トピックス -企業家倶楽部

2015年12月08日

強い愛社精神の下 美容業界の常識に挑む/ランクアップの強さの秘密

企業家倶楽部2015年12月号 ランクアップ特集第2部


   肩書き、プロフィール、会社概要等は掲載当時のものです。

 

 

「maNara(マナラ)」ブランドの化粧品販売で快走するランクアップ。その裏には、常識破りの製品開発、自社への共感を呼ぶ広告宣伝、顧客に対する丁寧なサービスという3つの合わせ技があった。風通しの良い社風の下、挑戦を続ける同社の強さの秘密に迫る。(文中敬称略)




「私たちの想いが詰まった化粧品をよろしくお願いします!」
 
 9月14日、東京・銀座の本社会議室で行われたランクアップの会社見学会。同社代表の岩崎裕美子は、創業から自社ブランド「マナラ」誕生に至る軌跡、会社拡大と挫折、そして再生とブレイクスルーまでを熱く語った。

 嬉しかった体験談、憤りを覚えた事件、苦悩の日々ーー。場面に応じて声のトーンを変える表現力は女優さながらだ。溢れ出る情熱に触れた多くの人が「つい応援したくなる」と語るのも頷ける。

 これまで、「子どもを産むと働けない」とされてきた女性たちに活躍の場を提供。本来実力を持っている彼女たちが嬉々として働ける居場所となっている。

 そんなランクアップが業績を伸ばし続けている秘訣とは何か。



強さの秘密1・常識破りの開発

ダブル洗顔要らずのクレンジングゲル

 もはやランクアップの代名詞と言っても過言では無い大ヒット商品「ホットクレンジングゲル」。通常メイクを落とす際には、まずクレンジングオイルなどで化粧自体を落とし、その後残った汚れをさらに洗顔して落とさねばならない。

 一方、ホットクレンジングゲルを使えば、メイクを落としながら洗顔まで同時に行えてしまう。さらに、セラミド、ヒアルロン酸、スクワランといった成分が肌の保湿まで手助けしてくれるという代物だ。

 これまでも、いわゆる「ダブル洗顔」不要を謳ったクレンジングは発売されていたが、やはり汚れが気になり、2度洗いするという女性が多かった。その結果、顔の脂分がとれすぎて乾燥肌に繋がるケースが散見されたのである。

 そこへ行くとこのホットクレンジングゲルは、「洗顔後に突っ張らず、乾燥しにくい」( 40 代・女性)、「気になっていた毛穴の黒ずみもきちんと落ちる」(30代・女性)、「洗い流すだけで肌にもちもち感が出て、気持ち良かった」(60代・女性)と幅広い年齢層から大好評。またその名の通り、「手に取った時点で温かくなってビックリ!」「まるで蒸しタオルを顔に乗せているよう!」と驚きの声も多く寄せられ、「使うだけで顔のマッサージにもなる」と絶賛されている。


 強さの秘密1・常識破りの開発


実感できない製品は売らない

 ホットクレンジングゲルがこれだけの人気を博している背景には、「実感できない製品は売らない」という岩崎の確固たる信念がある。使用したお客に「これで肌が変わった!」という喜びを感じてもらうことに最もこだわっているのだ。彼女がここまで「実感」を重視するのは、元々ホットクレンジングゲルが「自分が欲しい化粧品を作る」という発想から生まれた製品であることに起因する。

 今から遡ること十余年前、岩崎は前職の広告代理店で、営業部長としてバリバリのキャリアウーマン人生を送っていた。仕事が終わらず、終電で帰る毎日。睡眠や食生活は乱れ、肌はボロボロであった。営業先などでは、実際の年齢より年上に見られることも多かったとか。そんな中、より肌に優しい化粧品を目指して自分なりに調べを進めていた岩崎は、衝撃の事実に驚愕する。

「まさか、台所用洗剤と同じ成分で顔を洗っていたなんて!」

 巷で広く売られているクレンジングオイルに含まれる石油系の界面活性剤は、汚れと同時に脂質やたんぱく質まで洗い流してしまう諸刃の剣だったのである。こうした経験から岩崎は、「効果が実感できて、肌にも良い化粧品を自分で作るしかない」と独自の製品開発を決意。起業に踏み切った。

業界素人が作った化粧品

 しかし、岩崎の情熱とは裏腹に、各メーカーの反応は芳しくなかった。「魔法のようなクレンジングを作りたい!」という岩崎の想いは、「いかに利益を上げるか」を最重要事項とする企業の常識の壁にぶち当たったのだ。終いには「化粧品で肌を良くするという考え方自体が幻想」とまで言われる始末だったが、岩崎は諦めず、全国を飛び回って片っ端から研究者・開発者に会う日々が続いた。

 ついに協力的な企業と出会い、共に開発を進めることとなったものの、石油系界面活性剤を使わないというハードルは高く、その道は予想以上に困難を極めた。それでも、岩崎の「無茶ぶり」は続く。分からないことがあれば、開発企業に即電話。呼び鈴の嵐は、担当者が「電話恐怖症になる」と参ってしまう程であった。

 発売予定日の差し迫ったある日、仕上がった試作品を使ってみた取締役の日髙は「今までで一番良い。これなら及第点かな」と思った。しかし、岩崎の答えは「やり直し」。「これではお客様が感動しない」というのである。「発売を延期してでも納得のいく製品を出す」と即決。一切の妥協を許さず、採算度外視でこだわった。

 こうした血の滲むような努力の末、ホットクレンジングゲルが誕生。岩崎が業界の常識に精通していれば、無添加という発想自体が出なかっただろう。業界に染まっていない言わば「素人」が、自分の欲しいと思う製品を消費者の立場になって徹底的に突き詰めた結果、生み出された産物なのである。

 ホットクレンジングゲルに端を発す「自分が欲しいモノをつくる」という製品づくりは、今に至るまで顕在。ランクアップの差別化された製品開発力に繋がっている。

 現在、製品の柱に成長した「モイストウォッシュゲル」も「朝、顔は汚れていない」という事実から生まれた製品の一つだ。97・5%が美容液成分でできており、「洗わない洗顔」を謳う同製品は、「毛穴の汚れが落ちて、かつ乾燥もしない」スキンケアを目指した開発担当者の佐々木美絵が、60回以上に及ぶ試作を繰り返した末に誕生した。

 開発する上での肝は「製品の分かり易さ」。何のために使う製品か、明確に伝えられることが重視される。特にランクアップは、今までに無かった化粧品を生み出しているため、それが消費者の潜在的なニーズに沿っていることを示さねばならないのだ。

 例えば、リップクリームのようにスルスルと伸ばして使えるファンデーション「BBリキッドバー」は忙しい女性の化粧時間短縮を手助けする製品。その製品開発は「美容革命」と呼べるかもしれない。



強さの秘密2・共感を呼ぶ広告宣伝


強さの秘密2・共感を呼ぶ広告宣伝


「伝わる」広告を追求

 さて、前述のような苦労を重ねて待望の製品が生まれてくるわけだが、化粧品業界が多数の企業がひしめく「激戦区」であることもまた事実。いかに良い製品ができたとて、消費者に対する見せ方が下手では売れるものも売れない。

 そもそも商品数が多すぎて、消費者としても何を使ったらいいか分からないというのが本音だろう。そうした中で抜きん出るために重要となるのが広告宣伝である。

 巷の化粧品広告では「元から」美しい有名女優や海外モデルの写真がでかでかと掲載され、抽象的な表現や「流行り」の成分をアピールしたものも多い。一方、マナラの広告を見ると、「うるおい実感96・1%」(ホットクレンジングゲル)、「30秒でシミ・くすみをカバー」(BBリキッドバー)といったように実際のデータを多用。また掲載する媒体や場所によって、同じ製品でも使用する写真を差し替えるといったこだわりようだ。なんとなく「良さそうな」広告ではなく、「どのようなタイミングに、どの部位に使う製品で、どれだけの人が実感できているか」が明確に伝わることを是として制作している。

 新規顧客の開拓もさることながら、既存の会員客に対するアプローチも見逃せない。

 ランクアップの化粧品を購入したお客に届く隔月刊の会報誌『マナラ倶楽部』。ここには、製品の使い方や開発者の想いが掲載されているのはもちろん、一般客からのアンケートなど、愛用者の声が多数寄せられている。

 コンテンツは、自社製品に関する情報に止まらない。会社での出来事をはじめ、美容に良いレシピ、旅先のご当地スイーツといった女性を軸とした記事が、社員の手で書かれている。ページには、担当者が顔写真と名前入りで掲載。等身大のランクアップ社員の姿が間近に感じられる。

 多くの社員が広告塔となって制作物などに全面的に出ている点、本来通販では分かりにくい会社の顔がよく見えるため、お客の安心と信頼に繋がっている。各製品の裏にあるストーリーに共感したユーザーがランクアップのファンとなることで、客単価をアップさせているのだ。

縦横無尽にSNSを活用

 ツイッター、フェイスブック、インスタグラムといったSNSをフル活用している点も、ランクアップの特徴だろう。フェイスブックページ「感動化粧品 マナラ」を覗くと、担当者による製品開発の裏話から、30秒でできる簡単メイクの動画まで、興味深く見ることができる。

 もちろん、社長の岩崎も頻繁に登場。最近ではシンガポールで行われたマナラの限定販売イベント、来春から入社する新卒の内定式、ラジオ番組出演時などの様子が掲載されている。

 これまでは大手企業の資本や考え方に乗っかっていた人々も、インターネットの発達に伴い、個人の力を増してきた。「モノの先にあるコトが重要」とはよく言ったものだが、女性が欲しいのは化粧品では無く、それを使った先にある「若々しくて美しい自分」。大手から中小ブランドに至るまで自由な製品選びが可能となった現在、ランクアップの誇る「共感」の力は旧来ブランドに対抗しうる強みとなっている。



強さの秘密3・丁寧な顧客対応

アウトソースしてかつ理念共有も諦めず

 ランクアップのファンづくりに欠かせないのが顧客対応である。「正直、似たような製品はどんどん出てくる」と語る岩崎が価格競争に陥ることを危惧せずにどっしり構えていられるのも、一度掴んだ顧客の心をがっちり握って離さない自信があるからだ。

 実際に注文するとランクアップから委託を受けた80人体制のコールセンターに繋がり、元気で明るい対応を受けられる。だが、このアウトソースに際しては紆余曲折があった。

 事実上お客との最初の接点にあたる受電を重要視したランクアップは、元々自前でコールセンターを持とうとしていた。しかし、増え続ける顧客に対応しきれなくなり、一部をアウトソースすることになる。

 すると今度は、自社とコールセンターによる対応の質に差が生じてしまったのである。お客からすれば同じ番号にかけているのに、日によってオペレーターの対応が変わる。この違和感がクレームに繋がり、緊急課題として持ち上がった。

 前述した広告やサイトなどで顔の見える会社であることは間違いないが、やはり電話の第一声は企業の印象を決める上で大事な要素。最終的に社員を派遣してコールセンターにまで製品への想いや自社の理念を浸透させ、現在のような体制を整えた。

 通常、委託を受ける側は「コールセンター業務」が仕事となるが、カスタマーサービス部リーダーの上山由紀は「オペレーターには私たちのパートナーとして、常に社員のような気持ちでいて欲しい。月に1回は熊本にあるコールセンターに顔を出します」と語る。

 業務をアウトソースしながら、かつ自社製品にかける想いも共有。ランクアップは貪欲に二兎を追う。

クレームではなく「ご指摘」

 注文を受けるだけでなく、お客の気持ちを汲み、改善に繋げるまでがコールセンターの役割。そんな業務をサポートするのが受注管理システムだ。日髙が「ランクアップの情報システム部門」と信頼を寄せるフォービスが、その構築を担っている。

 代表の家永慎太郎も「注文を受けたオペレーターが電話中に全ての入力を終えられるよう、一つの画面に顧客情報として入力すべき項目を集約する工夫を施した」と解説。注文と登録を同時に行えるよう、お客が電話の途中で情報を変更しても前の画面に戻ることなく即応できるようにした。

 またランクアップのお客は、使用頻度によって「製品Aは45日ごと、製品Bは3カ月ごと、製品Cは隔月で第2土曜に」といった具合に、6カ月以内であれば定期便の期間を好きなように指定可能だが、そうしたニーズにも応えている。

 さて、コールセンターから上がってきたお客の声は、担当部署や、必要と判断されれば全社で共有される。

「たとえ製品に不満があっても、声を上げることなく、店や購入先を変えるのが普通の顧客行動。それをわざわざ言って下さっているのだからありがたい」と上山は謙虚に語り、そうした声はクレームではなく「ご指摘」と呼んでいる。

 これまでも、「量が少なくなってきた際に取りにくい」との声からプレミアムクリームのスパチュラ(へら)を長くしたり、「容器の口が狭すぎて使い切れない」という要望に応じてホットクレンジングゲルのチューブ口を広げたりするなど、数々の改善を行ってきた。こうしたきめ細やかで誠実な対応も、ランクアップが支持される要因となっている。



強さの秘密4・愛社精神

何人でも子供を産んでまた戻ってきて欲しい

 ここまで紹介した開発力、宣伝力、サービス力の根底にあるのが、ランクアップの社風である。社員全員が揃って会社と自社製品を愛しているからこそ、自信と情熱に溢れた製品紹介を行い、当事者意識を持って改善にも取り組める。

 各人が社について考えた意見を、社長にすら物申せる風通しの良い雰囲気が醸成されていることが強みだ。

 様々な改善提案があるのも、雰囲気のみならず「改善を買う」という社内制度があるためだ。すなわち、社員がランクアップで生じている何らかの問題を提起し、その原因を述べた上、解決策を提案すると、採用・不採用に関わらず500円もらえるというもの。昨年は年間で420件が寄せられ、その都度改善が行われた。

 充実した社員への支援制度も、こうした改善提案の中から生まれたものが多い。PC用メガネの支給や毎月2000円の書籍購入負担に始まり、岩崎の地元である北海道から旬の野菜が届く無農薬野菜支給というユニークな制度まである。

 約40名の社員中、半数がママという女性の会社であることから、時間休を取れるのはもちろん、ベビーシッターを雇う費用まで会社が負担する。「何人でも子供を産んで、また戻って来て!」というのは岩崎の口癖だ。

 しかし、これだけ制度が充実していても、「子どもがいない人は制度があっても使えない」との声も。そうした背景から、スポーツクラブの費用を月2万円まで会社が助成し、「豊かな感性を磨くため」美術館へ行くのをサポートするといった制度も導入した。

 一般の会社では却下されておかしくないような提案でも、一度は必ず検討し、仮に意向に沿えなくとも理由を伝える。「なぜ」を伝えることで、その裏にある想いが浸透し、コミュニケーションにもなっているのだ。

働き方に革命を起こす

 夢のような支援環境が整っているランクアップだが、最初から良好な雰囲気ではなかった。岩崎本人も「今では信じられないかもしれませんが、雰囲気が暗い会社だった」と回顧する。

 元々、広告代理店での激務から「女性が幸せに働ける会社」を目指して創業されたランクアップ。8時半出社17時半退社の会社ではあったが、子育て支援などの制度は整っていても、その根底にある想いまでは社員に浸透していなかったのだ。

「こんな広告じゃ伝わらない。もっと写真を大きくして!」

 会社と製品のためを思って動いても、最終的に決定するのは全て岩崎と日髙。社員たちは精神的に参ってしまい、思考停止に陥っていた。「私たち以上に会社のことを考えている人間はいないと思っていましたが、実は皆、会社のことをよく考えてくれていた」と日髙も語るように、実際には給料や短時間労働ではなく、「やりがい」をモチベーションとする人材が揃っていたのである。

 岩崎曰く「どことなく悪い雰囲気が漂っていた」というランクアップの社風改革にコンサルタントとして携わったリンクアンドモチベーションの田中允樹は、当時をこう振り返る。

「当時は全ての組織系統が岩崎さんと日髙さんに統括されている『鍋蓋式』の会社でした。そこで、理念を共有した中間管理職を育てることでピラミッド型の組織を目指したのです」

「企業の器は、社長の器以上に大きくはならない」とはよく言ったものだが、組織としての限界を突破したランクアップには、今や挑戦する文化が根付き、社内で新事業が次々と生まれる素地も整った。

 コールセンターを含め、発送業務やシステム開発、『マナラ倶楽部』制作など、「理念共有型」のアウトソーシングを行うことで、現在でも定時勤務は守られている。社員40数名ながら2015年9月期は売り上げ75億円、経常利益8億5000万円を見込むというから驚きだ。

「女性が輝ける社会」を提唱し、新しい働き方を自ら実践するランクアップが、次世代企業として日本における「労働革命」の先駆けとなるか。今後の飛躍に期待したい。



コメントをシェア

骨太対談
 
コンテンツメニュー
企業家賞
企業家倶楽部企業家大学
Page Top