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2015年10月09日

【佐藤綾子のパフォーマンス心理学】vol.29  リラックスもトップの条件

企業家倶楽部2015年10月号 トップの発信力


会社概要、プロフィール、肩書き等は掲載当時ものです。

Profile

佐藤綾子

日本大学芸術学部教授。博士(パフォーマンス心理学)。日本におけるパフォーマンス学の創始者であり第一人者。自己表現を意味する「パフォーマンス」の登録商標知的財産権所持者。首相経験者など多くの国会議員や経営トップ、医師の自己表現研修での科学的エビデンスと手法は常に最高の定評あり。上智大学(院)、ニューヨーク大学(院 )卒。『プレジデント』はじめ連載9誌、著書173 冊。「あさイチ」(NHK)他、多数出演中。19年の歴史をもつ自己表現力養成専門の「佐藤綾子のパフォーマンス学講座 」主宰、常設セミナーの体験入学は随時受付中。詳細:http://spis.co.jp/seminar/佐藤綾子さんへのご質問は i n f o @ k i g y o k a . c o m まで



アドラー流平常心のコツ

誰でも逆境になるとドキドキし、緊張します。逆境というほどではなくて会議などで自分がピンチに立っても冷や汗が出たり、青くなったり、緊張したりします。

 さて、もう100年近く経っているのに、今突然アドラー心理学がブームです。実は、私のパフォーマンス学は33年前のスタートからアドラー心理学をベースにしています。精神科医で心理学者でもあるアドラーはこんな面白い言葉を残しているのです。※図を参照

「勇気」も「自信」も誰でもわかる言葉です。

 でも「リラックス」という言葉については、ひとひねりしないとわからないかもしれません。一番簡単に言えば「平常心がある」と置き換えられるでしょう。

 さて、私は7月8日からプレジデントウーマンオンラインという女性のためのオンライン連載をウィークリーベースで開始しています。おかげ様でキャリアウーマンたちから大好評です。このシリーズの中で、リラックスという言葉を使ったらすぐに編集者から「勇気」や「自信」がトップキャリアウーマンに必要なことはわかるけれど、リラックスというのは読者にはわかりにくいでしょう。他の日本語で言えばなんですか。という質問を受けました。直訳すれば「緊張していない」というのがrelaxの意味ですが、ビジネスマンには「平常心」が一番近いでしょう。これについてトップ企業家はどうなっているのでしょうか。わかりやすい場面がありました。



逆境で眠れるか眠れないか

   先日、本誌企業家倶楽部主催の企業家賞の授賞式があり、何人かが壇上に登られました。その時に会場の誰かが質問したのです。「皆さんは会社が倒産しそうだとか売り上げが猛烈に落ちたというとき、夜眠れないということがありますか?」


 大変面白い質問でした。経営についてではなく、ピンチの時に眠れるか眠れないかはちょっと意外だったのです。

 さて、それに対して壇上の方々はどう答えたのでしょうか。

 まず、日本中その人の顔を知らない人がいない、というほど有名なジャパネットたかたの創業者であり、現在「株式会社A and Live」代表取締役になったばかりの髙田明社長です。そもそもこの社名について「明はまだ生きているぞという意味なんです」と笑わせるのですから、どこまで行っても伝える力の名人、髙田さんらしいです。彼は、「売り上げが大幅に落ちてどうしようと思った時にも私は寝ましたねぇ」とニコニコ答えたのです。

 するとその隣にいたエイチ・アイ・エス取締役会長の澤田秀雄氏も同じことを言ったのです。「私も楽天的な性格なのか、とにかく眠れないということは一日もなかったですね」

 これを聞いても私は驚きました。「私は明日大変なことがある」と思ったら寝つきが猛烈に悪くなります。そこでストレッチをしたり、お祈りをしたりして何とか寝るのがいつものパターンです。 ところが髙田さんと澤田さんは「売り上げが半減してもとりあえずその日は寝てしまう」というのですからなんという肝っ玉でしょうか。

 さて、これが先にアドラーの言葉としてお伝えした「自信」と「勇気」と「リラックス」のうちの「リラックス」にあたります。さあ困ったと思って頭に血が上ったり、よく言う「頭の中が真っ白になった」、「足がガタガタ震えた」とか、「真っ青になりました」というような人はその瞬間に平常心がなくなっているので、余分な力ばかりがかかるのです。

 結果いいアイディアが出てきません。ちょうど受験生が「明日落ちるかもしれない」と思うと今日暗記したことがちっとも覚えられないように、何かが起きた時に、平常心を失って緊張し過ぎるのではリーダーは務まらないのでしょう。

 スケールはこのビック2とはまるで違いますが、つい最近も気難しい面々が36人居並ぶ教授会で外部の研究者が提出してきた論文を博士号として認めるための「主査」を担当しました。

 「主査」は一つの論文に必ず一人存在します。その主査の決定により、横から判断をサポートしてくれる副査を3人あるいは2人指名します。主査がその論文の内容をもっとも熟知していて、その論文が教授会で博士号として受理されるかの見通しも持っているわけです。でも合格の見通しがもし五分五分だった時はどうでしょうか?

 会場で反論ばかりでたら真っ青になるとか、汗が噴き出るという人がほとんどです。自分以外の36人中、数人が火を噴いて反対したら大体の主査は青くなります。

 そんな中で必要なことは「リラックス」です。深呼吸をして相手が何に対して反論しているか反論の中心論点を手元にメモします。他のことは全て忘れていいのです。キリで小さな部分に穴を開けるように、何人の敵がいようが突破できる反論のキーワードをメモします。そしてそれだけを集中的に攻めまくるわけです。まず第一に一転攻撃で反論をかわしてから会議全体で勝利していきます。実は私はこのやり方で今まで議論に負けたことがありません。

 その時もしも自分が緊張していて顔が引きつっているようでは、相手が墓穴を掘っていても、その言葉を聞き逃してしまいます。自分を信じてリラックスして聞いているからこそ修羅場で攻撃ポイントが見つかるわけです。

 「勇気」と「自信」と「リラックス」。最後の「リラックス」は「何があっても攻撃のポイントは見つける」という平常心の持ち方。さらに「明日何があろうと今日はちゃんと寝る」という『平常心』を指していると思います。

 壇上のお二人のトップリーダーのにっこりとした顔の表情と、「それでも私は寝ますよ」という言葉から『平常心のコツ』がここではっきり表れたようです。

 大切なことは、どんなにつらい状況や逆境になっても寝ることです。激戦の議論では、カチカチになっていると、相手も「大した力がないやつだ。もうビビッているに違いない」と気づかれてしまい、組しやすい相手だと値踏みされます。それが逆に相手をリラックスさせてしまうのです。

 だから、冷静に相手の反論を聞いて、その中からたった一つの反撃のポイントを見つけ出すこと。トップの勝負はこれに尽きるでしょう。



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