トピックス -ビッグベンチャー

2015年10月05日

【第17回企業家賞 大物鼎談】チャレンジ精神が人生を変える

企業家倶楽部2015年10月号 第17回企業家賞 大物鼎談


会社概要、プロフィール、肩書きなどは掲載当時のものです。

7月13日に東京・日本橋のロイヤルパークホテルで開催された第17回企業家賞授賞式にて、企業家賞審査委員長を務めるエイチ・アイ・エス会長でハウステンボス社長の澤田秀雄氏、同じく企業家賞審査委員でジャパネットたかた前代表の髙田明氏、そしてこのたび特別賞に輝いた良品計画前会長の松井忠三氏が鼎談を行った。話題はそれぞれの近況に始まり、企業家ならではの危機突破、そして人としての生き方にまで及んだ。(司会は宮舘聖子)

 



初心、忘るべからず

澤田 まずは現状からお話しましょうか。エイチ・アイ・エスを創業して35年、ハウステンボス再建ももう6年目に差し掛かっています。特にハウステンボスは順調に売り上げを伸ばし、今期は経常利益で100億円の大台を超えるでしょう。将来的には数百億円、上手く行けば何千億円という利益が上がる可能性を感じています。

 このテーマパークは18 年間ずっと赤字で、誰も引き受け手がいませんでした。テーマパークが成功するための条件が全く揃っていなかったことから、私も最初はお断りした経緯があります。

 テーマパーク運営が上手く行くための秘訣は3つあります。まずは市場が大きいこと。ディズニーリゾートには2000万人を超える関東圏の市場があります。ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ )も関西圏を擁している。ところが長崎、佐世保は合わせても人口が100万人に満たない。これでは難しい経営を迫られるのは当然です。

 そして、イベント力。ディズニーやUSJは映画産業と結び付いていますが、こちらにそうした経験値はありません。

 最後は天候です。世界的に見てもディズニーランドやユニバーサル・スタジオの立地は米国・カリフォルニアなど雨が少ない所が多い。一方で長崎は、「今日も雨だった」という歌があるくらいですからね(笑)。

 こんな悪条件の地にはテーマパークなど作らない方がいいというのが持論でしたが、最終的には素晴らしい案件となり、感謝しております。

髙田 今の話を伺って、ハウステンボス再建の依頼がなぜ佐世保に本拠を構えるジャパネットたかたに来なかったのか、甚だ疑問です(笑)。それにしても経常利益が1000億円規模になる可能性とは、身が震えますね。

 私は2015年1月で社長を退任し、今年いっぱいでテレビ出演も終了すると明言しています。退任後も1年は番組を指導したいという気持ちがありましたが、来年からはスタジオからも姿を消すでしょう。

 この1カ月、私は日本全国を飛び回り、海外もポーランドやデンマークを訪れました。やはり農場や工場といった生産現場を視察すると、作り手の思いをひしひしと感じます。私はモノを通して感動を伝えたい一心で30年近く発信し続けてきました。価格や機能を強調するだけではなく、どういう方がどのような想いで作られているのかを伝えたい。

 私はあと50年生きると宣言しています。ギネス世界記録にチャレンジする。その上で、これからどのような人生を送るか模索しようと、あちこち旅をしています。

松井 私も今年5月で完全に良品計画から退きましたが、相変わらず飛び回っております。現在5社の社外取締役を引き受けており、会議のたびに早朝から新幹線で移動しなければならないので、会長時代の3倍は忙しいですね(笑)。

 ただ60歳を過ぎて、そろそろ好きなことにも手を伸ばしたいと思い、イタリアンレストランを開きました。やるからにはミシュランの三ツ星を取ろうと奮闘し、半年で認定をいただきましたが、やはり世界は厳しく、いかんせん一ツ星。これを二つ以上に持っていくのが当面の目標です。

髙田 私もあまりゆったりと出来ない性格です。だからこそ、社長を辞めたのは正解かもしれません。75歳や80歳まで第一線で踏ん張っていると、辞めた頃には体も弱って、やりたいことも出来ないでしょうからね。

 人生は一回。だから、その都度の年齢に応じた生き方があると思います。世阿弥は「初心忘るべからず」と言っていますが、彼の言う初心とは、若い頃の夢や苦労だけを指すのではありません。歳と共に積み重なる「時々の初心」があり、老いては「老後の初心」がある。

 初心はどんどん変わっていきますし、その歳に応じた夢を持ち続けることが大事です。企業家も同じで、初心を忘れなければ、自然と新しいチャレンジに足が向かうでしょう。



「莫煩悩」と「今を生きる」

松井 私は良品計画の経営が相当厳しくなった時、社長に就任しました。業績は赤字に陥りましたし、私が社長となる前年に1万7350円だった株価は1年で1750円に大幅下落、時価総額は4900億円から570億円となりました。無印の時代は完全に終わったと囁かれた時期だったのです。

 負けてきた構造をどのように勝つ構造に変えるか。これが一番難しかったですね。仕組みや風土の変革にチャレンジするのですが、やはり最初の1年は本当に再生できるのか全く見えませんでした。

 私が教訓としている「莫煩悩(ばくぼんのう)」という言葉があります。「汝、迷うこと無かれ」という意味で、鎌倉時代に日本が元から攻められた際、時の権力者であった北条時宗に対して高僧の無学祖元が与えた言葉です。今の言葉で言えば「人事を尽くして天命を待つ」という表現が近いかもしれません。

 日本の最高責任者として元と戦わねばなりませんが、勝てる保証は無い。しかし、思い切って臨むしか道は無い。まさに私も、当時の北条時宗と同じ心境でした。半年間は全く眠れず、体調にも悪影響が及びましたが、この「莫煩悩」を心の支えとして持ち、難局に立ち向かいました。

髙田 私はこれまでの人生で眠れなかったことは1日もありません。私はいつも、今この瞬間を生きている人間です。これまで数えきれないほどスタジオに立ち続けてきましたが、毎回全力投球。そういう生き方をしてきたので、後悔が無いのです。

 今を一生懸命、300%の力で頑張ってきましたから、結果が良くても悪くても受け入れられる。受け止めたら、いつのまにか乗り越えている。今を生きていれば、未来は必ず変わっていくという信念を持っています。

 結果的には苦しいこともあったと思います。売り上げが1759億円から2年間で約600億円も激減しましたし、情報流出をしてお客様に大変なご迷惑をおかけしたこともありました。これらは確かに危機ですが、受けて立たねば先には進めません。

 現状を100%受け入れて、今できることを考えればいい。試練があっても必ず道は開けます。この思考は、特に若い方々に伝えたいですね。

澤田 まさにその通りだと思います。私も数え上げればキリが無いほど多くの危機がありました。

 一番辛かったのは、山一証券系の協立証券再建を頼まれた時です。今でこそエイチ・エス証券として上場の主幹事まで務めるようになりましたが、これも最初はお断りしました。

 往々にしてベンチャーは調子に乗って来ると様々な事業に手を出したがるのですが、これは良くありません。これまで旅行業に特化して経営してきた私が畑違いの金融に手を出すなど言語道断です。役員会でこの話を出すと、案の定、全員反対でした。まともな役員で良かったとホッとしましたね(笑)。

 しかし私の場合、3回頼まれるとつい引き受けてしまうのです。結果、堪え難いほど辛い思いをしました。当時はインターネットが普及して間もない時期だったので、私たちが一番安く信用取引を始めたのです。すると、口座が毎月1万件、2万件と開設されていく。これは楽勝だと高を括っていたら、コンピュータが処理能力の限界を超えてダウンしました。データが飛んでしまい、どのお客様がどの商品を買ったかさえ分からずじまい。あえなく営業停止の行政処分を受けました。

 ただ、この時の苦しみの中で学んだからこそ、モンゴル第4位であった現ハーン銀行を業界第1位に押し上げることができたのも事実です。確かに失敗はしたくありませんし、問題は無い方がいいのですが、企業家たるもの危機を糧として学んでいくことが重要です。失敗は成功の母。二度同じ失敗をするのはいただけませんが、一度目の失敗から新しいことを学び取り、次の成功に繋げる。これまで経てきた危機は全てチャンスになったと自信を持って言えます。


 「莫煩悩」と「今を生きる」

自分が感動するイベントを

松井 私は、自身が長く会社に関わっていると、次の会長や社長がやりにくいと考え、身を退きました。トップの引継ぎは上手くやらねば業績に響きます。では、オーナー企業でなくとも業績を伸ばしている企業の共通項とは何か。それは、創業者視点のある会社です。ゆえに、創業精神は徹底するまで教え続けなければなりません。

 そのために企業風土を変革し、仕組みも整備するのですが、ビジネスモデルばかりは移り行く時代に適応して常に変え続けるしかありません。もちろん簡単には行きませんが、このチャレンジ精神が無ければ、どんな企業も生き延びられないことは歴史が証明しています。

 私たちも新商品を開発する仕組みなどを持ってはいますが、企業は30年経つと構造を変えていかなければならない。この「変化し続ける体質」を、後進には脈々と伝えていって欲しいですね。

澤田 事業継承は難しいですよね。たいがいオーナー経営者がいる間は、企業はどんどん発展します。それが代を経ると、サラリーマン経営者の中から内紛などが起こり、衰退への道を辿ってしまう。

 企業は人なり。良い経営者がいる会社が発展するのは自明の理ですが、それを選ぶのが難しい。では、人のどこを見るか。

 私の見解では、経営者の能力として大切なのは想像力、先見性、チャレンジ精神、人間性、バランス感覚、あとは経験値です。そこで私は経営道場を作り、まず基本的な勉強をさせた上、有望な人材にはグループ企業で経営を実践させてみる。その中から本当に優秀な方が出てくると考えています。

 退き際について、実は私は50代で引退しようと思っていましたが、最近は考え方が変わりました。引退した経営者を見ていると、新しく使えるようになった時間で新事業に挑戦したり、ボランティアに加わったりする人が多くいます。いずれにせよ世の中のために力を尽くしたい一心ですから、形は違えど理念は一緒。私は企業体の一員として、もっと頑張ろうと思っています。

 ハウステンボス一つとっても、この事業が世のため人のためになるという確信があります。経営していて楽しいですし、自分が感動するイベントを開催すればお客様に必ず来ていただける。だからこそ、美しい花を咲かせ、良い音楽を流し、面白いイベントを企画するのです。

 ただし、時代感覚に合わなくなったら社長は辞めるべきでしょうね。時代は容赦なく変化していきます。先ほど松井さんも言及されましたが、一つの産業モデルは30年前後で寿命が終わる。世界最大の写真用品メーカーとして名を馳せたコダックですら、デジタル化の波には抗しきれませんでした。新しい時代は若い人が作るものです。

 それでも、昔の人は用無しかと言うとそうではありません。若い人には無い経験値がありますし、多くの失敗もしていますから、そこで培われた知恵は世の中のために使うべきでしょう。

髙田 松井さんも澤田さんも経営者に必要な要素としてチャレンジ精神を挙げられましたが、これが無ければ人生つまらないですよね。良い人生だと思って死ぬためには、チャレンジ精神は欠かせません。

 では、そうしたマインドはどこから生まれるかと言えば、やはり「今」なんです。今を一生懸命生きていれば、必ず挑戦しなければならないことに遭遇します。それを乗り越えることで人は成長しますし、悔いの無い人生だったと思うことができる。

 ジャパネットたかたもこれまでモノを伝えてきましたが、もっと様々なことができると可能性を感じています。例えば、億超えのマンションから100億円の土地まで、全部テレビショッピングで売れると思うのです。

 ゼロから創り上げねば新しいことは出来ないかと言うと、私は違うと考えています。経済学者のシュンペーターが「新結合」という言葉で表現した通り、異なるモノを混ぜて新しい物が生まれる例はたくさんある。異なる絵の具を混ぜたら全く違う色になるように、素材は今あるもので良いのです。天才的な独創性やひらめきが無くとも、イノベーションは起こせる。人生は変えられます。

 皆さん、チャレンジ精神を持って、今この一瞬一瞬を攻めていますか。私は死ぬまで攻め続けますよ。そしたらきっと、良い人生を送れると思います。



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