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2015年12月01日

「空飛ぶクルマ」、東京五輪の空を飛ぶか ~SFの世界から現実へ~/梅上零史

企業家倶楽部2015年12月号 グローバル・ウォッチ vol.5


2020年夏、東京オリンピックの開幕式。会場の新国立競技場は当初の莫大な建設費が問題となり、デザインが見直されて開閉式屋根はなくなり、青空が観客席から見える。その空から一台のクルマが飛んで来る。クルマは聖火台の上空で静止し、運転席から松明が投げ込まれて聖火が灯る。五輪初日は日本発の未来のクルマのお披露目となった。




 そんな企画の実現を思い描くのは「カーティベーター」の中村翼代表だ。エンジニアとして自動車メーカーに勤める傍ら、「空飛ぶクルマ」の開発に仲間とともに取り組んでいる。愛知県豊田市内の廃校となった小学校を市長の好意で安く借り受け、仕事のない週末に試作機を開発している。

 カーティベーターが開発中の空飛ぶクルマ「スカイドライブ」は、空撮などに使われる無人機「ドローン」を人一人が乗れるほどに大きくしたイメージだ。車が三つ付いたフレームにボディーや椅子が載り、四隅に大きなファンが付いている。このファンが回転して起こした風で浮力を得る。浮上後に車体を前方に傾ければ前に進む。体重移動で感覚的に操作することを考えている。

 一人乗りで総重量は160kg以下。大型ラジコン用のファン8つをリチウムイオン電池を使って動かし浮き上がらせる。最高時速は100km。一度の充電で道路を40km走り、上空を5~10km飛ぶことができるという。価格は高級自動車並みの500万円ほどを考えている。2014年には五分の一の大きさの模型の飛行に成功しており、2016年秋には実物大の試作機を飛ばす計画だ。

 「『スカイドライブ』が実用化されれば、海上都市など人の住む場所を増やすことができる。砂漠に住んで高層ビルのオフィスに通うなどということも考えられる。人命救助に駆けつける緊急車両としての需要もあるだろう」と中村代表は話す。道路などのインフラが未整備な場所でも移動の手段として使え、「中東やアフリカで大きな需要があるのではないか」と語る。

 あのトヨタが「空飛ぶクルマ」を開発!?この9月、トヨタ自動車の米子会社が空飛ぶクルマの翼の特許を米国で出願したというニュースが駆け巡った。クルマの屋根から折りたたみ式の4枚の翼が上に伸びるような絵が特許出願の書類に描かれている。ほかにも複数の特許を出している模様で、固いイメージのトヨタも水面下ではいろいろと未来のクルマの姿を考えているようだ。




「スター・ウォーズ」の新作が12月に公開されるが、SF映画を見ていつも思うのは映像の中で〝クルマ?が必ず空を飛んでいることだ。実際、新作では砂漠を這うように浮いて走る乗り物が登場するようだ。きっと「空飛ぶクルマ」が世界の人々が共通に思い描く未来の乗り物なのだろう。実際に世界中に開発に取り組んでいる人々がおり、SFの世界が現実となるのは意外と近いかもしれない。

 英語では「スカイカー」とか「フライイングカー」などと呼ばれ、最近ではスロバキアのベンチャー企業エアロモビルが開発した「エアロモビル3.0」の飛行シーンがサイトで公開され話題となった。同社があるブラチスラバはオーストリアのウィーンから50kmも離れていないドナウ川沿いにある。

 青と白のツートンカラーの車体は幅2m、長さ6mで2人乗り。翼は道路を走る時は進行方向と平行に折り畳まれているが、飛行直前には前部を扇の要にして横にせり出してくる仕組み。翼を広げると幅が8mになる。飛行時のスピードは時速200 で、700 は飛行可能という。東京から広島までは飛べる計算だ。「空飛ぶ車」というよりも、小型飛行機が道路も走れるといったイメージだ。2017年にも商品化したいとしている。

 米国ボストン郊外で「空飛ぶクルマ」を開発しているのがテラフージア社。マサチューセッツ工科大学(MIT)で航空工学を学んだ技術者らが2006年に創業した。試験飛行済みの「トランジション」は左右にある付いた翼が二つ折りになって地面と垂直に畳まれており、飛行モードに入るとそれが横に伸びて開く。「エアロモビル3.0」と同様、一般道も走行可能な小型機といった感じだ。

 さらに同社は新しいコンセプト・スカイカー「TF-X」を発表した。新型輸送機オスプレイの小型・一人乗り版といったところ。地面に対し垂直に立つ二つのプロペラで浮力を作る。浮上後にプロペラがゆっくりと地面と水平になり飛行モードに移行する。道路を走っていてすぐに飛行体制に移れそうだ。4人乗りで、1回のフライトで800km飛べることを想定して開発中だ。



イノベーションは自動車から

 英国にも空を飛ぶ夢を追う会社がある。英ジャイロ・インダストリーズで、大きな扇風機を人の背中に付けて四角いパラシュートで浮き上がる「モーター式パラグライダー」を作っている。同じ原理で自動車にパラシュートを付けて飛ぶ「スカイカー」を開発。ジブラルタル海峡を横断した実績もある。ドローンメーカーの英マロイ・エアロノーティックスは大きめのドローンに人がまたがって低空飛行する「ホバーバイク」の開発に取り組む。車輪は付いていないが、カーティベーターの「スカイドライブ」に考え方は近い。

 未来のイノベーションは自動車から来る?世界の技術革新をリードするIT業界がこぞって未来のクルマの研究開発に乗り出している。米グーグルが2009年から取り組んでいるのが「セルフドライビング・カー」、完全自動運転車の開発だ。走行中の車に取り付けたカメラやセンサーを通じて、前後左右を走る車、自転車、歩道を歩いたり横断歩道を渡ったりする歩行者などの動きを把握し、どう動くかを予測する。危ないと判断したらスピードを落とすなど事故を起こさないようにする。グーグル・マップの情報に基づいて、目的地まで人の手を借りずに走る仕組みだ。

 米アップルも1000人以上の自動車関連の技術者を集め、ITを駆使した新しい電気自動車を開発中とされる。コードネームは「タイタン」で、アップルから正式発表はなく詳しい内容は秘密のベールに包まれている。携帯電話市場をi Phoneで塗り替えたことを自動車市場でも再現しようとしている。

 一方、IT御三家の一角、米アマゾン・ドット・コムが注目しているのがドローンだ。顧客に少しでも速く商品を届けるため、商品の倉庫からドローンを使ってまっすぐ顧客の家まで商品を運ぶ試みに取り組んでいる。ITとドローン技術は無関係ではなく、ドローン制御に必要な重力センサーはスマートフォンの量産を通じて価格低下が進んだ。ドローンの基本技術はすでに1960年代に完成しており、特許が切れたことやセンサーの低価格化で現在のような量産ブームが起きているのだ。

 ドローンの有人版である「スカイドライブ」が実用化されるための課題は「安全性の確保と法規の整備」であると中村代表は言う。安全性確保という面ではグーグルの取り組む無人運転技術は、空における衝突防止技術にも応用できる。障害物が少ない分、むしろ空の方が衝突防止の方が技術的には容易だ。

 法規の整備では、日本では空撮用ドローンの墜落事故が相次ぎ、夜間や人口密集地での飛行を禁止する改正航空法が9月に成立した。スカイドライブは「超軽量動力機」に分類され、高度150m以下を飛ぶ前提で運転免許も必要がない。実習を受ければ誰でも操作可能だが、普及過程では飛行可能な場所や時間などについてルール作りが必要になってくるだろう。アマゾンなどはドローン向け空路整備の必要性を訴えている。

 日本企業もエレクトロニクス業界が落ち目の今、もはや世界をリードできるのは自動車ぐらいになってしまった。しかしそこでも未来の技術開発で米IT 企業に主導権を取られそうな勢いだ。「夢のある技術開発で、若者の車離れを何とかしたい」と中村代表はカーティベーター設立の動機を語る。空飛ぶクルマには日本の技術力再生への期待もかかる。




P r o f i l e

梅上零史(うめがみ れいじ)

大手新聞社の元記者。「アジア」「ハイテク」「ハイタッチ」をテーマに、日本を含むアジアのネット企業の最新の動き、各国のハイテク産業振興策、コンテンツビジネスの動向などを追いかけている。株式、為替、国債などマーケットの動きもウォッチしている。



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