トピックス -企業家倶楽部

2015年12月10日

気持ちを解するテクノロジーでマーケティングの常識を覆す/Emotion Intelligence共同代表取締役 音田康一郎・桑山 礎

企業家倶楽部2015年12月号 スタートアップベンチャー


肩書き、プロフィール、会社概要等は掲載当時のものです。

 

【企業概要】
社 名 ● Emotion Intelligence株式会社


本 社 ● 東京都渋谷区恵比寿南2-19-7 VORT恵比寿Duals101

設 立 ● 2011年5月

資本金 ● 3842万3014円




(文中敬称略)

「うーん、買うか迷うな・・・」

 アマゾンなどのネット通販も日本に浸透し、今や誰もがウェブ上での買い物を楽しむ時代となった。かねてから目を付けていた商品のページに飛び、写真やレビューを見ては、他の商品と比較して・・・と悩んだ末に購入を踏み止まる経験をしたことはないだろうか。

 視点を変えて企業側から見れば、これは購入直前まできた顧客を逃してしまったことになる。実店舗であれば、迷っている顧客の気持ちを店員が察し、購入に導くことも可能であろう。だが、インターネットの世界において、企業サイドは直接消費者に接触することはできない。自社の商品に関心を持ってもらい、サイトに引き寄せたにも関わらず、あと一歩のところでお客を逃してしまう。対面営業ではないからこそ、人件費などのコストがかからず手軽であるが、お客の状況に応じてアプローチできないのはネット販売の悩みの種かもしれない。

 しかし、Emotion Intelligence(エモーションインテリジェンス)のサービス「ZenClerk(ゼンクラーク)」の手にかかれば、そうした悩みは杞憂に終わる。

 前述のサービスは、同社のもつ基幹エンジン「Emotion I/O(エモーション・アイオー)」によるもの。「気持ちを解するテクノロジー」と称するこの技術は、ウェブ上でのユーザーの行動を基に感情の変化を読み取るというから驚きだ。一体そんなことが可能なのだろうか。

 エモーション・アイオーでは、ユーザー一人ひとりのサイト上でのマウスの速度や座標、画面の切り替え等の莫大な統計データを解析、人工知能が機械学習することで、今どんな感情なのかが分かるという。ビッグデータなど、コンピュータのデータ処理能力が向上したことで、こうした分析が実現できるようになった。

 この技術を応用させたゼンクラークでは、解析したユーザーの感情を基に購買意欲を予測。購入をためらう顧客に対してサイトから離脱する瞬間にリアルタイムでクーポンを配布し、購入を後押しすることができる。導入によって購入率は1.5~2倍となる成果をあげ、現在ディノスやメガネスーパーなど大手ECサイトで利用されている、知る人ぞ知るサービスだ。



シリコンバレーで得た確信

 エモーションインテリジェンスは、コンサル出身の音田康一郎、データ分析ビジネスに従事していた桑山礎、エンジニアとして10年以上のキャリアを持つ名島勇樹の三人が2011年に共同で設立したベンチャー企業だ。

「表情を見なくとも、彼が何を買うか予測できた」

 ビジネスモデルの原型となったのは日常の些細な出来事から。桑山がアマゾンで買い物をしていた時、ふと音田が背後から画面を覗くと、マウスの動きやスクロールのスピードで何を買うか、どのような商品に興味を持っているかまで察することができたという。人間がある程度の精度で推考できるならば機械学習で全自動化できるのではないかと思い立ち、エモーション・アイオーの開発が始まった。

 自らの事業の可能性を探るために三人が降り立ったのは、ベンチャーの聖地シリコンバレー。当時のアメリカでは、顧客の行動に応じて購買を促すマーケティングオートメーションは盛んに行われていた。しかし、広告やメール配信などをECサイトの担当者が手動で入力するなど、こうした機能はまだまだ効率が悪く、同社のような感情を解析するサービスはシリコンバレーですら存在しなかったという。こうして確かな手応えを得た三人は米国で事業構想、基本設計を練り上げ、製品開発を経て帰国。以後、ゼンクラークのサービスが始動した。



新時代のマーケティングサービス

 EC事業における販売促進は決して目新しくはない。その代表格とも言えるのが、アドテクノロジー事業だろう。これは、ユーザーの年齢や性別、サイトでの閲覧データを基に趣向を判別し、個々人の興味に合った広告を配信するという技術だ。ネットサーフィンをしている際に自分の好みに合った広告が目に留まる経験は馴染み深い。

 だが、「アドテクはサイト外からユーザーを呼び込まないといけない。広告を目にする時、全く違うものへの関心が向けられていれば効果が弱まる」と桑山が分析するように、状況によっては狙ったサイトに誘導できない可能性もある。

 また、「広告市場は需要過多で効率がどんどん悪くなっている」と語る音田。広告を掲載するメディアなどの媒体は限られているものの、掲載希望者は増加する一方だ。となると当然オークション状態となり、結果的に単価が上昇してしまう。広告の出し手からすれば宣伝費が大きくなり、価格上昇分だけ利益は減ってしまうのだ。

 一方、ゼンクラークはサイト内で商品を買おうか悩んでいるお客に対して、直接クーポンを配布。サイト外部から呼び寄せるよりも効率的に販売促進が行われる。販売側の企業からすれば、安易な値下げで売上を減少させることなく、自社の商品に関心の高い人のみへ的確にアプローチできる。しかも人工知能の機械学習により、利用者が増加すればするほどオファーの精度が自動的に上がっていく。まさに新時代のマーケティングサービスと言える。

 また、同サービスは導入費用や月額費用がゼロの成果報酬システムとなっている。成果は、「A/Bテスト」による結果が物差しとなる。統計的に同じような趣向を持つユーザー集団を二つのグループに分け、一方のみにクーポンを付与。配布されたお客のみが商品を購入した場合には、ゼンクラークのサービスによって購買を促したことの証明となり、成果としてカウントされる。このような成果型の報酬制度により、企業側はリスクフリーで自社の売上げ強化を図ることができるのだ。



業界のデファクトスタンダードへ

 今後の目標は「業界内における圧倒的シェアの獲得」と意気込む音田。サービス自体は他社にない独自のものだが、ネット上における顧客獲得方法は多岐にわたり、異なるアプローチが数多く存在する。確実に成果を出し、効率性を高めることで、業界内での地位確立を狙う。

 将来的にはクーポンなどの領域を超え、適切なタイミングでの希望に沿った商品サイズの提示や、メールの配信など、感情の細部まで分析し、サービスの拡大を目指す。さらに、「日本人・外国人の別なくマウスの動きから購買行動は予測可能。グローバルに通用する事業だ」と桑山は目を輝かせる。シリコンバレーですら考えられていなかったビジネスモデルを編み出したエモーションインテリジェンス。人工知能ビジネスという時代の最先端を行く彼らの挑戦はまだ始まったばかりだ。



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