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2016年01月15日

ベンチャーキャピタルの仕組みと大学との関係/東京大学エッジキャピタル代表取締役社長 郷治友孝

企業家倶楽部2016年1/2月号 キャンパスのキャピタリスト仕事録 vol.4


肩書き、プロフィール、会社概要等は掲載当時のものです。


Profile
郷治友孝(ごうじ・ともたか)

通商産業省(現経済産業省)で『投資事業有限責任組合法』(1998年施行)を起草、2004 年㈱東京大学エッジキャピタル(UTEC)共同創業。3本の投資事業有限責任組合(計約300億円)を設立・運用し、テラ含め16投資先ベンチャーの役員に就任。東京大学法学部卒、スタンフォード大学経営学修士。日本ベンチャーキャピタル協会常務理事。




 これまでベンチャーについて述べてきたところだが、今回はベンチャーキャピタル(VC)の仕組みについて書いてみよう。そのうえで、大学発ベンチャーのように事業化まで時間のかかる研究開発型ベンチャーを支援するベンチャーキャピタルが成功するための条件について考えてみたい。若干、制度や政策に関する話もすることになるがご容赦いただきたい。



●VCファンド(投資事業有限責任組合)の仕組み

 図1は、1997年当時に私が通商産業省(現・経済産業省)で投資事業有限責任組合法という法律を起草していた頃に描いたポンチ絵である。

 現在日本のVCファンドで一般的に見られる投資事業有限責任組合とは、業務を執行して出資を行う無限責任組合員(GP)と、それ以外の投資家である有限責任組合員(LP)から成り、存続期間中、共同でベンチャー企業への投資事業を行う組合(Partnership)である。通常は10年程度の存続期間を設定し、2~3年の延長もよく見られる。存続期間中、組合員は、GPのみならずLP といえども、やむを得ない事由がある場合を除いては脱退することができない。研究開発型のベンチャー企業は、始めても数年は売り上げも利益も立たないことが多い。だからこそこのような、出資者の抜け駆けが許されない仕組みでベンチャー企業への投資に長期にコミットできる仕組みが向いているのである。

 以下、投資事業有限責任組合の活動を成り立たせているステークホルダーを見てみよう。


●VCファンド(投資事業有限責任組合)の仕組み


■無限責任組合員(GP、General Partner)

 一般に「ベンチャーキャピタル(キャピタリスト)」「VCファーム」(図では「VC企業」)と言われるのはこれである。後述の有限責任組合員(LP)による選任・委任を受けて、組合の共同事業としてベンチャーキャピタルファンドを運営し、ベンチャー企業への投資・支援をはじめとする業務執行を行う。その名の通り、ファンドに法的責任が追及されることとなった場合には、全組合員に代わって無限責任を負う。


■有限責任組合員(LP、Limited Partner)

 ファンドのGPを選任して業務執行を委任し、出資をする投資家である。法的責任は有限責任にとどまり自らファンドの業務執行まではしないが、共同事業者である出資者として、ファンドのガバナンスや重要な意思決定を行う。LPのタイプにより、機関投資家(運用系、政府系、戦略系など)、事業法人、篤志家などに分かれる。

■投資先企業(ポートフォリオ)

 ポンチ絵では「ベンチャー企業」と書いてある。これを「ポートフォリオ」と呼ぶのは、一社だけではなく複数のベンチャー企業に分散投資をすることで、多様な投資機会の追求を図るためである。投資事業有限責任組合は、各ポートフォリオの株主として、それぞれの経営陣とともに企業価値の向上に努め、株式上場やM&Aによって株式譲渡益を得ることになった場合には、組合員に利益を分配することになる。



●研究開発型ベンチャー支援に取り組むGPの前提条件

  では、大学発などの研究開発型ベンチャー企業を支援するVCファンドの場合、成功のためには、GPをどのように設計することが必要であろうか。このようなVCは、種(シード)の発掘から株式譲渡益の実現まで、時間がかかる場合が多い。

【GPの個人の資質】

 LPは、ファンド運営を10年程度もの長期間GPに託するのであるから、GPは、ファンド運営や投資先支援に関するふさわしい資質を備えていなければならない。これらの資質は、GPを指揮しあるいは構成するベンチャーキャピタリスト個人の意志、実績、能力、経歴等によって判断されるべきものである。また、ファンドの投資成果を期待するうえでGP個人の資質が非常に重要であるため、ファンドのキーとなる個人がファンド運営に従事できなくなった場合にはファンドが解散ないしは停止する旨の条項(キー・パーソン条項)が設けられることが一般的である。

【GP個人の長期のコミットメント】

 このようなGPのベンチャーキャピタリストは、ファンド設立後短期間で変わったり、ローテーションで異動したりするのにはなじまない。このことは、LPへの投資運用責任を果たすうえでだけではない。起業家が寝食を忘れて企業経営に長期間専念するのと同様、彼らを支援するベンチャーキャピタリストも、長期間あらゆる協力を惜しまない姿勢で臨まなければ成功はできないのである。

【GPと研究機関との関係】

 GPは、ポートフォリオを生み出す研究成果や人材と常に接触し続ける立場であることから、研究機関と密に連携する必要がある(①)。他方で、LP一般から見たファンドの適切なガバナンスの確保や合理的なポートフォリオ構築という観点からは、GPは、運営的にも財務的にも、研究機関からの独立性が確保されている必要がある(②)。

 我が国では90年代後半以降、数々のVCないしVCファンドが研究機関との連携下あるいは傘下でつくられてきたが、その多くにおいて成果は芳しくないと言われてきた。筆者は、その原因は①②のいずれか又は双方で不備があったためと考えており、UTECの設計・経営においては特にこの点に注意を払ってきたところである。すなわちUTECでは、東京大学をはじめとする研究機関と密に連携しつつも、大学から財務、人事面を含め独立したベンチャーキャピタルとしての運営を図ってきた。


●研究開発型ベンチャー支援に取り組むGPの前提条件

●国立大学出資事業と海外の事例

 ところで、日本では近時、「国立大学出資事業」として、計1200億円の国家予算が、東京大学、京都大学、大阪大学、東北大学の設立する子会社及びその運営するファンドに出資されることとなった。

 海外に目を向ければ、国立大学の資本で設立された子会社がベンチャーキャピタルを行った例としては、中国があるが、教育・研究とビジネス・投資事業の間の利益相反が問題化したとされる。米国では、スタンフォード大学などで、多様な民間GPが大学の周りに群生して健全な協力と競争を繰り広げており、大学は子会社にベンチャーキャピタルを行わせることはせず、良い成績をあげ大学のポリシーに沿う民間GPにLP出資している。イスラエルでは、90年代前半に政府がGPの運営ファンドに出資する事業を始め、現在では最もVCが最も盛んな国の一つとなった。イスラエルの成功は、民間VCを伸ばす施策により達成したのであり、国ないし大学に子会社GPを作らせてVCを行わせる事業は行っていない。


 我が国の大学に関連するベンチャーキャピタル環境を整備するにあたっては、前述のGPの前提条件や、諸外国の事例に留意して制度設計を行うことが望ましい。



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