トピックス -企業家倶楽部

2015年11月27日

ペンで回路を描く!?電子のイノベーター/AglC代表取締役 清水信哉

企業家倶楽部2015年12月号 スタートアップベンチャー


肩書き、プロフィール、会社概要等は掲載当時のものです。

【企業概要】
社 名 ● AgIC株式会社
本 社 ● 東京都文京区本郷4-1-3明和本郷ビル
設 立 ● 2014年1月
資本金 ● 6520万円(資本準備金含む)




 テレビ、パソコン、スマートフォン、これらの電子機器は今や、我々のライフスタイルに欠かせないツールとなっている。そのほとんどは内側に「プリント基板」と呼ばれる配線部品を用いているのをご存知だろうか。

 プリント基板は絶縁体でできた板状の素材だ。表面に電子部品を固定。銅箔で配線を接続することで、目的とした動作を電子機器に与える。この技術は開発当初から大きく変わらず、今日まで世界中で使われ続けている。

 今、そんな電子の世界に新たな光を差し込まんとする男がいる。東京・文京区に本社を構えるAgIC(エージック)代表の清水信哉だ。

 2014年1月に創業。翌年8月に確立した独特な技術が注目を集めた。すなわち、特殊な銀ナノ粒子インクを用いて紙の上に電子回路を形成するというものである。速乾性のある特殊インクが専用紙に塗布されることによって化学反応が起こり、高い通電性を持った回路の役割を果たすようになるのだ。



巨大電子回路を印刷

 現在、インクによる回路形成には二つの方法があり、それがエージックを支える二つの事業となっている。一つは、誰でも簡単に回路を引くことのできるペンと専用紙の販売だ。主な販売先は学校や塾などの教育機関。主となる活躍の場は小学校で学ぶ“直列・並列”の実験だ。「従来のように配線を“つなぎ替える”手法ではなく絵描き感覚で“描き変える”という新しい教育ができる。誰でも簡単に電子回路を作ることが可能になった」と清水は語る。

 もう一つはインクジェットプリンターを用いた回路基板の高速印刷である。従来のプリント基板は、その製造に高いコストと時間を要するという問題があった。しかし、プリンターを用いて回路を「印刷」することにより製造時間を大幅に短縮。コストも抑えられている。

 また、この技術は、これまで通常のプリント基板などでは難しかった大判サイズの回路作成を手軽に行えるという特徴がある。従来のプリント基板では50~60センチが限界だったところ、このインクと専用紙を用いて印刷することで大きさ50メートルの巨大電子回路さえ作ることが可能だというのだ。現在エージックでは、この技術を使った印刷の請負を行っている。

 これらの技術を武器に、今期の売上高は3000万~4000万円を見込んでいる。



回路を描くペン誕生!

 清水がこの技術に出会ったのは2013年9月、アメリカ・ボストンである。当時、マッキンゼー・アンド・カンパニーで働いていた清水は偶然、大学時代に世話になっていた准教授の川原圭博と再会。彼の研究していた通電性インクの話に興味を惹かれた清水が、その場で事業化の話を提案したことが起業のきっかけだという。

 しかし、起業に向かって走り始めた清水はさっそく壁にぶつかることとなる。クラウドファンディングを利用して自力で資金調達こそできたものの、肝心な「回路を描けるペン」の設計や生産の計画が全くできていなかったのだ。最初は大手製造会社に依頼しようとしたが、話を進めていくうちに意見が合わなくなり、破談となってしまった。それでも、自社工場を持っていなかった清水は、なんとしてもペン製造を請け負ってくれる企業を見つけなければならない。目に留まった中小企業に片っ端から話をして回る日々が続いた。

 そんなある日、清水のもとに吉報が舞い込む。東大阪にある企業が製造を請け負ってくれたのだ。そこの社長は清水の話を聞くなり「ちょっと待ってろ」と言い、その場でペンを一本作り上げてみせた。エージックの「電子回路を描けるペン」が誕生した瞬間だった。


回路を描くペン誕生!

電子と紙のハイブリット

 現在清水は、電子回路の印刷技術を主力に、あるチャレンジに乗り出している。紙のポスターをデジタルメディア化しようという試みだ。具体的には、ポスターや紙広告にエージックの回路技術を用いて電子部品や回路を融合。これにより、ポスターにスマートフォンをかざすだけで情報が転送されるような機能を付加することや、接触によって発光する広告が作成可能だという。

 紙に電子回路を形成すると、既存のプリント基板と比べ軽くて薄くなる。その強みを活かせば、ポスター自体のデザイン性、格納性を損なわずに電子回路を組み込むことが可能だ。従来、ポスター等の紙媒体に電子部品を組み込もうとした場合、基板や配線の関係から厚みが生まれ、展示場所を選ばなければならなかった。しかし配線がインクとなり基板が紙となるエージックの技術なら、各電子部品を貼り付けるだけでよい。

 ただ便利な反面、このインク回路には大きな弱点が存在すると清水は語る。それは耐久力。強靭な素材で出来ているプリント基板に比べ、紙製で回線がむき出しのこの基板は環境変化に弱い。特に屋外における用途の場合、雨によってショートしてしまう危険もある。

 こういった課題に対し現在は、ペットボトルの素材でつくったフィルムに回路を描写。更に表面にコーティングを施すことによって、屋外でも5年運用できる耐久力を備えた基板を開発中だという。

 エージックの技術は「工夫次第でインテリアにも応用が可能」と清水は語る。通常、屋内に光源を設置するためには面倒な施工が必要となるが、LEDを回路として組み込んだ基板を壁紙として屋内に貼り付けることにより、壁自体が光源やディスプレイの役割を担うことができるのだ。

 新しい技術には常に改善と信頼の構築が不可欠だ。前より良いものを作らんとする清水の探究心は留まることを知らない。


電子と紙のハイブリット

5年後売り上げ100億円を目指す

 2015年4月に技術を確立させたばかりの若きベンチャー、エージックの清水が見据える未来は壮大だ。東京オリンピックを迎える5年後の2020年には、ポスターサイズの印刷基板受注数が年間20万枚以上、売り上げは100億円、株式上場も視野に入れるという。

 イノベーター清水信哉率いるエージックが今、電子と紙の世界に革新という名の「回路」を描き始めた。



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