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トピックス -企業家倶楽部

2015年12月28日

【ベンチャー三国志】vol.35 ファーストリテイリング、世界の服を変える フリース、ヒートテックと次々にヒット飛ばす/ファーストリテイリング会長 兼 社長 柳井正

企業家倶楽部2016年1/2月号 ベンチャー三国志


ファーストリテイリングの柳井正は2020年に売上げ5兆円の目標を掲げ、アパレル業界に革命を起こしている。飽くなきベンチャー精神が成長の原動力だ。IT 企業も目指し、「5年後に30~50%の売上高比率を実現する」と豪語する。(文中敬称略)



【執筆陣】徳永卓三・三浦貴保・徳永健一・相澤英祐・柄澤 凌



ファーストリテイリングIT企業に名乗り

 5年後に売上高1兆円のITベンチャーが登場すると言えば、どこの企業だと色めき立つが、ファーストリテイリングと言ったら、「どうして、ファーストリテイリングがIT企業なんだ?」と読者の中にはいぶかる人がいるかもしれない。

 ファーストリテイリングは2015年10月8日、15年8月期の決算説明会を開いた。席上、同社の会長兼社長の柳井正は「10年以内にネット通販の売上高比率を30~50%にする。早ければ、5年ほどで実現する」と豪語した。50%というのは高すぎるので30%程度と推定してみよう。5年後には売上げ3兆円は堅いので(同社は2020年に売上げ5兆円を目標に掲げている)、その30%と言えば、約1兆円になる。

 柳井は常々、「これからのトレンドはグローバル化とデジタル化だ。この2大トレンドをわが社は推し進める」と言ってきた。グローバル化については、中国、ヨーロッパ、アメリカなどに出店、着々と進めている。そして、今回、デジタル化つまりIT化についても、号令を発した。

 これは多分にソフトバンクの孫正義の影響を受けている。柳井正はソフトバンクの社外取締役を引き受けており、孫正義からしょっちゅう「これからITの時代です。すべての商品がネットを通して売買される」と聞いている。さらに、アパレルのネット通販会社であるスタートトゥデイの躍進振りも対岸の火事と無視する訳にもいかないだろう。

 スタートトゥデイの2015年3月期の連結決算は売上高411億8200万円、前期比6.7%増と冴えないものの、経常利益は151億3900万円、同21.8%増と堂々たる数字を計上した。柳井正も店舗での販売とともにネット販売にも心を動かされたといえよう。



孫正義と柳井正は上場の同期生

 柳井正と孫正義は株式上場の同期生である。共に1994年7月に店頭市場(ソフトバンク)と広島証券取引所(ファーストリテイリング)に株式を公開した。当時は孫正義が市場の注目を集め、柳井正はあまり注目されなかった。ソフトバンクは株価が1万円から3万円と上昇、野村證券からスカウトした北尾吉孝の力も手伝って、市場から約5000億円の資金を集め、ジフデイビスなど米国企業を派手に買いまくった。



フリース大ヒット

 柳井正が世間の注目を集めたのは、フリースの大ヒットであろう。フリースは1994年に発売したが、1998年、原宿店オープンと同時に売り出したフリースが旋風を巻き起こした。フリースはそれまでは、高級素材のアウトドアウェアとして限られたシーン向けに流通していたが、1998年、誰もが気軽に着られるカジュアルウエアとして1900円から発売、爆発的に売れた。

 
52ページのグラフに見るように、売上高、利益はうなぎ登りに上がり、今では1兆6817億円の売上高と、1806億円の営業利益(2015年8月期連結決算)を計上している。今日ではアパレル業界の王者である。

 ファーストリテイリングのフリースの宣伝文句を見てみよう。

「誰もが気軽に着られるカジュアルウエアとして販売し、日々の生活にさらなるあたたかさ、快適を提供してきました。フリースはユニクロの掲げる、あらゆる人の日々を彩り、生き方を豊かにしていく服、『Life Wear』を象徴する商品です」

「20周年(2014年)を迎える今年は、フリースの軽くてあたたかく、扱いやすいという本質的な良さはそのままに、機能性、ファッション性の両面で大幅に進化しました。より寒い場所での利用や外出時のファッションアイテムとしてなど、それぞれの生活シーンで活用できる一枚が必ず見つかるラインアップになっています。

 高品質、高機能でファッション性も高く、ベーシックな普段着として着ていて心地よい、そして日常を最も快適に過ごせる『未来の服として』、ユニクロのフリースはこれからも進化を続けていきます」



バランスシートの優等生

「一大フリースブームが巻き起こったのは、1998年のユニクロ 原宿店オープンがきっかけです。2000年秋冬には51色展開し、2600万枚という驚異的セールスを樹立しました。

 現在では老若男女、世界中のお客さまのご支持をいただいているフリース。デビューから20年という歴史あるアイテムですが、その機能性、ファッション性、バリエーションは、毎年進化し続けています」


バランスシートの優等生

ヒートテックも大ヒット


 フリースに続いて、ヒートテックも大ヒットした。2004年秋、メンズ向けに発熱、保温、ドライ(吸汗速乾)機能を併せ持つ「暖かなインナー」として発売した。東レと共同開発したもので、2005年にはウイメンズ向けにも販売した。従来のヒートテックの糸にミルクプロテイン(脱脂粉乳)を練り込み、しっとりした風合いとしなやかな感触を出した。

 そして、2006年6月には、東レの石川工場にヒートテック専用の製造ラインを設け、本格的に生産した。

 2009年冬のヒートテックのプレスリリースを見てみよう。2004年は300万枚、2005年450万枚、2006年1200万枚、2007年には2000万枚に達した。その後も衰えることなく2008年2800万枚、2009年5000万枚、2010年8000万枚、2011年には1億枚の大台に乗った。



海外でもヒートテック売る

 2008年秋、いよいよ海外でヒートテックを本格販売することになった。ニューヨーク、ロンドン、パリ、北京、ソウルの5大都市で屋外広告も展開して発売した。ニューヨークでは「一番寒い人は誰だ?」という投票をして、第1位に自転車便の人が選ばれた。  

 
 11月18日、ニューヨークのタイムズスクエアでイベントが開かれた。朝6時半からテレビの中継が始まったが、まだ真っ暗。それでも長蛇の列ができ、4000個用意していたボックスがアッという間になくなった。

 ロンドンでは、オックスフォードストリートに面したユニクロ店で、パリでは、コンセプトショップのある新凱旋門地区のラ・デファンスでイベントを行なった。北京、ソウルもすごい盛り上がりだった。

 ベンチャーの第一人者と言えば、孫正義だが、柳井正も負けてはいない。売上高、経常利益では、ソフトバンクが8兆6702億円、1兆2770億円(2015年3月期連結決算)とファーストリテイリングをはるかに上回っているものの、有利子負債では、ソフトバンク10兆976億円、ファーストリテイリング258億円とファーストリテイリングが断然リードしている。自己資本比率でもソフトバンク13.5%、ファーストリテイリング64.5%とファーストリテイリングがリードしている。経営の安定性から言えば、ファーストリテイリングに軍配が上がる。

 株式の時価総額を見ても、ソフトバンク7兆6542億円、ファーストリテイリング4兆9557億円と、このところ接近している。売り上げなどの企業規模から言って、倍の開きがあってもおかしくないが、差は詰まっている。

 財務内容だけでは、企業の優劣は決められないが、有利子負債の額から見ると、ファーストリテイリングがソフトバンクより優れているといえるだろう。



世界の上位2社を猛追

 しかも、柳井は「2020年には売上高5兆円を達成しよう」と社内に号令をかけている。飽くなきベンチャー精神を発揮するのは「上にインディテックスやH&Mがいるから」と言う。上位2社を抜かないうちは枕を高くして寝られないのだ。

 売上はインディテックスが2.3兆円、H&Mが2兆円。2015年8月期の連結決算は売上高が前期比26.1%増の1兆6817億円、営業利益が同26.1%増の1644億円となり、相変わらず急成長を続けている。国内ユニクロはもう1つ振るわなかったが、ジーユーが大きく成長し、第2の事業の柱となった。

 店舗数は2015年9月末で国内ユニクロが841店、海外ユニクロが812店、計1653店になった。来年9月末では海外958店、国内846店となり、海外進出16年目で海外店舗が国内店舗数を超えることになる。柳井は「グローバル化しない企業は企業ではない」と言っているが、16年目にして真のグローバル企業になるといえるだろう。

 海外の内訳を見てみよう。中国が387店、韓国が155店、マレーシア、シンガポールなどの東南アジアが102店、ヨーロッパが27店。北米は42店となっている。北米がやや苦戦しているので、これから米国市場に「精鋭を送る」と柳井は言う。

 東京、ニューヨーク、上海、パリ、ロンドンに本格的なR&Dセンターを設立、「世界最高水準のサプライチェーンを確立する」と柳井は力説する。このため、東レのほかに大和ハウス工業(物流)、アクセンチュア(システム開発)、コンビニエンスストア(サービス強化)など大手企業との提携作戦を展開する。



売上高2兆円弱になってもベンチャー精神失わず

 柳井は「ユニクロ思考術」の中で、「大きな夢や目標を持たない若い人が増えているという。それは長期にわたる不景気の影響で、若い世代に成功体験が不足しているからではないか、などという人もいる。しかし、ぼくに言わせれば、この考え方そのものがいけないと思う。成功体験を得るためには、あなたは何をしてますか?何かチャレンジしてますか?そう問われたら、何もしていない人がほとんどだろう」

 柳井は内なるチャレンジ精神を呼び覚ましたいと思っているに違いない。なぜ、日本の若者にチャレンジ精神がなくなったのか、柳井は歯がゆくて仕方がないのだろう。

 こんなことがあった。まだ、ファーストリテイリングが年商5000億円ぐらいの時、柳井が講演した。講演が終わって質問の時間になった時、1人の青年が質問した。「なぜ柳井さんは年商数兆円をめざすのですか」。その質問者は柳井の拡大志向に疑問を持っていた。柳井はこう答えた。「我々が仮に1兆円を超えても世の中に影響をおよぼすほどではない」。登山者に「なぜ、山に登るのか」と問うのに似ていると思ったのだろう。

 世界の若者は皆、拡大志向なのに、日本の若者だけが妙に大人しくなっているのが、柳井にとっては不思議でならないのだ。

 なぜ、日本の若者はクールになり、拡大志向がなくなったのだろうか。これは風呂の湯舟と同じ理論だ。貧乏な時代は湯舟の低い所にいて、暖められる。すると、上に行く。上に行けば、冷えてまた、下に行く。それを繰り返しながら、風呂の湯は温かくなる。

 日本の若者は貧乏の時代から裕福な時代になり、湯舟の上に行ったところだ。やがて冷えて(貧乏になり)再び下に行く。柳井の青年時代は日本全体が貧乏で一生懸命働いた。今はクールな若者もいつか拡大志向になるだろう。

 柳井がファーストリテイリングをいつまでもベンチャー企業にしたいなら、拡大志向の社員を抜てきして要所、要所に置く以外に有効な手段はないだろう。これからファーストリテイリングに入社する若者は8割は大企業の安定志向の人。ファーストリテイリングがベンチャーの成長志向だと思っている人は精々1割に満たないだろう。

 柳井も孫と同じような悩みを抱える。自分がベンチャー精神を持っているから、社員もそうであるに違いないと思うのは創業経営者の大いなる錯覚である。社員は冷めているのである。社員にいかにベンチャー精神を植え付けるかが創業経営者の課題だ。



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