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2015年12月04日

大学発ベンチャー:成功する経営陣の条件/東京大学エッジキャピタル(UTEC)代表取締役社長 郷治友孝 

企業家倶楽部2015年12月号 キャンパスのキャピタリスト仕事録 vol.3


肩書き、プロフィール、会社概要等は掲載当時のものです。


Profile
郷治友孝(ごうじ・ともたか)

通商産業省(現経済産業省)で『投資事業有限責任組合法』(1998年施行)を起草、2004 年㈱東京大学エッジキャピタル(UTEC)共同創業。3本の投資事業有限責任組合(計約300億円)を設立・運用し、テラ含め16投資先ベンチャーの役員に就任。東京大学法学部卒、スタンフォード大学経営学修士。日本ベンチャーキャピタル協会常務理事。




 ベンチャーキャピタルという仕事柄、「大学発ベンチャーが成功するための条件は何ですか」という質問を受ける。すべての企業で言えることと思うが、技術だけではなく、製品とサービスの開発、ビジネスモデルを含めた事業の開発、資金管理や経営を含めた諸条件が必要で、それらを担う全員が協力し合って仕事をしていなければならないと思う。

 日本は、1990年頃から「失われた20年」などと呼ばれ、「技術は素晴らしいが事業はダメ」と言われて久しい。いったいどんな経営陣なら、素晴らしい技術を日本から世界に向けて事業化することに成功できるのであろうか。

 大学発ベンチャーというと、よく見かけるのが、研究者や技術者だけで運営している例である。確かに、技術者同士、分かり合えるし、会社をつくった後も研究開発は必要である。しかし、研究室の延長で事業をしても、企業として伸びない。成長するためには、経営陣が、その技術の事業化によって世の中に貢献したいという共通の目的と情熱を持った、様々な強みを持つ人々で構成され、領域や専門を超えて意思疎通を図り、事業全体を前進させるのでなければならない。また、海外に事業を広げるためには、外国人や海外経験ある人材が参画することも望ましい。経営トップには、そうした多様な人材から成る会社全体を、成果を出す観点からマネジメントできる人材が求められる。



【技術系ベンチャー企業成功のための条件】図1

以下、UTECの投資先の中で2社、株式上場やM&A(企業による買収・合併)を果たし、事業化に成功しているベンチャーの経営陣を見てみよう。


【技術系ベンチャー企業成功のための条件】図1


●ペプチドリーム社

 UTECが早くから投資し2013年6月に東証マザーズに上場した、「特殊ペプチド」による創薬研究開発に取り組むベンチャー。創業科学者の菅裕明東大教授も社外取締役に就任している。

 社長の窪田規一氏は、2005年、技術を発明して間もない菅教授にUTECから社長候補者として紹介した4人目の人物だった。氏は、受託臨床検査のエスアールエル社で遺伝子チップ開発のジェー・ジー・エス社というベンチャーの合弁設立に携わり、2004年に同社が解散される際には社長として苦労された。ジェー・ジー・エス社は研究開発ベンチャーで、文部科学大臣賞を受賞するなど科学面では一定の評価を得たが、事業がうまくいかず出身元を含む大株主に解散させられたのだ。氏はこの経験を通じて、研究者、事業提携先、株主のマネジメントについて多くの教訓を得たに違いない。

 ペプチドリーム創業後は、バイオベンチャーでありながら、研究開発費を自己資金から費消するのではなく大手製薬企業に出してもらうことで収益化するビジネスモデルを確立した。また、経営者として、株主と一時的に異なる意見であっても、最終的に会社のためになる決断と実行を行いうる経営者としての手腕を発揮した。未上場であった頃、外部株主の意向に反して株主に配当を行う決断をしたことは一例であり、今となっては良い思い出だ。

 常務取締役(研究開発担当)のリード・パトリック氏は、米国立衛生研究所(NIH)のNational Research Service Award を受賞した研究者で、東大先端科学技術研究センター特任助教授を経て、研究開発担当取締役に就任した経歴の米国人。ペプチドリーム社は、創薬の共同研究開発契約を、米国4件、欧州4件、日本2件の計10件締結しているが、氏の米国研究者としての背景、米国バイオベンチャーや海外製薬会社に関する知識が貢献した側面は大きい。

 経営管理担当の関根喜之氏は、総合リサイクルショップのトレジャー・ファクトリーにて、管理業務を経験した人材である。




●popIn社

 こちらは、インターネットユーザーの読了状況測定技術"READ "をはじめ、ユーザーの意欲を解析して最適なインターフェイスを提供する言語処理ベンチャー。UTECが創業前から2015年5月の中国検索最大手Baiduによる買収まで支援したベンチャーである。

 創業者は、中国からの留学生として来日した腕利きプログラマーの程涛氏である。東工大を経て東京大学大学院情報理工学研究科修士課程で学んだ。2008年、私は、研究室で初めて会った修士課程在学中の彼から、「自分の夢は会社を作って売ること」と言われて気に入り、起業を支援することにしたのである。

 しかし、程氏のビザは当時留学ビザだったので、社長に就任できないことが判明。そこで、居合わせた日本人学生(寺田博視氏)に声をかけ、卒業するまで暫定社長をやってもらうよう頼み、二人で起業してもらったのである。なお、程氏が率いるプログラマーは、日本人もいるが、中国人、ベトナム人、フランス人等、非常に国際的である。

 当初pop Inは、なぞると検索窓を表示するサービスの提供から始まったが、その後の事業開発で重要な役割を果たした経営人材として、Freak Out(リアルタイムビッティングという広告配信技術提供。2014年東証マザーズ上場)の本田譲社長に触れないわけにはいかない。2008年にヤフーへコンテンツマッチ広告事業ベンチャーを売却し、2010年にFreak Outを創業した連続起業家である。程氏は、かつて本田氏の下でインターンをしたことがある縁で、氏を取締役に招き、収益化のための事業開発の指導を仰いだのである。今でも、本田氏が、多忙な業務の合間を縫って、popInにやって来て程氏に真剣にアドバイスをしていた様子が目に浮かぶ。

 田坂創取締役は、デロイトトーマツコンサルティングでビジネスアナリストを経たのち、pop Inに参画した。初代社長の寺田氏が就職したコンサルティング会社の同僚であることからpop In を知り、参画後はM&Aや管理業務で力を発揮している。

 営業担当の向井雄一取締役は、ターゲッティング株式会社でメディア向け営業を担当していたことがある。pop In 参画後は、pop Inの開発したプラットフォームをメディア向けに営業する活動で力を発揮している。

 ご紹介した以上の2例は、分野は異なれど、研究者・技術者に加えて、事業開発や経営管理といった経歴を持った人材が経営陣を構成してきたこと、様々な人材が分野を超えて協力し事業を展開してきたこと、国際展開に当たり外国人が参画していること、等の共通点がある。今後、世界で活躍する大学発ベンチャーを日本から成功させようとする読者諸氏の参考になれば幸いである。



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