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2015年10月13日

大学発ベンチャーとその課題/東京大学エッジキャピタル(UTEC)代表取締役社長 郷治友孝 

企業家倶楽部2015年10月号 キャンパスのキャピタリスト仕事録 vol.2


肩書き、プロフィール、会社概要等は掲載当時のものです。

Profile


郷治友孝(ごうじ・ともたか)


通商産業省(現経済産業省)で『投資事業有限責任組合法』(1998年施行)を起草、2004 年㈱東京大学エッジキャピタル(UTEC)共同創業。3本の投資事業有限責任組合(計約300億円)を設立・運用し、テラ含め16投資先ベンチャーの役員に就任。東京大学法学部卒、スタンフォード大学経営学修士。日本ベンチャーキャピタル協会常務理事。



大学発ベンチャーとは

 私はUTECで、2004年以来、「大学発ベンチャー」への投資を行ってきたが、「大学発ベンチャー」とはなんだろうか。経済産業省報告書(2015年4月「大学発ベンチャーの成長要因を分析するための調査」)によると、①研究成果ベンチャー、②協同研究ベンチャー、③技術移転ベンチャー、④学生ベンチャー、⑤関連ベンチャーに区分される。本年7月31日の東証マザーズの時価総額ランキング上位15位の中から、当てはまるものを見てみよう。(図1)

 2位のCYBERDYNE(サイバーダイン)は筑波大学の山海嘉之教授の開発したロボットスーツを事業化するベンチャーだ。3位のペプチドリームは東京大学の菅裕明教授の発明したペプチド治療薬開発プラットフォームを事業化するベンチャーであり、UTECが早期から投資した企業である。窪田規一社長は、教授に紹介した四人目の社長候補だった。8位のサンバイオは、慶應義塾大学の岡野栄之教授の中枢神経系の細胞損傷の再生医療の研究を事業化しようとするベンチャー。10位のオンコセラピーサイエンスは、東京大学に在籍していた中村裕輔教授のがん遺伝子に関わる成果を事業化。11位のヘリオスは、国立研究開発法人の理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーが研究開発した加齢黄斑変性治療法の実用化を図っている。12位のナノキャリアは、東京大学の片岡一則教授らが研究したミセル化ナノ粒子技術による医薬品を開発するベンチャーであり、UTECも投資していた。このリストには載っていないがUTECが創業期から投資して最初にIPOした大学初ベンチャーは、東大発がん免疫療法のテラ。リーマンショック後、日経平均株価が7000円台だった2009年3月に上場。時価総額は当初30億円ほどにすぎなかったが、3カ月で200億円台に上昇した。このほか、ミドリムシを大量培養して機能性食品やジェット燃料を開発・販売する東大発ベンチャーであるユーグレナは、2014年12月に東証マザーズから東証一部に鞍替え上場しリストに載っていないが、時価総額1000億円台を誇る。いずれも、①②ないし③の類型に該当するベンチャーであり、日本の株式市場で、大学などの研究成果を活用するベンチャーの占める役割が大きいことが分かるだろう。

 ただ、注意しておきたいことがある。大学発ベンチャーというと、一般に、研究が素晴らしいからうまくいくと思われがちであるが、正確ではない。現実には、研究成果の製品化に加えて、経営管理、資金調達、知的財産戦略、マーケティング、営業、契約、法務等の、諸要素が全て揃って初めてうまくいく。したがって経営陣を組成する際には、研究者や技術者に加え、経営者を含む多様な領域で十分に能力を発揮できるチームを組成できるかが鍵である。また研究についても、特定の大学だけでうまくいくものではない。実際に成功している大学発ベンチャーは、出身大学だけではなく複数の研究機関や他の企業の技術やリソースとうまく組みながら、共同研究や事業提携を有効に図ることで事業を軌道に乗せている。
 


大学発ベンチャーとは

大学発ベンチャーの企業数

 全国の大学発ベンチャーの企業数を見ると、2008年度は1807社、2014年度は1749社であったが、関連大学別で見ると、一位は東京大学の196社で、数を大きく伸ばしていることが分かる。2015年6月30日付の日本経済新聞によると、東京大学の特許や人材を生かして創業した「東大関連ベンチャー企業」は200社を突破し、合計の企業価値は1兆円を超えたという。4月上旬時点でペプチドリーム、ユーグレナなど上場企業16社を含む時価総額を合計すると、合わせて約1兆3千億円になったという。5年前の約2倍だそうだ。

 東大の人材といえば、従来は保守的で官庁や大企業志向が強く、起業やベンチャーとは縁遠いと思われていたが、今や、日本のベンチャー界で非常に活躍するようになったといっても過言ではないのではないか。(図2)


大学発ベンチャーの企業数

大学発ベンチャーに関わる投資家と経営者の課題

 大学発ベンチャーは、その独創的な科学技術力を武器に、これまでにない産業化を起こす可能性を秘めている。だからこそ、売上や利益が小さくとも、場合によっては赤字であっても、株式市場で高い評価額を得る傾向があるのだろう。

 企業の収益力と株価を比較する指標PER(株価収益率、株価÷一株当たり当期利益)でこれを見てみよう。現在、世界の主要株式市場では、PERは平均で概ね15倍から20倍程度に収まっており、最もPERが高い米国新興企業向け株式市場のNASDAQでも22倍程度である。一方、東証マザーズで時価総額2位のCYBERDYNEの場合、継続して赤字のためPERは算定不可能である(2015/3連結決算で当期損失▲915百万円)。東証一部に鞍替え上場したユーグレナの場合、黒字ではあるもののPERは500倍を超え極めて高い(2014/9連結決算で、売上高3046百万円、当期利益118百万円)。もし上場企業がこれらのベンチャーの事業を実施していたならば、赤字部門ないし低収益部門と扱われ、株価を押し下げていてもおかしくない。

 大学発ベンチャーが日本の株式市場で長期的な信頼を得て、日本の新産業を持続的に生み出していると言えるようになるためには、このような状態は変わっていかなければならないだろう。つまり、大学発ベンチャーに投資をする投資家には、そのベンチャーが株価に見合った収益を本当に実現できる会社かを見極めることが必要だし、他方、大学発ベンチャーの経営者の側も、株式市場の時価総額は実績に基づくものではないことを自覚し、期待に真に応える収益を実現することが課題だ。

図1- 東証マザーズ 時価総額ランキング上位15 位(2015年7月31日)



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