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2015年12月28日

先端技術を駆使し東洋一の観光ビジネス都市を創る/ハウステンボスの21世紀戦略

企業家倶楽部2016年1/2月号 ハウステンボス特集第1部


   肩書き、プロフィール、会社概要等は掲載当時のものです。

   

18年間赤字だったハウステンボスをたった1 年間で黒字に転換。5年間で利益100億円企業にまで成長させた社長の澤田秀雄。誰がやっても浮上しないテーマパークをどうやって変身させたのか。どんなマジックを使ったのか。澤田は次なるステージとして、ハウステンボスを実践場に、ロボット、エネルギー、農業にも進出、東洋一の観光ビジネス都市を創ると、壮大な未来戦略を描く。(文中敬称略)



圧巻の「光の王国」

 2015年11月、秋から冬へと季節が転じ、日の短さを感じるこの時期、ハウステンボスは壮大な光をまとい、光の王国へと変身する。その美しさは圧巻、訪れた人全てを感動の世界へと誘う。

 暗闇に浮かぶ光の滝。光と音のスペクタクル。水がうねり、弾ける。その迫力、躍動感、そのスケールはまるで本物の滝がそこにあるかのようだ。「ウァースゴイ!」見つめるお客の顔は輝き、歓声が挙がる。光の滝だけではない。東京ディズニーリゾート(TDR)の1.6倍という広大なハウステンボスが、幻想的な光に包まれる。

 昼は鮮やかな色を称える広大なバラ園が、季節の花で彩られたフラワーロードが、そしてオランダそのままの運河が、夜になると全て光で彩られる。その光景は別世界。一度見たら忘れられない記憶として刻まれる。1300万個のLEDライトが輝く光の世界は、規模においても別格、誰も見たこともない世界最大級の光の王国である。

 この贅沢なイルミネーションが時間限定ではなく、日没から22時まで続くのだから、お客にとってはたまらない。最後の一瞬まで楽しむことができる。そして帰り道を急ぎなから、誰もが思う。「また来たい!」と。

 かくして、ハウステンボスの客は冬でも入場者数が落ちることはない。特に12月はクリスマスイルミネーションと重なり、一層華やかな世界に包まれ、一年で一番の入場者数を稼ぎ出す。この壮大な光の王国は10月31日から翌年4月中旬まで楽しむことができるが、11月には、既に翌年の企画が練られる。毎年バージョンアップしないとお客に飽きられるというのだ。2016年は巨大なドラゴンを考えていると、こっそり打ち明ける澤田は楽しそうだ。



宝塚歌劇団を超える

 光の王国のように期間限定のイベントもあるが、通年のイベントとして、最近人気が急上昇しているのが、「ハウステンボス歌劇団」である。16時から始まるチーム「光」の公演を見に行く。2014年に新設された専用のミューズホールは、既に観客で満員。後ろには立ち見客もいる。この時間のプログラムは「情熱の空間」だ。華やかな音楽に合わせて、ステージでは華麗なショーが披露される。それは宝塚歌劇団さながらの迫力だ。客席を見回すと子供からお年寄りまで、目を輝かせて舞台を見つめている。歌と踊りが炸裂する50分間のステージは、人々を夢の世界へと引き込む。

 団員一人ひとりの気合のこもった舞台がファンを熱狂させる。今、「花」と「光」の2チームを結成しているが、地方や海外からも遠征の要望が多いため、もう1チーム結成すると澤田。

 宝塚歌劇団出身者のアイデアで始まったハウステンボス歌劇団だが、全てが本格的だ。ハウステンボス歌劇学院を併設、研修生を1年間きっちり育て、2年目からは舞台での実地訓練となる。宝塚よりもホールが小さく、お客との距離感が近い分、親しみが沸く。既にファンが多く、会員が増えていると澤田。4400円の入場料金で見られるのも人気の秘訣といえる。将来は宝塚歌劇団を超える。団員の真剣さ、歌や踊りのスキル、お客との距離感、いずれも負けることはないと強気の澤田。まさに今、ハウステンボスが誇る人気コンテンツとして、集客の目玉となっている。

 光の王国や歌劇団だけではない。「花の王国」「音楽とショーの王国」「ゲームの王国」、そして2015年から新設した「健康と美の王国」と、ここには数え切れないほどの楽しいコンテンツが満載だ。子供からシニアまで、多くの人々の歓声と、弾ける笑顔を目の当たりにしながら、澤田は6年前の、暗くて寂れたハウステンボスのことを思い起こしていた。


宝塚歌劇団を超える

難しいからこそチャレンジ

 ハウステンボス再生の旗手として、澤田に白羽の矢が立てられたのは2009年10月のことだ。18年間、誰がやっても赤字続きだったハウステンボスの、最後の頼みの綱として頼まれたのだ。エイチ・アイ・エスを日本屈指の旅行会社に成長させ、スカイマーク、H.S.証券とさまざまな事業を手がけてきた澤田だが、この申し出は断った。それはあまりにも難しい案件だったからである。

 テーマパーク繁盛の3つの要件「商圏規模」「アクセス」「イベント力」、どれも中途半端で勝ち目はなかった。TDRの1.6倍の敷地面積は広すぎて効率が悪い。さすがの澤田もこの案件は難しいと判断した。しかしオランダさながらの街並みは美しく、これを壊すにはあまりにも惜しい。

 澤田も迷っていた。3回頼まれると断れないと苦笑する澤田だが、ついに決断を下した。「難しいからこそチャレンジしてみたい」。澤田のベンチャー魂に火がついた。誰もやらないなら私がやる。

 2010年3月、かくして澤田は火中の栗を拾うことになる。モナコと同じ敷地面積があるハウステンボスはテーマパークというより1つの都市。その都市機能を充実させ、中身を最先端のスマートシティへと転換できたら面白い。そんな未来都市構想が澤田の頭に浮かび上がった。立地も首都圏からは遠いが、上海や台湾などアジアからは近い。そこで澤田はアジアを商圏に巻き込み、東洋一の観光ビジネス都市を創るという新たなコンセプトを掲げた。



再生への道

 しかし再生の道のりは簡単ではなかった。18年間赤字続きの園内はさびれ、暗く、活気がなかった。澤田は佐世保市に住民票を移し、月の内半分を園内に居住、本気で取り組んだ。

 まずは社員を集め、志と夢を語った。「なぜ、皆さんはここで働いているのか。お客様を喜ばせたい、感動させたいという想いがあるからではないか」と。そして「ハウステンボスを東洋一の観光ビジネス都市にしたい。皆さん一緒に頑張りましょう」。

 黒字にするための3つの実行目標はいたってシンプルだ。1つ目は掃除の徹底、2つ目は明るく元気に仕事をすること、3つ目は経費を2割下げて売上を2割増やそうというものだった。そして黒字が出たらボーナスを出すことを約束した。長年負け癖がついていた社員たちは、澤田の約束にも半信半疑。しかし、澤田は本気だった。掃除も自ら手がけ、自転車に乗って広い現場を駆け回り、率先垂範に務めた。

 客数を増やすために、H.I.S.方式で入場料を下げた。夕方からは1000円に下げ、期間限定で無料にした。しかし無料にしても入場者は増えなかった。魅力あるイベントがなかったからだ。そこでさまざまなイベントを試みたが失敗の連続。その経験から中途半端ではダメ。オンリーワン、ナンバーワンでなければお客は呼び込めないことを学んだ。

 試行錯誤が続く中、最初に成功したのは「100万本のバラ祭」だった。ハウステンボスはシニアの客が多い。そこで得意のガーデニングに力を入れたのが当たったのだ。旬の企画としてAKB48のコンサートや、人気のアニメ「ワンピース」とコラボしたイベントを取り入れた。少しずつ入場者が増え、園内に活気が戻ってきた。

 そして澤田が社長に就任して半年で、黒字化を達成することとなる。勿論、約束のボーナスも支給した。結果が出ると社員の顔付きが変わってきた。「マジックはない。失敗から学び改善する。この積み重ねしかない」と強調する澤田だが、その実行力は世間をアッと驚かせた。

 再生に着手して5年、ハウステンボスグループの2015年9月期の取扱高は354億円、経常利益104億円と、とてつもない優良企業へと導いた澤田だが、未だ57点とその点数は辛い。サービス産業としてまだ課題は多く、一つひとつ解決していくしかない。合格点は60点だが、70点を達成すればすごい企業になると前向きだ。



最先端技術の実践場

その澤田が次なるステージへと加速するのは、東洋一の観光ビジネス都市の創造である。それも最先端のスマートシティ構想だ。澤田が今燃えているのは、ハウステンボスの広大な私有地を活用しての、未来戦略の実現だ。既にロボット事業。エネルギー事業、そして農業にも着手した。

 まずはロボット事業。2015年7月、世界初のロボットが接客する「変なホテル」を開業、大変な話題となった。日本はもとより、海外での反響が大きく、オープニングセレモニーには、海外からも多くのメディアが駆けつけた。

「変なホテル」というネーミングは、日々変化・進化していくという意味を込めたものだ。

 インバウンドで加速するホテル不足、人手不足に対応するために、澤田が考えたのが、オール自動のスマートホテルである。ロボットを活用、人件費を削減することでリーズナブルな価格で提供できるという。

 園内にあるホテルヨーロッパ、ホテルアムステルダムと比較しても、一泊一室約18000円、2人で泊まれば一人1万円以下という金額は魅力的だ。72室だがロボットホテルを体験しようと常に満杯。評判も上々だ。近くに2棟目を建設中で、2016年春には開業予定だ。

 この変なホテルでの実験をテコに、澤田は本格的なロボット事業に進出する。日本では産業用ロボットの進化が目覚しく、工場などでは欠かせない。そしてこれから本格的に活用されるのが、サービスロボットである。ホテルや店舗の受付、案内など、人間の代わりにサービスするロボットとして、あらゆるところでの活用が見込まれる。

 そして澤田が今、力を入れているのが、人間の相手をするペットロボットである。変なホテルの客室に入ると、何もないさっぱりした室内に、1体の小さな可愛いロボットが置いてある。名前は「ちゅーりーロボ」だ。ハウステンボスの名物、チューリップになぞらえて、チューリップの形をしている。「暑いから部屋の温度を2度下げて」「明日7時に起こして」。話かけると答えてくれる。まだ音声認識が不十分で未完成だが、これを早急に進化させ、2016年夏には商品として発売予定という。価格はクラウドに繋がる上位機種が10万円、下位機種だと3万円程度という。これがどんな形に仕上がるのか楽しみだが、可愛くて賢いペットとして、必ずやお年寄りの役に立つと澤田は自信を見せる。


最先端技術の実践場

エネルギー農業にも進出


 もともとエネルギー事業に関心の高い澤田のことだ、既にハウステンボス内ではエネルギーを自家発電、園内の需要はもとより、近隣のホテルなどにも供給している。実際にエネルギー事業を手掛けてみると、どうすればもっと効率よく発電できるかなど実態がわかるという。今、園内は最も効率的なコージェネレーションシステムを導入している。

 2016 年4月からの一般家庭向け小売自由化に向け、本格的にエネルギー事業に参入、リーズナブル且つ安定的な電力を供給。テーマパーク・旅行サービスと併せた斬新なサービスを提供する考えだ。

 ハウステンボス内ではもう一つ、壮大な実験が始まっている。それは野菜工場を軸にした農業分野への進出である。世界一生産性の高い植物工場を創ると語る澤田。すでに実験プラントをレストランに導入、野菜づくりが始まっている。園内の健康レストラン「AURA(オーラ)」に入ると、入口付近に野菜プラント「とれたてファーム」が設置され、野菜の成長ぶりが一目で見てとれる。無農薬で育った野菜はそのままレストランで提供される。敷地内に本格的なプラントを設置、野菜を効率的に生産、園内に供給していくという。


エネルギー農業にも進出

10年後に利益1千億円企業を目指す

 10年後には利益1000億円も可能と豪語する澤田。「例えばロボットホテル一棟の年間利益が2億円とすると、これを500棟建てれば、1000億円は実現できる」と。2016年夏に販売予定のペットロボットが家庭に普及すれば、この収益もとてつもない数字になる。エネルギー事業では既に業務用は販売をスタート。家庭用小売ではハウステンボス、H.I.S.を活かし新しいサービスを企画中だ。世界一生産性の高い野菜工場からは新鮮で安全な野菜が供給される。利益1千億円企業に向けて、澤田の頭には次から次と事業構想が浮かぶ。しかしこれをどう具現化していくのか。

 澤田の夢を実現していく上での最大の課題は経営者不足である。そこで考えたのが自ら社長を育てる澤田経営塾だ。既に2015年4月からスタート、第一期生10人は6カ月間の座学を終了、秋からはハウステンボスでの実践が始まっている。園内にある飲食店など、さまざまな事業を体験学習させるのだ。「経営者に向いているかどうかはやらせてみればすぐわかる」と澤田。2年コースだが、最後まで残る人は2、3人ではないかと手厳しい。

「普通の大学だと座学はできても実践はできない。しかしハウステンボスがあるおかげで、実践学習ができる」と澤田。2016年からは一般からも募集、経営者の育成に取り組む。次々と湧き上がる事業構想を実現するためにも、優秀な経営者の育成が急務なのだ。

 澤田はスタッフを巻き込み、その気にさせるのが上手い。チャレンジ精神旺盛な澤田の周りには、多くの助っ人が集まってくる。ハウステンボスが短期間でここまで成長できたのは、中の社員たちの努力だけでは成し得ない。さまざまな分野のプロの協力が欠かせない。だからこそ、オンリーワン、ナンバーワンが次々と生み出されるのである。

「うちにはその道のプロの顧問の方がたくさんいます」と澤田。ロボット事業には東大のロボット研究者が、農業にはその道のベンチャーがアイデアを持ち込んだ。光の王国のあの壮大な仕掛けにも、多くのプロのアイデアが結集している。当然、企業からの売り込みも多い。

 今やハウステンボスには各界のプロたちが集結し、チャレンジの場となっている。澤田の実行力と人柄に惹かれ、集まってくるのだ。こうしたプロの力を束ね、実践し成果に繋げていくのが、次なる澤田の仕事といえる。それはテーマパークのイベントだけではない。ロボット、エネルギーなど最先端技術の実践の場として、そして経営者育成の場として、ハウステンボスにはさまざまな可能性が広がっている。

 モナコ公国と同じ広さという広大な私有地で繰り広げられる最先端技術の実験。それを修正・実践し、世の中に送り出すのが次なるハウステンボスの戦略だ。“ハウステンボス特区”からどんな未来産業が飛び出すのか。10年後利益1千億円企業に向けて、仕掛け人澤田秀雄のチャレンジはまだ続く。今年65 歳を迎える澤田だが、後継者問題は不要だ。やれるところまで現役で突っ走る、それが澤田の生き方である。枯れることのないベンチャー魂でどこまでいくのか、考えるだけで楽しみだ。



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