トピックス -企業家倶楽部

2016年01月12日

ソフトバンクは企業家の集合体を目指す/ソフトバンクグループ代表取締役社長 孫正義 VS 代表取締役副社長 ニケシュ・アローラ

企業家倶楽部2016年1/2月号 特別対談

IoTが社会に変革をもたらす

 孫 私は以前から、2018年にコンピュータが人間を超えると言ってきました。信じられない人や信じたくない人も多いでしょう。しかし、記憶や計算、情報検索などのスキルが既に人間を上回っていることは誰の目にも明らかです。

 なぜ人間が地球上で最も知的だと言われているか。それは、感情があり、考えて予測することができるからです。しかし今後は、コンピュータにもそれができるようになります。そしていずれ、IQは1万に達するでしょう。あのアインシュタインですらIQ190だったと言われていますから、想像を絶する知能の高さです。

アローラ 1988年にはまだプログラムを手書きして、パンチカードにタイピングしていたことを今でも覚えています。当時のコンピュータは、現在の1万分の1の能力でした。あれから30年で凄まじい進化を遂げたことを考えれば、IQ1万のスマートロボットが誕生することは有り得ないことではありません。

 しかし、そうした高知能のコンピュータを完全に制御することは難しくなりますね。

孫 コントロール自体、必要なくなりますよ。これからのロボットは人工知能を搭載しますから、見るもの、聞くもの全てを取り入れて自己学習します。もはやプログラミングされて、人間の手足となって動くだけではなくなるのです。

アローラ そうなると、ロボットが人間を支配するのではないかという懸念が出てきます。ロボットは人間に進化をもたらすのでしょうか。それとも破滅に導くのでしょうか。

孫 私は素晴らしい世界になると思っています。実際、今までも良い方向に進化してきたと思いませんか。どのようにして共存するか、人間は学んでいきますよね。それはコンピュータも同じです。特にロボットは高い知能を持っていますから、無駄な争いはしないでしょう。

アローラ これをロボットとの共存と捉えるか、むしろ依存と考えるか。私たち人間には意思があります。コンピュータは蓄積した情報から予測してアドバイスをしてくれますが、それを無視しても良いということを忘れてはなりません。共存できれば、ロボットは様々な業務を効率化し、私たちの自由な時間を増やしてくれるでしょう。


 IoTが社会に変革をもたらす


孫 ロボットを利用して空いた時間で、更に生産性を上げて働きたい人もいるでしょうし、それを余暇として家族や友人と楽しむことも出来ます。

アローラ 孫社長は楽観的ですね。私はそうではないので、バランスが良いのかもしれません。

孫 いずれにせよ、IoT(モノのインターネット)は確実に社会へ浸透していきます。2040年には世界中で10兆個のものがインターネットに繋がると予測されている。これは1人あたり平均1000個のデバイスを持っていることになります。もちろん、日本人にとっても身近になっているのは間違いありません。身の回りのもの全てが繋がっていると考えていいでしょう。

アローラ 孫社長の言われる通りならば、例えばコップや机もインターネットに繋がるということになりますが、それによって何が起こるのでしょうか。

孫 コップの例をとると、「中に何が入っているか」「何キロカロリーか」などといった情報が分かるようになるかもしれませんね。健康管理なども、わざわざ数値などを入力することなく出来るようになるでしょう。  

アローラ そのようなことをすれば、データを通して政府が国民に対する監視を強めることも可能となってしまいます。個人情報を守るための規制や法律が新しく必要ですね。

孫 ニケシュはどのような業界にITを活用できると思いますか。

アローラ 私が注目しているのは教育分野です。今の日本の、同じ教室で同じ授業を受け、同じ宿題を解く画一的なやり方を変えられます。同じ教材を使って教育を均質化せずとも、生徒一人ひとりのペースに合わせた学習にすることができるでしょう。ここにチャンスがあります。

孫 もしかしたら未来の教室にはペッパーがいて、子どもの能力を全て把握し、楽しみながら教育が行われているかもしれませんよ。



第二の中国はインドだ

孫 私たちはアメリカが革新の中心だと思うからこそ投資を行ってきました。かつて日本のIT業界は後れをとっていたので、そこにチャンスがあった。そして、次に狙うは中国だと思いました。

 中国では、今や世界企業として名を馳せているアリババを創業したジャック・マーが印象的でした。彼は決して最も賢かったというわけではありません。数学の成績など最悪だったと本人が笑って言っていました。しかし、そのことを全く恥じていません。彼は、自分の力がもっと別のところにあることを知っていたからです。

 では、彼の魅力とは何か。それはカリスマ性です。彼が「水に飛び込め」と命じれば、回りの人間は全員水に飛び込むでしょう。「火の中に飛び込め」と言っても同じです。まさに、生まれながらのリーダーでした。人を動かす力を持っている。だから、素晴らしい成功を手にするだろうと思いました。

アローラ では、中国の次の国はどこか。人口が多く、これからテクノロジーが発展する地域と考えると、インドです。

孫 インドでの投資先はスナップディールという会社を選びました。私は頻繁にインドに行けるわけではないので、向こうの代表に日本に来てもらって協議を重ねました。

 問題は、既にお金を入れることが決まっていた投資家たちの説得でした。私たちが彼らと同額の出資を打診すると、投資総額が2倍になるということで先方は喜んだのですが、投資家たちは拒否します。

 そこで白羽の矢として立てたのが、親しかったニケシュというわけですね。その頃はまだ弊社に入っていなかったにも関わらず、私のために懸命に説得交渉をしてくれました。感謝しています。

アローラ 私自身、インドには期待しているのです。ITに強い若者が多いですし、人口構成が中国と似ています。そして、Eコマースのサービスも店舗もたくさんあります。もちろん競合も多くおりますが、小売り業界は成長の余地があります。



失敗するほど力が付く

孫 現在、成功しているのはグローバル企業です。中でも、技術を取り扱っている会社が展開しやすいと思います。

 ただし、サービス業に関しては地域に根付いた創業経営者が強い。文化やライフスタイルはその国によって異なりますから、そうした地元についてよく理解している人間が良いのです。情熱と市場があればローカルチャンピオンにもチャンスはあります。それは、スーパーマーケットなどを見ればよく分かりますよね。

 ゼロから新しいものを作り上げるのは本当に大変です。やり遂げるには、困難に立ち向かう力が必要となるでしょう。そして、「想いを伝えたい」という強い気持ちが大事です。

アローラ 孫社長もこれまで順調だったわけではないですよね。

孫 破産寸前まで追い詰められたこともありました。

アローラ どうすれば立ち直れるのでしょうか。社長の「困難に立ち向かう力」はどこから来ていますか。

孫 私は日本で生まれましたが、日本人ではありませんでした。それが原因で、子供の頃につらい思いをしたこともあります。差別も受けました。しかし、私の力はこの頃に養われたのだと思います。自分が他の日本人と同じくらい優れていると身をもって証明しなければならなかった。そうまでしてでも、誇りを持ちたかったのです。

 往々にして、次のステージに行くには新しいスキルが必要になります。皆さんには自分がどのようになりたいかをよく考え、その上で一番難しいと思われる道を選んでほしい。時には自発的にリスクを取りに行くのです。また勉強をすれば元の道に戻れますから、失敗を恐れる必要はありません。ライオンが子供を崖から突き落とすように、厳しい環境でしか学べないことはあまりに多いのです。

 私は、難しい課題は最善の贈り物だと思っています。より早く学べて、どうやって解決するのか、生き残るかたくさん学べますからね。失敗をすればするほどアイデアが見つかり、最終的には一番力が付きます。



リーダーに必要なのは情熱と実行力

孫 我が社は35年生き残ってきましたが、これから300年生き残るには意義のある会社でなければいけません。これを成し遂げるには、創業者精神を持った人材がどれだけいるかにかかっているでしょう。

アローラ かつて、事業を始めるのは難しいことでした。一つの町で小さな店を始め、国内のネットワークを作るだけで何十年もかかっていたのです。しかし、現在は新しいビジョンを生み出し、掲げるのは容易になりました。革新のスピードはさらに加速していくでしょう。

 インドでは、一昨年1年間で500社のスタートアップが設立されました。過去に例を見ない数字です。かつてのシリコンバレーに起きたことが、インドや日本でも起こると思います。

 ヤフーやグーグルなど有名な企業は、情熱を持った創業者がこういう事業をしたいと始めたものばかりです。それが今や大きく成長し、世界的な企業となっています。しかし創業者が年を取り、社長が代を経ると、そこで成長が止まるケースが頻発するようになるのです。

孫 まさにその通りですね。実際にアメリカの自動車会社は右肩下がりです。それはまさに、創業者が勝利の方程式に満足して革新をやめたからです。さてニケシュ、私たちソフトバンクはどうしましょうか。

アローラ 毎年良い企業家を見つけて、彼らの創造性と情熱に投資すれば良いのです。この中から次世代のイーロン・マスクやスティーブ・ジョブズが出てくるかもしれません。我々は彼らにお金を提供し、知恵を授けることで、仲間にしていけば良いでしょう。

 いずれにせよ、未来の技術で孫社長に若返ってもらうことはできませんからね(笑)。将来的には可能かもしれませんが、それでは一人の創業者による革新に過ぎません。長期的な成功を勝ち取るためには、やはり次世代の企業家を探さねばなりません。

孫 私もそういう組織であるべきだと思います。これまでもずっと、同じ考えの人材を探してきました。こうして新しい血を入れて、会社をリフレッシュし続け、大きくなったら徐々に卒業していくのが理想です。そして、その人が独立するのであれば、その新たな門出を祝えるような文化にしたいですね。

 10年ごとに次の後継者が見つかり、会社のリーダーがどんどん若返っていくのが望ましい。私たちは流動的に大胆に動けばいいのです。ソフトバンクとはすなわち、「企業家の集合体」ということになるかもしれません。

アローラ そうした企業家とはどのように出会いますか。世の中を見れば人も企業も多い。何か指標が必要になるように思います。人材を発掘するシステムを構築せねばなりません。

孫 指標にしたいのは、「正しい考え方、正しい市場、正しい人材」の3つ。これが揃っていれば間違いありません。例えば、起業直後のベンチャー企業を探すというのはどうでしょう。面白そうな事業を展開している会社がいいですね。彼らが私たちの話に乗ってきたら、審査をする。小さい魚は網から出て行ってしまいますが、十分成長した大きい魚は残るでしょう。そして「これだ!」と思った大きい魚を一気に釣り上げればよいのです。

アローラ ただ、市場を測ることは難しいですよ。

孫 現在の市場を見て、今の彼らの規模を見ます。今の価値が何ドルで、投資するならばどれだけの額が許容可能か。また、その企業は既に十分な規模に達しているのか、またはこれから更に大きくなりそうか。多くのヒントが得られますよ。

 そして、リーダーは単にアイデアが浮かぶだけではいけません。実行が伴い、人が付いてきて初めてリーダーシップが発揮されます。そして、生まれながらのカリスマもいますが、努力でリーダーになることは可能です。

 では、最善のリーダーとはどのような人か。それは正しい人格を持ち、自分より他人のことを考える人です。また情熱を持っていて、賢くあらねばなりません。

アローラ 孫社長は常に革新を続けていますが、その情熱はどこから来ているのですか。

孫 社会や人の幸せにどのように貢献できるか、そのためにどのような企業体を作っていくかが根底にあります。そして、ニケシュのように私と志、考え方を同じくする方と出会えれば、ソフトバンクは300年でも続いていくでしょう。




Profile 孫正義

1957年、佐賀県生まれ。久留米大学附設高校を中退、カリフォルニア大学に留学。81年9月、日本ソフトバンク(現 ソフトバンクグループ)を設立。2004年、日本テレコム、福岡ダイエーホークスを買収した。06年3月、ボーダフォンジャパンを買収、携帯事業に本格参入。13 年7月に米国第3位の携帯電話事業者であるスプリントを買収。15 年4月、ソフトバンクモバイル(現ソフトバンク)代表取締役会長に就任した。

Profile ニケシュ・アローラ Nikesh Arora

1968年、インドのウッタル・プラデーシュ州生まれ。ボストン大学理学修士号、ノースイースタン州立大学のMBA、CFAを取得。2004年グーグルに入社、2009年からは営業・マーケティング・提携戦略の最高責任者を務めた。現在はヤフー取締役会長、ソフトバンクグループ 代表取締役副社長を兼任する。



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