トピックス -企業家倶楽部

2015年12月16日

雑誌ビジネスの革新をめざす/富士山マガジンサービス代表取締役社長 西野伸一朗

企業家倶楽部2015年12月号 新興市場の星たち・2


肩書き、プロフィール、会社概要等は掲載当時のものです。

出版不況と言われる中、雑誌に特化したオンライン書店の富士山マガジンサービスは売上を右肩上がりに伸ばし、2015年7月7日、東証マザーズに上場を果たした。同社社長の西野伸一朗が描く雑誌ビジネスの未来像とは。 (文中敬称略)

 

P L O F I L E

西野伸一朗(にしの しんいちろう)

1964年東京生まれ。88年NTT入社、93年ニューヨーク大学にMBA(経営学修士)留学。95年帰国し、インターネットビジネス立上げに携わる。98 年ネットエイジ(現ユナイテッド)設立に参画、取締役に就任。99年アマゾンに入社、日本創業者として2000 年に通販サイト「A m azon.co.jp」を開設。02年7月、「富士山マガジンサービス」設立、代表取締役社長就任。15年7 月東証マザーズ上場。




 富士山マガジンサービス(以下富士山)は、雑誌1万誌を扱うオンライン書店である。主力は定期購読で、紙版の日本雑誌6000誌に加え、中国語雑誌と米国誌を計4000誌提供。全雑誌中2600誌に関しては電子版も合わせて販売している。大型書店でも取扱量は600誌程度と聞けば、富士山の品揃えがいかに群を抜いているか分かるだろう。顧客が富士山のサイトで注文すると、各出版社が雑誌を発送、同社は売上高に応じて業務報酬を得る。

 雑誌の売上は1997年をピークに17年連続で減り続け、最盛期の4割減とも言われているが、同社は2002年の創業以来、毎年前期比20%増のペースで売上を伸ばしてきた。14年の取扱高は約60億円、売上高19億4200万円、営業利益2億円。10年カルチュア・コンビニエンス・クラブと業務資本提携し、15年6月には総登録ユーザー数が200万人を突破した。7月7日には東証マザーズへ上場し、今期は売上23億9300万円、営業利益2億7000万円を見込んでいる。



アマゾンジャパン立ち上げ

そんな富士山の創業社長は、アマゾンジャパンを立ち上げた西野伸一朗だ。西野は日本電信電話(NTT)在職中の98年、ベンチャー支援のネットエイジ(現ユナイテッド)設立に参画した。当時、本のネット販売と言えば米国アマゾンだったが、日本には未上陸。ダメで元々とシアトルにいる創業者のジェフ・ベゾスに直接メールを送ると、本人から「ホテル代は持つからぜひ来社を」と思いもよらない返信を受け取った。

 急遽、休暇を取りシアトルの本社でプレゼンに臨む。すると、その日のうちにアマゾンの日本進出が決定したというから驚きだ。西野は99年NTTを退職し、アマゾンの日本創立者に就任、2000年11月サイトをリリースした。その後の躍進は周知の通りである。



日本初の雑誌定期購読専門サイト

 その頃ネットエイジに、雑誌の定期購読ビジネスを始めたいと、現在同社取締役の相内遍理がやってきた。相内は既に在米邦人向け「富士山.com」を運営していたが、日本には定期購読専門サイトは存在しなかった。日本特有の出版流通に疑問を抱いていた西野らはその可能性を感じ、02年7月、富士山マガジンサービスをネットエイジのインキュベーション(支援)事業として設立、12月に同社サイト「Fuj isan.co.jp 」がオープンした。

「このビジネスを思いついた時、自分は天才だと思った」

 こう冗談交じりに語る西野にはアマゾンでの苦い経験がある。サービス開始時に巨大な倉庫を借りたことで、ビジネスが軌道に乗るまでは空の倉庫が赤字を出し続けたのだ。しかし、富士山が扱う雑誌は鮮度が命。発売日には出版社から読者に直送されるため、同社は在庫を持たずに済み、倉庫が不要だ。また、顧客は定期購読の申し込み時に一括して雑誌代を前払いする。西野が「単月黒字になる前からキャッシュフローポジティブ」と胸を張るように資金繰りには苦労しなかった。

 ただ、業界は慣習に縛られており、創業3年ほどは取次(出版流通)を通さない直取引に出版社が難色を示した。ブランドが確立するまでは、これを根気強く説得して一社ずつ取扱誌を増やしていかねばならなかった。

 また予想外だったのは、出版社頼みの発送が当てにならなかったこと。出版社が発送を忘れて「注文した雑誌が届かない」というクレームが頻発した。それを受けて、現在では配送や顧客管理を一括して請負うサービスも行っている。



グローバルスタンダードは定期購読

 愛読している雑誌を買いそびれたり、新聞や吊広告で気になっている雑誌をなかなか買いに行けなかったりした経験はないだろうか。ようやく書店に立ち寄っても、目当ての雑誌が店頭で見つからなければ購入を諦めてしまうかもしれない。しかし定期購読なら、一度注文すれば発売日に自宅や会社へ届き、割引やプレゼントを受けられることも多い。

 出版社にとっても定期購読はメリットが大きい。富士山で単発に購入する場合、1年後の継続率は10~20%にとどまるが、定期購読となるとその割合は70%を超える。また、書店では通常4割超の返品率も、注文分のみ発送するためほぼゼロ。読者と出版社、まさに両者両得のサービスなのだ。

 このような長所があるにも関わらず、日本には「雑誌は書店で1号ごとに買うもの」という固定観念があり、定期購読はわずかに1割ほど。FIPP(国際雑誌連合)によればアメリカは8割、ドイツは5割の人々が定期購読しているというから、その少なさは顕著だ。

 人間の趣味趣向や仕事は1カ月ごとに変わるものではない。信頼する雑誌から定期的に情報を得ることが日本でも一般的となれば、富士山はシェアを数倍に伸ばしていくことが可能だろう。



マガノミクス3本の矢

 雑誌不況の中、出版社は雑誌出版に手一杯で販路拡大まで手が回らないという悪循環に陥っている。だが、依然として雑誌市場は8500億円と巨大であり、活路を見出すには売り方の転換が必要だと西野は主張する。それが、EC(インターネット販売)化率の上昇と定期購読マーケットの拡大だ。しかし、大手出版社を除いて「資本力」と「IT」が欠けているのが現状。それを補うべく同社はプラットフォームを提供していく。

 西野は、その具体的な方針を「マガノミクス3本の矢」と名付けた。第1の矢は前述の定期購読だ。第2の矢はデジタル化である。現在でも8割以上の顧客が紙版を購読しており、抜本的な変革を通じて誌面の大きさやレイアウトなどの課題を克服していかなければマネタイズには程遠い。しかし、デジタル化が進めば記事単位でアクセス数を把握でき、さらに購買ターゲットが明確になるという利点がある。

 第3の矢は、既存の雑誌ビジネス以外の収益を生むためのプラットフォーム提供である。米国では定期購読を「リストビジネス」と呼ぶ。購読者情報は雑誌の特徴により、ライフスタイルや興味の対象が明確な顧客リストとなるからだ。広告主にとっては、他の媒体に比べてターゲットへの効果が高い。

 最大の強みは、出版社が定期購読者に対してダイレクトにアプローチできること。例えば車の雑誌なら、購読者向け試乗会といった有料イベントの開催、ファンクラブ運営やオリジナル商品の販売などが考えられるだろう。アイデア次第で、雑誌1冊の代金で終わらず、顧客単価を上げていくことが可能になる。

 今後は膨大な雑誌のデータベースを活用し、出版社ごとのコンサルティング業務も視野に入れているという西野。雑誌販売の領域で既存のメガサービスをどう切り崩していくのか、期待したい。



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