボヤージュは、懸賞サイト「MyID」から事業展開をスタート。事業の開始から1年以内に会員数10万人を突破するなど順調に業績を伸ばし、小さい市場ながらトップシェアに躍り出た。しかし、ユーザーが応募する商品があまりにピンポイント過ぎ、彼らが何を欲しているのかという情報を取るには決定力不足であった。

「このままでは競合が増えて業績がジリ貧になる」

 宇佐美の経営者としての勘が働き、代打として主力事業に花咲いたのが、現在会員数400万人を誇っているポイントサイト「ECナビ」。本サイトから買い物をしたり、アンケートに答えたりすると無料でポイントが貯められ、それを現金やギフト券と交換できるとあって、主婦層から支持を集めている。

 同サービスは価格比較サイトでもあり、消費者は自分の欲しいものを広範囲から検索していく。これによりボヤージュは、ユーザーが求める情報を更に深く分析することが可能となった。

 そして、現在主力事業としてボヤージュを支えるアドテクノロジーの登場だ。メディアとして消費者の適性や行動の情報を蓄えてきたボヤージュ。その集客力を活かして同事業に進出した。

 結果として、自社で複数の広告媒体を持ち、かつ広告掲載のノウハウまで併せ持つような企業が誕生した。言わば、インターネット上で雑誌社と広告代理店が組み合わさったようなもの。前述の通り、消費者が欲しいものに高い精度でフォーカスできるため、ネット上における集客や購買動機の喚起において業界のイニシアティブを握ることとなった。

 この強みを自社のためだけに使うのはいかにも惜しい。元々メディア事業を主力としてきたボヤージュには、運営側の悩みがに取るように分かる。「メディアとしては様々なコンテンツを作っているが、技術的なことは苦手」というクライアントも多いのが現状。自社で蓄積してきたノウハウを他社に提供することで、かゆい所にも手が届くサービスを実現できるというわけだ。

 IT企業ながら人間的な繋がりを重視しているのもボヤージュの強み。専属のコンサルタントが各メディアの担当者と密に話し合いを重ね、課題を把握・分析することで、きめ細やかな提案を行っている。



強さの秘密3 変化対応力

大小のトレンドを見据える

 たとえ今成功していたとしても、落ち目となりそうな事業は捨て去り、新たな柱を建てる。これは経営者なら誰もが考えることだが、言うは易く行うは難い。

 これまで懸賞サイト、価格比較サイト、アドテクノロジーと業態を転換して生き残ってきた宇佐美にその要諦を聞くと、「大きなトレンドを踏まえつつ、小さなトレンドに乗る」という答えが返って来た。

 まずは、マクロな潮流として今後も続いて行くであろうインターネット、グローバル化といった波に乗る。ハーバード大学教授ロナルド・ハイフェッツの「バルコニーに駆け上がれ」という言葉通り、俯瞰することで見えるものがあるのだろう。

 インターネットの潮流には、起業当初から乗ってきた。当時は「ネットベンチャーの草分け」と呼ばれたIT企業家たちが東京・渋谷に集結。「渋谷(渋い谷:ビターバレー)」とコンピュータのデータ単位「ビット」を掛け合わせて「ビットバレー」などと名付けられ、旋風が巻き起こった。その中から登場した楽天の三木谷浩史、マネックスグループの松本大、アイスタイルの吉松徹郎ら多くの経営者が、今なお表舞台で活躍している。

 翻って、創業以来その渋谷に社屋を構え続けてきたボヤージュ。その他、3年前にオープンした商業施設ヒカリエ内に本社を移したディー・エヌ・エーやLINEを筆頭に、GMOインターネット、CA、フリービットと、未だにネットベンチャーの聖地としてのビットバレーは健在だ。

「小さなトレンド」に当たる事業面でも、領域の将来性を見極める。規模の縮小する市場にいても、努力が水泡に帰す可能性は高い。今後の市場規模の変動を予測するのはもちろん、ユーザーの消費動向を把握することで、次の流行を捉えるのである。

 こうした事業転換はどの企業にもある。CAはインターネット広告代理事業から「アメーバピグ」などを運営するAmeba事業へ主力を移す際、社内における事業部間の軋轢を経験した。

 ディー・エヌ・エーとて、元はオークションサイトの運営をしようと立ち上げられた会社だ。それが、モバイルゲームで花咲き、今や遺伝子解析や自動運転車といった事業にまで進出しようとしている。

 ボヤージュなど、創業当時は何を事業としていくのかすら明確ではなかった。

「ビジネスモデルって最初に作るもんじゃないの?」

 会社の創成期から宇佐美と共に歩んで来た取締役CFOの永岡英則も、流石に唖然としたと苦笑する。ただ、当時は米国でヤフーやネットスケープが立ち上がり、インターネットという大きな波が日本にも押し寄せてくる真っ只中。まだネットで何ができ、ビジネスに繋がるかすら分からない状況下でも、とにかく動かなければ気が済まないと思うのは企業家の性だったのかもしれない。



強さの秘密4 事業構築力

集中と発散

 メディア事業とアドテクノロジー事業を二本柱に突き進むボヤージュだが、これら現在の事業形態自体は同社の強さの本質ではない。次々と新業態を生み出す事業構築力こそ彼らの本丸。まさに自身が標榜するように、ボヤージュは「人を軸に事業を作る会社」なのである。

 事業会社らしく、定期的に社内でビジネスプランコンテストを開催しているボヤージュ。手を挙げやすい環境を作ることで、積極的に事業立案が行われるように活性化を図っている。認められれば、責任者として事業部を任されることもあるという。

 ネットベンチャーとしてのノウハウがあるため、インターネットを利用したサービスでなければ難しい面はあるが、基本的にはどんなアイデアでも大歓迎。「許容範囲はかなり広い」と宇佐美も自信をもって語る。

 広報で、いまや子会社ゼノシスの役員まで務める江頭令子も、事業立案に挑戦した一人だ。「結果は選考落ちでしたが、社長から直接明確なアドバイスをいただけたので、勉強になりました」と振り返る。

 ここで最も重視されるのは、手を挙げたクルーの「想い」。市場規模、競争優位性、現在の事業との親和性。そうしたロジックも細かい調整段階では必要だが、最終的に事業を成功へ導くのは「人の想い」であるという信条が貫かれている。

 宇佐美は、「会社として一事業に『集中』する時期と、様々な試みを行う『発散』の時期が2ー3年周期で交互に来る」と説く。アドテクという柱が育ち、今は「発散」の時期。ビジコン含め、ここで新しい取り組みを行い、その中から次の柱となるべき事業を発掘していく。

ベンチャー創出の生態系を

 駆け出しのベンチャー企業にオフィスを無料で提供するプロジェクト「BOAT(ボート)」。この存在も、クルーが新事業を生み出す上で良い刺激になっているだろう。1カ月で10社以上が相談に来る中、価値観の合う企業を受け入れている。

 ボヤージュが出資している会社もあるが、入居は資本的な繋がりありきではなく、人的な交流を重視。「投資事業というより、むしろCSRのようなもの」と宇佐美も話す。人を軸にしたボヤージュらしい取り組みだ。

 思えば宇佐美も創業期、先輩ベンチャーのオフィスを間借りさせてもらったことで今がある。彼自身、「私たちが受けた恩を社会に還元し、企業家の卵たちを育成するエコシステムを作れれば幸い」と語る。「シリコンバレーのような企業生態系が肝要」と多くの企業家が説くが、実際にその一助として動くことで、日本全体の産業の新陳代謝にも貢献していく。

 ネットベンチャーの先駆けから、日本の起業環境改善に力を尽くすまでになったボヤージュ。上場から1年、彼らの挑戦はまだ始まったばかり。今後どんなビジネスを生み出し、世界を驚かせていくのか、これからが楽しみだ。


強さの秘密4 事業構築力

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